かめうさぎとうさぎがめ


<オープニング>


 学園祭も終わり、銀誓館学園も夏休みの季節となりました。
 夏休みは、海にプールにカキ氷、そして夏休みの宿題や自由研究など、やる事がたくさんあります。
 しかし、忘れてはならないのは、学校行事の臨海学校でしょう。
 銀誓館学園では、瀬戸内海の浜辺(銀誓館学園の私有地)で、8月10日〜12日の3日間、臨海学校が行われます。
 この臨海学校で、普段の授業では得られない様々な体験を楽しんでみましょう。

 なお、今年の夏は、瀬戸内海の小さな島(無人島)で、妖獣の発生が確認されているようです……。

●かめうさぎとうさぎがめ
 夏休み中だというのに律儀に制服姿の穂高・倫(高校生運命予報士・bn0138)が、瀬戸内海の大判の地図を机の上に広げた。
「昨年の臨海学校は最終的に色々すごい事になりましたが、今年は穏便に終わると良いですね」
 恐らくはそこが臨海学校の行われる浜なのだろう、赤いマーカーでぐるりと囲われている海辺がある。その赤い印からほど遠くない沖のほうに、青いマーカーで囲われた小さな島があった。
「実はこの無人島で、妖獣の大量発生が確認されました」
 要するに臨海学校を利用した駆除ツアーですね、と倫は苦笑する。
 無人島だけに被害は出ておらず、夕方には島全体の妖獣は駆逐できるはずなので、その後は各々無人島でのサバイバルキャンプを楽しむことになる。
「そして皆さんに担当していただく妖獣はー……なんと言えばよいのかわかりませんが……」
 一つ、ぽっこりとふくらんだ亀の甲羅と胴体のノーマルサイズ真っ白うさぎ。もちろんつぶらな瞳はルビーの赤。
 一つ、うさぎの俊足と耳を持つころんと可愛いリクガメ。たかがカメと侮ってはいけません、サイズはゾウガメです。
 ふとその外観を想像した能力者たちが、どっちも激しく可愛くねぇぇ!! と内心全力でツッこんだのはお約束だ。
「……便宜上、説明しにくいので前者をカメウサギ、後者をウサギガメと表現することにしますが、現れるのはそれぞれ一体ずつです。まぁ、体型を考えれば甲羅の硬さを差し引いても手こずることはまずないかと」
 でもせめて混ぜた外観でなければ普通の真っ白うさぎとこんもり甲羅のリクガメだったのに、と倫はがっかりしている。妖獣にラブリーさとかファンシーさを求めるのは不毛だ、と能力者たちは思ったとか思わなかったとか。
 そして肝心の無人島までの移動方法だが、そう遠くはないのでイグニッションして泳いで行くこともできれば、ゴムボートをこいで向かうこともできる。水に濡れると困るようなものがあれば、それで運ぶとよいだろう。
 妖獣の出現ポイントは判明しておりそこから海岸までは徒歩で二分ほどだが、退治を終えたころには夕方になっているので海に出ることはできない。
 ただ、夕食の食材として魚釣りをする程度のことなら可能だ。そのさいは竿の準備もお忘れなく。
「どうキャンプを楽しむかは皆さんのアイデア次第です。花火や怪談、食材一式を持ち込んでバーベキューパーティも良し、色々楽しめると思いますよ」
 各自が別のことをするよりも、八人全員で楽しめるようなアイデアであれば、もっと楽しいに違いない。

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参加者
森井・理尋(高校生霊媒士・b00317)
遊馬・レン(黒狗童子・b02090)
鳴楼・焔璃(木漏れ日の夢・b04931)
有月・優斗(紅天に堕ちた黒月・b25449)
香坂・桜空(いつかの空に還る日を・b26059)
霧峰・灰十(破壊論理・b26171)
琴宮・弓姫(氷雪舞踏・b28771)
浦雪・坤(高校生土蜘蛛・b38037)



