<リプレイ>
●聖域に人は無し もう何年も手入れもされていない、貧相な立ち木の枝へしがみついていた枯葉が鴉羽・凶司(凶事と死を纏いし死人・b08812)の目の前を風にさらわれていく。 神社の敷地内部は聖域だと聞くが、ゴーストが跋扈するようになってしまえばその表現はふさわしいものとも思えない。 「神を奉り人々の信仰と救いをになうべき場所が、今はゴーストとリリスの餌場か……」 「昔は神に仕えて、今はリリスに仕えるって・か」 皮肉が利いてるねぇ、と呟いた一峰・十夜(死霊狩り・b02524)のすぐ横に、黒崎・優輝(虚像の魔物・b54547)の影が立つ。 立ち木と同じようにかなりの年数を放置されて過ごした生垣は、どこか暴力的なほどの勢いで萌えひろがっており、囮として先行する凶司の背中を見守る能力者たちの姿を隠すにはうってつけだった。 子供は怖いものみたさの好奇心だけで、簡単に死地まがいの場所にまで足を踏み入れてしまうものだ。 永倉・エイゼン(黄泉路に舞う朱雀・b41066)にとっても、お化けやら幽霊やら、ものを疑うことを知らぬいとけない子供が聞けば、それはそれは好奇心をつつかれる内容であろうことは想像にかたくない。 そしてその幼い子供を餌食とするリリス。臆病、いやこの場合は狡猾か、とシャルラ・フィンスターニス(その手に紅き闇を・b54309)は唇を噛む。これ以上野放しにはできない。 命に順位などつけられないものとわかっていても、幼い命が犠牲になることほど柏木・リク(赤と青の唐辛子・b38226)にとって胸苦しいものもない。 いまだ見ぬ多くの未来があったはずのことを思えば、なおさらのこと。そんな子供を食い物にするのは月夜野・瞬(閃光の魔剣士・b36261)の信義にも悖る。 拝殿の内部からリリスが監視していることも考慮にいれ、藍染・紫(死鏡・b28600)はまだ相棒の闇霞を自らの能力ごとカードに隠していた。大柄なフランケンシュタインを無闇にリリスの視線に晒す必要はない。 「リリスが上手く嵌ってくれると良いんですが……」 両手の中のハーモニカを見下ろし、白衣・観音(鳥の巣箱の建築士・b53558)が小さく溜め息をついた。 腐れかけた踏み段をのぼり凶司がゆっくりと拝殿の戸へ手をかける。 「気をつけて……」 長い髪を初冬の風にさらし、水凪・ミアカ(ダナイデスの壺・b02164)は薄闇の中に吸い込まれていく背中を見守っていた。
●拝殿に生者は無し 内部にあったはずの調度はどこかへ持ち去られたのか、それとも朽ち果ててとうに瓦礫の仲間入りをしてしまったのか、拝殿は驚くほどにがらんとしていた。 地縛霊の姿はまだ、見えない。 「さて……情報では地縛霊一匹……退屈な仕事だ」 ところどころ破れた壁から、斜めに外からの日差しがさしこんでいる。凶司は腐って弱くなっていそうな部分を避け、無造作な様子を装いつつ奥へ奥へと進んでいった。 両手で構えた大鎌は、いつでも振るえるようさりげなく中段へ据えてある。ぼわりと白い煙のようなものが拝殿の突き当たりに揺らめき、動物的な勘でその場を跳びすさった。 コートの裾を、白いエネルギーの槍が焼き貫いていく。 すぐに拝殿内部を見回しリビングデッドの数を確かめるが、一斉にではなく、ゆらゆらと徐々に数を増していることを知ると凶司は迷わず地縛霊への距離を詰めた。 地縛霊がその身に纏うものは、あちこちが破け、裂けた白い狩衣。血を吸ったような真っ赤な重ね襟だけが鮮やかだ。もしここがかつてのまともな状態であれば、その姿も哀れむべきものと映ったかもしれないが。 今はただ、全力をもって滅するのみ。 大きく振りぬく遠心力をたっぷり加えた大鎌の一撃が、白い袖をばっさりと両断していく。何か悲鳴に似た神主の金切り声に思わず眉をしかめた。 そこで凶司は、するりと自分のものではない黒い影が伸びてきたことを唐突に知る。そして一瞬の間のあと、闇色の手が足元をかき裂いた。 