無人島へ行こう 〜岩鉄の鼠〜


<オープニング>


 学園祭も終わり、銀誓館学園も夏休みの季節となりました。
 夏休みは、海にプールにカキ氷、そして夏休みの宿題や自由研究など、やる事がたくさんあります。
 しかし、忘れてはならないのは、学校行事の臨海学校でしょう。
 銀誓館学園では、瀬戸内海の浜辺(銀誓館学園の私有地)で、8月10日〜12日の3日間、臨海学校が行われます。
 この臨海学校で、普段の授業では得られない様々な体験を楽しんでみましょう。

 なお、今年の夏は、瀬戸内海の小さな島(無人島)で、妖獣の発生が確認されているようです……。

「今年の臨海学校は、瀬戸内海のビーチに行く事になったよ!」
 長谷川・千春(中学生運命予報士・bn0018)は、楽しそうにそう切り出した。
「なんでかって言うとね。実は瀬戸内海の小さな無人島に、妖獣が沢山現れてるみたいなんだ」
 妖獣が現れたのはいずれも無人島なので、まだ一般人への被害は出ていない。臨海学校を利用して、これを早い内に一掃してしまおうというのだ。
「皆に担当して欲しい島にいるのは……全長1mくらいのおっきな鼠の妖獣が2匹、だね」
 岩のような肌と、鋼の牙を持つ獣を鼠と呼べるのであれば、だが。
 特筆すべき能力は、従属種ヴァンパイアに似た噛み付きや突撃による攻撃。その威力は決して侮れないと予報士は言う。
「問題の島へは……一般の生徒もいるキャンプ場から、ゴムボートを漕いで渡って貰うね」
 島の砂浜に上陸すれば、残留思念に飢えた妖獣達はすぐに襲い掛かってくるだろう。これを迎え撃てば良い筈だ。
「退治が終わったら、そのままこの島に泊まってくると良いよ」
 場合によるが、戦闘が終わって一息ついた頃にはもう夕方に差し掛かっている事だろう。
 そうなると、船を出すのも危険かもしれない。ならばこの際、一晩のキャンプを楽しんでしまおうという事らしい。
 花火等で遊んでも良いし、蝋燭の灯で夜通し語り合うというのも素敵だ。
 調味料だけを持ち込めば、食事の有無を賭けて魚釣りに熱くなる事だって出来るだろう。
 何を楽しむかは能力者達次第。でも、少なくとも言える事が1つある。それは、
「皆一緒ならきっと楽しい思い出になるって事、だよね!」
 そうにっこりと笑い、千春は皆を送り出すのだった。

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参加者
嘉納・武道(柔道番長・b04863)
島守・由衣(透空・b10659)
氷采・亮弥(青藍シンメトリー・b16836)
クリティア・ラスキン(プラグマティック・b26410)
神那岐・キリト(サイレントクルシフィクス・b30248)
御影・ありす(漆黒薔薇の娘・b30953)
ロボ・ガリアルド(埋伏の牙・b37441)
勿来・泉(変節漢・b37936)
本間・忠弘(迅風繚乱・b38617)
木霊・ヒビキ(音使いの牙道忍者・b42488)



