デザートフェスタとモーラット


<オープニング>


「ねえ、あのクリスマスケーキ変じゃない?」
「あ、ほんとだ……天辺のサンタの首がないや」
「そっちのタルト、さっき上にイチゴが無かった?」
「ん……? 私ジュース、いつの間に飲んだっけ?」
 女性達の困惑の声を余所に。
 満足げに「キュー」と鳴く白い小さな何かは、眼下のチョコレートのプレートを目指して降下を始めた。
「甘いものは、好きか?」
 運命予報士はそう言うと、集まった者達の顔を見回した。
 其処は、とあるデパートで開かれているデザートフェスタ。
 新進気鋭のパティシエ達が、クリスマスに向けてデザインした数々のお菓子を披露し、お客もそれを味わえるのだ。
 年々速くなるクリスマス商戦だが、このデパートでもそれは同じなようだ。
 差し出されたチラシにあったのは、様々なスイーツ。
 砂糖菓子のサンタやトナカイの載ったショートケーキ。
 木の枝を模したマロンケーキ。
 チョコレートクッキーに白くて甘い粉を振った、雪景色をイメージしたクッキー。
 そんな定番のものから、珍しいコンセプトのものまで多数。
「このチョコレートで作ったクリスマスツリーとか……何処から食うんだろうな?」
 そんなどうでもいい事を呟くと、運命予報士は感慨深げに頷く。
「で、だ。このスイーツフェアに野良モーラットが現れてつまみ食いをしてるようだ」
 いちごを食べたり、砂糖菓子を少しかじってみたり。
 可愛いものだが、放っておいては世界結界に影響が出てしまう。
 何より、何かの拍子に怪我人が出てしまっては非常にマズい。
 モーラットは、スイーツフェアの会場の中の何処かにいるだろう。
 モーラットは能力者を見つけると寄ってくるが、追いかければ当然逃げる。
 デパートの開店時間でも人目がそれなりにある場所なので、その辺りも考えないといけない。
「まあ、捕まえること自体は簡単だろうから……その後は、スイーツフェアでも楽しんでくるといい」
 捕獲後用の籠を取りだすと、運命予報士はそれを机の上に置いた。
「ま、デパートでフェアをやるくらいだ。不味いわけはないだろうから、ゆっくり楽しんでくるといいと思うぞ」
 余計な事を言わなきゃいいのに。その場に居た全員が、そう言いたげな表情を浮かべるのだった。

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参加者
天瀬・一子(雪華媛・b05184)
長森・優子(紅の如き剣閃・b29390)
河盛・ロンド(全力で踊れ・b41758)
神野・マイナ(空知らぬ雨・b49563)
小鳥遊・桐音(月光の狩人・b53243)
東郷・氷雨(聖銀の癒し手・b53673)
天舘・ましろ(金色の蝶・b53674)
ウルスラ・ヘルツフェルト(双狼・b54276)



