夢草紙 〜南瓜夜行之事〜


<オープニング>


 ランタンの明かり、爆ぜるかがり火、きらきらのイルミネーション。街はこんなに明るいのにどうして心はこんなにも冷たい? 答えの出ない問いを少年は繰り返す。
「……かぼちゃ騎士」
 呟いた少年を嗤うかのようにかぼちゃ頭の騎士はにかりと笑う。それはかぼちゃの細工物のはずなのにと少年が思う間もなく、今度はごんと体当たりしてくる何かが……。
『でてゆけ、でてゆけ』
『ここはお前のいる場所じゃない』
 次々と繰り出される剣戟が少年の体に無数の傷をつける。切り刻まれるかぼちゃもこんな痛みを味わっているのだろうか――そう思った刹那、いきなり足元に巨大かぼちゃが現れて……
「……うわぁぁっ!!」
 少年の足にがっぷりと噛みつくオレンジの塊。激痛に動けなくなった体に銀の剣が迫ってくる……。少年はこれで終わりだと、両の瞳を閉じた――。

「ようこそ、お集りくださいました。皆さん」
 出迎えた今岡・治子(高校生運命予報士・bn0054)の手元にはいつもの如く青いファイル。そしてずらりと並んだかぼちゃグッズ。おまけに頭には魔女っ子帽子が乗っかっていた。
「ハロウィン……ですか?」
 真っ先に反応を見せたのは雛森・イスカ(高校生魔剣士・bn0012)。
「……ええ、それも夢の世界で、ね」
 集った面々にさざ波のような溜息が起こる。夢の世界へ行くとなれば敵はナイトメア以外にはありえない。
「実はかぼちゃ……というかこの行事自体がトラウマになっている少年がいるのです」
 少年の名前はなおと君、14歳。漢字で書くと尚人だがそれはまあ、この際あまり関係はない。問題なのは彼がナイトメアにつけ込まれていること。
「何でトラウマなんです? 単に好き嫌いのレベルとも思えませんが……」
 イスカの疑問をもっともだと思ったのか、治子は説明を加えた。どうやら小さい頃の暗闇から出てきたかぼちゃ少年に驚かされたこと逃げるうちに巨大かぼちゃに躓いて怪我をしたことなどが、心の底に深く残ってしまったのだろうと推定される。
「彼は自分がかぼちゃが怖いのだとは気づいていないようですし……何より……」
 今度のハロウィンで意中の女の子から仮装行列&パーティーに誘われているとのこと。そんなこんなでパーティーは楽しみなのに夢見が悪いといった嫌な事態に落ち込んで、そこをナイトメアに狙われたもののようだ。

「というわけで、これがティンカーベルの粉です」
 彼の家はご普通の民家。侵入して粉をまく分にはさほど障害はないだろうと治子は言う。
「尚人君の夢はハロウィン色にあふれています」
 どこかのパーティー会場なのか、料理やお菓子もふんだんに用意されているようだし、すれ違う人物も動物も見事に仮装中。
「その中にナイトメアの手先が混じっているのですね」
 イスカの声は確認の響き。治子も否定は全くしなかった。確かに敵はその中に混じっているし、尚人君と共に夢の中に入ればすぐさま攻撃を開始してくるだろう。その敵を彼と共に倒して見せて、彼の信頼を勝ち取ってもらいたい。
「敵の特徴を説明しておくと……」
 剣と楯とを持ったかぼちゃ騎士、籠一杯に絶対になくならないキャンディを詰め込んだ魔女、それから正体はよくわからないものの大口を持ったかぼちゃが地面のあちこちにごろごろしているという。
「騎士の攻撃は単純明快な剣戟、魔女はそうですね、ものすご〜〜く甘いキャンディ」
 残る大口かぼちゃはいつの間にか地面を転がってきて足元にガブリと噛みついてくるのだという。魔女のキャンディはこちらには毒だが、敵には回復になるらしい。
「……噛まれたら痛いですよね」
 イスカは恐る恐るといった体で口を挟んだ。
「ええ、たぶん」
「かぼちゃに歯ってありましたか?」
「………………」
 大きな溜息と共に治子はその質問を抹殺する。そして『噛まれたら動けなくなる場合もありますよ』と能力者達に向き直る。ともあれ、まずこれらをすべて倒してしまわないことには話は始まらないのだ。

