<Halloween 2008>遅れてきたキャプテン


<オープニング>


「ビーンズいる人〜」
「はいはい、真っ青なのくれ!」
 ハロウィンパーティもあっという間だった。
 仮装をやめるのがもったいないのか、魔法使いや骨スーツ姿の少年達は菓子を分け合いながら声を弾ませる。
 彼らの帰り道としてはやや遠回りだ。
 少しでも長くじゃれあい、そしてハロウィンの余韻に浸りたい。そんな想いがあるのだろう。
「とりっくおあとりーと!」
「ぎゃはは、怖くねーよ!」
 賑やかさが路地に響いて返る。
 聞き慣れない声を知ったのは、その時だ。
「待たせたな!」
 若干篭もってはいるが、喉を潰したような男性の声で。
 当然、少年達が彼を知るはずもなく、顔を見合わせて何事か囁きあった。しかし相手は――何故かビルの屋上で月夜を背にして立っていたが――すぐ地を蹴り上げる。
 言うまでもなく落ちてきた。
「「うわあぁ!?」」
 投身かと驚きに悲鳴をあげる少年達をよそに、その人物は地を抉る衝撃と共に着地する。痛そうだが命に別状はなく、道を塞ぐように少年達の前へ立ちはだかった。
 その腕は砲身と化し、手があるべき箇所がぽっかり口を開けている。そして彼はこう叫んだ。
「トリックオアトリック!」
「選択権ねぇのかよ!」
「うわぁ助けてぇ!」
 助けを求めた少年を銃弾が連続で撃ち抜く。倒れた友人を見て、二人の少年は咄嗟に背を向けた。
 不意に、仮装男の脇をすり抜けた影が少年の背へ突撃する。目が覚める程のオレンジだ。南瓜頭の幼い子どもで。
 腰が抜けたもう一人へ近寄り、男は腕を眼前へ押し付ける。
 そのまま、恐怖にひしがれる少年を眩い閃光で射抜いた。


 能力者達は、教室で待つ人物を見て立ち尽くした。
 真っ赤なロングコートに華やかな服。それは西洋の海賊風だ。
 しかし頭には愛らしくもなく呪われそうなパンプキンヘッド。
「これ正に魔よけって感じするよね〜。ある予報士に無理言って貰っ……じゃあ事件の話するね」
 パンプキンヘッドを取ると、更にオレンジ色のいびつな面が付いている。
 とりあえず、服装などで中の人が井伏・恭賀(高校生運命予報士・bn0110)であることは判った。
「今の俺みたいな格好した地縛霊が二体、路地裏に出たんだ」
 このまま放っておけば、少年達が地縛霊の餌食と化す。そうなる前に止めなければ。
 話を聞く間これでも食べてて、と恭賀はかぼちゃのクッキーを机へ置いた。
「これもお面ももらい物なんだ。あ、クッキー美味しいよオススメ」
 ちなみに、仮装姿の地縛霊だがお菓子を与えても何の効果も無い。恭賀は初めにそう補足して。

 現場は、公民会館から駅へ続く道を外れた路地裏。
 昼でも近道する際に使われる程度で、夜となれば殆ど人気が無い。
 余程のんびりしなければ、少年達が通りがかる前に片がつくだろう。
「公民館をぐるりと囲んでる道でね、行き止まりにはならないけど暗いしちょっと狭いよ〜」
 外灯がなく、建物の影で差し込む月明かりも控えめだが真っ暗ではない。照明に関しては「心配であれば」という程度だろう。
 また、狭いとはいえなんとか二人は並べる幅だ。
「……あと、その海賊キャプテンっぽい地縛霊は、公民館の屋上に立って現れるんだけどねー」
「屋上が高すぎると、攻撃当たり難いでしょうか」
「その辺は大丈夫。登場してすぐ落ちてきてくれるよ」
 飛び降りれば痛みを伴うが、地縛霊にとっては些細なことなのだろう。
 海賊キャプテンな地縛霊の腕は、砲身を模っている。
 連れているもう一体の地縛霊は園児ぐらいの大きさで、南瓜をかぶっている。
 その姿通りというべきか、地縛霊は両腕から銃弾或いは光を放つ。
 銃弾は距離を問わずに、相手一人へ連射される。運がよければ一発で済むが、下手をすると何発も喰らってしまう。
 そして、光は相手へ近づき放つものだ。眩さと共に痛みを受け、その眩さがもたらす効果なのか全身がマヒに侵されてしまう。
「パンプキンヘッドな子どもの方はね、頭突きとお菓子ばらまきをやるよ〜」
 頭突きは見た目どおり力強く、ばらまかれる菓子は直線上を容赦無く叩く。
 道が道のため、全員が全員一直線に並ばぬよう立つのは不可能だ。布陣は多少考えるか、潔く諦め立ち向かう必要がある。

