路は紅に染まる


<オープニング>


 某月午後7時―――
 秋が深まり行く頃、この時間帯は既に暗闇の中。線路沿いの直線道で一つのライトが光っていた。
(「やっべ、遅刻しそ…」)
 自転車に乗った少年は力いっぱいサドルをこいでスピードを上げる。籠に入っている鞄がガタガタと乱暴に揺れた。
 今まで何回かその道を使っていたので、人通りの少ないその道で他の人に出会う事は殆ど無いことがわかっている。自動車も殆ど通らず、ましてや野良猫が歩いてる事は一度も見たことが無い。とばしたって平気だろう―――たったそれだけの、気の緩み。
 坂を猛スピードで下っていく。
 日常が非日常となった瞬間。
 少年は宙を舞うように飛んだ。そして、堕ちた。

「皆はさ、自転車こぐ時のスピードってどれくらい出してる?」
 指定された教室に入ると、待っていた運命予報士の少女がそう尋ねてきた。頭上にはてなマークを浮かべる能力者を見て、少女は軽く笑みをこぼす。
「線路沿いの道に地縛霊が出たの。既に少年が2人も事故にあってる」
 昼間はそれなりに人通りがあるものの、夜になるととても不気味で、人通りがほとんどない。だから、車2台がギリギリで通れるくらいの道を、時々電車に遅れそうな人がダッシュして駅に向かうには良いらしい。大の大人でも目を瞑りたくなるような不気味さなので、早くここから離れたいという気持ちの表れか、走る速さは体力測定のそれより早くなっているだろう。
「地縛霊はおっきな衝撃破を作り出して攻撃してくるよ。その跡がタイヤっぽいから、交通事故に見えるみたい。弱すぎず強すぎずで、ある意味一番厄介な強さなんだよね〜」
 むぅ、と少女が唸り声を上げる。
 その地縛霊は自転車に乗っている人を対象に、スピードが速ければ早いほど大きな怪我を負わせる。坂道を下った曲がり角にいて、しかも日が出ていない時間帯だけ出るらしい。
「事故に遭った2人の少年のうちの1人は、その場で即死して…リビングデッドになって、地縛霊と一緒にいるの。少年はぶっちゃけそんなに強くないから、お飾り状態だけどね。攻撃は本人が勢いよくタックルしてくるけど、二段攻撃には要注意だよ」
 どんっ、と、傍にいた能力者に少女が軽くタックルをかます。そして二段攻撃とうべきか、鳩尾目掛けて手刀をいれた。ぽすっと軽くはいると、少女は満足げな笑みを浮べて話を再開する。
「地縛霊は、会社帰りにその道を使った男性だよ。車にはねられて亡くなったんだ…。その日は息子さんの誕生日だったから、とにかく早く帰りたかったんだね、息子さんへのプレゼントは無傷だったって話だし」
 家族への愛情が、彼を地縛霊としてそこに引き止めてしまったのだろう…悲しい事だが、同じ思いをする人をこれ以上増やす訳にはいかないのだ。
「皆は慣れちゃってるかもしれないけど、ほんっとに不気味なんだよね。地縛霊よりそっちの方が怖いよ…。まぁ、遅れた肝試しには丁度いいかもね。とにかく、頑張って」

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参加者
防人・八葉(高校生青龍拳士・b00893)
不破・周(高校生魔剣士・b01183)
玖凪・蜜琉(高校生白燐蟲使い・b02001)
リエン・シュナイト(中学生魔弾術士・b02973)
ファブニール・クリューガー(高校生魔弾術士・b03149)
有栖川・美幸(中学生魔弾術士・b04594)
高岡・水晶(高校生フリッカースペード・b05988)
神代・高久(高校生ファイアフォックス・b08077)