「油断さえなければナイトメアの手先はそれほど恐ろしい敵ではありません」
 だが尚人君のトラウマが消えないかぎり、悪夢は繰り返し彼を襲うであろう。それを封じる手段はただ1つ。
「要するに記憶の上書きです」
 せっかく夢の世界はハロウィン色に染まっているのだから、それを利用しない手はない。かぼちゃ騎士や魔女が怖くないと証明した後は、『楽しい』ことの実証だ。
「彼も最初は怖がるかもしれませんけど、皆さんの工夫次第で徐々にうちとけていくと思います」
 何よりも能力者達が楽しむことも鍵の1つになるのだが。
「尚人くんがトラウマの存在を知ること、それが大したことではないこと。それが判れば悪夢の元は断てる筈です」
 ですからどうかよろしくお願いしますね、と治子は微笑み、いつものように『行ってらっしゃい』と頭を下げた。
「思いっきり遊んできちゃって下さい」


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参加者
シルビア・カーマイン(中学生フリッカースペード・b04939)
神咲・鋼(豪腕の破戒僧・b06773)
一花・糸(見習い帽子屋・b13033)
巴衛・円(青龍拳士・b18215)
織部・紗々(黎明の息吹・b19908)
綾織・言乃(中学生雪女・b22496)
雪白・ハクヤ(マシュマロ雪狼・b22971)
スチュアート・カンナギ(ステルスロード・b23653)
高宮・了(高校生巫霊愛好者・b30920)

NPC:雛森・イスカ(高校生魔剣士・bn0012)




<リプレイ>

●夢の世界へ
 窓の外には初冬の夜風。ガラスを叩く木の枝の音も冷たい風も少年の夢の中にまでは届かない。にも関わらず少年の寝顔は安寧とはほど遠かった。ぎりぎりと歯を食いしばる音が聞こえ、窓辺の薄灯りにも苦痛に歪んだ表情がうかがいしれる。
 本当につらそう、と織部・紗々(黎明の息吹・b19908)は小さく溜息をついた。彼の悪夢の元は楽しいはずのハロウィン。
「折角の楽しい行事、恐怖の思い出にするのは許せません」
 小さい頃のトラウマにつけ込むナイトメアの存在を知るのは彼ら能力者達だけ。少年は悪夢に付け入られているとはそれこそ夢にも思わずに辛い夜を過ごしているのだろう。
「ともかく頑張らないとね。恋路の邪魔もさせたくないし」
 シルビア・カーマイン(中学生フリッカースペード・b04939)は机の上に飾られた写真をとんと指先でつつく。細くペンライトで照らしてみればそれはクラスの仲間らしい少年少女が写っている。さりげなく隣同士に並んでいる女の子は多分……。
「せっかくの意中の相手とのイベントを……」
 神咲・鋼(豪腕の破戒僧・b06773)も写真を前に声を低めた。折角誘われたハロウィン・パーティー。少年はきっと楽しみにしているに違いない。
「さくっと片づけてくるしかないだろう」
 巴衛・円(青龍拳士・b18215)は予報士に渡されていたティンカーベルの粉を取り出した。悪夢の元凶、ナイトメアは夢の住人。それと対峙するためには能力者達もまた夢の世界に行かねばならない。
「馬に蹴られろとはよく言うが……今回はその馬が邪魔をする側だというのだからな」
 代わりに退治してきてやろう、と鋼はさらさらと粉をまく。
(「これからのハロウィンは楽しみ、そう思ってもらえる様に頑張りましょう」)
 そっと願う綾織・言乃(中学生雪女・b22496)の目の前に夢への入口が生まれる。夢への扉は音もなく、そしてその先の不穏を表すかの如くに開いた。

 入った先は長くながく続く細道だった。ふわふわと浮くランタンはむき出しの牙を光らせ、真っ黒い蝙蝠はきいきいと不快な鳴き声を上げて飛びまわる。
「怖い相手の正体が解ってるかどうかって違うよね……」
 一花・糸(見習い帽子屋・b13033)は気味悪そうに辺りを見回した。能力者となっても彼のゴーストに対する苦手意識はいまだ健在。今見ている風景が少年の深層を表すものならば……。少年の恐怖はとても他人事とは思えない。
「Trick or Treat! ハロウィンは菓子を強請れる日だ」
 最近はこんな悪趣味なのじゃなくて、子供が妖精の仮装をして菓子をねだるんだよな、とスチュアート・カンナギ(ステルスロード・b23653)は雛森・イスカ(高校生魔剣士・bn0012)を振り向いた。こんな夢は間違ってるよな、と。
「ええ。勿論! お菓子をもらってキスを返すほのぼのしたお祭りなんですから」
 答えるイスカの内容もどこかずれている気がするが、今はそれをとやかく言う時ではないようだ。長い悲鳴がその回路の奥から聞こえて来たのだから。
「行こう……」
 高宮・了(高校生巫霊愛好者・b30920)は仲間達を促す。『ハロウィンは……楽しい』――この悪夢の被害者にそう囁いてやるために、能力者達は一斉に走り出す。

