<リプレイ>
●一刻を争え 家よりも田畑の方が多く見られる集落を抜け、能力者達はアスファルトの道を走り続けていた。 景色は次第に人里から、木々の多い自然へと移り変わっていく。 「大掛かりな蜘蛛の巣掃除ね……」 やがて林の合間に見えてきた木造の小屋を確認しながら、後月・綾乃(高校生魔剣士・b12892)は呟いた。 あの中に、尋常ではない大きさをした蜘蛛達が蠢いているのを想像して。 急がなければ、取り返しの付かないことになる前に。 あまり確たる表情を浮かべることのない四辻・乙夜(高校生白燐蟲使い・b04237)の胸にも、異形の蜘蛛に捕らわれた男性を助けたい思いが胸にある。 一之瀬・きさら(高校生青龍拳士・b00157)は、手に揺れるビニールの手提げ袋を見下ろした。 お茶やスポーツドリンク、チョコレート。 男性の為にと能力者達が用意したものは、電車を待つ時間に駅の売店で購入したお陰で時間のロスはなきに等しい。 けれど同時に、残念そうに眉を下げる。 「普通の蜘蛛と同じ習性を持ってるなら、よかったんだけどね」 妖獣は、死んだ動物達の残留思念が集まって生まれた存在……実在する生物に似た姿をしているからと言って、同じ習性を持つとは限らない。 それに、例え普通の蜘蛛と同じ行動を取ったとしても、それに対してどう動くか考えて置かなければ、実戦で活かすことは難しいだろう。 (「急な依頼だが……」) 雨宮・歌凛(深淵の白鴉・b00205)は、自分の前を走る天霧・蒼次(高校生ゾンビハンター・b06832)の顔を見上げた。 蒼次はいつも通り剣呑な鋭い眼差しで前を向いていたが、絶対の信頼を置いている彼も一緒なのだと思えば、安心感もひとしおだ。 道路が途切れ、土が踏み固められただけの道に入る。 小屋の正面には平坦な更地が広がり、隅に物置や男性が使っているのだろう乗用車が置いてあった。 薄く開いた小屋の扉が、軋む音を立てながらゆっくりと開いていく。 地面から、壁面から。 姿を現したのは、新たな人間の訪れを察した体長50cm程の3体の蜘蛛達だった。 「「イグニッション!」」 普通の蜘蛛より大分大きいが、それでも主格のものより小さな蜘蛛達と相対し、取り出したカードを掲げた能力者達が詠唱兵器を身に纏う。 熾烈な戦いが、始まろうとしていた。
●悪夢の褥へ 静かで温もりを感じさせる歌声が、小蜘蛛達を眠りに誘う。 乙夜と苫原・束音(高校生白燐蟲使い・b00363)、ふたつのヒュプノヴォイスは3体の妖獣の自由を奪った。 その間に、きさらは生み出された霧に自分の影を写し、風倉・広樹(高校生魔剣士・b00224)と歌凛、綾乃は頭上でそれぞれの獲物を振り回す構えを取って自らの力を高めた。 唯一、起動していなかった蒼次はこのタイミングで起動し、眠っている小蜘蛛の脇を走って真っ先に扉へと向かう。 そして、 「邪魔だ!」 扉の真正面に陣取って眠っていた小蜘蛛に向かって、噴射の勢いを乗せたリボルバーガントレットを叩きつけた。 吹き飛ばずとも衝撃を受け、目を覚ました小蜘蛛は目の前にいる彼に鋭い牙にも似た鋏角で咬みつく。 瞬く間に身を蝕む猛毒が、体力を奪っていく。 蒼次と近接している小蜘蛛を叩くには、前にいる小蜘蛛が邪魔だ。 きさらは一番手前にいる小蜘蛛に向かって、龍の力を秘めた拳を放った。 目覚めた手前の小蜘蛛に、広樹の足元から伸びた闇色の腕が追撃を掛ける。 乙夜が放った白燐蟲達が小蜘蛛達を喰らい尽くさんばかりの勢いで群がれば、残りの小蜘蛛もその苦痛で目を覚ましてしまう。 が、すかさず束音の静謐な歌声が蜘蛛達を眠りの淵へと押し戻した。 青薙・久遠(中学生魔弾術士・b00754)は治癒の力を込めた符を投げ、毒に侵され続ける蒼次を癒す。 他の小蜘蛛が動いた隙を割り込んだ歌凛の、真紅の十字が描かれた斬馬刀が、アビリティの噴射を孕んで扉前の小蜘蛛を吹き飛ばした。 「……よし!」 陣取っていた蜘蛛が離れた場所に着地するのを見た蒼次は、僅かに口元を歪めて笑む。そのまま、開け放たれたままの扉に突入した。 それを追った久遠だったが、小屋に入った蒼次の背中にぶつかってしまった。 「どうしたんですか、天霧先輩……!」 問いながら、久遠は青年の肩越しに見た姿に言葉を失う。 