「……なんでそんな地縛霊かは知らないけど……あ、で、もう一つ大事なことがあってね〜」
 恭賀は、単にその道を通るだけでは地縛霊が現れないと告げた。
 少年達の遭遇時の様子からも予想はつくが、仮装した者が楽しそうな空気を出して通ることで、地縛霊がそれを潰そうと姿を見せるのだ。人数は少なくても多くても構わない。
 とにかく仮装。そして楽しそうな雰囲気があれば良い。
「というわけで能力者さん、いってらっしゃ〜い」
 手を振ろうとした恭賀の動きに合わせて、ガシャンと何かの崩れる音が響く。
 恭賀と能力者達が見下ろすと、今まで恭賀の顔を隠していたオレンジ色の面が無残な姿を晒していて。
「……うわやば……こほん。というわけだから、男の子達のためにも頼んだよー」
 とりあえず改めて、恭賀は再び手を振り能力者達を見送った。

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参加者
風見・莱花(高雅なる姫君・b00523)
柳・桂刀(不知夜月・b00788)
雪・雹(ピーカンクリームパッション・b10523)
御使・驟雨(高校生黒燐蟲使い・b20603)
ルシア・バークリー(リトルウィッシュ・b28515)
日前・葉里(銀星ロンド・b31570)
叶野・雛菊(緑陰の華・b34195)
青園・真燐(無責任一代女・b35459)
宮村・雛乃(愛色ドルチェ・b36890)
進堂・崇之(シナモンシンディ・b42128)