<リプレイ>

●朝焼けの光に魅せられて
 早朝6時。まだ日は顔を出さず、辺りはゆるく光っていた。
 そんな早い時間に、駅前にある交番に一人の客。学生服姿の有栖川・美幸(中学生魔弾術士・b04594)だ。
「おはようございます、お勤めご苦労様です。お伺いしたい事があるのですが、この辺りで学生が事故を起こした場所って何処でしょうか」
 『道路の構造と危険性について』という課題をやるのをうっかり忘れていて、と言う。ぱっと見は優等生少女なので、話が長くなって学校に遅れてしまうのを避けるために、こんな早い時間に来た…そう思ったのだろう。転寝をしていた警官は優しく教えてくれた。
 説明が終わると美幸はぺこりと頭を下げ、早足でその場を一時退散。じきに来るであろう他のメンバーを待つため、駅へと向かう。

 それと同時刻、そんなに離れていない位置にある廃材置き場で不破・周(高校生魔剣士・b01183)と神代・高久(高校生ファイアフォックス・b08077)がリアカーを押していた。安いものでも2万ちょっとなので、学校のものを拝借したのだが、アルミで出来た折り畳みのものを偶然発見、使わせてもらう事にした。…普通のものより高いので、勿論用務員をうならせたが。
「ぉ、あったあった」
 周が丁度よさそうなサイズのマットレスを見つけ、高久を呼ぶ。彼も、いざと言う時に必要かもしれないと思って探していた毛布を手にする。
「闇纏いでリアカーも見えなく出来れば、もっとよかったんだけどな」
 周が苦笑いをして、リアカーの後ろに立つ。仕方ないよと、高久もまた苦笑いをし、リアカーを起こした。彼らの横を歩く高岡・水晶(高校生フリッカースペード・b05988)が、二人の方を向いて訪ねる。
「聞かれた時は勿論?」
「「授業で使うんです」」
 装飾にウレタンを沢山使うので集めている事にしようという、水晶の提案だった。
 おどけた風に声をそろえて言った事が面白かったのか、不器用に笑みを浮かべる。対人恐怖症の彼らしい反応だった。彼が肩にのせたトゥッティという名のウサギのぬいぐるみは、大切な友達だと言っていたのも、そういう事なのかも知れない。

 「今日も〜、かっ飛ばすぜ〜、ぶいんぶいーん!」
 と言って、愛車である『全力MAX(ママチャリ)』をこいで何度もスピードの調整をしていた防人・八葉(高校生青龍拳士・b00893)。
 マットレスを運んで現場に着くと、そんな彼がまず目に入った。もの凄いやる気だ。偶然ではあるが、思い人である玖凪・蜜琉(高校生白燐蟲使い・b02001)と依頼に参加できることが嬉しいのだろう。傍で呆れ顔の彼女は、冷静に依頼の事を考えていた。
(「地縛霊になっちゃった人もリビングデッドになっちゃった子も、早く成仏させてこれ以上の悲劇が起こらないようにしなくちゃね…」)
 ぼけっと突っ立っている彼らのところに、美幸が歩み寄る。
「駅のダイヤを調べておきました。上りも下りも1時間に2、3本なので、そんなに時間をかけなければ大丈夫だと思います」
 灯台下暗し。線路沿い真っ暗となると、電車に乗っている人からは丸見えなんじゃないだろうか…そう考えた美幸は、誰も気に留めなかった事を調べていたのだ。
「ぉ、マットレスお疲れさん。あとは地縛霊が出る日没を待つだけだな」
 ファブニール・クリューガー(高校生魔弾術士・b03149)は朝日奈・戌子と小道具の準備をしていたらしく、手には蛍光テープや手袋を持っていた。
「地縛霊、ですか…このままではまた死人が出るものね」
 リエン・シュナイト(中学生魔弾術士・b02973)は大きな三日月のイヤリングを揺らして自分の配置へと歩く。
 夕日が赤く、その道を赤く染め上げた。
 この季節の夜は、早い。夕日はやがて暗闇に包まれる…。

