<リプレイ>
● 県道から横道を入り、歩く事暫く。 葉を落とした木々がざわめく山中に、そのホテルは在った。 「ここかぁ……危険なお仲間作りはやめて欲しいよね。元々傍迷惑な存在なのに更に迷惑だよー」 「前に似たようなやつらと戦ったが……今回はあん時ほど楽に勝つことはできそうにないな」 かなりの巨額を投じて作られたであろう廃ホテルを見上げ、空廼・夏夜(黄昏の誓約・b31376)と義兄弟の空廼・嵐(自由騎士・b39057)は、そんな言葉を交わす。 「一般人はまだみたいですね。タイミング的にはそろそろだと思いますが」 アシュレイ・シーケンス(純白魔断・b63857)は周囲を見回し、それから時計に目を落とす。 今回はゴーストのみならず、一般人も相手にしなくてはならない。 「山奥まで肝試しに来るなんてよっぽど暇なんだね〜……って、涼音くんは何作ってるの?」 「ほら、これを釣り竿で吊って……こうすれば、人魂っぽく見えない?」 遊行寺・一紗デルレイ(世紀末一般人・b53500)の問い掛けに対し、楫・涼音(マグスのしっぽ・b11342)は釣り竿を揺らしてみせる。 懐中電灯の明かりが綿をぼんやりと光らせ、遠目には人魂に見えなくもなさそうだ。 「廃墟なら腐る程見ているがどこが面白いかさっぱり分からぬ……のは、俺達が能力者だからなのだろうな」 アウラ・ファラフ(砂漠の鷹狼・b37766)も、わざわざこんな場所まで来る物好きっぷりを呆れるが、退屈な日常を活きる若者達は、えてして非日常に魅せられる物なのだろう。 「しかもそう言う人たちって、禁止されてる事ほどやりたがるのよね」 年長者のようなトーンで呟くのはセフィラ・マーゴット(割れない胡桃・b60878)。 間もなく訪れるであろう一般人達に対しても「立ち入り禁止だから、危ないから入らないで下さい」等と言っても、意味はないだろう。 それ故、能力者達は彼らを脅かし、自主的にお引き取り願う作戦を取る。 「どうやら、お出ましのようです。皆さん、配置につきましょう」 伊東・尚人(理の修行者・b52741)の耳に、車の音が聞こえてきた。 早速能力者達は、それぞれの位置について一般人の到着に備える。
● 「ほーら、すげぇだろー?」 「うわー……大きいね」 「こんな山の中に作ってお客来るのかなぁ?」 「来ないから潰れたんだっつーの」 「ギャハハ! 今のアッコ凄いバカっぽい発言」 「うるせーよ!」 やがて、3人の若い男女がホテルの正面入り口へやってきた。一見して余り素行の良さそうなタイプではなく、ひたすら大声で騒いで居る。 ――ひゅっ。 「うわっ!? ……って、猫かよ」 「アハハ、めっちゃびびってやんの!」 「でも、なんか気味が悪い……ずっとこっち見てるよ、あの猫」 猫に姿を変えたアシュレイが、3人の前に姿を現し、じっと見つめる。 ――ワオォーン! 「ね、ねぇ……今のって狼?」 「何言ってるんだよ、犬に決まってるだろ」 ――キャアァァーッ!! 「っ!?」 「な、なんだぁ? ひ、悲鳴?!」 「あれ見て、人魂だよ!」 更には狼に変身したアウラの遠吠え、そしてセフィラと夏夜の悲鳴が続けざまに響き渡り、涼音お手製の人魂が宙を舞う。 「か、帰ろうよぉ!」 「い、いや、きっと光の反射とかで……悲鳴に聞こえたのもきっと気のせいで……」 「じゃあ、あれは?」 女が指さす先には、血の付いた包帯を巻き、手に鈍器を持った男の姿。 「我の眠りを覚ますのは誰だ!」 「「ぎゃああぁぁーっ!!」」 トドメとも言える尚人の変装と演技によって、ついに男女は絶叫を上げて逃げ出す。 しかし悪くしたことに、女の1人がその場で気絶してしまった。残りの2人はそれに気付かなかった様で、もう姿は見えなくなってしまっている。 「怖がらせすぎた……か?」 嵐が近づいて様子を見るが、やはり完全に気を失っている。 「3時まであと15分です。余り余裕は有りませんね」 「うーん、どうしよ――」 ――がばっ! どうすべきか、能力者達が思案にくれていると、何かに弾かれたように女が起き上がる。 「い、い、いやぁあぁーっ!!」 そして、能力者達の方を振り返る事もなく一目散に駆けだして行った。 「……だ、大丈夫、かな?」 それから少しして、車のエンジン音が響き、猛スピードで遠ざかって行く気配が感じ取れた。 「山奥の廃墟なんて危険な所に、もう二度と来るなよ」 いつの間にか人の姿に戻ったアウラは、ともかく難を逃れて去っていった一般人へ、小さく告げるのだった。
