≪季節倶楽部≫こんにゃくぢごく


<オープニング>


 肝試し。

 ……の、はずだった。

「あれ? すれ違わなかったのか?」
 小首を傾げながら、舜が肝試し参加メンバーの皆に視線を合わせる。

 念の為、肝試しのルールを説明しておく。
 山中の墓場、廃寺に行って印を取ってくる。
 Uターンするという事はつまり、先に出た者が後から出た者とすれ違うはずなのだ。

 ……いや寧ろ、すでに特殊空間に足を踏み入れているのではあるまいか。
 実際、板こんにゃくの着ぐるみみたいな地縛霊が居る。
 動きは遅いのだが、押し潰されては大変だ。
「出ちゃったー……!」
「わぁあ……!」
 先に辿り着いていた亜衣と琴里は、本物のお化けに恐々としている。
「だだだだだだだ大丈夫だよ、地縛霊だよ、ゴーストだから大丈夫!」
 強がりながらも、伊織の視線は火の玉が浮かぶ墓地の方に向いている。
 どうやら、雰囲気が怖いらしい。
「動きは遅そうですし、きちんと連携が取れれば倒せる相手です」
 そんな伊織の隣には、冷静に状況を分析している渚。
「ただの肝試しかと思って来たのに……!」
 余談だが、ラッセル、肝試しは大丈夫なのだがこんにゃくは苦手である。
「ラッセル、こんにゃく苦手なのか……」
 湊の顔はやけにニヤけていた。
「そっかー、苦手なんだねー」
 葵の顔も、ニヤけていた。
 この二人、帰った後にラッセルにこんにゃく田楽を食べさせる気だろうか。
「どうして苦手なんだろう……まあいいか。
 涼は怖くないのか?」
 舜が涼の方を向くと。
「食べ物っぽいなら大丈夫だ」
 怖くないを通り越して、彼女、齧る気満々だった。

マスターからのコメントを見る

参加者
夕凪・渚(貴陽・b02710)
琴吹・湊(神が嫌いな紙信者・b04657)
ラッセル・グレアム(親日メリケン忍者・b14557)
笹木・伊織(律の調べ・b24145)
鈴白・舜(紅兇刃・b25671)
上尾・亜衣(まいねーむいず・b25928)
高宮・琴里(天つ風・b27075)
三枝・葵(二十四番花信風・b27701)
NPC:伊崎・涼(ハングリースパイダー・bn0155)




<リプレイ>

●こんにゃくおばけ
 こんにゃくの着ぐるみというものが存在するとは、まさか誰も思うまい。
「ユニークというか何と言うか……癒されるなぁ。そして美味そう……」
「蒟蒻の地縛霊なんて何か愉快だね……!?」
 琴吹・湊(神が嫌いな紙信者・b04657)と三枝・葵(二十四番花信風・b27701)の周囲は、ほんわりとした温かいムードとなってしまっていた。
「安心しろ、湊の分も食っておく……」
 伊崎・涼(ハングリースパイダー・bn0155)はというと、ゴーストを目の前にしているにも拘わらず、齧る事を前提に話をしているらしかった。
「こんにゃくもお化けも怖くないんだけど、周りが……」
 視界にこんにゃく地縛霊を入れずに会話をしているのは笹木・伊織(律の調べ・b24145)。三人がどれ程和んでいてもひゅーとかどろどろーとか聞こえてきそうな辺り、ここは一応特殊空間である。
「肝試しも怖いけど、このこんにゃくオバケも怖い……!」
 そんな伊織の陰に隠れているのは上尾・亜衣(まいねーむいず・b25928)。
 確かに、ぬるぬるでてかてかでもにもにしているし、一歩、また一歩と、短い脚で前にやってくる。その移動速度が、見る者によっては余計に恐怖を煽るのか。
「こんにゃく……こんにゃく……なぜこんにゃくなんだろう……」
 ぺた、ぺた、というゆっくりとした足音を聞く度に、夕凪・渚(貴陽・b02710)の首が傾いていく。ただ、恐らくはこの場に居合わせている全員がその疑問を一度は抱いた筈だろう。
「パタンって倒れたらどうやって起き上がるのでしょうね、あれ」
 違う論点で首を傾げている者も居る。高宮・琴里(天つ風・b27075)だ。

 一応、地縛霊の形状を説明しておく。
 こんにゃくの着ぐるみと言っても、全身タイツ状のこんにゃくスーツではない。
 板こんにゃくの中に成人男性が入っている図を想像すれば、大体それに近い。
 つまり、腕と脚がこんにゃくの中に埋もれていて、観光地にある記念撮影用のアレの如く、顔だけ丸く穴が開いている。こんにゃくの外に出ているのは顔と足先と手の先だけという訳だ。
 特筆すべきは、こんにゃくの質感のリアルさ。ていうかどうやって着るんだそれ。

