≪早朝ごみ拾い団≫至高の音色は死への誘い


<オープニング>


 世に「難曲」と呼ばれるものは多く存在する。
 そしてその「難曲」の数々が曰くつきであることもまた、多い。作り手を狂わせたとか、オリジナルの譜面をめぐり血なまぐさい事件が頻発したとか。
 作曲家に愛されたピアニストによる彼の遺作の最初で最後の演奏会で、聴くものを狂気と混乱におとしいれ、やがてその場には死神が訪れた――とか。

 愛時・魔王(無理無茶無策無謀の猪突猛進・b07773)の目の前には、古い古い音楽堂の光景がひろがっている。広いステージ上には威風すら備えて感じられるグランドピアノが据えられ、真紅のドレスをまとった女が鍵盤上へ指を置いていた。
 流れるようなその動きに乗せて、流麗だがどこかひどい違和感を覚える旋律が紡がれていく。久保田・翠(このこねこのこ・b36843)は指揮台の上に、漆黒の燕尾服の指揮者の背中を見た。
 音楽を近しい存在とする佐倉井・小都(微睡む小夜鳴鳥・b08137)は、その違和感の正体に気付く。
 たしかに美しいが、大変な難曲だ。テクニックもさることながらスピードもかなりのもの、少しでもタイミングがずれれば不協和音にしか聞こえなくなる。主題の繰り返しが多く、奏者さえどこを弾いていたのかわかりにくくなる曲だ、とすぐにわかった。
 ではいったい、何がこの違和感を。
「なんだか……」
 胸苦しくなってくるような錯覚を覚え、若乃宮・唯(夢兎・b02123)と柊・静(朧に霞む月夜の幻奏舞・b23250)は目元を押さえた。アビリティによる状態異常のようなものを感じている、それが違和感の正体だと天津・竜樹(高校生月のエアライダー・b08034)は唐突に思い至る。
「これは……ゴースト?」
 島守・由衣(透空・b10659)はすぐに臨戦体勢をとり、油断なくステージの上を注視した。狂ったように指揮棒を振る指揮者の周囲へ、幾体かのリビングデッドがゆらゆらと起き上がる。
「どうやらそのようだ。委細は知らんが、な」
 伏見・厳道(黎月・b11527)がすらりと腰の宝剣を抜いた。
 破れた壁からは黄昏時の斜陽が斜めにさしこみ、天使のきざはしのように音楽堂を飾っている。

 果たして、よるべなき魂への鎮魂曲は奏でられるのか。
 最終楽章の行方は能力者たちだけが知っている。

マスター:佐伯都 紹介ページ
こんにちは、佐伯都です。このたびはご指名いただき真にありがとうございました。
少々プレイング期間が短めになっていますが、皆様の団結力で見事撃破していただければと思います。

以下、地縛霊等についての説明を追記いたします。

・ピアニスト(女地縛霊)
ピアノの音色に乗せて広範囲の状態異常を引き起こし、先に指揮者が倒れた場合はブラストヴォイス相当の悲鳴をあげます。
状態異常については以下の通り。状態異常のみで、ダメージは伴いません。
楽章順に演奏されるとは限りませんのでご注意を。
第1楽章(プレリュード):眠り
第2楽章(トッカータ):怒り
第3楽章(カプリチオ):武器封じ
第4楽章(セレナーデ):魅了

・指揮者(男地縛霊)
指揮棒を振るうことで、遠距離単体攻撃、遠距離単体回復、遠距離単体バッドステータス解除のどれかを行ってきます。
棒を振るモーションでどれを使うかを見分けることはできません。

・譜面ハンター(リビングデッド)×5体
ナイフで武装しておりスピードに長けた術式特化型ですが、それ以外の能力はかなり低めのようです。

それでは皆様の音楽のごとく華麗なプレイング、お待ちしております。

参加者
若乃宮・唯(夢兎・b02123)
愛時・魔王(無理無茶無策無謀の猪突猛進・b07773)
天津・竜樹(高校生月のエアライダー・b08034)
佐倉井・小都(微睡む小夜鳴鳥・b08137)
島守・由衣(透空・b10659)
伏見・厳道(黎月・b11527)
柊・静(朧に霞む月夜の幻奏舞・b23250)
久保田・翠(このこねこのこ・b36843)



