<リプレイ>
●仮装パーティーのような場所 秋も深まりし十月十三日。銀誓館学園で催されている運動会の一競技、仮装マラソン。燦々と輝く太陽が大地を照らし、爽やかな風が涼しさを運んでくれる中、選手たちは様々な姿を見せながら開始の時を待っていた。 「今年こそ優勝するぞー!」 空に向かい、春夏秋冬・未来(中学生ファイアフォックス・b30189)が叫んでいる。自らの勝利を誓うため。 彼が引き当てたのは小学校の夏服だ。……ただし、女子の。そして、頭にちょこんと乗っているのはネコミミで、スカートの影から伸びているのは猫尻尾。さらに白いオーバーニーソックスがスカートの裾との合間を可愛らしく演出している……のだが、曲がりなりにも彼は男の子。色々とデンジャラスである。容姿が中性的なのは幸いだろうか。 隣には、静かな闘志を燃やしている深海・清貴(一日千眠・b44332)。 (「……折角だから……勝ちたい……」) 彼は黒の長髪を赤いリボンで縛り、決して小柄では無い体躯を水色のワンピースで包み込む。上からは純白のエプロンを着用し、首に時計をかけた白いうさぎさんのぬいぐるみを抱き締めれば……どこかの童話に出てきそうなお嬢さん。 女装ではあるが、特に気にする様子は無い。何より、結構似合っているように思えるのはどう判断したものだろう? 一方、遊馬崎・凛架(藍の旋律・b46817)は自分の姿を眺めながら首を傾げていた。 「うーん、これはちょっと考える必要が……」 彼女が着ているのは女の子の憧れ。本来教会で着用し、愛する人と永遠を誓い合う衣装、ウェディングドレス。白のベールが髪の藍に良く映える。 もっとも、運動を予想して作られた服では決してないため、胴の締め付けなどもあり非常に動き辛い。また、足元を飾るヒールの高い靴もまた、それを助長してしまっている。 故に考える。まともに走れる、速く走れる方法を。 悩む花嫁の傍に必要なのは、静かに控える執事だろうか? 偶然にも、近くに執事として佇む漆名・神威(黒と白の契約者・b42493)が居た。 先に告げたとおり、彼女の服装は執事服。 細い体躯や長身と相成って、黒のズボンもベストすらもかっこよく映っている。また、長髪ではあるが自身ありげな佇まいからは、ベビーフェイスな有能執事に見えるだろうか? ……ある意味当然である。偶然にも……面白みは無いが……自分の提出した衣装なのだから。だが……。 「いい感じだな。一位は絶対にもらうぞ」 それ故に頼もしい。 一方、少しい遠い場所には、中華風な少女となった春野・愛美(花の詩・b36386)が高鳴る鼓動を抑えるために深呼吸を繰り返していている。 上下する胸元を守るのは、体の線を強調する黒く光沢の有るチャイナドレス。裾は膝辺りまでしかなく、スリットも腰の下辺りまで入っていて、翻ればちょっとアブナイかもしれない。 だが、そのドキドキよりも初めての運動会に対するドキドキのほうが勝ってる。だから頑張るためにも、気持ちを少し落ち着けたい。 同じくキワドイ格好で佇むのは、メイドに扮した大和・美奈子(ゴースト使い美少女・b31558)。 頭にはネコミミをお尻の辺りに尻尾は当然として、スカートの丈も非常に短い。そこから覗く黒のガーターベルトと肌色が、何とも言えない色気を醸し出している。 ちょっとだけ目論見が外れてしまっていた彼女だが、運よく同じ様な衣装を引き当てた。後は競技中、他の人がこの格好に魅了されてくれれば……。 かくいう彼女の視線は、自らが衣装を提供する事となった春宮・静音(バトルマニアガール・bn0097)に向いていたのだが。 「あう……うぅ……」 上は白のワイシャツに青く光沢の有る上着。下は同色のスカートと相成って、どこぞの婦警を演出する。……ただし、スカートの丈が非常に短い。太ももの辺りまでしかなく、激しい動きをすればいやがおうにも見えてしまう。何をとは言わないが。故に、耳まで真っ赤に染めて俯きがちにスカートの裾を押さえているのも当然だろうか? そんな彼女より多少はマシだが、体の線が出るのは恥かしいと文月・風華(暁天の巫女・b50869)が体を抱いていた。 インナーはハーフジャケット。上は白のジャケットで、下も白のロングパンツ。そこにフルーレのレプリカを携えて、顔を面で覆ったなら……フェンシングの選手と形容して差し支えは無いだろう。また、首元には銀色のメダルがかけられており、何かの願掛けをしているようにも見えた。 幸いなのは露出が少ない点だろうか。 ……肩を落とす影がさらに二つ。 