<リプレイ>

●遅れてきたキャプテン
 迫る冬を報せるかのように、路地裏を南瓜行列がゆく。
 藍の空が横たわる下、街の煌きがちりばめられた世界から外れて、幾つもの南瓜ランタンが進む。ふらふらと彷徨うように、けれど主を導くように真っ直ぐ。
「ちょっと恥ずかしいですね。仮装はキライじゃないですが」
 温かそうな虎のぬいぐるみに身を包み、雪・雹(ピーカンクリームパッション・b10523)がぽつりとひとりごちる。その格好ゆえか頬を上気させているものの、一方の柳・桂刀(不知夜月・b00788)は少々薄そうな忍装束で前を見つめていた。
「ううむ、ハロウィンなるものは実は初めてなのですけど……ニンニン」
「「ニンニン?」」
 桂刀が語尾につけた言葉を聞き、周りの仲間達が振り向く。しかし桂刀は何の恥ずかしげもなく、むしろ楽しそうに瞳を輝かせて。
「せっかくなのでこの口調にしてみたでござるが……なにかヘンでござるか?」
 周囲が一斉にかぶりを振った。一部は口を覆い隠し、噴き出すのに耐えている。
 傍らでは御使・驟雨(高校生黒燐蟲使い・b20603)が、ゴーストタウンにでもいそうなゾンビ風の腕で頭を掻いた。
「前はトリックオアトリートじゃなく、デッドオアアライブだったんだよなー」
 勘違いって怖いなー、などと乾いた声で笑う彼だが、何をどう間違えるとデッドオアアライブなハロウィンになるのだろう。
 とりあえず、今回のメンバーにそこを深く追求する者はいなかった。
 ゾンビに虎、忍びという野生的だったり闇に紛れそうな仮装の中、ルシア・バークリー(リトルウィッシュ・b28515)は腕を擦りながら歩いていた。何せ彼女の格好は白いドレスにトンボの翅(はね)。愛用のストールこそ羽織っているものの、やはり寒そうだ。
(「……うーん、冠、小さかったかなぁ」)
 紙製の冠を落とさぬよう整えながら、ルシアは歌を口ずさむ。
 橙の灯火で足元を照らし、青園・真燐(無責任一代女・b35459)もまた、風にとんがり帽子が飛ばされぬよう押さえた。魔女を連想させる格好ゆえ、南瓜ランタンが異様に似合っている。
「さてと、盛り上がって来た所で歌を歌わない? 私が伴奏して差し上げるわね」
 年上らしい魅力に満ちたサキュバス姿で、風見・莱花(高雅なる姫君・b00523)が仲間達へそう促した。片手にはミニギターが握られている。奏でる準備は万全のようだ。
「伴奏つきだと、ちょっとうきうきしちゃいますね」
 それまで恥ゆえにか視線の泳いでいた叶野・雛菊(緑陰の華・b34195)が、真っ白な着物姿でゆったり歩きながら、提案に賛成を示す。
 なじみのある歌で夜道を充たせば、人数も人数のためかちょっとしたパーティだ。意気揚々と弾む歌声の合い間、真燐は持ってきた菓子を振る舞い始めて。
「チョコレートに林檎飴はいか……」
「マリリンの林檎飴はいただいたー!」
 言いかけている最中に飛びついたのは宮村・雛乃(愛色ドルチェ・b36890)だ。うさぎのしっぽが愛らしく揺れる。時計を片手に走り回りでもすれば、見覚えのある時計兎そのものだ。
 もちろん、列から外れることはしない。
 自由奔放に狭い道を進んでいるようにも見える彼らだが、南瓜行列はそのまま戦いに備えての隊列を担っていたのだ。何処から襲われても大丈夫なように、窮屈さなど気にも留めず。
「ほらヒナ、お菓子あげるから悪戯してみせて?」
 ふと、悪魔の貴公子が少女へ声をかけた。漆黒のスーツに蝙蝠の羽をつけた日前・葉里(銀星ロンド・b31570)だ。菓子をたっぷり詰め込んできたスーツケースを叩き、葉里は雛乃の反応を待つ。
「……悪戯? え、えーと」
 菓子はほしい。けれどどんな悪戯をするかは頭の隅にも置いていなかった雛乃は、その誘いに動揺し始めた。
 素直な反応に葉里が肩を震わせて笑えば、雛乃は途端に頬を膨らませて。
「ハロウィン気分で騒ぐでござるよ!」
 桂刀が歌の合い間にそう叫べば、耳朶を打つのは大音量で歌う進堂・崇之(シナモンシンディ・b42128)の声で。
 今にも溢れてしまいそうなほどに菓子の詰まれた籠が、崇之の腕の中で揺れている。真っ赤なロングコートをなびかせるその様は、颯爽と突き進むヴァンパイアハンター、否、お菓子ハンターだ。
「待たせたな!」
 騒がしい南瓜行列を遮ったのは、頭上に降り注ぐ男の声。
 反射的に空を仰げば、建物の屋上に浮かぶのは一つの影だ。月夜を背にして立つそれは、楽しげな雰囲気とオーラに惹かれたかのように、そしてそれを妬むかのように飛び降りた。無駄に勢いをつけて。
「とう!」
 べちゃっ。
 情けない着地――地面に人型の穴でも彫れそうな勢い――で、南瓜行列の前に立ちはだかったのは海賊だった。正確には、海賊船のキャプテンを想わせる衣装の男だ。じゃらりと鳴る鎖は、彼が異形の者であることを若者達へ報せている。
「落ち方……痛そう」
 ルシアの呟きに仲間達も頷くが当人には届かない。もしくは聞かなかった振りだろうか。落下してきたというのに、彼は大したことないかのようにすっくと立ち上がる。
 不意に、ぽっかり口をあけた腕の砲身が禍々しく光を走らせた。そして海賊キャプテンはこう叫ぶ。
「トリックオアトリック!」
 それが、開戦の合図となった。

