捨てられない!〜薔薇と天使と悪魔と彼氏〜


<オープニング>


 手入れの行き届いた薔薇の温室。
 たわわに実った林檎、芝生を埋める蓮華草。
 小鳥が囀り、涼やかな風までもが金色を帯びているような世界。
「やあルイ、薔薇達の御機嫌はいかがかな?」
「最高だよロベール、何ていったって、この僕が愛を注ぎ込んでいるからね」
「ああ、それは何て不幸な知らせなんだ……!」
「どうしてだいロベール?」
「だってルイ、そうだろう? 私は君の愛を独り占めしたいのに、ここの庭の薔薇達は、こんなにも君に愛されている……! 嗚呼、私は薔薇に嫉妬して狂ってしまいそうだよ……!」
「ロベールそんな……! 僕は……僕は、君だけを愛しているのに……!」
「本当かいロベール!」
「本当だとも。僕の瞳をよく見ておくれよ。それでももし僕が嘘を付いていると思うなら、僕のこの目を抉ってもいい」
「ルイ……あぁルイ……! 馬鹿だった。この私が愚かだった……! ほんの一時とはいえ、君の愛を疑うだなんて……嗚呼、私は何て罪深いんだ……!」
「ロベール!」
「ルイ!」
 ダバダー。
 ダバダバダー。

 ひしと抱き合う2人。
 舞い散る真紅の薔薇の花弁。
 そして………。

「いやぁぁぁ! やっぱり捨てられなぁぁい!!」

 響き渡る、OLの悲痛な叫び声…………。
 
 
「……どうしても捨てられないものって、やっぱり誰にでもあるわよねェ……」
 久慈・久司(高校生運命予報士・bn0090)はそう言って、首を小さく振りながら溜息をついた。
「あのネ、今回は、悪夢に囚われてるOLさんを助けてあげて欲しいの」
 話によると、悪夢を見ているのは、山田昌子という名の、どこにでもいる三十路手前のOLだ。
 一見何ら変わったところのない彼女だが、実は、所謂ボーイズラブ大好きなオタクで、部屋の本棚にはそのてのコミックスや同人誌、ゲーム、DVDなどがびっしり詰まっているらしい。
「でね、その昌子さんに、少し前に彼氏ができたんだけど……」
 昌子は過去の失恋経験から、恋人に、まだ自分の趣味を告白していないのだ。
 しかしその恋人が、最近、昌子の部屋に遊びに来たがるようになり……。
「彼女、部屋を見られたら、またフラれるんじゃないかって思ってるみたいなの。それで、宝物をすべて押入の中にしまい込んだんだけど……」
 けれど、10年以上の月日をかけて集めまくった宝物を、今更捨てることなどできず、かといって、恋人に知られなどしたら……。
 そんな思いの板挟みになり、彼女は遂に悪夢へと堕ちた。
 
「彼女が見ている夢は、なんて言えばいいのカシラ……とにかく、キラキラしてるワ。漫画で現すなら、所々に薔薇と点描が描かれちゃってるようなカンジね」
 黄金色の風が吹く庭。
 純白のクロスがかけられたテーブル。
 手作りのお菓子には、薔薇のジャムを入れた紅茶がよく似合う。
「よく分からない風景かもだけど……実は、これ、彼女が中学生の頃に描いた漫画の舞台みたいなのよ」
 ちなみに、設定的には、どこかの全寮制の男子校なのだそうだ。
「彼女は、その庭の片隅で、妄想を振り切ろうって頑張ってるの。けれど、そのすぐ近くで、美少年達が愛を語り合ってるみたいなのよねぇ……」
 光沢のある茶色い巻き毛が美しい、長身の青年、ロベール。
 金髪碧眼、まるで少女のような微笑みを浮かべる、薔薇を愛する美少年、ルイ。
「けれど、ロベールは本当は悪魔で、ルイは本当は天使で……」
「待て待て、何だそれは」
「そういう設定の漫画なのよ。世を忍ぶ仮の姿で人間界に降り立った天使と悪魔が、いつしか恋に落ちて……っていう。……まぁ、それはとりあえず置いとくとして。とにかくね、その2人が、敵として襲いかかってくるワ」
 漆黒の剣を振るうロベールは、能力者に例えるなら魔剣士。薔薇の装飾が施された杖を持つルイは、例えるならヘリオン。当然、相応のアビリティのような技も使ってくる。
「愛し合う2人の息はピッタリ。特に悪魔ロベールは、かなり手強いワ」
 それ以外にも、時折、薔薇の花弁吹雪が舞う。その強い芳香は、身体を痺れさせてしまうことがある。
 