● 「結構……良い運動だね〜」 エレベーターは電気が通っていないので、最上階まで階段で上がった一行。一紗デルレイは壁にもたれかかって、少し呼吸を整える。 「もう間もなく3時です。皆さん、準備お願いします」 尚人は黒電話の横に立ち、いつでも受話器を取れる様に備える。 一般人の世話に少し時間が掛かってしまったが、十分余裕を持って迎撃出来そうだ。 ――ジリリリン! そして3時きっかりに、その電話は鳴り響いた。 ――チン。 「もしもし」 「……タダイマ……マイリ……マス……」 受話器の向こうから、途切れ途切れの低い声が聞こえて来る。と同時に、ホールの中からは大勢の人間の気配。 「さぁ、始めるとしますか」 ――バンッ! 嵐は「Blue Raising」に黒燐蟲達を纏わせつつ、ホールへの扉を蹴り開ける。 大ホールに広がるのは、死者達による晩餐会の光景。 「アンリ!」 涼音は魔方陣を展開しつつ、ケットシー・ワンダラーのアンリに命じてダンスを舞わせる。 すると、アンリの華麗なステップに魅せられ、数人の客が踊り出した。 「実に王道な展開だけど無双しちゃうとジャンルがパニックやホラーじゃなくてアクションになっちゃうよね〜」 「フフフ、ミッションスタートです」 一紗デルレイは体内の気を爆発的に覚醒させつつ、ホール入り口付近に陣取る。 次いで、アシュレイも魔方陣を展開。一斉にホール内へと雪崩れ込む。 「さーって、どんどん潰してくよーっ!」 「パーティはお開きよ」 夏夜の意志に応じて黒燐蟲が乱舞し、地縛霊達を飲み込んでゆく。 間を置かずセフィラの放った巨大な槍が弾け、鋭い木片が追い打ちを掛けた。 数人の地縛霊達は瞬く間になぎ倒され霧散してゆくが、まだまだ多くの地縛霊達が雲霞の如く押し寄せてくる。
「そこだっ」 「トドメだよ!」 嵐が黒燐蟲を暴れさせ、手負いの敵を涼音が屠る。 当たるを幸いとばかりに、ホール内の地縛霊を蹴散らしてゆく能力者達。既に半数かそれ以上を倒した様だが、まだしぶとく残っている連中も居る。 「そろそろ来そうだよ〜。今6階〜」 バールのようなものを振るいながら、エレベーターの方へちらりと視線を向ける一紗デルレイ。 間もなく、この廃墟のボスと言っても良い地縛霊達がやってくる。 「ではそれまでに、招かれざる客にはさっさと退場願いましょうか」 アシュレイの「アルカナナイトセイバー」が唸りを上げ、目の前に居た地縛霊を真っ二つに切断する。 ――ウォォォ……。 しかし地縛霊達も、大人しく据え斬りされてばかりではない。 生ける者を仲間に引き込もうと、手を伸ばし掴み掛かってくる。 「前座には速やかに退場していただく!」 尚人は伸ばされたその手を「二天布」で払い除け、流れるような動きで龍撃砲を撃ち出す。 ――チーン。 あと少しでホール内の地縛霊達を殲滅しきる。そんなタイミングで、エレベーターの到着を告げるベルが鳴り響いた。
● 「オマタセ……イタシマシタ」 エレベーターの扉が開き、中から支配人、医者、メイドの3人が姿を現した。 「嵐先輩、夏夜先輩、後ろはお任せします」 ミストファインダーを展開し、新たな敵に備えるアシュレイ。 「しょうがない……夏夜、一気に片付けるぜ」 「りょーかいっ! いくよ!」 嵐と夏夜は引き続き、ホール内の客達の掃討に掛かる。 ――ババッ! 2人の黒燐蟲がホール内を所狭しと飛び回り、死に損ないの地縛霊達を擦り削るように攻撃してゆく。 ホールを制圧する前にエレベーター側の敵が出現する事にはなったが、この時点であらかたの敵を打ち倒して居た事と、嵐と夏夜の連携によって程なくホールの地縛霊は1体残らず消え去った。 各個撃破は成功し、二正面戦闘を避ける事が出来た。 「さって、真打登場だね〜。ウォーミングアップも済んだし『You ain't heard nothin' yet!』だよ〜」 「いっけーっ、禍炎剣!」 いち早く3体の地縛霊と対峙した一紗デルレイと涼音は、先ず白衣を纏った医師へ集中攻撃を仕掛ける。 回復力に優れる敵から狙いに掛かるのは定石だ。 ――ゴォォッ!! 火の粉をまき散らしながら炎弾が飛び、医師の白衣を赤く染める。と同時に、一紗デルレイが踊るようなステップで間合いへ飛び込んだ。 ダンスムーブの一つ一つが、流れるような連続攻撃となって医師を打ち据えてゆく。 