灰色舞闘


<オープニング>


「こんにちは、来てくれてありがとう」
 茜色をした放課後の屋上、フェンスに背を預け、一人の運命予報士が淡い色をした瞳を細め微笑んだ。
「もう寒いのに、ごめんね。でも先に慣れておくのもいいと思って」
 どういう事だと疑問に首を傾げた能力者が尋ねると、少年は細めていた目を緩く閉じる。
「強力な残留思念が見付かったんだ。もう朽ちかけている廃校の、屋上に」
 
 色褪せた校舎、所々に苔の生える屋上。その眼下に広がるのは山と自然と、人の離れ去った家々達。訪れる冬に身を任せるよう色を失いかけた世界。
「屋上への出入り口から見て一番遠くの端、そこに詠唱銀を振りかけるとゴースト達が現れる。彼らは分散はしていないだろうけれど、出現する正確な位置がちょっと分からないから、皆は纏まっていた方がいいかもしれないね」
 現れるゴーストは全部で六体だと、目を開きながら少年は告げた。
「一番後方にいる一体の地縛霊が、一番厄介かな」
 真白のシャツに鈍色のズボン姿、線の細い青年に見えるそれは常に後方に──自身の前にいるゴースト達を退けるか、あるいは突破せねば攻撃を仕掛ける事が難しい位置を選び移動する。故に、強引に踏み込まない限り最後に倒す事になる。
「何もしないでいてくれればいいんだけど、風を吹かせるんだ。その風で他のゴースト達を癒す。傷だけじゃないものもね。その必要が無い時には星色の衝撃波で攻撃を仕掛けてくるし、近付いたなら首筋に冷たい、とても冷たい息を吹きかける。まるで、全てを凍てつかせるように。でも、他のゴーストがいる間は移動と回復行為を優先しているよ」
 他のゴースト──その青年の前には三体の、闇色の毛並みを持つ狐妖獣が。揺れる尾だけが炎のように赤い狐は鋭い牙と、吹き飛びかねない勢いを持った体当たりを駆使してくる。そして。
「三体のうち、一体だけ身体が一回り大きな個体がいるんだけれどね、その個体だけ、他者の傷を癒して更なる力を与える事が出来るんだ」
 対峙する時は気を付けて。伝えた言葉に頷いた能力者へ小さく笑んでから、続けた。
「それと、子ども……ううん、子どもの姿をした地縛霊が、二体。一体は少年、一体は少女。少年は普通なら振り回すには大変な大きさの、錆び付いたスコップを振り回す。近接攻撃しかしてこないけれど、叩き付けるようなそれをまともに受けると必ず魔炎が襲い来る」
 体力も高いね、と付け足して。
「少女の方が使うのは、歪んだ鉄パイプ。それをまるで鋭利な剣のように扱って、近付いた人達を流れるように切り刻む。それから……笑うんだ」
 空を切るような甲高い声で少女は笑う。響き渡るそれは相手の内に潜む感情へと侵入し、心に黒く尖ったものを生む。それが及ぼすのは、何か。
「流されないで、自身を保って、それで精一杯戦って欲しい」
 説明の終わりが近い。茜色をしていた空には少しずつ、夜の色が溶け入り始めている。
「行く時間はいつでも構わないよ、人に見られる事も無いだろうから。僕のお薦めは……夕方前かな。夜になるとそこから見える星、凄く綺麗みたい」
 勿論、それを見る事が出来るのは全てを倒した後のみだけれど。
「彼らは難しい事なんて考えない。だから、純粋に強い。決して油断はしないで、退き際も見誤らないで。でも出来る事なら……勝って」
 灰色から白へ。満ちる哀愁と同化しつつある世界は時に堪らなく愛しいから。
「勝ってね」
 力を合わせ見誤る事無く武器を振るい、眠りゆく世界に静寂を。

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参加者
久遠・彼方(黄昏は愁橙を騙る・b00887)
蓮生・律(ハートノイズ・b01655)
刈谷・紫郎(見通す者・b05699)
都筑・騰蛇(穢れ無き鋼のプライド・b08282)
ラッセル・グレアム(親日メリケン忍者・b14557)
八月一日・涯(侵掠すること火の如く・b16006)
七海・霧人(エキセントリッカー・b29777)
紀夕・迅(外套剣士・b37488)