<リプレイ>

 11月。秋が去りゆき、冬が訪れる季節。
 冬の始まりに、しかし。町はすっかり、クリスマスの装いである。
 クリスマスを祝う音楽が鳴り響き、クリスマスを祝う装飾が街を彩る。
 繰り返すが、今は11月である。日本のクリスマス商戦は年々速くなる。
 そして、能力者達のやってきたデパートもまた、クリスマス一色である。
「日本のデパートは初めてだ……」
 そんな事を言っていた東郷・氷雨(聖銀の癒し手・b53673)が早いクリスマスの装いに驚くのも、仕方の無い事だったと言えよう。
「戦争です♪ 今までの依頼のどれよりも、戦争です♪」
 そんな中、クリスマスには似つかわしくない単語を連発しながら小躍りする姿が1つ。
 天瀬・一子(雪華媛・b05184)である。
「ケーキだよ! お菓子だよ! スイーツだよ♪ クリスマス新作一杯で食べ放題♪ あぁ、生きててよかった。今までこんな依頼を待ってたんだよ♪」
 余程嬉しいのだろうか、あんまり周りが見えていないようにも見える。
「……好奇の視線が痛い」
 周りの視線に耐えきれず、ウルスラ・ヘルツフェルト(双狼・b54276)がそう呟く。
 女性5人に男3人。偶然のメンバーではあるのだが、世の女性運に恵まれない普通の男性からしてみれば、実に嫉妬の炎の燃え上がる構図だ。
 最も、そんなのはこの季節、こんな場所には近づかないだろうが。
「スイーツが楽しみで仕方がないよ……しかしその前にモーラットを何とかせねばならんな」
 そんな事を呟く河盛・ロンド(全力で踊れ・b41758)に、従業員の女性がニッコリと笑いかける。
「いらっしゃいませ。クリスマスギフト特設コーナーは4階となっております!」
 ……この一団が何と間違えられたのかは想像に難くない。
 しかも、良く見れば周りはそんな集団ばかりだ。
「この状況だと、私達も目立たないから楽ですね」
「そうね」
 神野・マイナ(空知らぬ雨・b49563)に、小鳥遊・桐音(月光の狩人・b53243)が頷く。
 こういった状況では、男性陣より女性陣の方が落ち着き払っている。
 場数の差、というものかもしれない。
「スイーツフェアは何階かしら?」
「はい、9階でございます」
 テキパキと必要な情報を聞き出していく長森・優子(紅の如き剣閃・b29390)。
「初めての依頼はモーラットさんのお迎え、ね。おまけにいっぱいの、デザート……とても、楽しみ……」
 そして、言いながらもエレベーターを呼ぶボタンを押す天舘・ましろ(金色の蝶・b53674)。
 一切の無駄のない洗練されたデパートの歩き方に、ただ男性陣は圧倒されるばかりだ。
 ちなみに、ましろは丁度いい大きさの袋を手に入れる為に、1度別行動である。
「すごい……」
 やがて会場に到着した彼等は、デザートフェスタの雰囲気にすっかり呑まれそうになっていた。
 色鮮やかなクリスマスの装飾、煌びやかな電飾、会場を包む甘い匂い……。
 フェスタとは名ばかりのものが横行する中で、これはかなり本格的だ。
 中央のケーキタワー。
 フルーツ満載の贅沢なタルト。
 いい匂いを漂わせるチーズケーキ。
 何処から用意してきたのか、チョコレートの噴水のようなものまである。
 例えるならば、ここはスイーツの王国だ。
 それらのスイーツの食べ放題が行われており、あちこちのテーブルで談笑している姿が見える。
 隅から隅まで、全く隙がない。
「……よし。じゃあ、手筈通りに」
 思わず唾を飲み込みつつ、氷雨は仲間達に合図する。
 A班はロンド、ウルスラと氷雨。
 B班は桐音、優子、ましろ。
 C班は一子、マイナ。
 A班が見事な男祭りになってしまっているが、仕方のない事である。
「美味しいお菓子の為ならば多少の苦労はしてみせよう」
 そんなロンドの言葉が、非常に空しく響く。
 ちなみに会場は女性かカップルばかりで、とても浮いている。
 なんだか熱っぽいような粘っこいような興味津津なような視線が混ざっているような気もしたが。
 そんな男祭り……もといA班の苦労はさておき、女性陣は誰にも怪しまれずに会場内を捜索していた。
「何処で悪戯してるんでしょうね」
「というか、依頼、なんだっけ?」
 マイナの言葉に、ひたすら不安になる返答を返す一子。
 いつ持ってきたのか、ショートケーキを美味しそうにもぐもぐと食べている。
「モーラットの……」
「い、いやぁ、忘レテナンテイマセンヨ? そうそう♪ のらモラちゃんの保護だよねー♪ あ、フォークが」
 ちゃりーん、という音を立ててフォークを落とす一子に、マイナの胸に不安がよぎる。
 いや、これは演技に違いない。でも、自分がしっかりしなきゃ。
 先輩に頼りっきりは申し訳ない。
 そんなマイナの純真な思いは、開始5分で打ち砕かれたとか。
「あれ、いちご落としちゃったかな……?」
「無意識で食べちゃったんじゃない?」
 突如、そんな会話が優子の耳に飛び込んでくる。
「……モーラットかしら?」
 そう思って眺めると、なるほど。幸せそうにイチゴを食べているモーラットの姿があった。
「見付けたわ。あそこで何か食べてる。ましろ、各班に連絡を。優子、そっちをお願い。ゆっくり確実に行きましょう」