「オキャクサマガ……ダイイチデス」 支配人の周囲に、禍々しい闘気が沸き起こる。恐らく、自身の攻撃力を高めたのだろう。 「手術代ハ1億ダ……」 「お客さまぁん、何でもお申し付け下さいませぇ」 更に、医師とメイドも動き出す。 医師は目にも止まらないメス捌きで、傷ついた自らの身体を修復してゆく。一方、どういうワケか甘ったるい声色で、ウィンクを飛ばすメイド。 「電話を取ると、支配人さんまでやってくるのね。ちょっとサービス過剰なんじゃないかしら」 セフィラの手が上がると、魔法の茨が広がり、3体の地縛霊達に絡みつく。 「……そんな趣味はない」 メイドの誘惑を払い除けたアウラは、この機に乗じて医師へ突風を叩き付ける。 十分な戦力で迎え撃つことに成功した能力者達は、危なげなく緒戦の主導権を握る。
「夏夜、合わせろ!」 フロアの雑魚達を片付けた嵐と夏夜は支配人に狙いを定め、左右から同時に襲いかかる。 「モウシワケゴザイマセン」 ――ビュッ! 闘気を帯びた支配人の拳が、嵐の頬を掠める。 一方、カウンター気味に繰り出された嵐の拳は、紅蓮の炎を纏いながら支配人の顔面にクリーンヒット。瞬時に炎に包み込む。 ――ヒュッ。 大きくよろめいた支配人の死角を突いた夏夜。「真紅-獄焔-」が彼女の拳を包むように装着される。 「ぶっ飛べーっ!」 ――ドカァッ!! 支配人が身体が暫し宙を舞い、そして廊下を転がった。 「ジ……ケン……デス……」 起き上がるような素振りも見せた支配人だったが、結局そのまま倒れ。やがて燐光を放ちながら消えていった。 「さぁ、次は貴方だよ。禍炎剣!」 再び涼音の「真バンガード」から火炎球が放たれ、医師へ襲いかかる。 「オペを始めようカ……」 しかし医師の手がメスと針を握り、またも自らの傷を修復しようと動く。 ――ザシュッ。 「そうはさせませんよ。さっさと幕を引きましょう」 その手を斬り落としたのはアシュレイの瞬断剣。 「トドメだよ〜」 手を失った上に火球の直撃によって炎上する医師へ、再び一紗デルレイのヒロイックフィーバーが炸裂した。 ――バァーンッ!! 彼女が決めポーズを取ると同時に、医師は崩れ落ちて霧散。 これで残るはメイド1体のみ。 「ファラフさん、マーゴットさん」 「よし、終わらせようか」 「OK、これで終わりよ」 動きを封じられたままのメイドは、為す術もなく3人の連続攻撃にさらされる。 「きゃあぁーっ!」 尚人の蹴りが、アウラの疾風が、そしてセフィラの錫杖がメイドを打ちのめし、彼女の存在を跡形もなく消し去った。
● 「お疲れ様っ!」 「やれやれ……」 すっかり静けさの戻った最上階で、暫しの休憩がてら、死者の冥福を祈る一行。 「この場所で何が起こったかはもはや分かりませんが、この場所で今回の様な事件が起きないことを祈っています」 「廃墟になっても、このホテルには人が訪れてるぜ? だから成仏してくれよ」 「不法侵入の人間が多いですけどね」 嵐の言葉に、苦笑いを浮かべつつ自嘲気味に言う涼音。 大義名分こそあれ、能力者達も不法侵入には違いない。 「あとは彼らが二度とこういう場所を訪れなければよいのですが」 窓から下を見渡すアシュレイ。 さすがに、一般人が戻ってきたりする様子はない。 「彼らは大丈夫でしょうか? トラウマになったりしてませんよね?」 尚人はやや心配そうに言うが、ああ言うタイプの若者達は、数日もすればすっかり恐怖も薄れている事だろう。 「廃墟探索は確かにロマンの塊だけどね〜」 「廃墟マニアは、風情を大事にしなきゃ、よね?」 一紗デルレイの呟きに、そう重ねるセフィラ。 「風情も良いが、廃墟よりは食べ物出してくれる所が良いな。皆で何か食べに行くか?」 食い気重視のアウラだが、皆も空腹なのは同様。 結局一行は、平穏を取り戻した廃ホテルを後に、腹ごしらえの場所を探しながら帰途につくのだった。
このホテルで事件が起きることは、恐らくもう二度と無いだろう。
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参加者:8人
作成日:2009/11/29
得票数:楽しい1
カッコいい14
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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