<リプレイ>

●無人島へ行こう!
「いいですか。漕ぐ時は身体全体を使って……そこ、オールはもっと浅く水面を切るように!」
 夏の海に、嘉納・武道(柔道番長・b04863)の力強い声が響く。
 2隻のゴムボートに別れて無人島を目指す、銀誓館学園の能力者たちの姿がそこにあった。
 狼の姿で波を掻き分けるロボ・ガリアルド(埋伏の牙・b37441)に先導されるように、9人は団結して船を漕ぐ。
 ……いや、まぁ。あたふたしているだけの御影・ありす(漆黒薔薇の娘・b30953)や、
「みんな、上手い上手い。その調子で期待してるわ!」
 最初から漕ぐ気もない島守・由衣(透空・b10659)のような娘さん達もいるのだが……そこは男性陣の面目躍如、といった所だろう。
「釣具良しBBQ準備良し、詠唱兵器も万全っと……いやあ楽しみだなあ臨海学校!」
 訂正。これ見よがしに荷物の点検をしている男もいた。もちろん確認など出航前に終わっているのだが、白々しく作業を続ける勿来・泉(変節漢・b37936)にわざわざ突っ込む者もまたいない。
 気を取り直して残りの者で力を合わせ、暫し。
 島を目前に異変を察知したのは、武道に次ぐ真面目な漕ぎ手に徹していた氷采・亮弥(青藍シンメトリー・b16836)だった。
 話し声に、気配を察したのか。海岸には既に2つの影が現れ、ゴムボートに向かってキィキィと耳障りな鳴き声を撒き散らしていたのだ。
「あれだな。とっとと片付けるぞ。時間が惜しい……これから待ち受ける楽しみの為にはな」
「お仕事もしないといけないけど、できるだけ早く片付けてキャンプを楽しもう!」
「「おうっ!」」
 亮弥に続くクリティア・ラスキン(プラグマティック・b26410)の言葉に、口々に寄せられる賛意。
 そんな中、神那岐・キリト(サイレントクルシフィクス・b30248)は密かに溜息を吐いた。
 これまた、なんというか。
「スリリングな臨海学校、ですよねぇ」
 全くもって。これも能力者の常だろうか。幾人かが思わず浮かべた苦笑は、静かな同意を示していた。

●岩鉄の鼠
 案の定と言うべきか、妖獣は一同が上陸すると間髪入れずに踊りかかってきた。だが、それも予想された事。予め対応策を立てていた能力者たちの動きは迅速だ。
 1体の『鉄鼠』の前に魔狼のオーラを纏ったクリティアが立ちはだかり、続く由衣の放った雷が絶妙のタイミングで降り注ぐ。武道の龍尾脚は、麻痺に陥った妖獣の脇腹を2度3度と容赦無く打ち据えた。
 ――この3人の当面の目的は、妖獣の打倒にはない。あくまで本懐は時間稼ぎ、牽制の役だ。
 彼らが引きつけている間に、残りの7人が速攻で1匹目を沈める。それまで立っていさえすれば、役目は十分果たした事になる。
 それを百も承知の上でなお、クリティアの瞳は強い意志を帯びていた。
「倒しちゃうかもってくらい、本気で行くからね……!」
 手心を加える気などない。その小さな手には不釣合いな程に大振りなグルカナイフを握り締め、クリティアは三日月の牙を解き放つ。

「サクッと片付ける……! そこを動くなよ、鼠!」
 本間・忠弘(迅風繚乱・b38617)の眼前に浮かぶ魔法陣から放たれた炎が岩のような肌を焦がし、灼けた金属のような白い煙を上げた。
 苦しみの叫びを上げる妖獣の眉間に打ち込まれたのは、甲高い音を立てて高速回転する木霊・ヒビキ(音使いの牙道忍者・b42488)の鉄球だ。
「痛いよな、苦しいよな……。今、開放してやるからな……」
 妖獣は、自らを襲う痛みから逃れたいだけ。それを理解しつつも、ヒビキに迷いはない。否、だからこそ彼の攻撃は苛烈さを増す。その荒ぶる魂を鎮め、楽にしてやる為に。
 続けて亮弥の黒影剣に、キリトが描いた自身の絵に体を切り裂かれながらも、妖獣は怯まない。
「あんまり変なのは齧りたかぁないんだけど、な!」
 ぼやきながら食らいつく泉の顎をかわし、逆に前転のようなアクロバティックな動きで体当たりを打ち込んでみせる。綺麗に入った一撃に泉の意識が飛び、長剣と蟲籠を覆っていた黒燐蟲が吹き散らされる。だが、
「楽しい修学旅行を、怪我で潰させるわけにはいきません!」
 間髪入れずにフォローに入ったありすが代わって白燐蟲の加護を与え、更なる隙を許さない。
 完璧な連携。何も考えずに手近な相手に食らいつくだけの鉄鼠に、それを破れる道理もなく。
「流石に、狼がネズミに負けるわけにはいかないだろう?」
 一瞬の隙に懐に潜り込んだロボの掌が、爆発的な勢いで鉄鼠の体を吹き飛ばす――!