<リプレイ>

●微睡む世界
 それは、灰色の世界に少しの間だけ彩(いろ)が落ちる時間。
 昼間からの天気も良かったのだろう。苔の生す古びたコンクリートに橙色が落ち、そこに立つ者達の影を長く伸ばしていた。すっかり錆び付いたフェンスや給水塔、半開きになったまま完全に閉じる事もままならない扉。見下ろした校庭から子ども達が遊んでいた名残は消え去っている。
(「……大丈夫」)
 肌を撫でる嫌な空気に、それでも久遠・彼方(黄昏は愁橙を騙る・b00887)はそう思う。きっと、勝てると。
 これから始まるのは決して楽な戦いでは無いけれど、自分は今、大好きな色の中にいる。拠り所である夕日はきっと自分を支えてくれる。夕焼けを閉じ込めた本を抱き、彼方は真っ直ぐ前を見た。
 静かなところ。周囲の観察を終えたラッセル・グレアム(親日メリケン忍者・b14557)が抱いた感想はそれだった。
 何故こんな寂しいところに残留思念が残るのか、その理由は分からないけれど残しておく訳にはいかない。同様に考えていた八月一日・涯(侵掠すること火の如く・b16006)は野太刀を肩に担ぎ、口の端を上げる。
 黄昏時に挑む強敵、相手にとって不足は無い。
「残留思念達は、そもそもどういう関係なんだろうな……聞いとけば良かったか」
 屋上をぐるりと歩き構造を調べていた刈谷・紫郎(見通す者・b05699)はひとり呟いた。けれどその思考はすぐに別のものへ切り替わる。戦場の把握を終えた紫郎は腕を組み、冷静な声でこう言った。
「地の利は戦いに於いて、戦力や運と等価の重要な要素だよ」
 晩秋の空は刻々と、深く色を変えてゆく。これが依頼で無ければゆっくりと眺める事が出来るのだけれど、都筑・騰蛇(穢れ無き鋼のプライド・b08282)は空から視線を落として己の持つ刀身へと触れた。
 地縛霊には幼子の姿をしたものもいると聞いた。幼子に手を下すのは趣味では無いけれど激しく冷徹に、冷静に──騰蛇は誰にも聞こえぬように呟く。この腕で、倒す為ではなく救うために。
 温かな色の世界に帰らねばならないのだ。考えるのはそれだけ、勝つ事、帰る事。屋上の隅へと進む仲間達の少し後ろ、小さめの歩幅で進みながら蓮生・律(ハートノイズ・b01655)は胸元へ手を添える。決意の言葉を胸中で呟いてから顔を上げると、屋上の端に立った紀夕・迅(外套剣士・b37488)が振り返る姿が見えた。
「整いましたね?」
 仲間を見遣る迅の瞳はどこか嬉しそうにも見えた。賑わう声が聞こえなくなって遠く久しいこの場所には静寂と渦巻く思念しか残っていないように見えるけれど、ここで学び巣立った人達の想いもまた、確かに宿っている筈だ。それを護る為に集まったのが皆で良かったと、迅はそう思っていた。
 迅への返答は、これから現れる存在を迎え撃つ為の陣形を組み終える事。完成したそれを見た迅は目を細めると頷いた。