●トリックオアトリート!
 先頭の驟雨は、その指先で黒燐蟲を生み自らへ添える。這った黒燐蟲が、彼へ力をもたらした。
 同じく前衛として飛び込んだ雹も、海賊キャプテンとその後ろに佇む南瓜頭の子どもを瞳に映して。
「お祭りを乱す地縛霊ですか……許せませんね。あ、でもオバケのお祭りですから正しいのでしょうか?」
 不思議そうに首をかしげつつナイフを掲げて、
「何にせよ人を傷つけるのはダメです。お灸をすえてあげましょう」
 宣言と共に、眼前へ魔法陣を生成した。
 既知の仲間がいるのは、戦場では心強いものだ。真燐は同じ結社のメンバーを一瞥し、沸々と胸に起こるたのもしさを直に感じ取っていた。
「頑張りましょうね!」
 それは、既知の者へだけではなく、共に戦場を共有する全員へ向けられる。月明かりを瞳に宿し、真燐は葉里の隣で腕を広げた。広がり、伸びてゆくのは幻夢の護りだ。仲間達を覆う優しさが、敵からの攻撃を和らげるべく働く。
 銃口が唸ったのはそのときだ。
 海賊キャプテンの姿を模った地縛霊が撃ち出したのは、無数の銃弾。連射された弾を、驟雨は二つの独鈷杵を振りかざし退ける。彼を包む幻夢の力も手伝い、受けた衝撃は最小限で済んだ。
 頼もしい前列を見遣り、葉里は純白の羽箒を構えた。片手に握るガンナイフで想いを結えば、それは魔法陣となって彼女の前に浮かび上がる。
 葉里とタイミングを合わせた雛乃も、後衛で光り輝くコアを旋回させていて。
「ハロウィンってすごく楽しいよね!」
 仁王立ちしている地縛霊を凝視し、雛乃が声を弾ませる。
「それなのに水をさすよーな悪い子は、皆で倒しちゃうんだからっ」
 宣言にあわせて、帽子のうさみみがふわりと揺れた。
 愛らしいその様に、海賊キャプテンは何故かニヨニヨと頬を緩ませている。な、何? と戸惑いを表情に浮かべて雛乃が眉根を寄せた。
「こんばんは、ミスター・キャプテン」
 ハロウィンに本物のゴーストなんて洒落にならない、とルシアは挨拶に重ねて光り輝く十字架を背負った。そこから放たれる眩さは、ゴーストを哀れむように降り注がれる。
 南瓜をかぶったままの地縛霊は、受けた光に怯みもせず、仕返しとばかりに淡々と菓子をばらまいた。菓子の山は直線上へ無数に散り、能力者達へ甘さもなく痛みのみを与える。
 一瞬で消え去った菓子に嘆く間もなく、雛菊は魔法陣を浮かべて地縛霊をびしりと指差した。
「可愛い姿ではありますが、容赦無しでいかせて頂きますっ」
 指された南瓜頭の地縛霊が、重たそうに頭を左右に揺らす。
 後衛に佇む崇之と莱花は、それぞれ白燐蟲と霧のレンズで自らの底力を高めるべく手を動かしていた。
 これはハロウィンを楽しむためのゴースト退治だ。莱花はやがてくる殺戮や不幸を防ぐべく、赤茶の髪を背へ払い、霧越しに敵を見据えた。
「残念だけど、おいたが過ぎたようね」
 悪い子にお仕置きが必要だ。
 莱花の眼差しは、間違いなくそう物語っていた。