「コレで、走れってか……」 インナーの襦袢を襟元に覗かせる和風な白衣。下を赤い袴で覆ったなら、神社に仕える巫女に見えるだろう。 ただし、本間・忠弘(迅風繚乱・b38617)は男である。露出は少ないが、女装である。 嗚呼、瞳の端に煌くものが見えるのは気のせいだろうか? 「うう、もっと可愛いお洋服が着てみたかったです……」 嘆きの言葉を発しているのは、郵便ポストの投函口から可愛らしい顔を覗かせているティセ・パルミエ(猫ふんじゃった・b34291)。 塔のような形とオレンジ色に近い赤。手を出す場所は側面で、足を出す場所も側面に近いこの衣装。まごう事なき着ぐるみだ。 眺める限りは可愛らしい様相には思える。身につけているのは、ネコミミを生やした小柄な少女だし。けれど、ティセの思う可愛いとのニュアンスは少し違うのかもしれない。 ……ともあれ、戦士たちの準備は概ね整っている。ほとんどの者は、競技開始の時を今か今かと待ちわびていた。
●スパートサバイバル 木の葉が舞い、小さな砂塵が吹き抜けるグラウンド。銃声が高らかに響いたなら、それはマラソン始まりの合図! 「序盤から飛ばすぜー」 スタートダッシュを決めて先頭に躍り出たのは、小学生女子夏服の小ささなどいとわず腕を振るう未来。最初に飛ばせるだけ飛ばして、後続を引き離す算段だ。 未来のほぼ後ろ、同じ様なスピードで追随するのは、ネコしっぽとスカートを風に乗せる美奈子。 スカートが翻りながらも大事なところは決して見せないお約束を兼ね備える二人。彼らを始めとしてトップ集団が形成される。 続くのは、ベストを尽くすだけと意気込み粛々と務めを果たす執事、神威。 郵便物を確実に届けるためか、急がず焦らず止まらず、完走する事を目指した結果、温存している者たちよりもまずは前に出る結果となったティセ。 第二集団を形成する者たちからやはり少し離れた場所には、パーティーに遅れまいと駆け出しそうなうさぎさんを抱える少女? 清貴。 「……絶対……負けない……」 意気込みながらも、今は焦らず前を譲ろうか。 それは、フルーレを腰に差した風華、今はハイヒールの具合を確かめなれようとしている凛架も同じ思いだっただろう。 三者とも、途中から突貫する心積もりなのだから。 彼女たちからさらに離れ、後方集団を形成しているの、ミニチャイナの裾をあまり気にする事もなくマイペースを維持する愛美と、割り切ったわけではなかろうが今は走る事に集中しようと思考を切り替えている巫女少年忠弘たち。 ただ、最後に勝者になればいい。その意志の下、動き時を綿密に図っている。 ……ちなみに更に遅れて静音がいたりするのだが、丈の短いスカートを気にしているのかスピードが出ていない。体中を真っ赤にしているところから、最後までこのペースで走るのだろうか? そんな各人の思惑が交錯する序盤戦。一周二周と時を重ねても、未だ動く様子は見せていない。 変化は中盤戦も終わりを見せた時……五週目に差し掛かった時にやってきた。 先頭はなんと、スタートに遅れその後も暴れる様子も見せなかった静音に見える。……ただ単に、トップに周回遅れにされそうなだけなのだが。 現在トップは美奈子。だが、流石に疲れを見せ始め、序盤と比べ明らかにスピードが落ちている。また、時折躓きそうになっているのも、見守る仲間たちの不安を煽った。 一方未来は意図的にスピードを若干落としており、今は第二集団に埋没している。 代わりに、ペースを上げた清貴が、第二集団も追い抜き美奈子に迫っていた。 一方、ティセは相変わらずマイペース。徐々に速度が上がっては居るものの、疲れる様子はあまり無い。 「ラストスパート……行ってみるか!」 対照的に同じ場所を走っていた神威は、残り二周に差し掛かった段階で一挙にペースを上げ、追い抜く為に駆け出した! 代わりに第二集団に加わったのは、やはりペースを上げていた風華。体の線が出て、服の締め付けが若干苦しいけれど、概ね問題は無い。 「さて、ラスト全力で行くわよ」 凛架もまた、ウェディングドレスの裾とハイヒールを抑えて走るコツを掴んだのかペースを上げ第二集団に合流し、まさに大混戦の様相を呈してきた。 彼女たちの様相に当てられたのか、後方集団の愛美もペースを上げて追いすがる。 逆に忠弘はまだまだペースを保ち続け、スパートの時のために体力を温存し続ける。 各々が考えていた作戦に、心の中で火花を散らすグラウンド。ついに、トップの美奈子が最後の周に差し掛かる。 件の美奈子、ここにきて著しくペースを落とす。