<リプレイ>
● 「ま、待て……もう不正はしない! 何でもして償う! だから許してくれ!」 「許しか……そいつは閻魔様に乞うんだな」 男の刀が一層殺気にギラつき、今にもサトウ議員の首を跳ねようと言うそんな場面。 サトウは文字通り顔面蒼白になり、這い蹲って命乞いをしているが、無情にもゆっくりと白刃が振り上げられ――。 ――がたっ。 「こんばんは、按摩を頼まれて参りました」 そんな瞬間、唐突に開く襖。 そこにいたのは眼を細め、杖を手にした池田・勇人(デッドマン・b44604)。 「按摩? 頼んじゃいねぇよ、帰んな」 「ホラ、今の状況に酷いコリがあるじゃないですか」 「お、おい君、助けてくれ!」 男達は追い払おうとするが、サトウは藁にもすがる心境で勇人にすがりつく。 「どきな、そいつは――」 「ちょおっと待ったぁ!」 ――バァンッ! 今度は中庭側の襖がレモン・ブラムレオン(クリムゾンリリィ・b55155)によって勢い良く開けられる。 「なんだ、おめぇらは?」 「正義の味方……いや、今回は悪……とにかくあなた達の思い通りにはさせないわよ」 若干締まらないが、言い放つ速坂・めぐる(烈風少女・bn0197)。 「さぁ、サトウさん。こっちだよ」 白銀・恭一(黒染めの夢・b13897)がやや強引にサトウを立ち上がらせて、中庭へと引っ張り出す。 「そのお金で、この腕を買ってもらうとしようか」 「お? おお! あいつらを何とかしてくれ! 助けてくれたら礼は幾らでもする!」 用心棒よろしく条件を提示する御門・真綾(高校生土蜘蛛・b55143)に、一も二も無く飛びつくサトウ。 もはや形振り構っていられないのだろうけれど、威厳も何もあったもんではない。 「ほんとにー? じゃあわたしのお店を……」 「ああ、入札でも何でも便宜を図ってやる! だから早く!」 キセル片手に妖しげな悪徳女商人に扮した桜井・鳥(賊・b36970)。 彼女に対して少しの躊躇いも無くそう答えるサトウの様子を見る限り、何が原因でこうなったのか省みる気は無い様だ。 「ちっ、邪魔立てしようってんなら……てめぇらもまとめて始末するまでよ」 男達も一先ずの標的を能力者達に定めた様子。 「先生はぁ立派なお方よぉ……キレイ過ぎる川に魚は住めねぇってね」 着流しを纏い、爪楊枝を咥えたリリ・リップマン(スリルに一撃・b61190)。すっかり用心棒になりきっている。 「あいつらは清廉潔白なわしを悪人呼ばわりして、殺そうとしよったんだ! 犯罪者だ!」 能力者達に守られてやや元気を取り戻したのか、サトウは自分のした事を棚上げして正義の味方たちを痛烈に批判し始める。 「(あまり同情できないようなお方ですけれど、ナイトメアの犠牲にするわけには参りませんわね)」 そんな人間でも助けるのが能力者達の務め。敷浪・雪(氷華嵐雪・b45543)も内心で整理をつける。 「(正せるものは、正したいですしね)」 同様に心中で呟くのは、紬織の着物を纏った清澄・ソウヒ(蒼く緋き剣巫女・b65426)。サトウがナイトメアの手にかかってしまっては、正せるものも正せない。 「全く、最近の世の中はどうなっておるのか……こういう正義を履き違えた馬鹿者が多くて困る。君もそう思うだろう?」 「(ああ、何とも言い難い嗜虐心が沸々と……ね? ……あら、もちろん嘘ですわ。すわすわ)」 サトウに同意を求められた天野・市(物騙り・b63261)は、嘘と言いながらも疼く嗜虐性を抑えこんでいる様に見えなくも無い。 とは言え、まずは目の前の敵と対する事にしよう。
● 「そんなクズ野郎を庇うのかよ。そいつは皆から入れ札で選ばれたにも関わらず、その権力を己の私利私欲を満たす為だけに使ってやがる大悪党だぞ」 どこから現れたのか、正義の味方達は五人に数を増やしている。 ジリジリと能力者達との間合いを詰めつつ、正論を吐くのは派手な衣装の男。 「たとえ悪い事をしてもそれはそれ、別問題」 一見正論であっても、ナイトメアの思い通りにさせて良い道理はない。恭一はきっぱりと言い放ちながら、黒馬を召喚し迎え撃たせる。 「殺陣って言うんだっけ、こういうの」 鳥は懐から短銃を取り出し、引き金を引く。もちろん古めかしいのは見た目だけで、実際には強力な詠唱銃だ。 「ちっ!」 能力者達の苛烈な攻撃でやや出足の鈍った敵だが、坊主頭の男が糸を通した針をくるくると回転させ、真綾目掛けて投げつける。 ――ヒュッ! 首を狙って放たれた糸だったが、すんでの所で腕で防ぐ真綾。 それでも糸は腕にきつく巻きつき、締め付ける。 「糸の扱いなら私もそれなりに自信がある」 が、真綾は殆ど表情を変えず、お返しとばかりに土蜘蛛の檻を放つ。 ――バッ! 「なっ!? なんだこりゃ!」 放射線状に広がった蜘蛛の糸は、坊主頭の男と仕込み扇子を手にした女を捕らえ、その動きを封じ込める。 しかし残りの敵達は能力者達の苛烈な攻撃を掻い潜り、更に間合いを詰める。 「お、おい来るぞ! なんとかせい!」 「あっしの銃からは逃げれませんぜぇヒッヒッヒ!」 「いくよ、集中攻撃っ!」 ――ガガガガッ!! 「ぐあぁっ!!」 浮き足立つサトウだったが、リリとレモンのクロストリガーは、圧倒的な火力で派手な衣装の男を瞬時に葬る。 「そ、そっちからも来るぞ!」 間髪入れず突進してくるのは太刀を手にした男と老年の男。 ――キィン! 振り下ろされた太刀が勇人の仕込み杖と交錯し、火花を散らす。 「参りますわ」 ――ゴオォッ!! 雪の指先に生じた風が見る見るうちに巨大化し、やがて猛吹雪となって中庭を吹き荒れる。 「市さん、めぐるちゃん、今のうちに皆の回復を」 「ええ。ワタクシ、こう見えても尽くすタイプですの。をほほ」 「奇遇ね、私もよ」 「……重ね重ね、嘘ですわ」 赦しの舞を踊るソウヒの声に応えて、市とめぐるも仲間達の援護に掛かる。 白と黒の蟲達が傷付いた前衛の能力者達を癒し、同時に火力を高める。
● いかにも腕利きっぽい風貌の正義の味方達だったが、そこは所詮悪夢の衛兵。能力者達の敵ではなかった。 「がっはっは! わしに盾突く身の程知らずどもめ、思い知ったか!」 しゅっしゅっと拳を突き出し、完全に調子に乗っている様子のサトウ。 「……それじゃ、トドメいこうか」 やや呆れつつ、光の槍を手にする恭一。 「ホタル先生、お願いしまーす」 鳥は使役ゴーストのホタルと共に同時攻撃。 「ぐあぁーっ!! ……ち、ちくしょうっ!」 坊主頭の男も、一溜りも無く崩れ落ちる。 「行くぞ」 「昔から言うでしょう、力なき正義は無意味ってねぇ」 真綾の拳に紅蓮の炎が宿り、リリは再び弾丸の雨を降らせる。銀誓館の能力者としてはレアな悪役だが、意外と板につき始めている。 「ぐっ……」 刀の男はその場に倒れ、ピクリとも動かなくなった。 「さぁもう一息、雪ちゃん」 「ええ、これでとどめですわ」 ――ゴォオォッ!! 再度吹雪の竜巻が吹き荒れ、レモンのクロストリガーが扇子の女を直撃する。 「せ、せめて……標的だけはっ!」 瀕死の重傷を負い、更に魔氷に苛まれながらも女は仕込み扇子をサトウ目掛け投げつける。 ――ヒュッ! 「ひ、ひいぃっ!?」 「やらせません」 サトウに襲い掛かる扇子だが、ソウヒの宝剣が間一髪叩き落す。 「まだですわ」 一瞬安堵しかけた一同に、市が注意を促す。 最後の一人、老年の男が音も無くサトウへ迫る。 ――シュッ。 脇差を抜き放ち、サトウに突き立てんと手を伸ばす。 「ひええっ!?」 ――ドスッ! 「ぐっ……!」 腹部を貫く刃。 しかしそれは勇人の仕込み杖による物だった。 「アンタ、狭い室内で暴れるのは危ないよ?」 ドサリと崩れる老人。サトウも腰が抜けたようにその場にへたり込んだ。
● 「さて、金なら払うと言っていたね。とりあえず、あるだけもらおうか」 「え? あ、あぁ……と言っても今は余り持ち合わせがな……取り合えず、後で秘書に連絡させるから」 暫し茫然自失の状態だったサトウだが、真綾の言葉にふと我に帰る。 脅威が去ったと実感すれば、命の恩人相手にも余り敬意を払う気は無い様だ。 「もちろんこれで終わりじゃないよ。次にお金が入る頃にまた来る。それまで、私を満足させるだけのお金をしっかり貯めておいてね」 「な、何? たかる気か!」 「どうせ悪い事して一杯溜め込んでるんでしょ?」 「何を言う! 人聞きの悪い!」 真綾とめぐるの言葉に、思わず声を荒げるサトウ。 「おじさん! 人の目を気にしてビクビクしながら過ごすのって疲れるし、カッコ悪いよ! 裏でこそこそしないで真っ当に生きたら?」 「お、お前達のような子供に何が解る! 大人の世界と言うのは複雑なんだ!」 びしっとたしなめるレモンに対しても、素直に取り合う気は無いらしい。 