<リプレイ>

●prelude
 そのピアノの音に目まぐるしく回転を始める極彩色の渦を幻視したような気がして、佐倉井・小都(微睡む小夜鳴鳥・b08137)は眉根を寄せた。
 驚異的なスピードで叩かれる鍵盤、そこから次々と湧いてあふれだすのは音の洪水。
 いくらゴーストとの戦いの開幕とは言え、序曲と呼ぶにはいささか気の早い展開ではなかろうかと天津・竜樹(高校生月のエアライダー・b08034)は思う。
「──世辞抜きで凄いもんだな」
 油断なく宝剣構えた伏見・厳道(黎月・b11527)のすぐ隣、久々の実戦である若乃宮・唯(夢兎・b02123)の表情は厳しい。
 唇の端から漏れた起動の呟きは、はかなく狂気の旋律へかっさらわれる。
 さて自分は異母妹が世話になっている結社へ挨拶がてら詣でてきた筈だったが、と柊・静(朧に霞む月夜の幻奏舞・b23250)は苦笑しながら大鎌を下段へ据えた。
「音楽はこんなもの為にあるんじゃない……本来の音楽に戻してあげないと、ね?」
「とんだコンサートに招待されてしまったものね」
 ざ、と詠唱マントをひるがえし島守・由衣(透空・b10659)が身構えた。
 あるかなしかの空気の流れに、右手の魔道書のページがはらはらと音を立てる。
 楽器の音色を『歌う』ようだと表現することはよくあることだが、ならばこれはさしずめ呪い歌だろうか、と久保田・翠(このこねこのこ・b36843)は考えた。
「ぐるぐるぐるぐる目がまわりそーな、曲ですー……」
 ダメージが伴わないのは幸いだが、それでも聞いているだけで何だか気分が悪くなってくるようだ。
「すげぇ曲だな。……地縛霊だから倒さなきゃいけないのに」
 こんな怨嗟にまみれた音楽に成り果てなければ、世に語り継がれる名曲になったかもしれない。
 じっと聴くことはかなわずとも、その音にどこかそんな予感を感じさせる片鱗があったことは確かだと愛時・魔王(無理無茶無策無謀の猪突猛進・b07773)は思う。
 美しすぎるものには魔が宿るという。
 人の世に置くことを惜しいと思う魔が、かわりにそこへ宿り愛でるのだと。
 幻と化したその曲を書きとめたスコア。
 それを狙った人間を妄執にとりつかれたリビングデッドへ変えるほどの魔とは、何だろう。
「後ろ三人は出来るだけ後ろに下がれ! この曲は、危険だ」
 静や翠、唯らを下がらせ、魔王は奇声をあげながら迫るリビングデッドを迎え撃つ。
 ぐっと半身を沈めその懐へもぐりこんだ竜樹の脚があざやかに宙を切り裂き、舞台中央へ高々と吹き飛ばした。