 桐音の言葉にましろは携帯電話を取りだすが、そんな彼女達をモーラットは見つけ、ふよふよと近寄ってくる。
「ひゃっ」
 もきゅー、とか言いながらましろの耳と携帯電話の間に収まるモーラット。
 もふっとした感触が耳に伝わり、うっかり携帯を落としそうになる。
「……えい」
「きゅー♪」
 優子が後ろから手を伸ばすと、モーラットはあっさりと捕まり……もふっとした衝撃から抜けきれないましろは、連絡内容を捕獲完了に変え、携帯をコールするのだった。
「……旨い」
 ショートケーキを口にして、ウルスラは思わずそう呟く。
 雪のような色をしたクリームの、口の中で溶けゆく感触。
 同時に広がる上品な甘さを引き締めるイチゴの酸味。
 それらを調和させ、柔らかな感触を口の中に伝えるケーキスポンジの味。
 城で寝ていた頃と大分違うな、などと思いながらショートケーキを楽しむ。
 何より、上にのっているサンタだ。
 このサンタはどんな味がするのだろうか?
「はい、うーくん。色んなショートケーキ持ってきたよー♪」
 ウルスラの近くにやってきた一子の持ってきた皿には、色々なショートケーキが食べ切れないくらいに載っている。
 こんなに食べたら吐くんじゃないだろうか。
 そんな事を考えたウルスラの近くでは、氷雨がイチゴのタルトに舌鼓をうつ。
 サクっとした、それでいてしっとりとして重みのあるタルト生地。
 その上にドーム状になるように敷き詰められたイチゴ。
 シロップを塗られたイチゴは甘く、口の中で転がせば心地よい酸味をも感じる。
 タルト用のイチゴはショートケーキ用と比べると柔らかく歯ごたえに欠けるが、タルト生地のしっかりした歯ごたえがそれを補完する。
「わ、どれも美味しそうで、目移りしちゃいますね」
 言いながらも、マイナの手にあるのはイチゴのショートケーキだ。
 ウルスラのものとは違い、上にトナカイが載っている。
「それも美味しそうね……」
 幸せそうな氷雨の顔を見て、桐音は呟く。
 彼女の手にあるのはレアチーズケーキだ。
 普通のチーズケーキとは違い、口の中でほどけるように溶ける感触が特徴のチーズケーキだ。
 白く上品なレアチーズの下にはブルーベリーソースが敷き詰められ、酸味のハーモニーを奏でる。
 紙袋で偽装された籠の中のモーラットも気に入ったのか、貰った分を食べながらきゅー、と鳴いて喜んでいる。
「本当にモーラットは愛らしいわね……」
「わ……これも、美味し……」
 やってきたましろが、氷雨の食べていたタルトと同じイチゴタルトを口に含み、思わずそう呟く。
「だろう?」
「ええ……」
 2個目のタルトに突入していた氷雨も、思わず口元を緩めてましろと談笑する。
 幸せなスイーツは、人を笑顔にする。
「メロンパンはないかな。それも最高級のキング・オブ・メロンパンみたいな感じのもの……」
 それはスイーツというより菓子パンなのだが、探せばあるものだ。
 優子はしばらくすると、目当てのサクサクしっとりなメロンパンを片手に歩いて行く。
「……無駄では無いから大丈夫だろう」
 無駄遣いは禁止、と書かれたメモをクシャクシャ丸めてごみ箱に捨てると、ロンドは近くにあるケーキを片っ端から食べ始める。
 食べ放題というものは、ロンドのような食欲旺盛な若者には、実にいいシステムだ。
「これでね、スィーツをお持ち帰りするんだ♪ えー? ダメなの?」
 ちなみに一子のように、重箱を持ち込んだりしてはダメであるが。
「大人しくしているみたいだな。ソイツ」
「ああ……」
 ウルスラの言葉に、氷雨は袋の中に入れたモーラットの籠を見る。
 揺れる籠の中にいるのが楽しいらしく、モーラットはきゅーと鳴いて喜んでいる。
 たまに差し入れられるスイーツも、モーラットのご機嫌を上手くとれているようだ。
「この私が選んだスイーツだ、まさか不服ではあるまい。ちゃんとサンタも乗っている。それを齧って大人しくしていてくれたまえ!」
 何やら力説しながら苺パフェ風ブッシュ・ド・ノエル2008なるスイーツを持ってきたロンドが籠の中にそれを入れると、しばらくして何やらもきゅー、という声が聞こえてくる。
 気に入ったのか気に入らなかったのかイマイチ判断のつかない声だったが、暴れる様子はないので不満はなかったのだろう。
「本当にモーラットは愛らしいわね……」
「です、ね……」
 桐音に、ましろも同意して。
 可愛いモーラットと、美味しいスイーツの溢れるこの場所で、とても幸せな時間を過ごしていく。
「目当ての物は食えたのか?」
 そんなウルスラの問いは、もはや愚問。
 夕方になって帰る頃には、誰もが幸せそうな顔で笑っていて。
 玩具売場の袋の中の籠に入ったモーラットも幸せそうにむきゅー、と鳴くのだった。


マスター:じぇい 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/11/21
得票数:楽しい22  ハートフル4 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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