「今のままではいつか必ずあなたは裁きを受ける事になります。これまでに犯した悪事の為に。それを恐れて怯え続けるぐらいなら、いっそ悔い改めて世の為人の為になる事をなさってはどうでしょう?」 「ええい、うるさいうるさい! わしは世の為、人の為に尽くしてきた! 確かに、法に触れる様な事もしたかも知れん……だが、そうやって皆に慕われ感謝されてきたのだ!」 雪の正論に対しても、声を荒げて意見を曲げない。 「綺麗事ばかりでは何もなせないのかもしれませんし、汚いことに手を出すのも仕方ないのかもしれません。それでも悪いことを続けていては、いずれ暴かれ、罰されるものです」 「……む」 ソウヒは言いながら、先程まで繰り広げられていた戦いの跡を示す。 事実、彼は罰される直前だったのだ。 「それに怯え続けるより、ご自身の誠意をもって物事を成していかれる事を私はすすめます」 「……しかしな、世の中はそう簡単には出来とらんのだ……」 ぶつぶつと小声で言い返すものの、今まで程の勢いはない。 「サトウさん。逃げちゃ駄目、汚いやり方で得えたものに価値も何もないよ」 「……」 「どんなに苦しい状況でも這いつくばってでも頑張るんだよ。それが出来ないなら、そんなのやめてしまえ。サトウさん、あなたはその覚悟があるからその世界にいるのでしょう?」 「……うぅむ……」 恭一の説得を俯いたまま聞いているが、まだ全面的に同意と言う様子ではない。 「この小心者ー!」 「っ!」 鳥の声にびくりと腰を浮かすサトウ。 「サトウさんはきっと悪ぶるの向いてないんだよネ。バレるのが怖くてぷるぷるするくらいなら最初から悪いことに手を出さない方がいいのにー」 「……ワシも、最初から不正を働こうとして議員になった訳じゃない。だが……自分が不正の片棒を担いだと気づいたときには、もう引き返せなくなっていたのだ……」 「悪事を止めてふつーに清く正しくやってたら、きれいなサトウさんになったってみんな分かって、支持してくれる人が増えるカモー?」 「そうかも知れんが……」 「悪い事を悪い事だってわかってるおじさんなら、心を入れかえれば、これからはきっといい議員さんになれるよ♪」 「悪い事したのなら、国民の為に大きな仕事を倍にして成せば良い。まだまだ償えると思うが?」 「むう……」 鳥やレモン、勇人の言葉に軽く頷きながらも、まだ踏ん切りがつかない様子。 「清濁併せ呑むのも結構ですけど、悪いことばっかしてると夢見が悪いですよ。それに……この世のどこかにもいるみたいですよ? 正義の味方」 「正義の……味方……」 リリの言葉に、思わずぞくりと身を震わせる。 「良くお聞き、坊や。貴方が救われる道はふたつあるの」 「な、何だ?」 ずいっと顔を近づけ、言葉を紡ぐ市。サトウも圧倒的な威圧感に気圧される。 「……腹をくくるか首をくくるか、二つに一つを選ぶだけ。罪を認めて素直に生きるか、罪に怯えて惨めに死ぬか。さぁ、選びなさい? 選択できるだけ、貴方は幸せなのだから」 「うっ……わ、解った。もう金輪際不正は働かん! 心を入れ替えて国民の為に尽くす!」 「その言葉、信じましょう。今回はわたし達はあなたを助けましたが……悪事を続けるならば、今度はわたし達があなたを罰しに来るかも知れませんよ?」 言質を取り、穏やかに微笑みながら念を押す雪。サトウは怯えた様子で幾度も頷く。
● 「まあ、これで心を入れ替えてくれるといいのですけれど」 「少なくとも、彼の中で過去を清算する事は出来たんじゃないかしら」 サトウの夢……そして彼の屋敷を後にした能力者達。雪と真綾はそんな言葉を交わす。 これまでに為した悪事を素直に認め、能力者達に告白した事で、彼の良心の痛みは大分和らいだ事だろう。これで同じ悪夢に囚われる事は無くなった筈だ。 喉元過ぎれば――そうならない事を祈りつつ、正義の味方達は凱旋の途につくのだった。
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参加者:9人
作成日:2009/07/12
得票数:楽しい1
笑える10
カッコいい4
知的1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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