「ロベールとルイは、倒せば一冊の本に戻るワ。けれど、本当に肝心なのは、そこからなのヨ」
 そう、問題は昌子なのである。
 恋人に自分の趣味を知られたくはない、けれどこれ以上隠していることも、趣味を捨てることもできない。
「何かいい解決法を見付け出して、彼女を葛藤から解き放ってあげない限り、この悪夢は終わらないの」
 どちらかを捨てるか。それともどちらも捨てずに済む方法を考えるか。
「誰かの助言があれば、きっと彼女も、思い切ることができると思うのよ」
 そして久司は、能力者達にティンカーベルの不思議な粉を手渡すと、夢の世界では現実では有り得ないようなことが起こることもあるということ、負った傷は現実世界にも反映される、命を落とせば死も現実になってしまうということを告げ、彼らを教室から送り出した。

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参加者
吾桑・透馬(シャドウ花婿・b18377)
高屋敷・鉄平(マニアックシンガー・b21031)
騨田・段(高校生俺ゾンビハンター・b21957)
バゼット・クルースニク(天剣絶刀・b31766)
静内・かすみ(未来を描く夢航海路・b31968)
竜桜院・エレナ(幸運の金色兎・b32417)
水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)
エリス・フォーマルハウト(小学生貴種ヴァンパイア・b46962)
飾・硝子郎(フルールアンヴェール・b50686)
白石・くるみ(はゼルくん愛愛愛愛愛愛愛愛愛・b50704)



<リプレイ>

●薔薇色の悪夢
 そこは、まさに綺羅の世界と呼ぶに相応しかった。
 そよぐ風に舞う薔薇の花弁。
 鳥は謡い、陽の光は虹となって七色に煌めく。
 そして、数十メートルほど離れた場所には、突如現れた能力者達の事などまったく意に介さない様子の、濃密ラブラブフィールドを展開するロベールとルイの姿があった。
「ルイ……あぁ愛しのルイ! お前は何故に、私の心をこんなにまで捕らえて離さないのだ……!」
「それは僕だって同じさロベール! 君のいない世界なんて、僕にはとても考えられない!」
 抱き合う美形の男2人。
 片方は悪魔。
 片方は天使。
「何この……何」
 何ともこう、あまり男性の目に優しいとは言えないような不思議少女漫画的展開に、騨田・段(高校生俺ゾンビハンター・b21957)は、軽い眩暈を覚えていた。
「うわぁ、随分テンプレだな……」
 中学時代の妄想が夢に出てくるなんて、それも違う意味で悪夢なんじゃと思いながら、飾・硝子郎(フルールアンヴェール・b50686)も若干辟易気味に息を吐く。
 だが女性陣の意見は、彼らとまったく反対だった。
「あら。なかなか素敵な世界ですわね♪」
 美を愛し、愛に性別は関係ないと訴えるエリス・フォーマルハウト(小学生貴種ヴァンパイア・b46962)は、初依頼からくる緊張を隠しつつも、周囲の少女漫画的風景に目を輝かせ、病的なほどに恋人を愛し、依存している白石・くるみ(はゼルくん愛愛愛愛愛愛愛愛愛・b50704)は、ロマンティックな夢世界で恋人と抱きしめ合う自分自身を想像し、あわや鼻から大量出血な状態にまで上り詰めていた。
「とっても王道、古典的な舞台よね」
「本当、キラキラしちゃって、まるっきり少女マンガねぇ」
 けれどどんなに古典的でも、良い物は良い物なのだと、竜桜院・エレナ(幸運の金色兎・b32417)が主張すれば、純正バリバリ現役を自認する静内・かすみ(未来を描く夢航海路・b31968)もそれに頷き、何故隠す必要があるのだろうか、一体何が恥ずかしいのかと、不可解な表情で首を傾げる。
「確かに、殿方には理解に苦しむ趣味でしょうね」
「まあ、捨てられない気持ちはよーく分かるけどな」
 母も似たようなところがあったと、ふと思い出す吾桑・透馬(シャドウ花婿・b18377)の言葉に、同人誌は一度捨てたら最後、まず買い直すことはできないからなと、高屋敷・鉄平(マニアックシンガー・b21031)はある程度の理解を示した。しかし、このてのものに免疫のないバゼット・クルースニク(天剣絶刀・b31766)は、まったくもって理解できないとでも言いたげな表情で、早くも頭を抱え蹲っていた。
「……とにかく…さっさと、終らせちゃおう。……長くいると、夢に見そう」
「うん! 芽李ちゃんもBL漫画大好きだから、昌子さんの為にも一杯頑張るよ!」
 そんな彼に、水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)が微妙にずれた返事をする。

