その彩りは、心の奥底に凝る気持ちを思い出させて


<オープニング>


 夕方といえる時間帯にはすっかり陽が落ち、暗闇に取って代わる。
 ひと気の少ない場所は足早に通り抜け、早く人が行き交う場所に出られればと思う。相手がそう言うつもりだと思っていなくとも、先を歩く者に取って追いかけられる感覚というのは、やはりあるのだ。
 駅の構内から、ショッピングモールへ繋がる道に入ると一気に明るく感じる。通路の両端には青色の小さな灯が散りばめられ、入り口まで続くその可愛らしい装飾に明るい気分になった。
 広場には巨大なクリスマスツリーが設置され、トナカイやサンタクロース、星や月のオーナメントが飾られ、イルミネーションが煌めき、道歩く人々の歩みを止めている。
 その様子を恨めしげに見つめているのは一人の少女。
 沙由理は段丘状になっている屋上庭園の一角で、カップに残っていたカフェオレを一気に飲み干すと、ゴミ箱に捨てた。
 さっきまで座っていたベンチに一人座ると、いつもなら隣にる筈の友達を思って、そっとその場所に手を伸ばす。
 ごく普通の平日の夕方。
 沙由理が座っているベンチ以外にも幾つかのベンチがあったが、誰もいない。
 誰もいない場所を選んだから。本当は親友の里菜と一緒に居たかった。
 どうしてこんな事になったんだろう。喧嘩したときのことを思い出す。
 ずっと一緒に居ようって言っていたのに、クリスマスも一緒に過ごそうって約束していたのに。
「どうして……? 一緒に過ごそうって、言ってた……の……に」
 ぽたりと涙がこぼれ、制服のスカートを濡らす。
 一度溢れた涙はなかなか止まらず、ぱたぱたと濡らしていく。
 同時に湧き上がってくるのは怒り。
「里菜ちゃんの嘘つき……っ!」
 嘘つき。嘘つき。嘘つき。
「約束破ったらお仕置きだって、約束してたのにっ」
『お仕置き……して……やろう……、か?』
 語りかけられたその声に沙由理はびくっと肩を震わせ、周囲を見渡す。
 聞こえるのは、静かなざわめきと葉擦れの音。
 自分以外誰も居ない筈なのに。
 そう確認したじゃない。
 少し怯えながらも、涙に濡れた目元をハンカチで拭き取った。
 だが。
『お仕置き……して……やろう? ほんの……少し。それで、元通……り』
 再び囁く声は、沙由理の前に佇んでいた。
 微笑む赤い唇が印象的な長い黒髪の女性。ふわりふわりと髪が揺れている。
「本当? 元通りにしてくれるの……?」
 沙由理は縋る思いで、女性を見上げた。

「皆さん、お集まりになりましたね」
 海音・蓮見(運命予報士・bn0021)は集まったメンバーの顔を見渡すと、話し始めた。

「少女の復讐を止めてあげて欲しいのです」
 地縛霊が沙由理という少女を唆し、仲違いしている親友を誘い出して、沙由理だけではなく、親友の里菜までも殺そうとしています。
 沙由理さんは、恋人が出来たことを祝福出来なくてごめんなさいと謝って、里菜さんの恋人に贈るプレゼントを選ぶのにこのショッピングモールは種類も豊富で良いからと誘ったようです。
 復讐というよりは、沙由理さんはちょっとしたお仕置きだと思っています。
 そう思わせているのは地縛霊です。
 地縛霊に唆されて、親友を傷つけるのはいけない事ですけれど、沙由理さんの傷ついた心に囁きかけた地縛霊が一番いけないのです。
 今回は不運にも、地縛霊と沙由理さんの行動がかみ合ってしまっただけで。
 誘い出されて来る里菜さんだけではなく、沙由理さんも救ってあげて下さい。

「地縛霊が現れるのは、ショッピングモールの段丘状になっている屋上庭園の一角です」
 蓮見はプリントアウトした用紙を手渡し、詳細を話し始めた。
 ライトアップされたクリスマスツリーが見える場所にあるベンチの傍に地縛霊は居ます。
 壁際や通路の両側、ショッピングモールの建物側へと繋がる辺りには花壇があります。
 ベンチがあるのは円形状になっている小さな広場になっている場所です。
 円形に沿う様にベンチが等間隔に並んでいます。
 行動に差し支えのない広さは15メートルほどの円形部分。
 沙由理さんと里菜さんはショッピングモール内で買い物を済ませて、クリスマスツリーに灯が点灯される位の時間帯に庭園へと向かいます。
 2人が現れるのを待つのに丁度良い喫茶店が一階上にあります。
 そこから室内から庭へと出てくるのを確認して出ても、傍に階段が在りますから間に合うでしょう。
 この広場には地縛霊がいますから、一般の人達は自然と気が向きませんので大丈夫です。
 女性の地縛霊の能力ですが、長い髪を針の様に降り注がせる範囲攻撃で、追撃の効果。
 鋭く長い爪による近接攻撃。
 男性の地縛霊2体は吹きつける吐息による近接範囲攻撃で、毒のバッドステータス。
 鈍器による殴り攻撃。