決して小さくはない痛みを喉元で飲み込み、肩越しに振り返る。 「ちっ」 同じく大鎌を構えた女のシルエット。 「――リリスがいるとは……聞いてないぞ!」 笑みが漏れそうになるのを堪えつつ口惜しそうに言うのは、なかなかに苦労するものだと凶司は他人事のように考えた。切り裂かれた足元からは、じりじりと熱い痛みが膝まで着実に這い上がりはじめていた。 合図を待ちかねていた瞬が拝殿近くで立ち枯れていた松の影から最初に飛び出し、それに紫、ミアカと続く。拝殿の奥行きは20メートルに満たないはずだ。ほんの少し、持ちこたえてくれればそれで。 ばらばらとシャルラやエイゼンが布陣してゆく足音を聞きながら、十夜はすでに逆を回って拝殿裏にたどり着いていた観音が口元へハーモニカへ当てるのを見守った。 響き渡るハーモニカの音色。 旋律などない、ただでたらめに吹き鳴らされただけではあったが、そんなものが聞こえようとは思わないリリスが大きく目を瞠る。 「……まさか、仲間!?」 「そこの地縛霊、神主ごっこはそこまでにしな!」 腐りかけの壁を外側から突き破り、次々と中へ踊りこんできた能力者の数は9、明らかにリリスが狼狽する。防戦に追い込んでいたはずの目の前の凶司がにやりと笑ったことに、さて、彼女は気付いているのかいないのか。 その足元にかなりの量の血が散っていることにいち早く気付いた優輝が、祖霊降臨で傷を癒す。
●神域に情けは無し 「床板を、支えているところに」 縦方向に走る床板を支えた部分は、比較的腐りの進みが遅いようだ。続けて凶司の身を冒しているらしき毒を打ち払うべく赦しの舞に備える優輝の一声に、リクが油断なく立ち位置を変えて右手を掲げた。 白い指先へきらりと射光に輝く弦が絡み、急転直下の転調を告げる旋律が拝殿を揺るがさんばかりに鳴り響く。かき鳴らされたショッキングビート奥義を真正面から浴びたリビングデッドたちが、なすすべもなく動きを奪われた。 にこり、と薄闇に映える白皙の笑顔。 「数が多いと邪魔だからね」 「残・念・賞――逃げ道はもう無ぇッスよ!!」 十夜のロケットスマッシュで押されたリリスが、高い悲鳴をあげて数歩たたらを踏む。なんなのあんたたち、とどこか絶望したような声音で叫んだ。 「リリスが倒れるまで頑張ればわたし達の勝ちだよ!」 そこへ駄目押しとばかりにミアカの声が投げ込まれる。次々と紅蓮撃でリビングデッドを葬り去り、能力者たちの優勢はいまや疑うべくもない。 地縛霊のほうから放たれてくる遠距離攻撃が少々うるさいが、エイゼンは目もくれない。 元は無邪気な子供であったのだろうが、今は行く手を阻む敵として立ちふさがる小柄な影を暴れ独楽で蹴散らした。 決して胸が痛まないわけではない。むしろいとけない子供の犠牲は、エイゼンの遠い記憶の底に沈んだ面影に重なり、胸苦しい。 「おっと」 隙を突いて逃げ出そうとでもしていたのか、紫のフランケンシュタイン・闇霞がじりじりと後退していたリリスの退路に立つ。 ゆらり、ともう一度。 低い位置からの暴れ独楽に備えて沈められたエイゼンの視線を浴びたリリスが、顔をひきつらせた。 「まだおしまいじゃないぜ? ……最後まで付き合えよ」 歪んだ姿に成り果てた魂を、本来あるべき眠りへ還すまでは。 リクが放つショッキングビートと、観音の八卦迷宮陣でゴーストたちの動きは完全に封じ込められている。 その間をミアカが縫うように動き、自由自在に、かつ的確に敵を屠っていく。地縛霊に相対し注意をひきつけた瞬の動きも、すべてはこの事件の元凶のひとつであるリリスを確実に討ち取るための布石でしかない。 「朝露に……消えなさい……」 ゴーストガントレットを施した闇霞を前衛に立たせつつ、紫自身はリリスを監視しながら狙い撃つ。まだ床に人が通れるほどの穴はないようだが、一瞬の隙を突いて壁ではなく床板を破って逃走するともかぎらなかった。 