<リプレイ>

●瀬戸内漁船旅情
 『とれたて新鮮! バーベキュー用野菜セット8人分』を、借り上げた漁船内に積み込みながら、遊馬・レン(黒狗童子・b02090)は盛夏の日差しをまぶしく反射する青い海原に目を細める。
「さて、さくっと妖獣倒して、遊びますか!」
 ちょうど1年前の臨海学校が初依頼だった有月・優斗(紅天に堕ちた黒月・b25449)は、無人島で待つ妖獣退治よりもその後のお楽しみ、のほうが気になるようだ。もっとも、それはいそいそとネズミ花火やらロケット花火やらを積み込んでいる琴宮・弓姫(氷雪舞踏・b28771)や浦雪・坤(高校生土蜘蛛・b38037)も似たようなもの。
 花火以外の荷物をあらかた積みおえた森井・理尋(高校生霊媒士・b00317)は、おもむろに使役ゴーストの鱗徒を乗せてやるための浮き輪を膨らませはじめた。
 水に濡れては困るものを運ぶ班はエンジンつきの小型漁船を借り上げたのだが、それ以外のメンバーは沖の無人島まで遠泳で向かうということになっているのだ。
「ちゃんと荷物確認した?」
「どうせ明日には帰ってくるのだから、多少忘れ物があっても大丈夫だろう」
 なによりせっかくの機会なのだから思う存分楽しまなければ、と霧峰・灰十(破壊論理・b26171)は一人合点する。
 所持品リストを片手に、入念に荷物をチェックしている鳴楼・焔璃(木漏れ日の夢・b04931)の横で、漁船に乗り込んだ優斗と香坂・桜空(いつかの空に還る日を・b26059)がどういうわけだかお互いに笑顔で火花を散らしあっている。
「何故かあたしは宿敵らしいですねぇ……が、何かするなら全力で受けて立ちましょうかー。えぇ」
「さあどうだろう、桜空が釣れたりしてね? あはは〜」 
 にこにこと和やかな笑みで言うべき台詞ではないはずだが、少し離れた場所から坤があれこれはやし立てるものだから始末が悪い。
「……ん。こんな感じでしょうか」
 浮き輪にしっかりと結んだ紐がゆるまない事を確認してから、理尋はイグニッションカードをかざして起動する。
 いくらそう遠くない島までとは言え、遠泳しようと思うなら起動してしまったほうが安心で安全だ。
 黒のビキニ姿で準備体操をすませた理尋は、おもむろに使役ゴーストの鱗徒を抱え上げて波打ち際へ向かう。
「行ぐべ鱗徒!」
「よぉし、それじゃ行くか!」
 遠泳組が次々と海へ入っていくなか、坤は優斗と協力しながら漁船の船尾をぐいと押して水の上へ進ませる。そのまま砂浜へ置いて行かれないようにすかさず飛び乗ったところへ、弓姫が舵を握った。
「頑張ってーだようー!」
「わ、わ、すごいー! 皆がんばれっ」
 桜空が見事なクロールで船に追いついてくる。エンジン付きとは言ってもそう速度は出ないので、能力者が本気を出せばいくらでも逆に追い越せそうだ。
 苦しくなったら灰十に助けてもらえばいいかとレンは気楽に構えていたのだが、無理さえしなければ真夏の海ほど気持ちの良いものはない。プールではなく海水なのでただ泳ぐにしてもいつもより体が軽く、まさしく魚にでもなったような気分だ。
「早く泳がないと先に肉食っちまうぞー!」
「坤、そこで人をあおるようなこと言わないで下さい!」
 器用にクロールから平泳ぎに切り替えた桜空へ坤がけらけらと笑ってみせる。
 青い海面へ白く航跡を描きながら進む漁船と、それを思い思いの速度で追いかける能力者たち。その先には鬱蒼と葉を茂らせる森を抱えた、小さな無人島が待っていた。