「本当は仲の良い少女達なのです」
 蓮見は呟くと2人の事を話す。
 里菜さんの方に最近恋人が出来て、一緒にクリスマスを過ごそうと約束していたのを今年は恋人と過ごすからと断られた事が原因のようです。
 親友も大切だけれど、恋人も大切。
 大切なものが色々と増えてくる年頃ですし、色んな悩みもあると思います。
 お互いが歩み寄れば仲も良くなると思うのですけれど……、沙由理さんはまだ恋というものの気持ちをご存じないのです。
 救出後は地縛霊に仲良くなれると他力本願な事を願ってしまった沙由理さんに、又この様なことがあってはいけませんから、お話をしてから別れる必要がありますね。
 まだ中学生のおふたりですから、あまり強い言い方ではなく、いたわりの言葉も混ぜて話してあげて下さい。
「皆さんの体験も混ぜた言葉でもいいと思います」
 そう言って、蓮見は皆を見送ったのだった。

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参加者
茶渡・遥(パウティフェイス・b11539)
立積・呼音子(タチツミ・b18113)
坂田・あずき(昏迷機関・b20610)
松岡・瑞穂(紫苑魔弓・b23513)
永嶺・エリカ(ふたつのハートビート・b24273)
水城・廉(優しき世界を望む者・b26147)
シャル・ハイド(ランプブラック・b36925)
門丘・玄六(強翼なる武雷騎士・b40739)