巨大な蜘蛛の妖獣が、いた。 それは得た情報の通り当然の状況なのだが、大蜘蛛が堂々とした風体で鎮座していたのは土間を上がってすぐの、非常に近い場所だった。 外で繰り広げられる戦いの気配を察して、待ち構えていたのだろうか。 カーテンが閉められたままになっている部屋は薄暗かったが、物の輪郭ははっきりと見て取れる。 妖獣の更に後方には、蜘蛛の巣に引っ掛かってぶら下がっているような状態の、人間大の繭があった。 赤黒く染まった部分の多さが、時間の経過を感じさせる。 大蜘蛛は、首を擡げるようにその身を起こしたかと思うと、白い塊のような糸を蒼次に向かって噴き出した。 「ぐっ……」 絡みつく糸は激しくその身を締め付け、元々蝕んでいた毒と共にじわじわと体力を奪っていく。 「ザコはもういい、行こう!」 状況を計っていた広樹が、皆に声を掛けて走り出した。 小蜘蛛はまだ3体とも残っているが、2体はある程度のダメージを受けているだろうし眠りの効果もあると判断した上で。 「流石に……あそこまで大きいと迫力があるわね……」 目の当たりにした大蜘蛛の姿に圧倒されたように、綾乃は呟く。 束音と乙夜、きさらに小蜘蛛達を任せて小屋に突入した面々は、なんとか入り込んだ土間に広がって構えを新たにした。
小屋の外に残った3人の少女達は、時々吐き出される糸と鋏角の毒もあって早々には小蜘蛛達を掃討することが出来ずにいた。 強さで言えば、1体が彼女達1人と同じくらいか若干下回る程度のようで、消耗との戦いにもなってしまう。 それでも、1体に攻撃を集中させて確実に倒していく。 きさらは分身によって相手の攻撃を軽減させつつ、束音が白燐蟲を纏わせた布槍を操って確実に止めを刺す。 乙夜は淡く光る蟲達に小蜘蛛を食らわせ、目を覚ました蜘蛛達にもう一度眠りへと誘う歌を歌った。 束音は、余裕が出来れば白燐奏甲を仲間の武器に纏わせて力を高め、回復に補助にと奔走した。 小蜘蛛を全て倒し切る頃には、ヒュプノヴォイスは使い切ってしまっていた。
一方、小屋の中に突入した能力者達は、大蜘蛛の厄介な攻撃に苦しめられつつもダメージを積み重ねていった。 広樹がダークハンドを仕掛けて含ませた猛毒の効果も、大分効果を発揮しているようだ。 目に付いた獲物を無作為に絡め取るよう、大蜘蛛は大量の糸を吐き出して味方を締め付ける。 綾乃は放たれた糸をフレイムキャノンで焼き払おうとも考えたが、そもそも自分が絡め取られれば行動の自由を奪われて使えないし、誰かに使うにしても締め付けられた本人をも巻き込んでしまいかねないと気付き、思い留まった。 正面に立たぬよう、と歌凛は大蜘蛛の脇に回って黒い影を纏った斬馬刀で斬りつけた。 が、立ち位置の思惑も何処吹く風といった具合で、大蜘蛛は歌凛にも攻撃を仕掛けてくる。 毒や締め付けで奪われていく仲間達の体力を回復させるのが手一杯で、久遠はなかなか攻撃に転じることが出来ない。 けれど、大蜘蛛が入り口付近まで前進していたお陰で、繭を戦いに巻き込む危険性が少ないことが、彼女の心配を減らしていた。 「こいつを喰らっとけ!」 構えから、広樹が二振りの剣を駆使して大蜘蛛の横腹を切り裂いた時、小蜘蛛達を倒した少女達が小屋の中へと走り込んで来た。 「大切な命、返して貰うぞ!」 突入直後、間合いを詰めたきさらが繰り出した龍の力を込めた渾身の攻撃が、大蜘蛛を打ち抜き、束音の優しい歌が消耗していた仲間達を癒していった。 加勢を得、更に拘束から抜け出す能力者達を見て、砲撃の最中綾乃は緊張を途切れさせはしないものの口元に笑みを刻んだ。 「ちょっときついけど……一気に畳みかけるわよ!」 彼女の声に呼応するように、大蜘蛛に向かって一斉に攻撃が放たれる。 広樹の剣がふたつの閃きを放つと、大蜘蛛の足の一本が胴体から斬り飛ばされて土間に刺さった。 悶えるように足を擦り合わせる大蜘蛛に、漸く攻撃の余裕を得た久遠が放った燃え盛る炎の弾が炸裂し、巨大な姿が炎に包まれながらゆっくりと傾いでいく。 仰向けに倒れた大蜘蛛は、もう起き上がってくることはなかった。 能力者達が見守る中、次第にその影も薄れ、蜘蛛の妖獣はまるで幻だったかのように跡形もなく消滅した。