●toccata
 小都がめぐらせたサイコフィールドを突き破って、錆びたナイフが厳道の腕から朱を散らす。
 浅くはない傷に全くひるむ様子もなく暴走黒燐弾でまとめて牽制したところへ、竜樹と魔王が切り込んだ。爆ぜてゆくような勢いで、黒燐蟲がリビングデッドを貪ってゆく。
 飛び込んだ勢いに乗せて二発目を、と思った瞬間に割鐘じみたピアノの大音響が響き、竜樹は思わずたたらを踏んだ。ひっきりなしに奏でられるピアノの音に、どうしようもなく意識が押し流される。
「若乃宮さん!」
 狂おしい舞踊にも似た曲の変調を事前に掴むのは、いくら小都とて困難を極めた。竜樹の異変を知って唯を肩越しに振り返ると、そのすぐそばで静がぎらりと紫の瞳を上げるのが見える。
(「……間に合え!」)
 ただでさえ前衛に立っている竜樹が怒りに我を忘れれば、敵の真ん中への突出を許してしまう。
「そうはさせません!」
 細かに降り積もってくるようなアルペジオへステップを重ね、無理やり引きずりだされたその怒りを鎮めんと唯が舞う。
「任せる!」
 ひとこえ叫んで目の前のリビングデッドへ紅蓮撃を食らわせ、厳道は魔王と共にその場へ踏みとどまった。突出を免れなければ、そうでなくすればよいだけの事。うしろへ背中を預ける覚悟なくしてどうして前衛が務まろうか。
 すでに魔炎に飲まれていたリビングデッドを龍顎拳できっちり沈め、魔王は大きく息をついた。その横っ面をかすめた由衣の炎の魔弾が指揮者をとらえ、どっと背中に嫌な汗がにじむ。
「……ちょ、今の何!?」
「前にぼんやり立っていると、危ないわよ」
 いっそ黒い笑顔でも浮かべてもらったほうがまだましだ。しかし由衣はそういうタイプではないのであくまで真面目真剣そのもの。
 ああ、皆の視線が痛い。
 たしかに以前ほんのりとコンサートへご招待、な口約束はしていたようなしていないような気はするが、まさかこんな物騒なコンサートに招く気なんかなかったわけで、……って言うかいやむしろこの状況は偶然なんであって俺も立派な巻き込まれ側なんですけど! と魔王は団員の冷たい視線を浴びながら考える。
「翠ちゃんもあつあつ玉行きますですー!」
 ……団長に? と状態異常から戻っているはずの静が小さく首をかたむけながら呟いたことに、小都は気付かなかったふりをした。

●capriccio
 濁流のように押し寄せるピアノの音色はおさまる気配を見せない。
 錆びたナイフを掲げ、すばしこい動きで駆け回るリビングデッドは思っていたよりも厄介だったが、小都のブラストヴォイスがわずかずつだが確実に削りとっていく。
「ここから先へは行かせないわ!」
 数を減らしてきているリビングデッドの前、由衣は大きく詠唱マント『Actias artemis aliena』をはためかせた。狂気と混沌の音楽に乗せた、あでやかなはなやかな舞踏は、死してなお幻の楽譜へ固執する魂へ容赦なく引導を渡していく。
 静のダークハンドが、厳道の行く手をふさいでいたリビングデッドを紙のように真っ二つに引き裂いていった。うるさげに眉根を寄せた指揮者のタクトが正確に静を指し示し、そこから稲妻に似た白い光が放たれる。
 退くのではなく、前へ一歩踏みこむことによってその一撃を紙一重でかわし、静は一気に距離を詰めていた厳道へ古き土蜘蛛の霊の祝福を与えた。
 どろどろと灼熱を帯びて渦巻くような、一気呵成に雪崩れ込んでくるような。
 驚異的な技術と才能によってのみ奏でられることが可能になる、幻の難曲。もしかしたら平常心であれば、こんな呪われた音楽にはならなかったのかもしれない。
 悲しみが彼女を殺し、あるいは愛した相手が遺したものであっても、こんな音楽に成り果てるほどに。
 それを憐れみ、惜しく思うことは簡単だ。竜樹はリビングデッドが一掃されがらあきになった指揮者の目の前、ふわりと半身を踊らせる。
 トッ、と打楽器のように踵で床を叩き身を反転させる遠心力をいっさい殺さず、超高速の蹴りへとそのまま繋げた。
 背面からの上段回し蹴り。重力から解き放たれた能力者にとってはたやすいことだ。したたかに指揮者の頭部をとらえたクレセントファング、回避困難な月の牙は古びてすりきれた燕尾服を指揮台からたたき落とす。
 そこへ小都のナイトメアランページ、翠の炎の魔弾が追い討ちをかけた。クリーンヒットした手応えを感じて翠が快哉を叫ぶ。
「ぶらーぼー!」
 音楽は人を喜ばせるために、心楽しくあるためのものなのに。
(「ピアノも、曲も、歌も、人を気持ちよくさせる為にあるのに」)
 こんな呪いを乗せた音楽に成り果ててしまったことが小都には悔しく哀しく、やりきれない。どこがいつ、何故こうにも狂ってしまったのだろう。
「辛くなったり」
 指揮者の手元が鋭く振りきられ、白の稲光が由衣をとらえる。すぐさま唯の手元から治癒符が飛んだ。
 暴力的な勢いで眠りの底へと引き込む音色に、魔王ががくりと膝をつく。
「……気持ち悪くなったりする音なんて、要らない!」
 大きく回りこむようにして位置を変えた小都の目前、そこでは直線上に指揮者とグランドピアノが並ぶ。まっすぐに差し伸べた両手の間から疾風のように白馬が躍りでた。
 ほんの瞬きにも満たぬほどの一瞬で、指揮者とピアニストを刺し貫く。
 いったいどれほどの妄執を背負っているのか、それでも指揮者は恨みがましい声をあげながら右手を掲げた。
「来ます!」
 今一度、稲妻が放たれる前に指揮者へ肉薄した魔王が止めとばかりに腕を振り下ろす、その裂帛の叫びと由衣の声が交錯する。
 破れ、すりきれ、すっかりぼろぼろになった燕尾服の消滅と、激しい衝撃が音楽堂を飲み込んだのはほぼ同時だった。