 想いを込めて銀を振る。
 僅かな間を置いて聞こえてきたのは、鎖の音色と笑い声。
 寂しけれど優しいこの世界に染まらない、染まれない存在のそれだった。

●一幕
 無邪気な少女の声だった。くすくすと笑うその声に能力者達は一瞬だけ身を強張らせる。
 けれどすぐに、それは自分達が警戒している笑い声では無いと悟った。次いで聞こえた少年の笑い声が、少女のものに同調し響く。
 屋上の、ちょうど真ん中だった。鎖を鳴らす三つの人影、ゆらりと形作る三つの獣。
 前面左右に現れた姿は小さな小学生と見紛う姿。普通の子どもならば振り回すなどままならないスコップを抱えた少年と、白いスカートと共に歪んだ鉄パイプをくるり回した少女。
 その間に佇む三体の狐は赤い尻尾をゆらゆら揺らす。こちらを見る目は鋭く、戦意に満ちていた。
 そして。
(「癒しの力を使う青年か……」)
 彼らの後方に一人立つその姿を認め、七海・霧人(エキセントリッカー・b29777)は呼び覚まされた記憶に眉根を寄せる。
 儚さすら伴う空気を纏った青年、それは霧人が以前に取り逃がし、結果死なせてしまった青年を思い出させた。嫌な感じだと呟いて、霧人は己自身を思わせる二対の短刀をしかり握り締める。
「──行くよ」
 互いの距離は遠くない。
 その一言を引き金にして、朱色の衣が風を切る。それを纏った霧人の瞳はただ一人、少女にのみ向けられていた。惜しむつもりは無い、好き勝手させるつもりも無い。そして、負けるつもりも無い。
 その後方で光が弾け、清浄なるそれが霧人を追い抜き異形達を飲み込んだ。それを放った律はその光が青年へ届かなかった事に運命予報士の言葉を思い出す。
(「簡単にはいかない、という事ですね……でも」)
 彼女の視線の先で、少女に肉薄した霧人が重心を一気に低くする。
「……喰らいな!!」
 力強い叫びと共に放たれたその蹴りの軌跡は、これから訪れる夜、真上の空に浮かぶであろう月を思わせた。

 出現位置の推測は上々だ。霧人の蹴りを喰らって身体をくの字に折った少女を認めてからラッセルが視線を動かすと、同じくこちらを向いた紫郎と目が合った。一度頷き合った二人は共に前方へと踊り出る。
 彼らが向かうのは、三体の狐。一体だけいると言われた個体、一回りほど大きなそれは駆ければ届く位置にいる。
 ならばと選んだ道は強化を捨てて、攻める事。狐達を足止めて仲間の負担を減らす事。
 目の合った大狐が一度唸る。それは迷い無く己の力を高め、尻尾を揺らし二人と対峙した。
 その尾と似た色をした瞳を持つ者、涯はひとり少年へと駆ける。冷えたような白さを持つ肌はけれど、熱い。大狐へ刃を振るう二人を見遣った直後、対峙した少年が振りかぶったスコップを紅の光を帯びた太刀で力強く打ち払った。
「そんな大振り、当たるかよ」
 涯は口の端を上げ、告げる。本当ならば単純なタイマン勝負といきたかったけれど、今の自分の役目は足止めだ。無茶をせず、ひたすら耐える。今ならそれが容易く出来るような感覚を与えてくれるのは、信頼できる仲間達。
 始まった以上は止まれない。足止めに回ってくれた仲間へ感謝の意を示す代わりに彼方も武器を取る。黄金色のマントを翻し少女を見据えた彼方は一直線に炎を撃ち出した。力強く放たれたその魔弾は少女の纏う白を炎色に染め上げる。
 それでも少女は笑んでいた。──否、その笑みを深く深く、歪ませた。
「──来る!」
 笑い声が響き渡る。それは甲高く、空を割くように鋭く、悪意に満ちた響き。
 身構えた能力者達の内へと侵入し、心をぐるぐるとかき混ぜ感情を支配しようとする。そして沸き上がった黒くふつふつとしたものは幾人かの能力者達を突き動かした。
「シロウ!」
 対峙していた大狐から紫郎が視線を外し身体の向きを変えた。気付いたラッセルが声を上げても紫郎は答えない。止めようとした所で狐達がラッセルを妨害するように牙を剥きだし、飛び掛かる。
 更に涯までもが少女へ向いた事に気付き、ラッセルは息を呑んだ。涯の代わりに少年へと向かわなければ──でも眼前の獣がそれを許さない。
 怒りがこみ上げてくる。乱されたくなど無いのに、ただ終わらせたいだけなのに。律もまた、曖昧になる意識と戦っていた。
 崩れてしまう。このままでは端から瓦解してしまう。
 それだけは……嫌だ。
 その想いが飲み込まれ、意識が黒に支配された、その瞬間。