特に、こうしてゴースト達の劣勢が明確である今は。 「いや! こんなの嫌よ、死ぬのは嫌ああ!」 防戦一方に追い込まれたリリスが泣き声をあげてうずくまる。 もう一押し、とミストファインダーで距離を詰めた瞬断撃を見舞おうとしていたシャルラがさすがに躊躇した。 「だって仕方ないじゃない、あんたたちだって食べなきゃ生きていけないでしょ!? 私だって食べなきゃいけないんだから、仕方ないじゃない!」 「ま、そりゃ確かに正論だわな」 かりこりと頬を掻いた十夜の台詞にリリスが汚れた床へ這いつくばる。ちょうどその様子は土下座にも、なにか憐れみを請うようにも見えた。 「お願い、もうひどいことしないから……助けて、おねがい……!!」 そうだねぇ、と一人ごちた十夜の足元。 一瞬前までは靴を舐めんばかりだったリリスが、急にぎらりと目を剥いて顔を上げる。体の下に敷くように隠した大鎌の切っ先は、そのまま斬りあげれば十夜の腹部から胸にかけて貫通するだろう。 それに気付いたリクの蛇鞭が唸るよりも早く、ゴッ、とにぶい音を立ててリリスの体が吹っ飛んだ。
●御座に神は無し よもや避けられるはずない、文字通りの目の前という至近距離から容赦ない十夜のハンマーの一撃を頭部に食らったリリスはひとたまりもなかった。足蹴にでもされたようにごろごろと無様に床を転がり、壁にぶつかったところで消滅する。 「さーて、お仕事の続き続き・っと」 顔色ひとつ変えず地縛霊のほうへ向く十夜にそら恐ろしいものすら感じつつ、リクは蛇鞭をからませた右手を下げる。とりあえず、消滅する一瞬前に見たリリスの外見については一切考えるのをやめよう、とだけ思うことにした。 ミアカからの白燐奏甲で己を奮い立たせ、瞬は地縛霊へ黒影剣で斬りかかる。かつては清廉さの象徴であったはずの白の狩衣を大きく斬り裂かれ、地縛霊が激しく身悶えた。 宝剣での一対一の切り合いは熾烈を極めたが、その戦いももう終局を迎えている。 何のてらいもない型通りの平突きに喉元を刺し貫かれた地縛霊の頭から、埃にまみれ色あせた烏帽子が転がり落ちる。 烏帽子の下の頭部はどのような様子だったのか、それを確認する時間すら与えずに地縛霊の体がざらざらと砂のように崩れはじめる。慌てて飛び退いた瞬の足元へ、白い、灰にも似た細かな砂がなだれおちてきて、床板のすきまから外へこぼれだした。 息を呑んだまま瞬が見守っていると、砂はそのまま煙になってかき消えていく。 ほっと肩から力を抜くと、近くの森から鳥がいっせいに飛び立ってゆく羽音が聞こえた。
突入のさいに破った板壁の破片をあつめ、痛ましい姿に成り果てた小さな亡骸の上に重ねてゆく。廃屋で遊んでいるうちに何かの事故で命を落とした、そんな状況に見えることを願いながら。 拝殿の奥のほうでは観音がやはり瓦礫を使って簡易な祭壇を仕立て、除霊建築学で周囲を清めている。 なるたけ遺体に新しい傷がつかないよう、それでいて不自然すぎもしないよう、ミアカは慎重に柱の残骸を細い脚へ乗せた。 「祓うべき者が……祓われるべき者になるなんて」 「すんでしまった事を嘆いても始まらぬ」 そっと手をあわせた紫を一瞥して、シャルラは拝殿に背を向けた。やるべき事を終えてしまえば不要の長居は禁物だ。 帰りましょう、と一同を促す瞬の声に、一人、また一人と拝殿から離れはじめる。 少し傾きかけてきた太陽の光の中に取り残された、朽ちかけの神の座。 そこに座すべき存在はもうどこにもいない。
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参加者:10人
作成日:2008/12/15
得票数:カッコいい12
知的2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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