●serenade
 唯はそこに、泣きじゃくる赤いドレスの女性を見たような気がする。
 泣きながらピアノへ指を躍らせている。
 しかし、とうに命の去ったその頬を涙が濡らすはずもない。
 いつのまにかそこから奏でられている音色は優しく甘く、小夜曲というフレーズが脳裏をかすめた。かつて恋人や愛しい女性へと送られたという愛の証の曲。
 もしかしたら、作曲者は曲の全てで愛しい女性への愛を囁いていたのかもしれない。
 暴力的にも思えるほどの恋情を、狂気にも似た思慕を、命尽きてもなお胸を焼き焦がすほどの愛情を、その曲へ込めたのかもしれない。
 今となっては誰にもその敬意も真相もわからない、けれど。
 できることならこんな形ではなく、しかるべき形で出会いたかった音楽だったと唯は唇を噛んだ。
 未だなりやまぬメロディに雑音が混じりはじめ、曲が崩れてくる。
 決して世に知られぬ、そして文字通りに未来永劫、幻となった名曲の存在を忘れずにいよう、と魔王は考えた。
 永久に世に知られぬまま葬られるのならば、せめてもの餞に。最後の最後に触れ、そして消し去る責務を負う側として。
 譜面を見たわけでも曲を知っていたわけでもないので、本当に曲の終幕とピアニストのそれが同時であったかどうかなんて、誰にもわからない。しかし、それぞれの思いを胸にゴーストと成り果てたピアニストへの葬送の一撃は、同時に荘厳な終局をも音楽堂へ響かせた。
 紅蓮撃に焼かれ崩れ落ちる体から、古びたグランドピアノにも赤い魔炎が燃え移る。そのまま一瞬で灰燼に帰し跡形も残らない。
 午後の斜陽が、破れた音楽堂の屋根から斜めにさしこんでいる。
 それを、いわゆる天使のきざはしのようだと誰もが考えた。まさしくひとつの組曲のように、知られざる物語を完成させここに散った音楽家たちの魂は、果たして天上へ逝けただろうか。
「帰ろうか」
 雲の隙間を見上げて魔王は思う、きっと昇れたであろう、と。
 その先で今度は、その場に奏でられるにふさわしい珠玉の音色を響かせているであろうことも。


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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/11/20
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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