●悪い夢は終わるのか 大蜘蛛の消滅と共に次第に過ぎ去っていく戦いの気配に、能力者達は深く息を吐いた。 否応なく安堵感が込み上げてくる。 が、急にごとりと板の間を打つ音が耳に届き、現実に引き戻された。 目の前には、糸も繭も消滅した為に床へと放り出された男性の姿があった。 面々は急いで駆け寄り、男性の状態を確かめる。 何日も飲まず食わずで閉じ込められていた割には、それ程消耗は酷くないように見えた。 だが、腕や足を覆っていた筈の布には、無数の裂け目が滅茶苦茶に走っていた。 傷も出血が止まってかさぶたになっているもの、まだ新しく血が滲んでいるもの、様々だ。 何度も同じ場所を引っ掻かれ、無残に爛れている部分もある。 「足を滑らせて転んだ、くらいでは無理ですね……」 想像していたよりも深い傷を見て、綾乃は眉を下げた。 「熊が襲ってきたって辺りが、適当じゃないかな?」 小屋の内部を調べていたきさらが振り返る。 戦いの余波で多少荒れてはいたが、蜘蛛の糸が跡形もなくなったお陰で獣が入って暴れたとでも言えば済むだろう。 「ひっ……」 応急手当をと広樹が手を伸ばした時、男性の意識が回復した。 自らに触れた手に大きく肩を震わせ、恐怖に引き攣った表情を浮かべて弱々しい悲鳴を上げる。 「うあぁ……! もう、嫌だ……けてくれ、助けてくれぇ……うぅっ……」 白目を剥き、涎を流しながら喘ぐ姿は、長い時間余程恐ろしい思いをしていたのだろうと想像に難くない。 男性は能力者達の影からも逃げようと必死に手足をばたつかせたが、酷い緊張のせいか思うように動けないようだった。 「怖い夢は終わりましたよ……。安心して下さいです」 そんな男性を宥めるように、束音が柔らかな声を掛ける。 「ゆ、ゆめ……?」 今側にいる存在が自分に危害を加えるものではないとわかったのか、男性は震えながらも聞き返してきた。 「大丈夫かい? 大変だったね」 きさらも優しく言いながら、用意していたスポーツドリンクのキャップを開けて男性の口元へと近付けてやった。 渇きを覚えていたのか、男性は口の端から零れるのも構わず喉を鳴らす。 その間に、広樹は彼の身体に付けられた傷を調べ、新しい傷には止血を施した。 水分を口にして、漸くひと心地ついたらしい男性は、安心しきった表情で再び意識を手放した。 聞こえてくる寝息は安らかなもので、お茶を脇に置きつつも心配そうに見詰めていた束音も安堵の息を漏らす。 久遠は押入れを探って見付けた毛布を抱え、男性に掛けてやった。 古めかしいストーブに火を入れると、少しずつ小屋の中が温まってくる。 「これで寒くないですよね」 きさらにチョコレートを口に含まされている男性を見下ろしながら、緩く微笑む。 「はぁ、とにかく急いだので疲れましたー」 張り詰めていた気が緩んだ途端、どっと湧き上がってきた疲労感に座り込む久遠だった。 その背後では、小屋にあった電話の受話器を取った広樹が救急車を呼ぶ為にダイヤルを回す。 「命に別状はないだろうが、結構深い傷もある。……筋を痛めていたりすると困るからな」 つぎはぎの猫の縫いぐるみを傍らに置きながら、歌凛は蒼次の傷をたどたどしい手つきで手当てしていた。 「……大丈夫か?」 歌凛の言葉には、不機嫌そうに「あぁ」と返事をするだけの蒼次だったが、大人しく手当てを受けている。 かなり消耗してはいたが、幸い回復も儘ならない程ではなかった。
男性のことは心配でもあったが、救急車がやって来る前に能力者達は小屋をそっと離れた。 広樹は林道を下りながら、小さくなっていく小屋を振り返る。 かち合わないようにやり過ごした救急車が、赤いランプを点滅させながら小屋の前に佇んでいた。 「蜘蛛……。ありふれた妖獣事件……なのか?」 何処か心に引っ掛かるものを感じながらも、任を遂行した能力者達は帰路に就いた。
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参加者:8人
作成日:2006/12/14
得票数:カッコいい18
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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