<リプレイ>

●友達のかたち
 午後3時を過ぎると、暖かかった陽の光も少しずつ弱くなり冬特有の空模様へと変わっていく。
 建物の滑らかな曲線に沿って風が流れ、皆は背を押される様に待機する喫茶店へと入る。広場が良く見渡せる窓側の席につくと、紅茶や珈琲、ケーキやパフェを頼む。
 2人が現れる時間帯になるまでは、話をしながら時間を潰す事になる。
 店内を見渡せば、お喋りに夢中になっている客ばかりで、外へと目を向ける者はいない。耳障りにならない程度の音量で音楽が流れ、心地よい。
「恋を取るか、友情を取るか…って話だけど」
 ぴょんと跳ねた前髪を揺らしながら茶渡・遥(パウティフェイス・b11539)は、立積・呼音子(タチツミ・b18113)の方へと振り返る。
 遥が暗に訊ねた。呼音子なら分かっていると思ったから。
「親友の恋にジェラシー燃やして、このザマか。ナッサケネー。…明日は我が身? ケッ、バカらし。そんなの何て事無いダロ」
 呼音子はふん、と不敵な笑みを浮かべ、遥を見る。好きになった人の存在も受け入れないで何が親友だと言う事だろう。
「でも…バカバカしくても、ああいうのが普通なのよねえ」
 もし自分が同じ状況になればどうするのだろうと遥は、ふぅと溜息を一つついた。
「確かにね。最初好きな人が両親から友達、そして恋人と交友関係が広がれば、それだけ出会いがある訳だから。…しょうがないけれど、辛いな」
 坂田・あずき(昏迷機関・b20610)は生クリームたっぷりのパフェを口へと運び乍ら、フルーツの山をどうやって攻略していこうかと思案しつつ、おっとりとした口調で言う。皆の中では年長なせいか、余裕が感じられる。
(「心が弱気になって居る時につけ込むなんて、許せない。それで復讐がもし成功したら、二人の仲は拗れたままになってしまう…。必ず阻止する」)
「本当にお仕置きが必要なのは、地縛霊の方ですね」
 シャル・ハイド(ランプブラック・b36925)は長い銀の髪を指で払う。
 お勘定の用紙の上には沙由理達が現れたら、すぐに会計を済ます事ができる様にお金が用意してある。席順も店の入口から一番遠い位置だ。分担を決めれば自然と行動しやすい席に着いていた。
 2人の仲が悪いのは一時的なもの。親友だというのなら、自然と歩み寄り多少の時間は必要だろうが、上手く行く筈のものだ。それに初めて親友に出来た恋人を羨み、親友を取られた気持ちでも、親友と同じ様に自分に恋人が居たらどうなのだろうと考えないという事は無いはずだ。自分には親友だけだと他の存在を認めない、心が少し頑なになっているだけだと思うと、地縛霊の存在はただの厄介者でしかない。
「そうですわね」
 考え深く松岡・瑞穂(紫苑魔弓・b23513)がカップの中で揺れる紅茶を見つめ同意する。当事者の中に異物が入り込めば、悪い方向へと化学変化を起こす様なもの。
 自分達は、邪魔者を排除してお互いの気持ちを受け入れられる様にほんの少し力付けるだけ。
「だが、地縛霊の誘いに乗る沙由理も沙由理だ」
 複雑そうな表情を浮かべるのは門丘・玄六(強翼なる武雷騎士・b40739)。
(「里菜が恋人を大事にしたい気持ちも沙由理のやり切れん気持ちも、両方分からんでもねぇな…オレにも近い経験があるし」)
 里菜は恋人を大事にしたい気持ちも、親友なら分かってくれるという気持ちもあったんだろう。けれど、分かってくれると思っていた沙由理は、恋という気持ちが分からず、受け入れてくれなかった。親友の変化を受け入れる事が出来れば、長い友情関係を築ける。一生の親友という関係だって、幼くても関係を保てるものだ。
 玄六は体験者である先輩として、そんな2人の背中を押せればと思う。
「キャラメルの方が良かったかな」
 永嶺・エリカ(ふたつのハートビート・b24273)はあずきのパフェを見つつ、ぽつりと呟く。自分のはチョコレートパフェで、カラフルなフルーツは美味しそうにみえるのだろう。
(「わたしには彼氏はいないけど、沙由理さんの気持ちも分からなくはないなぁ。悪いのは地縛霊の方よね」)
 ぱくりとチョコクリームを味わい、ん? と思わず動きを止める。
「(…ってゆうか、中学生で恋人がいるのかぁ。むむむ。一寸悔しいかも)」
 高校2年冬現在、未だそう言った関係の人が居ないエリカはちょっぴり切ない気分になるのだった。
「外が少しずつ暗くなってきましたね」
 落ち着いた声音で水城・廉(優しき世界を望む者・b26147)が、後少しでライトアップが始まるようですと告げる。
 空模様を眺め、廉は今まで経験してきた事を思い出す。
(「親友が離れていく様に感じるのは悲しいですよね。本当にお互いに大切な存在だったら、離れて行く事はないんです。その事に気づいて貰えると良いんですが…」)
 廉はエリカと同様にまだ恋をした事が無く、体験談を話す事は出来ないけれど、2人の仲を拗れさせたまま、歩み寄れる機会を無くそうとしている地縛霊は許せなかった。最初は分からない気持ちでも、いずれ分かるだろうその気持ち。好きだからこその感情なのだから。2人は再び仲良くなれる筈だと思う。
 空が夕闇に塗り替えられて行く頃、庭の木々やクリスマスツリーに灯が入る。きらきらと光るその情景は華やかな気分にさせる。
 この中で1人で居た沙由理は寂しい気分を味わったのだろうと思う。今は仲間と一緒だから寂しいとは思わないが、仲違いしている時に1人だけの時間を過ごすのは、周囲が華やかな分、落ち込むには十分に違いない。
「来ましたね。あの2人ですよね?」
 エリカが紅茶を飲んで一息ついた所でダッフルコート姿とロングカーディガンにマフラーをした少女達が屋上庭園の一角に現れた。
 少女の1人は学生鞄の他にショップの紙バッグを手にしている。
「行くぞ」
「シャルさん、会計お願いします」
 店内では少し早歩きで出て行くと、すぐ側にある階段を駆け下りて行く。途中でイグニッションをして、少女達との距離を出来るだけ稼ぐべく駆ける。
 ばん、と白縁の硝子扉を開ければ、沙由理が里菜を地縛霊が現れるベンチへと、屋上庭園の円形広場の中央から誘っている所だった。