●悪夢の手先
 南瓜の騎士は少年をなぶるかのように銀の剣を閃かす。すっと開く傷に赤い筋が走り、少年が顔をゆがめると、魔女の高笑いが響き渡る。
『ほうら、怖いよ。逃げなさいよ……』
『ハロウィンは呪いの日……』
 能力者が回廊を抜けた時、少年の周りには4つの人影。口汚く耳元で叫んではちょいよいと傷をつけていくその様はまさに醜悪そのものだった。そしてその足元にごろりと現れた巨大な南瓜は、パクリと大きな口をあけ……
「おおっと、そうは問屋が卸さねえぞ」
 つむじ風かともまごうそれは円の龍の蹴り。目を丸くした少年の前に今度は小柄な吸血鬼がさらりとマントを翻す。その手に握られた長剣は2つ目の大口南瓜をさくりと切り捨てていて……。
「ハロウィンは楽しまねーと損だぜ損!!」
 雪白・ハクヤ(マシュマロ雪狼・b22971)もまたハンマーで南瓜叩きつぶしにかかっている。
「……君たち、だれ?」
 ようやくそれだけを絞り出した少年の腕を、シルビアはそっと引いた。
「良かった。やっと普通の人に会えたよ」
 なんだか変な所ね、とシルビアがいえば、少年もこくこくと頷いて。その間にも南瓜達は次々と大口を開けて彼を襲おうとし……。身を翻そうとした少年を彼女は引き留める。
「待って。後ろにも居るかも!」
 確かに後にも大口南瓜の姿はあって。落ち着いてと促す声に、少年はびくんと身を震わせる。
「ハロウィンが怖いか……? 確かに不気味なのも居るし……」
 了がゆっくりと言葉を紡ぐと、ようやく少年は顔をあげた。周りは魔女に南瓜に騎士に……。異形の者達の中で、人の姿をして人の言葉を話してくれる了やスチュアートの存在は確かに彼には救いになったのだろう。
「……あんたたちは?」
「あなたを守りに来たものですよ」
 ふわりとイスカは話しかけ、仲間達の方に視線をやった。少年が何度叩いても蹴ってもびくともしなかった巨大な南瓜を線の細い青年の拳がいとも簡単に殴り飛ばす。
「……すごい」
「……少しばかり不思議な事もありますけどね」
 雪の鎧をまとった言乃は、感嘆するばかりの少年に穏やかに微笑んだ。狼らしきオーラを纏う青年も、魔女の姿をした巨漢も、そしてヴァンパイアらしい姿の小柄な少女も皆がみんな、正義の味方のように見えた。もう悪い夢は終わりですよ……優しい呟きに、
「君も手伝ってね」
 敵がどこにいるか教えてちょうだい、シルビアの言葉が重なる。勿論少年もしっかりと頷き返し……。
「……あ、俺、尚人ってんだ」
 そして思い出したように自己紹介。
「よろしく、尚人!!」
 ハクヤ弾けるような笑顔を向けて、銀の剣を振りかざす騎士へと狙いを定め、
「後で美味い菓子食えるといいな」
 頑張ろうぜーと笑うスチュアートに、尚人もひらりと手を振った。

●悪夢を越えて
 尚人を中心に完璧な2重の円陣を組んでからの能力者達の攻撃は、まさに圧巻だった。無数に群がってくる南瓜達は当然一撃で倒れてくれるほど甘い敵ではなかったし、体当たりで吹き飛ばされた能力者も1人2人ではきかない。けれども吹き飛ばされても構わないだけの陣を能力者達はすでに完成させているのである。
「おっと、頑張れよ!」
 スチュアートが吹き飛ばされた紗々を支えると少女は小さく一礼して無数の蝙蝠達を召喚する。
「おいでなさい、夜の子供たち」
 南瓜に群がる蝙蝠達が存分にその生気を吸い取ると、彼女もまた剣を構えて前線に復帰する。
「ってぇ、やりやがったなこの野郎!」
 銀の剣に深い傷を負わされたハクヤもすぐさま、反撃に出た。漆黒の闇に覆われた彼の武器は騎士の鎧を砕いても尚、その勢いを失わない。
 無論魔女や騎士達も南瓜がやられるのを黙って見ていたわけではなく、魔女のキャンディは何度も能力者達に毒を送り込んだし、騎士の剣戟がもたらした傷は、回復陣の手を少なからず煩わせる事となった。事実、シルビアが癒しを乗せて紡ぐハロウィンの歌は戦場を流れて止む事はなかったのだ。だが、能力者達は知っていた。いずれ勝利が自分達の手に落ちてくる事を。