「そうはさせない」

 背後から吹き抜けた風は、優しかった。
 清らかなそれは沸き上がった黒い感情をさらってゆく。我に返った三人が見たのはスーツに携えた鞘から刀を抜き立つ迅。そして、手助けに来てくれた大羽・雷人と万木・沙耶の姿だった。
「大丈夫ですか?」
 律の前に立っていた騰蛇が律を振り返りそう問うた。静かな表情の中に彼の決意を見出して、律は力強く頷いてみせる。
 自分より後ろにいる仲間には僅かな傷ですら負う事を許さない。今一度自分自身へそう言い聞かせ、騰蛇は手にした刃を旋回させた。
『……』
 再び全員が前を向いたその先で、青年が右腕をゆらりと前に出す。そこから巻き起こった風は、すぐさま周囲に広がり目の前にいる異形達を包む。能力者達の肌も同時に撫でたそれに、けれど迅が吹かせた風の持っていた優しさは無い。異形達の傷がその風で癒えた事が理解出来かねる程に、彼らの間には何も無いのだと、能力者達は無意識でそれを感じ取っていた。
 それに、負けるなど。
 再び無邪気な笑みへと戻った少女を霧人が細めた瞳で見つめる。先刻の耳障りな笑い声は脳裏へ不快にこびり付いていた。目の前の少女はこのまま戦っていれば再びそれを繰り返すかもしれない、けれど。
(「……冷静になれ」)
 自分を見失えば、敗北というもっと腹立たしい結果が待っている──。
「そんなのは、お断りだね!」
 言い放つと同時に蹴り上げられた細い足は、月の軌跡を描きながら少女の身体を再び撲った。そして後方より律の放った光の波、彼方の魔弾、騰蛇が伸ばす黒い影。それらはまるで霧人の言葉に呼応するようにして少女を呑み、魔炎で舐め、不快な毒を注ぎ込む。少女を癒そうと動いた大狐、けれどその横腹を二方向から刃が撲って、甲高い悲鳴が響き渡った。
「行かせないよ。ね、シロウ」
「ああ、当然だ。だが早いとこ頼むぜ?」
 律の光の影響も相まって消えゆこうとする大狐を見下ろし、ラッセルと紫郎が僅かに笑んだ。
 哀れな少女の笑い声はもう、彼らを支配するに足らないものだった。後方から広がる癒しの力は確かな道を示してくれる。迷いのない連携は青年の吹かせる風の力を上回った。
「これで最後にしてあげよう……ねッ!!」
 霧人の蹴りが空を切る。
 それを最後に、少女は橙色へと同化するように溶け消えた。