●仲を裂くもの
 三日月の様に口を開き、長い黒髪の地縛霊が現れたのはすぐ。
 周囲はイルミネーションで青く光っている中、そこだけが闇が深い。
 待ちきれなかったかの様に、長い髪を生き物の様に蠢かせている。
「ひっ…!?」
 里菜が地縛霊に気づいて恐怖に顔を強ばらせ立ちつくす。
「どうしたの、里菜」
 沙由理がふわりと暗い笑みを浮かべて、里菜の方へ振り返る。
「何言ってるのよ、沙由理。分からないの!?」
 そう言っている間にも、里菜の目の前では地縛霊の後ろから2人の男性の姿をした地縛霊が現れていく。
 嫌がって踏みとどまっている里菜を沙由理はぐいぐいと地縛霊の方へ近づけようとする所へ、玄六が割り込み鋭い視線を地縛霊へと向け、ドレッドノート・ハイペリアの鈍く光る朱色の穂先を向ける。
「罠に嵌めたつもりだろうが、狩られるのはテメェだぜ?」
 同時にロケットスマッシュが黒髪の地縛霊を襲う。蠢いていた黒髪が勢いで流れる。その間に事前に決めていた分担通り、対応していく。
「この場にいては危険よ」
 あずきとエリカは2人の少女を保護すべく、腕を掴む。
「あれ、あれ…おかしいわよね!?」
 身体を震わせて里菜が指さす。
「うん」
 あずきの真グレートモーラットのアサリと廉の真グレートモーラットの光が元気づける様にふわふわの身体をもふっと近づける。少し震えがマシになった気がした。
「どうして?」
 沙由理が不思議そうにあずきを見上げる。
 その表情を見て、あずきは沙由理はまだ里菜に一寸したお仕置きをしようとしているのだと思う。違うのに。
 今は傷ついていて、感じる心が鈍くなっているのだろう。だが、今はのんびりと話している時間はない。ひとまず安全な場所へと2人を退避させなければ。
 あずきは、今はごめんと言うと、沙由理の腕を強く引っ張って行く。
「ねえ、どうして邪魔するの…っ!」
「沙由理ちゃんは、あの地縛霊に親友を差し出すというのかい?」
 あずきは真剣な眼差しを沙由理に向ける。
「差し出す…? あの人は一寸したお仕置きって言ったもの…」
 段々と混乱して感情が抑制できなくなって来ているのだろう、沙由理の目元に涙が浮かんでいる。
 男地縛霊2体には遥と廉、シャルが対応し、後方援護に瑞穂と呼音子。仲間が深く傷ついた時には呼音子がギンギンパワーZで回復に徹する構えだ。浅い傷なら、エリカやシャル、アサリと光も居る。回復手は多い分安心だが、出来るならば早く戦闘を終わらせて、少しでも少女達に怖い思いはさせない様にしたい。
「凹んでるガキに嘘吹き込んでんじゃネー! その口焼きキンゾ!」
 呼音子の熱い思いに呼応するかの様に『悪意の書』総集巻のページがぱらぱらと繰られ、開かれたページから生み出された炎の魔弾が撃ち出され、黒を赤に染める。
「ふん。親友へのお仕置きにしては少々手厳しいわね?」
 遥とシャルは視線を交わし合うと、左右に控える男地縛霊2体を1体ずつ分担して、後方への移動を封じる。
 斧の重い一撃に黒影剣を重ね、ごっそりと生命力を奪っていく。
「傷ついた心に付け込むのは、あまり感心しませんね」
 廉が遥の動きに合わせて、後方から雑霊弾で援護する。気の塊が弾けた。
「女性に手を挙げるなんて…仕置きが必要ですね」
 少女達へが手に届く範囲に居るというのにシャルに阻まれ、地縛霊が悔しげに表情を歪めた。黒作りの扇をすっと向けた。その動きに合わせてリフレクトコアが召喚され、周囲に旋回し始める。
「私の紫苑の力、受けなさい!」
 遥が対峙する男地縛霊が、瑞穂が放った破魔矢の一撃を受けて崩れ落ちていく。
 男地縛霊が鈍器でシャルへと殴りかかる。
 冷静な目でその攻撃を躱し、後方へと関心が向かない様に不敵な笑みを浮かべた。
 黒髪の地縛霊は予想していた展開とはほど遠い事態に苛立ちを露わにする。
 すぐに消してしまえると思ったのだろうが、その長い髪を降り注がせる細い髪の雨は大ダメージを負わせるには至らない。
「絶対に守る」
 髪の雨から身体で庇って居たあずきとエリカが立ち上がり、笑みを向ける。
「大丈夫。あなたたちは、わたしたちが守るから」
 傷ついてまで守っていくれたと言うのが少女達の心を動かしたのだろう、不安を滲ませながらも頷く。
 エリカの赦しの舞が浅い傷を治していき、あずきの刃金壱式が女地縛霊を撃ち抜く。アサリは少女達を守る様にふんわりと浮かび、やる気満々だ。
「あなたの浅はかな作戦は気づかれた様だけど?」
 遥の黒影剣が切り裂き、玄六のロケットスマッシュが長い髪の地縛霊の姿を少しずつ希薄にしていく。
「さっさと燃え尽きて仕舞え!」
 瑞穂の破魔矢と呼音子の炎の魔弾が地縛霊へと追い打ちを掛けると、それが止めになった。
 残るのは、男地縛霊1体のみ。
 廉の雑霊弾が弾ける。光は廉の視線を受けて、きゅっと可愛らしい声で頷くと、火花で攻撃を仕掛けた。
「これで終わりです。光の槍よ…貫きなさい」
 シャルの光の槍が男地縛霊を貫き、夕闇の中その身体を散らしていったのだった。