「イスカさんや、煮物と天麩羅 どっちがいいと思う?」
 既に半減した南瓜を前に能力者達には余裕に近い何かが生まれていた。円が無数の礫を南瓜達にばらまけば、イスカはイスカで闇色の第三の腕を伸ばして騎士に毒を送り込む。
「私は煮物の方が好きですけど……」
 半ば本気の彼女に、
「これは食えんぞ」
 と苦笑しつつ鋼は黒い蟲達を解き放つ。彼の意のままに敵を喰らう蟲達には情けも容赦もない。
「……魔物があっさりと……」
 糸の獣の砲はその威力をいかんなく発揮する。あっという間に吹き飛んで消えた南瓜を尚人は茫然と見送った。
「モンスターの相手はお任せあれ、なんてね」
 糸は笑顔を向ける余裕さえ見せ。そんな彼に尚人も我知らず笑顔を向けていた。謎の怪物をかたどった帽子をかぶった糸の姿は、確かに魔女や騎士のそれに通じる者があるはずなのにと尚人は思う。でも少しもこわいと思わないのはどうしてなのだろう。
「……全部が悪いものじゃないって事なのかもね」
「あの人達は……守る為に戦ってる。怖くない」
 シルビアの言葉も了の言葉も今はすんなり彼の胸に響いてくる。
(「ああ、『悪いもの』だと思っていたんだ……」)
 だからあんなに怖かったんだ、とようやく尚人は思い至る。南瓜が食べられない訳ではないのに、大きな南瓜が嫌いだった。この時期の街のディスプレイも何だが落ち着かない気分になった。でもそれは全て自分の思い込みが理由だったのか……。
「ほら、ぼっとしてるとやばいぞ」
 すぐ前でスチュアートの緑の髪が揺れた。まっすぐに天に突き上げられた拳の先には滑稽なほどに歪んだ南瓜。
「ごめん、俺も戦う」
 剣をとって戦う事はできないけれど、恐怖と戦う事はできるから――。そう告げた尚人に贈られたものは能力者達の最高の笑顔。
「……極悪南瓜なんて倒して飾り直しちゃおー」
 ランタンの明かりの中で、言乃は尚人に笑いかけた。刹那吹き荒れた吹雪は彼女の優しい言葉とは全く裏腹なもの。その白い闇が果てた時、戦場に南瓜の姿はない。

●いざ、ハロウィン
 そこから後の事はいっそ喜劇だったというべきかもしれない。2体の騎士と2体の魔女に対するのはヴァンパイアに魔女にモンスター使い。イスカの異形の腕が魔女を貫き、紗々の漆黒の剣戟が魔女の命を切り裂いていく……。それはまるで幻のようにさえ見えて。
「なんだか、楽しそう……」
「……だな。俺達も後で、仮装するか?」
 尚人と了はすでにそんな会話をする余裕さえ生まれている。
「じゃ、総仕上げだ!!」
 鋼の漆黒の弾丸が魔女の上で弾け飛ぶのを皮切りに、能力者達の最後の攻撃が始まる。黒い蟲達に喰われる魔女を間髪いれずに糸の砲襲う。
「っしゃ、ぶっ飛ばすぜ。喰らいやがれー!!」
 さらには瞬く間に闇を纏ったハクヤのハンマーがその後を追えば、魔女とはいえ命の長らえるはずがない。ほぼ同時にもう1体の騎士も仲間と同じ運命を辿る事になっていた。了の呪われた弾丸は痛みと毒とを送りこむ。使役ゴーストというのは主の意志を敏感に悟るものなのか、真シャーマンズゴースト・シャドウの『ジン太』の攻撃がぴたりとそれに重なった。耳障りな音と共に倒れた騎士はもう2度と起き上がる事のないまま消えていく。
「もう、おしまいよ」
 円の蹴りが最後の騎士をとらえたのを見据えながら、シルビアはランタンの明かりの陰で光を一条の槍へと変える。スチュアートの蹴りが銀色の三日月を描いたその刹那、光る槍は正確に騎士の装甲を貫いていた。さながら南瓜のランタンが魔物を懲らしてくれたかのように。