●お菓子をくれないと……
 赤々と滾る紅蓮の炎は、夜空を掻き切り南瓜頭を炙った。驟雨が術を忘却する代償に苛まれれば、その威力を知らしめるかのごとく、地縛霊へと炎が侵食して。
 リズムを刻むような身軽さを活かし、雹は南瓜頭を蹴り上げた。
「ちょっと動きにくいですけど……私の蹴りは早いですよ?」
 三日月の軌跡を描き、着地と同時に雹は不適に微笑む。南瓜頭ゆえ顔色は窺えないが、地縛霊の雰囲気が僅かに曇ったように思えた。
 そして、雛菊は最前衛二人の動きに合わせて術式を編みこみ、魔弾を射出する。最前衛の攻撃直後を狙った魔弾は、雷こそ伴っていたものの、相手を痺れ上げるには足りずに。葉里もまた、同じ魔弾を撃ち出した。
 怒涛の猛攻が地縛霊二体へ注がれる間、桂刀は清らかな風の流れで仲間達を覆う。それは名に違わぬ浄化の輝きで、仲間から痛みを拭っていく。
 突然、キャプテン地縛霊が駆け寄った。飛び込んだのは雹の懐。目の眩むような閃光が彼女を揺さぶり、マヒに侵した。同時に、肌の下を食い破るような痛みも襲う。
 ルシアがコアで守りを固める間、莱花は南瓜頭へ指先を向けていた。夢より召喚された白馬が、主の意志に副い駆ける。
「お菓子は大好きだけど、お菓子で攻撃されるのは嫌いよ!」
 直後、南瓜頭の地縛霊は莱花の叫びになど目もくれず、菓子を放り投げた。
 お返しとばかりに、雛乃が光の槍を射出する。星空を舞う光が地縛霊を貫けば、少女は南瓜頭をキッと睨みつけて。
「お菓子バラまくとかもったいないーっ!」
 今し方ぶつけられた菓子が消え行くのを悲しみ、雛乃が訴える。当然、地縛霊は知らん顔だ。それがますます腹立たしい。
 真燐の手は、そっと葉里へ寄せられた。白燐蟲で痛みを取り除き、思い出したように前方を見遣る。
 すると、巨大な南瓜頭で突撃してくる子どもを一筋の光が射抜いていた。崇之が放った光の槍だ。
「南瓜もキャプテンもいいんだけど、お前ら本当空気読めよな」
 吐ききった息が冷たい空気に混じる頃、南瓜頭の子どもはほろほろと溶けゆくように組織を崩していって。崇之はその流れを見逃さず、ずれた眼鏡を押し上げた。
「……もう、お前らのハロウィンは終わってるっての」
 崇之の言葉は、果たして彼の者へ届いただろうか。
 もはや南瓜頭の子どもの姿は、そこに無く。
 腕を戒める術は未だ振り解けず、驟雨は封術を抱えたまま、二種類の独鈷杵を振り回す。ブンと風を切る音が映え、眼前のキャプテンを殴打した。構えた砲身で独鈷杵の威力を削いだ地縛霊は、海賊らしい自信に満ち溢れた空気を連れて、驟雨を連射の餌食と化す。
「トリックオアトリック!」
「逆に聞いてやるぜ。デッドオアアライブってな」
 理不尽な選択肢を吹っ切るように、驟雨も負けじと口角を上げた。
 彼の体力を懸念し、雹は彼と地縛霊の間へ割り込むように踏み込んだ。宙を舞った足が弧を描き、キャプテンの胸元を叩く。
 雹の足が地に着くのとほぼ同時に、葉里もまた驟雨を庇うように佇んで。
「海賊なら、大人しく海に……自分の船へ帰りなさい」
 輪舞曲のように流麗に、その美しき身のこなしで得物を操り、獲物を狩る。葉里の突き出した刃は、キャプテンの砲身へ突き立てられ、耳障りな金属音を鳴らした。
 一方、術式を編みこんでいた雛菊は、葉里の合い間を縫うように魔弾を飛ばしていた。
「長引かせるつもりはありませんから」
 雛菊を含め何人かは、回復を完全に仲間へ任せている。地形などの状況を含めて鑑みれば、それが最適だった。回復量は少々心もとないものの、戦局は地縛霊に傾かず、なんとか能力者達の優勢を保てている。
 桂刀も休まず繰り返す風で、仲間達の背を後押しした。
 封術の呪縛を逃れた驟雨が、再度気高き炎の一太刀でキャプテンを裂けば、背へ駆け寄ったルシアが驟雨へ白燐蟲の癒しをもたらす。
 そして、莱花の呼び寄せたナイトメアが白き残光を落として戦場を疾走した。
 不意に、淡い白とは異なる色が戦場を飛んでいく。真燐の作り上げた悪夢の塊が、トリックオアトリックと喚く地縛霊へ、安らかではない眠りをプレゼントした。
「Trick or Treatなんてケチ臭いこと言わずにさ」
 蟲籠を手にした崇之が、片頬だけを笑いでひきつらせ光を放る。
「Trick and Treat!」
 勇敢な言葉が煌く槍の矛先に乗れば、相打つようにキャプテンの銃弾が葉里の細身を射抜く。
 衝撃に咳き込んだ彼女の後方、雛乃が掲げた掌に光を集わせていて。じっとしているのが苦手な彼女は、感情を隠さず顔に刷く。
「めっ!」
 雛乃から離れた槍を模る光が、陸地に不釣合いな姿を引き裂く。
 バランスを崩したキャプテンは、そのまま空気に解かれ消えていいった。
 ただ一つ、登場した時からの笑みだけは、崩さぬまま。