●二幕
 厄介だと懸念していた二体が消えた。
 それに気付いた涯へと、身を捻った少年が炎を纏ったスコップを振り回す。
「ッ!」
 骨が軋む音がした。精悍な身体を折らんばかりの勢いで撲ったそれは衝撃と痛みだけでなく、纏っていた炎を涯の全身へ走らせる。背後に背負った鳳凰までも舐めた炎に、けれど涯は怯まなかった。
「まだまだ……」
 ひたすら耐えるという思いは折れない、変わらない。
「行くぜ!」
 涯は巨大な太刀を勢い良く旋回させ、地を蹴った。後ろは振り返らなかったけれど分かっている。体勢を整えた仲間達がやがて共に戦ってくれるのだと。
 再び優しい風が吹く。魔炎を拭い取ったそれに続いて、律と騰蛇の放った符が涯の傷を完全に癒す。
 彼方もまた涯の援護に回ろうと動き……そして気付いた。
 残された狐の足が強くコンクリートを叩く。その意味を察すると同時、彼方はぐるりと身を捻る。
 放たれた魔弾が向かった先は、少年では無く狐だった。体当たりを喰らいかけ防御態勢を取っていたラッセルは、自身の体に衝撃が走らなかった事の理由を考えるなり後方へ振り向き、それを確信する。
「──大丈夫だから!」
 夕焼け色をした瞳を持つ仲間が、ひとつ大きく頷いた。
 別の狐の攻撃を受け流すように凌いだ紫郎は、黒燐蟲を愛刀へと纏わせながら青年を一瞥する。他のゴーストが残っている限り、その青年は自身が傷付かぬ為の位置を探し、そして前に立つ『壁』を崩さぬように風を吹かせる事を優先とするのだと聞いた。
「……遊びは終わりだ」
 今もまた、風が吹き抜けた。それまでに受けた狐の傷が全てでは無いとは言え癒えたのを目の当たりにしてもなお、紫郎は前を向きそう告げた。
 青年への距離は縮まりつつある。一歩一歩、確実に。
 ラッセルと紫郎の真後ろを横切るように霧人が駆け抜ける。向かう先にいた涯は届き始めた援護を受けて、少年へとより深く踏み込んだ。
「今までの分まとめて返すぜ──」
 紅の瞳に炎が宿る。巨大な野太刀が空を切る。
「しっかり受け取りな!!」
 叫ぶと同時、不死鳥の形を成すオーラが生み出された。その力を宿した一撃は少年を撲ち、そこから吹き出す炎がその小さな身体を包み込む。
 そして重なる数多の攻撃。
 がらん、と音がした。スコップが少年の手から離れ、炎が消失するように少年ごと消え失せた。
 ほぼ同時に狐の一体も倒される。まだもう一体残っていたけれど、それと対峙していた二人は途端に一歩を退いて攻撃の手を緩めた。
 そして、青年を見る。最後の『壁』を前にして、青年が取った行動は……今まで上げていた右腕だけでなく、左腕も上げる事。
 星のような色をした衝撃派が、徐々に夜の色へと変わりつつあった屋上を走った。
 最前にいたのが常にそれを警戒していた涯だったのが幸いだったのかもしれない。流れ星にも見えるそれに寸前で反応し堪えた涯への回復を仲間に頼みながら、霧人が青年へと喰らい付くべく疾走する。
「シロウ、早めに仕留めよう」
 眼前の狐を見据えながらラッセルが言えば、紫郎も頷いて。後方にいた仲間達も自己強化の術を繰り出しながら合流を開始している。
「時間切れだよ、星はもう見納めだ」
 ただ、そこにいるゴーストを倒す為に。

 青年が攻撃を行ってきたとはいえ、それでも狐が残っている間は風を吹かせる事の方が多かった。それは青年がその場に留まるという事、近付く事が出来るという事。
 やがてその小さな壁も消え去って、残されたのは彼一人。誰もが彼から視線を逸らさず立ち向かう。
 怯まず、終わらせる為に、全力で。様々な思いと覚悟が徐々に青年を追い詰めてゆく。
 ちょうど、夕陽が沈みきった時だった。
「今引導を渡してやるぜ!」
 肉薄する霧人へと青年が冷えた息を吹きかけようとしたその横腹へ、涯が武器を叩き付けたのが、合図。
 直後連なった攻撃の波に青年が呑まれ、静かな夜が来たという合図。
 顔を上げれば瞬き始めた星達が見えた。数え切れない程のそれが、見えた。

●夜
 夜を迎えた屋上から見るそれは聞いていた以上のもので。それはこの場所にあった思念を晴らしたからなのだろうと誰ともなくそう思う。
「……聞かない方が良かったのかもな」
 戦う前に脳裏を過ぎった疑問へ、戦いを終えた今、紫郎はそう結論付けた。倒した彼らへ想いを馳せて見る星はきらきらと揺らめいている。
 彼らは星を見る為に此処に残っていたのだろうか。確かに独り占めしたくなる空だと思いながら、ラッセルは長い間それを見上げていた。その傍で同じように空を眺めていた騰蛇や、腰を落とし鑑賞を楽しんでいた彼方と律の他、霧人が大の字で転がって疲れを癒している。
「ありがとー!」
 けれど突如響いた声に飛び起きた。何事かと視線を向ければ、叫んだ張本人である迅が振り向き笑う。
「……ちょっと大きめの独り言です」
 それは、心から感謝を捧げたい戦友達へ。
 感嘆の息は白い。暫く空を見上げていた涯が振り返り、そこにいた仲間達へ告げる。
「さあ、帰ろうぜ」
 役目を終え、眠る世界から思い出を分けて貰ったなら静かな時を返すのだ。
 もう汚されぬ時を、永遠に。


マスター:笠原獏 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/11/24
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冒険結果:成功!
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