●路は紅に染まる
 夕日が沈みきると、月が妖しく光りだす。
「わかってるとは思うけど、ヘマすんじゃないわよぅ?ハチ」
 蜜琉はそう激励の言葉を告げ、坂の下へと向かった。よほど嬉しかったのか、先程よりテンションが上がっている。…いや、元々高いのだが。
 そのテンションのまま自転車にまたがり、最終確認をする。普通より少しはやめのスピードで坂を下り、地縛霊の攻撃で吹っ飛んだ時にイグニッション! 用意していたマットの上に落ちれなくても、頭はきっちりガードする!
 よし、これで大丈夫。
 彼の瞳は輝きを失わないまま、サドルに足をかけ、くっと力を加えた。

「きっとうまく行くよね?」
 水晶が隣で待機するファブニールに声をかける。猫変身状態なので人語を話す事は出来ないけれど、頷くくらいなら猫でも出来る。
 地縛霊は平気なのだが、リビングデッドは……。水晶の恐怖が甦る。自分の感じる恐怖を抑えるためにぎゅっと、ウサギのぬいぐるみを抱きしめる。
 ――ぽつんと一つ、明かりがついた。
 八葉が動き出したのだ。彼の体についた蓄光テープも弱弱しく光り、全員の体に緊張が走る。
 少し速いスピードで坂を下り、曲がり角に差し掛かるとき―――

 ――ドォンッ

 光が揺らめいたと思うと、光源が二つに分かれた。一つは高く舞い上がり、もう一つはガシャンと大きな音を立てて大地にぶつかる…体制を立て直すために自転車を落とし、その反動で宙に舞ったのだろうか…偶然の可能性が高いが。
「イィィグニッショォォンッッ!!」
 そんな叫び声が聞こえた。その声を合図に蜜琉の白燐光が辺りを照らし出し、八葉の姿がはっきりと見える。暗闇になれた瞳が正常に作動するのには少し時間を食うが、そうもしていられない。変身をといたファブニールの懐中電灯が、地縛霊を照らしすぐに接近して炎の魔弾を放った。外れたが、元々地縛霊の注意を引くために撃ったものだ、地縛霊がこちらを向いた時点で成功といえる。
 周と美幸も自転車を飛び越えて、一気に切りかかる。
「やべ、逸れた!」
 高久がそう叫んだ。体制を直した所までは良いのだが、スピードや衝撃の強さをある程度予測できても、実際何処に飛ぶかはわかるはずもなく。
 用意しておいた毛布をクッション代わりにほおり、落ちてくる八葉を受け止める。ドスンという音と共に、二人の声が聞こえた。
「っとわ!! あっぶねーあぶねー! 神代さんきゅー!」
 にっと笑いかけ、即座に自分の体に異状がないか確認をする。幸い吹っ飛ばされた衝撃が少なく、軽く体を打っただけですんでいる。…もっとも、高久が動いていなかったら大怪我は免れなかっただろうが。
 蜜琉の涼やかな声―――ヒーリングヴォイスがあたりに響き渡る。

「だあぁっ!」
「おせぇよっ!」
 リビングデッドの出現と共に突っ込んだ周は少年のタックルを避け、カウンターの要領でロケットスマッシュを打つ。
 このとき、異体に傷をつけないよう刀の向きを変えておく辺り、周の戦闘に対する考えは深いものがある。
 彼らの少し後ろでリエンが魔弾の射手を使い、強力な魔法陣を浮かべる。
「…とっておきの魔弾、外しはしないよ」
 そう言い放つと同時に炎の魔弾が放たれた。魔弾の射手の力によって威力の高まった弾は、真っ直ぐにリビングデッドの少年へと向かう。
(もしかして、とは思っていたけれど…まさか本当に当たってるとはね)
 すこし猫背気味のリビングデッドは、リエンより少し低いくらいの背丈の少年だった。顔立ちもまだ子供らしさが抜けていない…年は、同じか少し下だろう。
 だからといって、躊躇ったりはしない。それが、彼のためでもあるのだから。
「これ以上彷徨ってもいいことなんてないわよぅ、楽にしてあげるわ!!」
「そうそう、さっさと片付けて、向こうの援護に回らねーとなっ!」
 蜜琉がブラストヴォイスを歌いあげ、高久のフレイムキャノンが少年の体を打つ。
 ガクリと膝を突いた少年の前に、何時接近したのかリエンが得物を構えて立っていた。悲しみを浮かべた金色の瞳に写るのは、怯えたような少年の瞳。
「来世では、スピードの出しすぎに注意しようね」
 三日月が、揺れた。