 とにかく、色んな意味で急を要する事は間違いない。
 彼らは揃ってイグニッションを唱えると、相変わらず2人だけの世界を形成しているロベールとルイに向かって、各々強化を図りつつ一斉に走り出した。

●天使と悪魔
「な……何だ貴様らは! ……ハッ、さては、私のルイを堕とそうと、魔界から差し向けられた刺客だな!」
「もしかしたら、僕のロベールを抹殺しにきた、天界からの追っ手かもしれない……!」
 漸く能力者達の存在に気が付いた彼らは、ひしと抱き合ったまま、勝手なことを言いだした。
「天使なぞにうつつを抜かしおって、この悪魔族の面汚しが!」
 それならばと、鉄平がロベールに向かって言い返す。
「くっ、貴様らやはり……! …良いだろう、それなら受けて立とう!」
 キラーーーーン!
 とりあえず煌めきを表現するかのようなキラキラした効果音と、無駄に目に眩しい光。
「うわっ、眩しっ!」
「何だこの音!」
 能力者達が目を瞑ったほんの一瞬で、ロベールは立派な巻角と蝙蝠の翼を持つ黒衣の悪魔に、ルイは黄金色に輝く羽を持つ、純白の法衣を纏った天使へと姿を変えた。
「だから、何、これ……」
 理解不能な展開に、ちょっと眩暈を覚えた段。しかし、とにかく倒せばいいのだと割り切り、ルイに向けて牙道砲を撃ち出した。
「ああっ!」
「ルイ!」
 羽を掠めた衝撃に、ルイが僅かに蹌踉めいた。それを見たロベールは激昂し、段を斬り伏せようとしたが、その前にようじ、鉄平、そして真シャーマンズゴースト・フレイムのシャミが立ちはだかり壁となる。
 芽李はギンギンパワーZでかすみに更なる力を与え、透馬はシャミにアーマーを装備させる。
 何だかすごくやり辛そうに、無数の蝙蝠で彼らを攻撃するエリス。
「ただ吹き飛ばすのみでございますっ!」
 とにかく2人の距離を遠ざけようと、ルイに凄絶なアッパーを叩き込もうとしたくるみだが、その拳はひらりとかわされ、逆に胸元に、白く輝く光の矢を撃ち込まれてしまった。
「白石さ……わっ!」
 そこにざぁあっと巻き起こる、真紅の薔薇の花弁吹雪。
「くっ、体が……っ!」
 その強い芳香に、能力者達の手足が痺れる。
「私からルイを奪おうとする者には、何があろうと容赦せん!」
 美しくも禍々しい装飾の施されたロベールの剣が、動けずにいるかすみの肩に突き刺さる。
「くっ!」
 メリッサの舞い、そしてエレナの投げたドリンク剤のお陰で、どうにか持ち直すことはできたが、どうやら思った以上の強敵だ。おそらく、それだけ昌子の妄想が強いということなのだろうか。
「……それでも、可及的速やかに引き裂かれてくれないとね」
 皆の足手まといにならぬようにと、中程の位置に陣取ったバゼットが、ルイに毒気を帯びた影の手を伸ばす。続いて硝子郎も、真サキュバスの香奩と合わせ、蝙蝠を飛ばし、精気を奪う。
 もっとも傷の深いくるみに、芽李がギンギンパワーZを投げ、段はようじと連携し、ルイの体力を削ってゆく。
 透馬はルイの動きに留意しつつ、シャミにガントレットを与え、エリスはサキュバス・キュアのディスノミアにルイの精気を貪るように命じながら、心中はともかく見た目だけはとても優雅に蝙蝠の群れを操った。
「僕は…ロベールから離れたくないんだ!」
 ルイの羽から眩い光が発せられ、能力者達の身を削った。広く展開した陣形のお陰で、巻き込まれたのは鉄平、段、エレナ、バゼットだけで済んだが、その威力は半端なものではなく、バセットは思わず片膝を付いた。
 そこに容赦なく襲いかかる、ロベールの漆黒の剣。
「悪いね、ハナからまともに相手する気は無い」
 転がるように逃げ、どうにか脹ら脛を若干斬られるだけで済んだバセットだが、ちょっと楽観視できる傷ではなさそうだ。
「回復担当は余り趣向に合わないのでございますが……」
 とにかく多少なりともと、くるみが浄化の風を吹かせ、彼の痛みを取り除く。更に鉄平も、急遽ヒーリングヴォイスでの援護に回った。
「ラブラブなのはわかるけど、悪いけど通せないのよね」
 僅かな隙を突き、ロベールとルイの間に割って入ったかすみ。そのままロベールに龍顎拳を叩き込み、彼の意識を自分へと向ける。
 エレナに癒しを施して貰ったバゼットは、更に体力を回復させようと、ルイに漆黒のオーラを纏った剣を振り下ろし、硝子郎もバットストームを仕掛ける。
「あ、あぁ……」
「ルイ!」
 ルイの身体がグラリと傾き、それを見たロベールが狼狽する。
「そら、崩れだしたよ! 香奩、そのままぶち込んで!」
 香奩はその言葉に頷くと、僅かに残るルイの精気をすべて奪い去った。
「あぁ、ロベール…ロベール……」
「ルイ……ルイーーーッ!!」
 目の前で、光となって消える愛しい者。
 葬送の曲のように舞う薔薇の花弁。
 ロベールは慟哭し、すべての怒りを剣に込め、目前で痺れて動けなくなっている鉄平の前身を深く斬り裂いた。
 胸元から血を噴き出し、どしゃりと仰向けに倒れる鉄平。
「ルイの仇……ひとり残らず消してやる…!」
 緋色の瞳を涙で濡らし、ロベールはひとり、残る能力者達へと挑みかかっていった。

