≪精神鍛錬部≫火奉りの巫者


<オープニング>


 細く長い登り参道の両脇には、灯りの消えて久しい石燈籠が境内までずうっと伸びていた。針葉樹に囲まれた昼間も暗き宮参りの道の先には朽ちかけた石の鳥居があるが、その先の空間は切り取られたようにぽっかりと開いていた。
 そこに、今や御社は存在しない。遠い昔、焼失してしまったと言われていた。それ以来、ここは何もない更地のままとなっていた。
「火産神社といってね、ここは昔火の神を奉っていたんだって」
 華山院・アドルフィーネが行っていた言葉を、七人は思い返していた。
 火の神、カグツチ……火産霊、火之迦具土神とはイザナギ、イザナミ神の子とされる古い神の名である。
 ……では、これはカグツチに捧げる舞なのだろうか。それとも浄めの舞であろうか。
 境内に足を踏み入れた八人の周囲は、いつの間にか明々と輝いていた。消えていたはずの石灯籠に火が灯り、無きはずの社がある。
 そう、ここはすでに地縛霊の空間。現実から離れた、一種の境目である。在るはずのない社が見えるのは、そのせいだろう。
 闇夜に燃ゆる火は、ぽつりぽつりと境内の端で輝いていた。
「……綺麗」
 アドルフィーネの瞳は、舞台に釘付けになった。舞台に立つヒトの影は、白と赤の壮麗で美しい装束を身に纏い、脇差しを幾つも操りながら乱舞していた。
 長い髪を振り乱し、しかしどこか規則正しい足取りで。
 だがここは現世ではなく、黄泉への入り口でもある幻の舞台。いつの間にか舞台への道を遮るように、境内に居る八名を三つの影が取り囲んでいた。

 八とは八百万。幾多の、多くの、沢山のモノを指す……特別な数字。
 カグツチとは、カグ(輝く)ツ、チ(霊)。

 舞台で舞い続ける巫者は、手を休める事なく続けるだろう。贄にする為か、黄泉へ誘う為か……いや、そのような事には既に意味などないのかもしれない。
 ここに居るのは、ただ火の神を奉る舞を続け、ヒトを永遠に黄泉へ閉じ込めるだけの霊だ。
 とおい昔、火に焼かれて消えたはずのお社が、一時蘇る。
 これは遠い昔の火産神社を映しているのだろうか、それとも……。

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参加者
藤井・友亮(ピストルディスコ・b00430)
峰連・要(コルネイユノワール・b00623)
篠森・臨(精神鍛錬部部長・b02387)
不破・零夜(漆黒の剣聖・b02805)
鷹原・星司(一斤染めを纏う・b05146)
片崎・澪(白星紅風・b05292)
華山院・アドルフィーネ(舞紅桜・b29046)
香澄・綾女(山間を渡る颯・b29624)



<リプレイ>

 蝋をじりじりと燃やす音まで聞こえて来そうな程に、細く小さな炎は明々と燃えさかっていた。社の中で舞う少女は薄明かりの下、軽やかな足取りで舞い続けている。
 こちらに気付いているのか、それとも気付いていないのか?
 少女の視線は、ちらりとこちらを見た気がした。
 確かに美しい……。
 華山院・アドルフィーネ(舞紅桜・b29046)は、その舞に一瞬目を奪われた。だが、彼女が作り出す舞というものが『人を冷たい牢獄に閉じ込める為のもの』であるならば、それを見過ごす事は出来ない。
 照らすもの、輝くもの……古来、舞というものは魅せる為のものなのだ。ヒトが何一つ楽しめない舞は、見ている神とて楽しむものか。
 アドルフィーネはふと笑みをもらすと、逆手にナイフを握りしめた。
「私は負けない……貴女には負けない」
 凛とした表情でアドルフィーネは言うと、つんと顎を上げて見すえた。
 開幕に舞ったのは、アドルフィーネの紙片であった。薄明かりの下、ざあっと風に流されるようにして紙片が舞い踊る。
 少女はそっと手を翳してそれを避けるような手振りをすると、視線をこちらに向けた。
 赤い唇がにやりと笑い、細い手を挙げる。それもまた舞い踊るような柔らかい手振りで、彼女はまるで扇を放つような動作で刃を放った。
 アドルフィーネの紙片と、それを遮るようにして放たれた刃。
 双方の力が舞台を包み込み、そして戦いへと押し流していった。どちらかが舞台を降りるまで続けられる、戦いの舞台。