「どうしてそんな格好なんだソコの地縛霊! あーもー、背中がゾワゾワするーぅ!」
 墓場の中心で哀を叫んだ男、ラッセル・グレアム(親日メリケン忍者・b14557)。
 本人の名誉の為に言っておくと、どうもこんにゃくが苦手らしい。
「兎も角肝試しとしては面白くなったが、ゴーストは倒さないとな」
 鈴白・舜(紅兇刃・b25671)は唯一、このタイミングできちんと詠唱兵器を構えていた。さすが団長。
 確かに、短い足首に足枷が付いているし、鎖がじゃらじゃらと鳴っている。

 とりあえず、戦闘開始。

●たいあたりきもだめし
 ぺたり、ぺたり。
 石畳を濡らしながら、板こんにゃくが歩いてくる。
 ただ、攻撃動作にはまだ移れないらしい。
 足元に転がっているのは、各々が持ってきた懐中電灯。
 煽り位置からのたくさんのスポットライトで照らされたこんにゃく地縛霊は、余計にぬるぬるてかてかして見える。
「さぁ、これで大丈夫! ラッセル君も安心して前にいけるよっ」
 自信満々の葵のサイコフィールド。
「あれは墓石だあれは墓石だあれは墓石だ、落ち着け俺落ち着け俺落ち着け俺……!」
 ちっとも落ち着いてないラッセルの方はというと、自己暗示が念仏の様に聞こえて妙である。
 震える手を反対側の手で抑えながらのクロストリガー。しかし、着弾箇所がもにゅりとへこんで弾が埋もれていく様はやはりこんにゃくらしい。
「ラッセル先輩の為にも、早く倒さなくちゃ……!」
 すでに分身していた亜衣が、ラッセルの後ろから雑霊弾の援護射撃を放つ。
「精神的な部分は補助出来ませんが……それでも、あなたを守る力となりますように」
 苦笑混じりの黒燐奏甲。琴里の手から離れた黒燐蟲達は、ラッセルの詠唱兵器へと纏わり付いていく。
「そんなに嫌いか……」
 舜の呟きには、半ば呆れも混ざっていただろうか。
 黒燐の翼を生やした黒影剣を振り被り、思い切り地を蹴ってから斬り下ろした。
「効いてるのか?」
 ただ、舜がそう言うのも無理は無い。
 相手はこんにゃくの着ぐるみ。衝撃吸収体を着ている様なものだ。
「……行くぞ」
 槍二本で地面に方陣を描いてから、涼が地を蹴った。
 しかし、気合を入れて立ち向かったものの、いつも通りの動作に移る。
 弾力のある灰色の半透明の物体に飛び掛かり、掴んで噛み付き、引き千切った。
「迫力あるよなー……」
 湊にとって迫力満点に見えたのは聳え立つ板こんにゃくではなく、涼が食い付く様だったらしい。
 魔狼の気を纏い、両手に気を集めて踏み込み、爆水掌を撃ち込んだ。
「この形からして、前か後ろにしか倒れないよね?」
 ちなみに、立ち位置を確認しつつ真横から攻撃。
 板こんにゃくなので、後ろか前にしか倒れないと湊は踏んだのだろう。
「見てる分にはいいけど、こうしてみるとムカつくぐらいに遅いなー……あ?」
 確かに、ムカつくぐらい動作が遅い。
 しかし、方向転換程度ならちゃんと出来る。
「湊さん、あぶな……」
 勿論、倒れる様もスローモーション。
 伊織が渚に黒燐奏甲を施している間に、板こんにゃくはゆっくりと地球の引力に引かれていった。
「あ、倒れたわ」
 実況する渚、助けようという意思は皆無。
「わ、わー!?」
 もにゅり、そんな音を立てて、湊目掛けて板こんにゃくが盛大に倒れ込む。
 葵が一生懸命に慌てている脇で、ラッセルは顔面蒼白のまま手をわなわなと震わせていた。明日は我が身か。
 さて、肝心の湊がどうなっているかというと。
「うわ……」
 あまりにもぬるぬるもにもにしていたのか、或いは単純に相手が重いだけなのか、声は聞こえるが微動だにしない。
「湊さん、しっかりー!?」
 伊織は、とりあえず慌てていた。
 しかし、出来る限りの事をしようというところまでは思いついたらしい。うつ伏せになったままの板こんにゃくに黒影剣を突き刺した。
「気を確かに持つのよ」
 渚、フォローする点がずれている。
 板こんにゃくへとマントを斜めに振るってスラッシュロンド。
「う、動かないよ!?」
 葵に至っては、うっかり主語が抜けている。
 ただ、生死確認の破魔矢を板こんにゃくに向かって撃ったあたり、一応は湊を心配している様だ。
「……しぶといこんにゃくだな」
 まさにカオスと言うべき現在の状況においても、涼の口は何かを咀嚼するかの様に動いていた。