 数では圧倒しているはずの能力者達だったが、怒りと哀しみに満ちたロベールの剣の前に、徐々に疲れが見え始めた。
「があぁぁぁっ!」
 傷付き、血の涙を流しながら突き出されたロベールの剣が、バゼットの腹を深く貫き、戦う力を奪い去る。
 芽李は彼への治癒が既に追いつかないと知ると、水刃手裏剣を放ちロベールの脇腹を切り裂いた。
 ようじに支えられた段は最後の力を振り絞り、ロベールに男の気迫勝負を挑み、透馬の穢れの弾丸とエリスのバットストームが、間髪入れず飛ばされる。
「何の、これしき……!」
 ロベールは剣を構え直し、最後の気力を振り絞ったが、ここで倒れるわけにはいかないというのは、能力者達とて同じこと。
 くるみの繰り出す浄化の風が、能力者達を包み込む。
 かすみの龍尾脚が、エリスのデフォルメ悪魔絵が、そして硝子郎の蝙蝠が、蹌踉めくロベールに叩き込まれ、吹き荒れる薔薇の芳香を、メリッサの舞いが消し飛ばす。
「こんなところで萌え死ぬわけにはいきませんの」
「…………!」
 ロベールにまとわりつく、無数の蝙蝠。
「あ、あぁ…ルイ……ルイーーーッ!!」
 ぐずぐずと崩れ落ち、それでも、愛しい者の名を叫び続けるロベール。
 叫び、何かを掴み取ろうとするかのように手を伸ばし────

 ───ぱさり。
 光と闇の消え去った後には、1冊の同人誌だけが残された。

 フルカラー箔押し60ページのそれを拾い上げた透馬は、薔薇の花壇の影で目を閉じ蹲っていた女性……昌子に歩み寄り、その手にそっと同人誌を握らせた。

●愛の力
 古ぼけた同人誌を抱きかかえたまま、昌子は暫し沈黙していた。
 心なしか、小さな肩が震えているようにも見える。
「とても素敵な世界よね、ここ」
 エレナの言葉に、昌子の頭が僅かに擡げられる。
「あのね、おねーさん。捨てられないんなら無理に捨てる必要なんて無いと思うの。てゆーか、オタクは一つの物事を突き詰めたいわばプロフェッショナルよ!」
 それを恥じる必要なんてない、もし彼の愛が本物なら、きっと趣味ごと受け止めてくれるはずと、涙に滲む昌子の瞳を見つめ、かすみは強く主張した。
「昌子さんという人は世界に一人しかいないの! 自分を偽り続けてはいけないと思うよ。それに、昌子さんの趣味を知ったからってふってしまう様な彼氏となんて、一緒にいても本当に幸せにはなれないと思うの!」
 嘘を付いたり飾ったりして、自分を別の者にする必要などないと、芽李も声を大にする。
「でも……」
 過去の苦い経験が、若干トラウマになっているのだろうか。昌子はただ力無く俯くだけで、彼女らの言葉をなかなか受け入れられずにいた。