●友達と恋人
 地縛霊が消え失せた後は階下から聞こえる人々のさざめきが戻ってくる。屋上庭園も木々にデコレーションされたイルミネーションが青く光っている。
 そんな中で沙由理は痛みを堪える様にして、里菜と向かい合って立っていた。
 無言の時が流れる。
 その沈黙を打ち破ったのは里菜だった。
「分かってくれたんじゃなかったの…?」
「だって…、だって…」
 なんであんな直ぐに頷いたんだろう。沙由理はどう言っていいか分からず、言葉にならない。
「あまり安直な手段を選んではいけませんよ? 私達には言葉という他人に気持ちを伝える素晴らしい手段があるんですから」
 シャルは微笑むと涙で目を赤くしている沙由理にハンカチを差し出す。
「先ずは本当に謝る事から始めましょ」
 上辺だけのごめんなさいだったでしょ? と遥が問う。
「……」
「沙由理ちゃんは、寂しかっただけだと俺は思うんだ。君の親友はいつだって君の事好きだと思うよ」
 あずきの言葉に沙由理は恐る恐る里菜の方へと顔を上げる。
「わたしね、お姉ちゃんがいたんだ。偉そうに説教された時とか、正直ウザイな、どっか行っちゃえばいいのに、って思ってたんだけど、本当にいなくなっちゃった時は涙が止まらなかった。だからね、大切な人は絶対に無くしちゃいけないんだと思う」
 エリカはその時の事を思いだしたのか、思わず涙ぐむ。
 一緒に居られるのはとても幸せな事なの、と楽しい時の記憶も思い出して笑顔に変える。
「かつては悪い方へと考えてしまう事があったけれど、仲間が来てくれたからこそ、今の私があるの」
 友達や仲間、関係は違えど大切なもの。瑞穂は静かさを湛えた紫の瞳で語りかける。
「大切な人は一人だけじゃないですからね。里菜さんだって恋人同じ位、沙由理さんの事大切に思っているんじゃないしょうか?」
 廉の言葉に里菜は頷く。
 そう言う事なのだ。
「今はまだ分からなくても、もし君に里菜さんと同じ位大切な人が出来たら、きっと今の里菜さんの気持ちが分かりますよ」
「良いも悪いも綺麗も汚いも、全部腹を割って話せるのが親友ってもんだろ? 勇気出して向き合って、ちゃんと分かり合おうぜ…な?」
 玄六は一歩を踏み出せずにいる沙由理の背を軽く押す。
 一歩。
 2人の気持ちが動き出す。
「ごめん…なさい」
 里菜が沙由理へと一歩近づく。
 思わず一歩下がりそうになる沙由理の肩を持った玄六が、前へ踏み出せよと元気づける。
「友達を信じろよ。…約束破られても、喧嘩しても、オマエはソイツの事好きなマンマだろ? オマエが好きなソイツだって同じだ」
 呼音子は隣にいる遥を気にしつつはっきりと口にする。大事な言葉は声に出さないと伝わらない時もあるのだ。
「…さて、私達はどうなのかしらね、コネコ?」
 遥が分かっている答えを呼音子から引き出すべく、言葉にする。
 はっとした呼音子は、逡巡した後むっつりとした表情を浮かべ、沙由理に言う。
「友達なら、信じられる筈だ。少なくともオレなら…オレは、オレの友達を信じてる」
 にやりと笑う遥にこっちを見るなとばたばた腕を振る。
 それから呼音子は、里菜にもアドバイスをした。
「(好きだからコソ、その分不安がデカくなる。…分かってヤレよ)」
 里菜が頷くのを確認すると、呼音子がもう大丈夫の様だナと皆を見た。
 後は二人で話し合えば蟠りも解けて、2人の中に新たな関係が生まれるだろう。

「2人ならきっとこれからも大丈夫!」
 あずきの言葉に頷き合うと、煌めくイルミネーションを眺めながら、帰途についたのだった。


マスター:東城エリ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/11/26
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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