 九人全員が戦っている様に見えないのは、気のせいではないかも知れない。

●ためされるきもだめし
 じたばたじたばた。板こんにゃくから生えた短い手足が動いている。
「大丈夫ですか?」
 琴里が、下敷きになったままの湊の顔を覗き込む。
 ひんやりともにもにしたものが擦れているのか、気持ち悪い事この上ない。板こんにゃくが動く度に、湊の表情はどんどん蒼褪めていく。
「頑張りましょう、ね」
 にっこりと微笑みつつ黒燐奏甲を施しながら湊の身体を引き摺り出すが、どうやら相当な脱力感に襲われている。
 ぶっちゃけ、湊、ちょっと頑張れなさそう。
「こわいよ……こわいよ……!」
 押し潰されるのも怖いが、げんなりを通り越してげっそりした湊の表情も怖い。
 がくがくと震えながらも、亜衣は一生懸命に雑霊弾を放っていた。
 引き摺り出された湊はというと、一応は体勢を整えながら立ち上がるものの、視線が何処かを彷徨っている。
「ラッセル、良かったな……」
 後方に控えるラッセルを恨めしそうに見てから、ゆっくりとした動作で凍て付く一撃を振り下ろす。どこか投げやりだった感は否めないか。
「無理! あれ無理! もう俺帰る! 実家帰らせて頂きますマジで!」
 半泣きになりながらもクロストリガー。
 ビフォアアフターを見せられてしまっては、ラッセル、必死である。
 ちなみに、涼の口はまだ動いている。どさくさに紛れてまた何処かを齧ってきたらしい。
「本当にしぶといな……でももう少しなんじゃないか?」
 団長である舜は、和気藹々と地縛霊を倒す様を見ながらも一応は全体を見渡していた。
 確かに、食い千切られたり弾が埋め込まれたりぐっさり切られたりと、しぶとそうな板こんにゃくとは言えどもダメージは受けている……筈。
 しかし、一応地縛霊。
 やられてばかりではいられない。
 ゆっくりと起き上がり、板こんにゃくは俯いていた顔を上げた。
「ラッセルさん、見ちゃ駄目ー!」
 伊織だけは、察するのが速かった。
 そう――一直線上、ラッセルと地縛霊との間には遮蔽物ゼロ。

 沈黙。

 少女の忠告も空しく、少年の絶叫がこだました。

「気を確かに……って、手遅れだったわね」
 渚の呟きには、半ば同情も込められていたか。
 目と目が合ったら何とやら。
 物凄い形相で地に伏せたこんにゃくを凝視してしまったラッセルは、その表情のまま固まっていた。
「しょうがないわね、もう」
 渚は、一つため息をついて頭を抑えてから、起き上がりかけた地縛霊に向かって再びスラッシュロンド。
「所詮は蒟蒻……人間には敵わないのですよ……」
 確かに伊織の言う通り、食物連鎖的にはこんにゃくは人間の下である。
 そうと分かれば、ヒエラルキーの下位には容赦無い。起き上がる前に倒そうとでもいうのか、横薙ぎに黒剣を振り被り、一閃。
 真一文字に裂かれ、灰色にぬめる巨体がびくりと痙攣したかと思うと再び俯き、石畳の上に倒れ伏した。
「やったか?」
 舜が覗き込むが、板こんにゃくは動かない。

 ちなみに、ラッセルも動かない。

●あまりきもだめしてなかった
 数時間後、所謂祝勝会。
 秋のキャンプ場、だしつゆの香りを目一杯に漂わせているおでん空間。
 大きな鍋の中には、おでんねたが詰まっている。
「まあ遠慮せず」
「お近付きの印に」
「はい、あ〜ん」
 そして、ラッセルの周囲には舜、琴里、葵。
 三人が勧めているのは勿論こんにゃく。
 勧められている方はというと、ぐったりというレベルではない程に疲労しきっていた。しかしその間にも、疲労の色濃い湊が補給物資よろしくこんにゃくを無言で投入し続ける。
「リョウ、殲滅よろしく……」
「食わないのか? 美味いぞ?」
 一気に二、三個口に入れてもにもにと食べている涼の顔を見てから、ラッセルは顔ごと視線を逸らしたのだった。
「誰? あたしのお椀にすじ肉入れたの……」
 牛すじ、どうやら渚が知らないうちに入っていたらしい。
「苦手なら、食べますよ?」
 にこにこと微笑みながら、伊織がすじ串を摘み上げた。
「苦手じゃないわよ、ちょっと食べる気分じゃないだけ」
 極力目線を合わせない様に言う辺り、どうも胡散臭い。
「つみれっていうのかな? あれも入ってるかな?」
 伊織の隣には、そわそわとした様子の亜衣。
「えーと、あったあった。はい、どうぞ」
 よく煮込まれたつみれも、穴杓子で掬えば崩れない。食べれば、口の中でふんわりと解ける様な舌触り。

 不意に、舜が箸を止めて立ち上がる。
「なー、みんな、楽しかったか?」
 呼び掛けに対して、表情はまちまちであれど、八人は一様に頷いた。
 かくして、秋の長夜は楽しげに更けていく。


マスター:内藤璃影 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/09/26
得票数:楽しい5  笑える18 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。