 淡々と続けられる説得。
 これがもし自分のことだったらどうだろう。
 どちらか片方を、と言われれば、恋人を選ばざるを得ないだろうか。
 色々と思うところのあるくるみは、出来れば打ち明ける方向へ持っていきたいとは思いつつ、とりあえずは事の成り行きを静かに見守る。
 その間、透馬は傷付いた使役ゴースト達に再生手術を施してあげることにした。
 ディスノミア、香奩の治療中、シャミが心なしか拗ねているようにも見えたが、大丈夫だろうか。
「………」
 たしかに、言われていることはよく分かるし、自分でもそうだとは思う。
 けれど、やはり踏ん切りがつけられない。
 そんな彼女に、鉄平は、屈んで視線を合わせるようにして語りかけた。
「物が物だし、一般的に受け入れられ辛いってのも、一度失恋経験して怖いってのもわかるよ。でも、本気で好きな相手が好きな物なら、自分は好きになれなかったとしても、それが犯罪やなんかじゃないのなら、ある程度受け入れは出来るもんじゃないかな。……それに」
 それに、このままもし自分に嘘ついて付き合いが続いたとしても、苦しくねぇ?
「……うん」
 昌子は僅かに頷いた。やはり、そのての趣味を持たない異性からの言葉は、彼女の胸により強く響くのだろうか。
 それに彼の言うとおり、好きなものを好きだと口に出来ない辛さは、彼との楽しい時間を本気で楽しむことのできない一因となっていた。
「割り切れないのは、執着や保身もあるだろうけれど……何より、愛する彼を想ってのことでしょう?ならそれは、貴女だけじゃなくきっと二人の問題だよ。……だから悩むのは、彼を信じてからでも遅く無いんじゃないかな」
 自分なら、愛する女性が自分のために好きなことを諦めるのはとても悲しく感じると、硝子郎も思いを伝える。
「じゃあ私、どうすれば……」
「……趣味。打ち明ければ、良いと思う」
 単純明快なバゼットの解答。
「趣味も恋人も両方好きでいて、悪いことはねぇんじゃねーの?」
 双方の事柄に疎い段だが、花壇に身を預けたまま、自分なりの考えを口にする。
 彼の愛が本物なら、どんな形であれきっと受け入れてくれる。
 けれど、もし受け入れてくれなかったら……。
「もし彼がそういう趣味を理解できなくても、貴女の他の魅力でそれを凌駕してしまえばいいだけのこと! コホン……ここの美少年に負けず劣らず貴女も素敵ですわよ」
 それでも嫌われてしまうようならば、所詮その程度の器の男だったということ。
 どこか照れた表情で話すエリスに、昌子もちょっとだけ恥ずかしげに頬を染めた。
 そして……。
「話してみる……」
 少し怖くはあるけれど。
 機を見て、少しずつ。
「そうそう、その意気! 彼氏さんの愛が本物なら、おねーさんのそういう趣味ごと受け入れてくれる筈よっ!」
 かすみは、昌子の手を強く握りしめた。
 別に悪いことをしているわけではないのだから。
「でも、予備知識無しでいっぺんに話されたら、彼氏にとってキツいかもしれないから、徐々にゆっくり慣れさせてく等工夫が必要ね」
 BLの手練手管とか応用できるのではと、エレナも助言する。
「誰かのまねをしたり、偽ったりしない素直な自分のままが一番♪」
「現に俺、そっち系の趣味は無いにしても、本とかなら全然平気だし」
「彼もいかがわしい本の1冊や2冊持っているかもですけど、許容してあげましょね?」
「……はいっ」
 透馬の言葉に、昌子はクスッと笑って頷いた。
 大切なのは、互いの理解と惜しみない愛情。
 それさえあれば、きっと明るい未来が待っている。

 ───ふと気が付けば、昌子の後ろには、ロベールとルイが立っていた。
「ありがとう。これで私達も、陰に隠れることなく愛し合うことができる」
「本当の愛は、どんな障害をも越えることができる……そうだよね?」
 きっと、乗り越えられる。
 徐々に覚めてゆく夢の中、能力者達は、そう願わずにはいられなかった。

 愛は───何よりも強く、優しい。


マスター:大神鷹緒 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2008/10/09
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冒険結果:成功!
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