●汝、亀か兎か
「名前からしてややこしいですが、実際見てみるともっとややこしいですね……」
 甲羅を着こんだウサギと、ゾウガメサイズで兎の耳と脚が生えたカメ。
 大きな違いと言えばそれぞれのサイズと顔、くらいなものだが、ああややこしい。
 出現場所はわかっているので船をその近くの浜へ寄せておき、とりあえず荷物だけは波のかからない場所に置いて妖獣の出現ポイントへ向かったのだが、その道中の会話が少しばかり輪をかけてややこしくなる。
「僕はカメウサギを……えーと、大きいほうでしたっけ?」
「違う違う、大きいほうがウサギガメ」
「え、小さいほうじゃなく?」
「ちょっと待った! 整理しよう!」
 こんなに混乱するくらいならいっそ太郎とか花子とかキャシーとかマイクとか、もっとわかりやすい名前にしてくれたほうが良かったんじゃないかと理尋は思う。
「小さいのがカメウサギ、大きいのがウサギガメ!」
「小さいのがカメウサギ、大きいのがウサギガメ!」
「小さいのがカメウサギ、大きいのがウサギガメ! ……ふぅ」
 ぴぎーっと甲高い声をあげて白い毛皮を逆立てているカメウサギと、甲羅の上に座れそうな巨体を揺らしつつもげーっと唸っている兎の耳と脚をつけたウサギガメを前に、指差し確認しながら全員で連呼する光景は少々ほのぼの……いや、そこは触れずにおくのが正解か。
 ぴぎゃーぴぎゃー、とごくごく普通の野兎サイズで一生懸命威嚇している健気なカメウサギを前に、焔璃は胸の内でごめんね、と呟く。
 ……今までずっとこの無人島にいたんだよね。今まで……苦しませちゃったね、ごめんなさい。
「でも無人島は楽しまないとね!!」
 それとこれとは話が別、とばかりにわりとドライな能力者たちは、無人島ライフを満喫するべく目の前の障害を排除しにかかった。いとあはれ。
「さぁ行くぞキャロルちゃんっ!」
 対ゴースト戦闘の定石、レンの悪夢爆弾でまず動きを封じてから坤が飛び出し、ハンマーの端をテコの原理で甲羅にひっかけて体重をかける。
 しかし大きなものであれば250キロを越えるゾウガメとほぼ同じサイズと来れば、坤ひとりきりではびくともしない。桜空がハンマーの差し込まれたあたりをロケットスマッシュで狙ってみるものの、やはりびくともしなかった。
 灰十が器用に大鎌の刃を返し、やはり切っ先をウサギガメの甲羅の端にかける。
 普通人間はテコの原理を使おうとすると体重をかけて持ち上げようとしてしまうものだが、体重をかけた位では持ち上がらないと見て取った灰十は足元を這い回る樹木の根に脚をかけ、力まかせに大鎌の柄を引き下げる。
 悪夢爆弾から目覚めたウサギガメが、覚醒するなり上下が逆転する視界に驚いたのか、もげーっとひときわ大きな声をあげる。ごっすん、と大きな音をたてて甲羅を返されたウサギガメがじたじたと脚をばたつかせた。
「……貴様にもう用はない。さっさと倒れてもらおうか」
「无咎の錆にしてやるよ……って格好つかんなこれ!」
 手も足も出ない、とはまさにこの事だろう。
 もげー、もげー、と足掻くウサギガメを是非とも写メに……と坤は考えたが、楽勝ムードとは言えさすがに戦闘中にそれはないだろうと考え直し、紅蓮撃の構えに入る。
 本当にアレを転がしたのか、と呆気にとられている焔璃をよそに、弓姫は容赦なくカメウサギへ氷の吐息を浴びせかけた。それも全ては心置きなく遊ぶため、だなんて口が裂けても言えやしない。
「妖獣かわいいですーっ」
 ……で・も、平和のためだから。
 白い毛皮のふわもこボディに迷いなく獣撃拳を叩き込む優斗の目があきらかに据わっている。ちょっと怖い。
 蛇鞭を鋭く振りぬいた焔璃の視線の先へ、もこもことしたぬいぐるみ調のカメウサギが現れた。ぴぎゃーっという鳴き声こそ出ないが、ぽこーんといかにものどかな衝突音をたてて体当たりを食らわせる。
 苦労するのは甲羅の硬さくらいなもの、と言われていただけあって、2体の妖獣を駆逐するのにそう時間はかからなかった。