「少し、拙いね……」
 続けざまに雷の魔弾を放ちつつ、いつになく真剣な調子で由衣は呟いた。
「ちんたら闘っていたら日が暮れるぞ、気合入れろ!」
 声をかけつつ蹴りから暴走黒燐弾にコンビネーションを繋ぐ武道だが、『武』を背負う彼の柔道着には既に幾つもの深い傷が残されている。
 敵だけを見据える彼は決して口にしないが、その胸中には黒燐奏甲を用意して来なかった事への静かな後悔があった。
 実質武道とクリティアの2人で妖獣の攻撃に耐えながら、回復の力はクリティアのライカンスロープが少数だけ。時間稼ぎを担当するには、少し攻撃に偏りすぎていたかもしれない。
(「あたしも、前に出るかな」)
 魔弾の射手の力を意識しながら由衣が1歩前に出た、その瞬間。
 彼女の目の前を、凄まじい勢いで吹き飛ぶ妖獣の体が横切った。
「……へ?」
 ロボの爆水掌で吹き飛ばされた『1匹目』は木の幹に叩きつけられ、そのまま動きを止める。
 その影を追うようにこちらに近付き、『2匹目』を取り囲む仲間の姿。
 牽制の任を果たし終えた事を悟り、3人の顔に安堵が浮かぶ。
 趨勢は、決した。

●晩御飯を作ろう
 一仕事終えた後は、やはり食事。そんな訳で海岸を訪れたのが食料調達の主力部隊、亮弥先生の釣り教室である。生徒は由衣と忠弘の2人、いずれも釣りは初体験。
 亮弥が用意した海釣りセットを手に手に、皆で並んで糸を垂らす。
「なぁ氷采さん、この後はどうすりゃいいんだ?」
「焦っても仕方ない、ゆっくり待つのが肝要なんだ」
 落ち着きのない忠弘に微苦笑気味に、亮弥はそう諭す。
 暗くならない内に、とばかりに沖で波と戯れているヒビキを遠目に眺めたりしつつ、釣り特有の忍耐の時間を過ごす。
 ――最初に当たりが来たのは、忠弘だった。
「あ、本間君引いてるんじゃない?」
「氷采さん、どうする!? 上げていいのか!?」
「まだ浅い。もう少し待て…………よし、かかった!」
 すったもんだの大騒ぎの末、忠弘の手中には小振りなアジが一尾。
 なんだコレ、食えるのか、と大騒ぎの忠弘を笑って眺めながら、由衣は呟いた。初挑戦の釣りは、なかなか難しい。けれど……とても、楽しいなと。

 一方、武道とクリティアを中心に、火の準備も順調に進められていた。
 クリティアが手近な石で組み上げた竈に、武道は手際良く枯れ枝や流木を組み上げ、紙を火種に点火してみせる。
 彼らが準備した多様な物品の中には薪まで揃っていたのだが、それを必要としないほどの鮮やかな手並みだった。
「中々、見事じゃないか。釣りに行った皆は……まだかな?」
 そんな声を共に飄々と姿を現したのは、ロボ。その手に掴まれているのは、狩られたばかりと見える2羽の野鳥だ。
「……えぇと、何処に行ってたんですか?」
「一つ故郷を思い出して野生に、ね。あぁ、そんな顔をしなくとも大丈夫だよキリトクン。これは僕が捌こう」
 珍しい海の料理が作れるかと楽しみにしていたものの、丸々の鳥を捌けるかどうか。そんなキリトの心中を見透かしたかのように、ロボは莞爾として笑ってみせる。
 同じく姿を消していた泉が釣りから帰還したのは、そんな折だった。