ミニスカメイド服という走りやすい格好ではあったが、流石に最後まで逃げるのは体力が……。 「あっ!」 しかも、疲労からか転んでしまい、次々と後続に追い抜かれてしまう。 後続の一人、ティセ。彼女は未だにマイペースで、スパートをかける事もしない。旧郵便ポストの気ぐるみという非常に動き辛い格好である上に、完走が目標なのだから当然か。 ティセの前を行くのは風華。スパートをかけたはいいがスピードが乗らないのは、腰に差したフルーレが重いから、あるいはお面で視界が狭まっていたが故に体力を余計に消耗していたからか。 水色のワンピースが走るのを邪魔する少女? 清貴も、ペースをあげてきた忠弘が参加しつつある中団へと埋没した。 対するウェディングドレス凛架。ハイヒールと純白の裾を何とか抑え、先頭集団には参加しているものの、いまいちスピードが乗らず抜け出せない。 「最後に笑うのは俺だー!」 最中、一時順位を下げていた未来が、最後の気力を振り絞り頭一つ抜け出した。その光景はさながら緑の風塵、といったところだったろうか。 が、彼がトップに躍り出たのも束の間。更にペースを上げた敏腕執事神威が横から抜き去って、バックストレートへと差し掛かる。 同じくペースを上げた中華風な女の子愛美が横に並び、トップ争いは二者に絞られた……が! 「ぬおぉぉぉ! 待てコラァァ!」 丁度隣に来ていた周回遅れのミニスカポリス静音をスパートをかけた余波で転ばせながら、恥も外聞も投げ捨てた男巫女忠弘が猛スピードでトップへ向かう。 第三集団、第二集団と抜いたなら、最後のストレートで二人を射程圏内へと捕らえていた。 今まで温存していた力がある分、スピードも迫力も段違いな忠弘。 ここまできたら意地なのだと、更なるスピードで逃げ切る所存の愛美、神威。 愛美と神威が追い抜き追い越しのデッドヒートを展開する中、忠弘が横に並び刹那にゴールテープが弾かれる。 皆が固唾を呑んで結果を待つ中、一番初めに名を呼ばれたのは……忠弘! 巫女に扮した忠弘が、仮装マラソン中学生の部を制していた。 その他の順位は、一位忠弘、二位愛美、三位神威、四位未来、五位凛架、六位清貴、七位風華、八位ティセ、九位美奈子……最下位静音と記され、本競技は終幕を迎えた。
「よっしゃーぁ!!」 ゴールした後、更衣室近くの休憩所でガッツポーズを取る男巫女忠弘。服装に問題はあったものの、勝てた今となっては結果オーライであろう。 「……まあ、こういうのもいいかな」 彼の事を、そして皆の事を、美麗な男装執事神威は微笑みながら讃えていた。 「みんな、がんばったのですよー」 それは、いろんな意味で籤運が無かったが、走る事は楽しめた郵便ポストの着ぐるみを着たティセも同様だったのだろう。 戦いが終わった彼らの間に隔たりは無く、ただ微笑み労いあっていたのだから。 程よく緩く、心地よい静けさを持つ空気。混じるように小学生女子に扮した少年未来が提案したのは記念撮影。 折角こんな格好をしているのである。断るものなど……更衣室に一足早く向かおうとしていたが愛美にひっ捕まえられた静音以外にいようも無い。かく言う静音も、恥かしさからか、あーとかうー、としか言わなかったため、いつの間にやら写真撮影の輪に加わっていたのだが。 セルフタイマーの準備をするため、一旦離れた純白の花嫁凛架。 「よくまぁ、こんな衣装用意したわよね……」 改めて共に走った戦友を眺め、バラエティ豊かな様相に呆れている。もっとも、声音は柔らかく、表情は優しい。 タイマーが作動すれば導火線のような音が響き渡り、写真の準備を皆に告げる。フラッシュが皆を移したなら、カメラにその光景が収められた。 画像を確認し問題がない事を知ったなら、そろそろ着替えの準備と解散の時がやってくる。 「みんな、改めてお疲れ様っ」 だから愛美は改めて労って、皆の疲れを癒してくれた。 晴れやかな笑顔で。また、晴れやかな笑顔を受け取って。 心地よい疲労に包まれながら、仮装マラソン中学生の部は幕を閉じる。 燦々と輝く太陽の下、爽やかな風に吹かれながら――。
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参加者:9人
作成日:2008/10/13
得票数:楽しい19
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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