●夏の夜の……
 妖獣退治さえ終えてしまえば、あとはサバイバルを満喫するだけだ。
 あらかじめ船に積んで準備してきたバーベキューセットを設置し、薪を集め火をおこして飯盒でご飯を炊く作業さえも、全員で協力してやればあっという間だ。あれこれと大騒ぎしつつ西側の海の果てに太陽が沈むころには、8人分の食欲を満たすだけの肉と野菜と炊きたてのご飯が完成。
「いっただきまーす!」
 優斗が持参してきた釣竿のおかげで、さっきまで元気に海を泳いでいた魚が端のほうで串に刺されて真っ赤な炭火に炙られているのもご愛嬌。
「あ! おま! なにしてるんですか!」
「馬ッ鹿お前先に肉焼いて食ってんじゃない!」
 早速焼けたばかりの肉を自分の皿にごっそり取り分けたのを見咎めた優斗と坤の悲鳴をよそに、レンはほくほく顔で肉にかぶりついた。
「そんな取り合わなくてもまだたくさんありますから!」
 野菜やら肉やらが満載された皿から、手際よく弓姫が網のあいた所へ次々と載せてゆく。
「もおお。ゆーとは南瓜以外もきちんと食べないと……!」
 聞こえてません、といった顔で優斗がいい感じに焼き色のついた茄子やらピーマンやらを勝手に弓姫の取り皿に載せてゆくが、自分の分はかたくなに南瓜しか取らない。なんだか見ているだけで手足が黄色くなってきそうだ。
 釣竿もあることだし魚も乗せてみようかと提案した桜空は、ちょうど焼きあがった魚の塩焼きの味に目を細めた。あまり見慣れない風体の魚だが、とりあえず毒魚ということはなさそうだ。
 ただ塩で焼いただけの魚がこれほど美味と感じることも、滅多にないだろう。
 こっそりレンと一緒になって灰十がしれっとした顔で肉ばかり選んでいたが、あまり表情が表に出ないぶんレンほどあからさまにツッコまれないのは役得かもしれない。
 腹ごしらえが済めば、キャンプのお楽しみは花火と相場が決まっている。
 山ほど持ち込んだネズミ花火、ロケット花火に焔璃が歓声をあげ、人工の明かりなど何ひとつない無人島の夜を明るく照らし出す。
 障害物や遮蔽物のない、海に近い岩場でこれでもかとばかりに打ち上げ花火を並べて点火すれば、澄んだ夜空へ極彩色の閃光がいくつもはじけた。
「わあ……すごい凄いっ、綺麗なの!」
「こういうのもいいですね、なんだか」
 手持ち花火を楽しみながら桜空が背後の夜空をふりかえると、そこにはちょうど理尋が上げたスターマインがほろほろと火花をこぼしながら鮮やかな軌跡を描いている。誰が上げたものか、宙空へ到達した別の白い塊がぱっと大きく花開き、岩場へ色濃い影を落とした。
 まるで夏の思い出をそこへ刻みつけるように。

 翌朝、荷物を積み込んだ漁船の上でレンはデジカメのディスプレイを眺めていた。
 そこには一夜を過ごした無人島での、全員の記念写真。記念写真には必須の三脚を忘れてすったもんだしたのも良い思い出だ。
 白い波間の真ん中の小さな島、こんもりとした緑濃い森を振りむいて焔璃は笑う。
 ふたりぼっちだった妖獣さんには悪いけど。
「……さ、帰ろっか?」
 楽しい時間をそれぞれの胸いっぱいに詰めこんで、船は砂浜から沖へと進み始める。軽快なエンジン音を波間に響かせながら。


マスター:佐伯都 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/08/11
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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