●帰途
「いやー、楽しかった。やっぱハロウィンってのはいいものだな」
 乾いた秋空を吹き飛ばすかのように、驟雨が満面の笑みを天へ飛ばした。
「皆さん、仮装にもいろいろと趣向を凝らしていますねー」
 過ぎ行くハロウィンの華やかさを名残惜しむように、雹が呟く。
 一方、雛菊は辺りを見回した後にイグニッションを解除していた。皆が仮装の風采に戻ったのを知り、戦う前の騒がしい光景を思い出し、瞳を眇める。
「皆さん、お疲れ様でしたっ」
 ぺこりと彼女が頭を下げれば、思い出したようにルシアも、労いの言葉をかける。
 そして、持参した菓子を広げてみせて。
「みんなでちゃんとしたお菓子を食べて帰りませんか?」
「お、いいな。食べながら帰ろうぜ」
 崇之が真っ先に賛同し、続けて仲間達の声が重なる。もう過去となってしまった行事だけれど、崇之はその時耳にする魔法の呪文を脳裏に浮かべて。
 ――来年は何事もなくガキんちょの声が聞ければいいな。
 伏せた瞼が遠くも近い未来を想像する中、莱花が手際よくミニギターを取り出し、奏でるジャズの音色に想いを乗せ始めた。
「さ、今度は本当のハロウィンを楽しみましょう」
 片目を瞑り演奏を続けた莱花に、雛乃が幼い身でぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。
「帰るまでこのままパーティよっ」
 真燐は南瓜ランタンを灯し、続く道の暗がりを照らしていく。
 仲間達のランタンもまた、伸びる道筋を穏やかな橙に映し、優しい吐息で充たした。
「ちょっと遅くなったけどハッピーハロウィン」
 彼らの紡いだ平穏は、やがてそこを通りかかる少年たちへと継がれていく。
 幸福の音がぽろぽろと零れる。落ちては弾み、弾んでは消えて。
 道から完全に人気が失せるまで、それは絶えることがなかった。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2008/11/16
得票数:楽しい22 
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