 泉のクーラーボックスに鎮座していたのは、1kgはゆうにあろうかという立派な鯛。
 予想以上の大物に、賞賛の視線が集まった。
「どうだい、大したもんだろう?」
 泉は鼻高々に鯛を取り出してみせる。と、その手元から何やら紙切れが落ちた。
 首を傾げたありすが拾い上げたところ、それはレシート。
 曰く。
 スーパー富岡、クロダイ2000円也。
「……」
「……」
「……」
「……おら、本当はボウズだったがや」
「あぁ……そうですの……」
 折角の綺麗な空気が、とてもアレだった。やっぱりズルはいけません。 

 そして、数時間後。
 夜の帳が降りる中、ぱちぱちと竈の灯が弾けた。
 10人が囲むのは、急拵えにしては十分豪華な海の幸。
 忠弘たちが釣ってきた魚と、泉が持ち込んだクロダイ。そして素潜りに挑戦したヒビキと武道が見つけてきた貝類は、キリトを中心とした料理好きたちの手で多彩な料理に姿を変えていた。
 刺身、あぶり焼き、つぼ焼き。味噌汁まで用意されている。
 もちろんクリティアの提案で用意した飯盒のご飯も、キャンプには欠かせない風情だろう。
「わ、美味しい……みんな、お料理上手なのね」
「日本の料理の多彩さには驚くばかりだ……今度教えて貰うよ」
 並んだ料理に舌鼓を打つ由衣、ロボ。しかし、そう言うロボが手早く作った――本人曰く『塩で煮ただけ』――の鳥と野菜のスープも、中々に好評だ。
「これも食ってみろ。棒に刺して焼いただけの魚だが、いいものだぞ。自分で苦労して釣った魚は、それだけで旨く感じる」
 亮弥の言葉に笑顔で頷く、『生徒』2人。
 本当に、どうして自分の手で調達した食材はこんなに美味しいのだろうか。
「うぐ」
「あ、鯛も! 鯛も美味しいよ!」
 クロダイの人、ちょっとダメージ。
 そんなやり取りに苦笑しつつ、ありすはクーラーボックスを開く。
「食べ終わったら、こちらの冷えた果物をどうぞ。スイカもありますよ」
「よぉし、それじゃスイカ割りの後は花火だなっ!」
 ありすの気遣いとヒビキの号令に上がる歓声。
 喧騒と共に……無人島の夜は、あっという間に過ぎていったのだった。

●まだまだ続く臨海学校
 そして、思い思いの朝がくる。
 迷わず徹夜で夜空を、そして今は日の出を楽しんでいる者。
 明け方まで大騒ぎした挙句、テントでへばっている者。
 こんな時まで早起きして、日課の鍛錬に精を出している者もいた。
 そしてありすは1人、残ったゴミを拾い集めていた。もちろん花火の後始末は皆でしたけれど、暗い中では拾い残しがあって当然だろう。
(「ごみを置いて帰るのは最低ですから……あら?」)
 砂浜の片隅に、見覚えのないゴミがあった。
「これは……」
「千切れた、縄?」
 朝の一泳ぎを終えたヒビキが、ひょいとありすの手元を覗き込む。
「まぁ、流れ着いたのでしょう。纏めて捨てておきますね」
 ありすはそう言って、ゴミ袋に縄を放り込んでしまったけれど……ヒビキは何故か、それに引っかかる物を感じていた。
 そもそも、どうしてこんな近い島々に多量の妖獣が発生したのだろうか。その不自然を意識していたせいかもしれない。
「……ま、気にしすぎか。おーい皆、ゴミ拾いしようぜ!」
 よく通る声に呼応して、仲間達が集まりだす。
 この事件に裏があったのか、それは解らないけれど。――今はただ、跡を濁さず。
 綺麗にキャンプを終えて、臨海学校の2日目に臨むとしよう。


マスター:黒原 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2008/08/11
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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