「ひっさぁつ!スーパーデンジャリャスパァンチ!…ちくしょー!噛んだぁっ!」
 台詞には失敗したが、龍顎拳は地縛霊の頬に当たる。軽く掠める程度であったのは、彼が休憩をとらず攻撃を繰り返していた分の疲労から生まれるミスだろう。だが、外してばかりでもない。彼が作る隙をすかさず美幸が間合いをつめて入り、黒影剣を発動させる。
「帰るんだ…俺は…」
「悪いけど、あんたの帰る場所はココにはねぇんだよ」
 衝撃波を避けながらファブニールが地縛霊に向かって言い放った。彼の打つ炎の魔弾に迷いは無い。戌子のサポートも的確で、彼の動きにあわせた誘導が地縛霊を導いたのだ。弾の当たった位置から魔炎が湧き上がり、地縛霊を包み込む。
「頑張るって、決めたんだ……!」
 既にリビングデッドは倒されているが、彼の恐怖心は収まらなかった。それでも自分のやる気を奮い立たせてブラストヴォイスを奏でる。
 怖い…それでも、立ち向かおうとする、水晶の前向きな気持ちを精いっぱい込めて。
 その歌声に怯んだ隙をついて零距離に接近した周が、地縛霊の額に剣を突きつけた。疲労感漂わせる表情の地縛霊は抵抗する気が無いのか、手をだらりと下ろしたまま突っ立っている。
「どれだけ人を殺しても…もう、貴方は家族の元へは帰れないんだよ」
 そして、一閃。

●暗闇に沈むのは
「苦しみもやるせなさも悲しみも後悔も…今はここに置いて、せめて安らかに」
 消え行く地縛霊の近くで美幸がそう呟いた。すると全速力で彼女の隣に八葉が駆け寄り、流石ポジティブシンキング男、満面さわやかな笑顔でガッツポーズをし、叫んだ。
「息子さん、待ってるぜ! 今度は寄り道すんなよ!」
 邪気を全く感じさせない彼の笑顔につられたように、地縛霊の口元が緩んだ。微笑み…と捉えることも出来ただろうが、どちらかというと苦笑い、だろう。
「ちゃんと退治できたんだ。よかった…」
 地縛霊ともリビングデッドとも離れて戦っていた水晶は、ウサギのぬいぐるみをぎゅっと抱いて安堵の表情を浮かべた。
 
「んじゃま、リビングデッドのほうを移動させるから誰か手伝ってくれ」
 ファブニールが声をかけると、リエンと周が名乗り出た。側溝にはめておけば、事故死だと思われるだろう。
「…ごめん、もう少しだけ、辛抱してくれ」
 動かない少年の発見が、早い事を祈って。
「これで、市政が危険場所として認識してくれれば良いですが」
 死すら利用する自分は最低か。美幸はそう思ったが、せめて出来る限りのことをと思い、去る際に黙祷をした。
「今度は楽しい日々が送れる人生だといいわね」
 と、蜜琉が言い、きびすを返して駅に向かう皆の後を追った。先程までは戦いの事で頭がいっぱいだったのだが、今はそうでもない。とりあえず早くここを離れたいと思う気持ちが湧き上がる。
 自転車(ぼろぼろのガタガタ)がある八葉は電車に乗れないので、途中まで一緒に行くらしい。本当は蜜琉の家までついて行きたいんじゃないのかとファブニールに突っ込まれたが、気にしない。彼のポジティヴはある意味で強敵だ。
 ふと、真ん中を歩くリエンがぽつりと呟いた。
「なんにせよ…スピードの出しすぎは危険、ということだよね」
 まったく、その通りだ。


マスター:庫裡宮詩葵 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2006/11/02
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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