「ありがとう……」
 すっかり静かになった空間に尚人の素直な声が響く。こっちこそ、手伝ってもらえてうれしかったよと能力者達が言えば、明るい笑い声が夢の世界にこだまする。
「じゃ、後はこのまま?」
 イスカは笑えば、皆の笑顔が一斉に弾ける。よくよく探せばそこは確かにハロウィンの楽園だった。南瓜のランタンの陰にはお菓子が山ほど隠されていたし、能力者達があって欲しいと願うものは、たいてい時をおかずに見つかる。
「そう言えば、魔女さんのキャンディーのお味はいかがでした?」
 くすくす笑いながら言乃が聞けば、スチュアートとイスカは揃って苦い顔をする。
「「ものすごーく、甘かった!!」」
 その反動という訳ではないのだろうが、イスカは早速スチュアートが用意したパンプキンパイを唐辛子の色で真っ赤に染めて……。
「それ、うまいの?」
「勿論!」
 食べてみますか、とすすめたパイは、鋼が素早くひったくる。
「それよか、こっちのマフィンに……」
「いや、こっちのキャンディを」
 矢継ぎ早に進められるお菓子で、尚人の前には小山ができて……。
「……おいしいのに」
 目論見をあっさりと崩されたイスカが肩を落とせば、円は無言で少女の肩をぽんと叩く。

●夢は続く
 両手には抱えきれないほどのお菓子、ふわふわと夢の世界を漂えばもう尚人に怖いものはない。ふとみれば糸はあちこちの南瓜に芸術的筆を加えて回っており、辺りはユーモラスな南瓜のランタンで満ち始めていた。
「あはは〜」
 食べ物に落書きできるなんてこの日だけだよね、と尚人がいえば、
「いろんなカッコしてランタンもって歩くの楽しいじゃん♪」
 ハクヤは沢山の小さなランタンに柔らかな灯を入れてゆく。1つ1つ明かりが増えていくその度に、小さな歓声が沸き起こる。もうどんなにランタンが増えても驚かない。南瓜の中にはあるのは優しい灯、そうでなければカラフルなキャンディーやクッキーなのだ。
「じゃあ、音楽もね」
 お願い、と言乃が言えばどこからともなく心地よいリズム。何でも出てくるんだねと尚人もすっかりご満悦。
「君を拒絶する者なんていないよ。君自身が拒絶しない限り大丈夫」
 いつの間にか魔女に扮したシルビアが、とんがり帽子をひょいと尚人の頭に置いてくれ。見慣れてくれば面白いよね、と尚人はくるりと一回りしてみせる。
「……今度はあの子と来たいな」
 ふっと洩らしたそんな言葉は勿論聞かなかった振りをして。ほんとのパーティーでも楽しんで来られるといいよね、といいたい気持ちも当然隠し……。
「カシクレナワルサスルデ」
 紗々はヴァンパイアの正装も鮮やかに、キャンディの籠を持ち上げる。聞きなれない言葉に尚人は思わずきょとんとし……。了は笑いながら『通訳』する。
「とりっく・おあ・とりーとって言ったんだよ」
 もっさりとしたローブに南瓜のランプを手にした彼の後ろには南瓜の王冠をかぶった『ジン太』も健在で。まるでよく似た兄弟のような仮装はそれだけで見る者を和ませる。
「だったら、それ、お菓子貰うほうのセリフじゃない?」
「……あ」
 実にもっともな指摘に紗々は思わずぽかんとしてしまい。爽やかな笑い声がハロウィン一色の夢に響き渡る
「そんな事どっちだっていいだろ♪」
 そして空からは色とりどりのキャンディが降ってきて。見上げれば島のような南瓜の上から、糸が南瓜を振っている。その中に仕込まれたキャンディが降りまわされるその度に、カラフルな雪のように降ってくる。
「わ!!」
 尚人の歓声に仲間達の拍手が加わる。鋼と円は満足そうにそんな彼らの様子を見守った。もう尚人少年は南瓜も魔女も恐れる事はないだろう。悪夢に付け入られる隙はもう彼自身がふさいだはずだ。後は現実の世界で目覚めるのを待つばかり。――ならば、その目覚めの時が来るその瞬間まで、今少しハロウィンの魔法を……。能力者達の上に幸せだけの時が過ぎていく――。


マスター:矢野梓 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2008/11/08
得票数:楽しい27  ハートフル3 
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