 立ちふさがる影は、まるで写したように全て同じ顔同じ姿であった。その姿は闇に包まれたような漆黒で、一見してどれがどのような力を持っているのか判断しづらい。
 相手が動くのを待つか、それとも先に動くか?
 ……いや、既に戦いは始まっているのだ。ここで待っても仕方あるまい。目の前に立つ影が刀をすうっと持ち上げて構えるのを見て取ると、藤井・友亮(ピストルディスコ・b00430)は鉤爪を振り上げた。
 隊内を巡る力が鉤爪を伝って放たれ、勢いづいた力は影を吹き飛ばす。峰連・要(コルネイユノワール・b00623)と不破・零夜(漆黒の剣聖・b02805)が同時に影へと飛びかかると、ふと片崎・澪(白星紅風・b05292)が笑みを浮かべた。
「贄を求めるか……だが私達は黄泉に行く事は出来ん。まず先にお前達が逝くがいい」
 ゆるりと頭上で一旋させると、渾身の力を込めて澪が刀を振り下ろした。向かい来る影の構えは正眼で、動きは柔らかだった。
 動きを見極めつつ、澪は鞘に手を掛ける。相手が抜くより早く、澪は懐にすうっと入り込むと刀をすらりと抜きはなった。
 石灯籠に燃える炎を映した澪の刃は、白塗りの鞘から抜き放たれると影を一閃した。
 ……一筋縄ではいかない、か。
 澪は続く一撃を刃で受け流しつつ、その動きから目を逸らさぬよう視線を動かす。力強い一撃一撃は、澪の腕を痺れさせる。
「どこまでも真っ直ぐだな」
 思わず、笑みがこぼれる。
 赤く映える剣を下げた要は、その様子を横目に見て帽子を深々と下げた。澪も、そしてその様子を気にしている零夜もまた斬り合いに気が惹かれるのであろう。
 だがこれは『生き』と『死に』の境目であり、気を抜くと本当に連れて行かれてしまう。だから割切って、ここは言わねばならない。
 要の前に居た影が少し身を引いた後、吹き付けるような炎を放ってきた。避けた要の肩を焦がし、消えていく。それを見送り、口を開いた。
「コイツらは一つ一つ使う力が違うみたいだね。回復されると厄介だから、まず回復手を片付けて余裕を持たせよう」
 今ここに居るのは三体。だが何故だろう、安心出来ない。
 要の声に、零夜が澪の方へと視線をやる。むろん回復手が今の所見あたらないのだから、一人ずつ片付けていこうという提案だ。
 幸い、要の前……正面に位置するのは、後方から炎を放ちつづける影一つだった。直接対峙して教えておく必要がないなら、その間要も仲間の手助けが少しは出来るはずだ。
「アイツを片付けて両脇を排除すれば、壁が崩れるって事かな」
 両手に深紅と黒色の刃を下げ、要は友亮の方に身をむける。
「俺が遅れを取っているとでも言うのか?」
「いやいや、めっそうもない」
 くすりと要が笑って構えた。
 合図もなく友亮が影へと飛びかかると、そのやや後ろに要が続いた。友亮の『影』に付き、その鉤爪が影を喰らうと同時に、要の剣もまた黒い光をゆらりと放ち肉を裂く。
 鉤爪から沸き立つ炎は影の身を焦がし、焼いて行った。
 なおも執拗に加えられる拳は、絶えず炎を放って揺らめく。己もまた炎を使う身であるが故、友亮とて負ける訳にはいかぬ。
 その、覚悟であった。
 だが要が続いて攻撃を繰りだそうとした瞬間、相手がすうっと姿勢を低く下げのに気付いた。とっさに要は飛び退いたが、刃は僅かにその胸元を裂いて横に空を薙ぐ。
 孤を描く刃は、そのまま友亮の体に溝を作り抉った。
「下がれ、俺が出るっ!」
「……」
 そうは言うが、あまり距離を開ければ後方に突っ込む隙を与える事になる。踏みとどまった所、追い打ちを掛けるような炎が要の体に炸裂して焼いた。
 視線の端に、先ほど要が相手をしていた影と……その向こうに、舞い踊る巫女の視線。一瞬、合った気がした。
 その手が再び、空に刃を放った。
 それでも身を焼かれようとも、刃で裂かれようとも攻撃は止まぬ。荒々しく叩き込まれた友亮の拳と交差するように、要の剣が貫いた。
 まだ、要の体には影の撃った刃が食い込んだまま。
 後ろからぼうっと光が灯ったと思うと、長い影を地面に落とした。十字に象られた光が炎を放っていた影と二つ、巻き込んで降り注ぐ。
 一番打たれ強い要と、どこかいつもより前に出る友亮と、そして肩で息をしている……鷹原・星司(一斤染めを纏う・b05146)と。十字架は星司の背後からふっとかき消え、その力を失った。
 即座に要が次の標的を探して視線を動かす。星司もまたそうしようとして、目を見開いた。
 要と友亮が斬り割いた影と、そして同時に消えた澪の前の影。
 確実に一刀一刀打ち込む零夜の合間に穿たれた澪の一撃は、相手から力をじわりと吸い取り体に蓄積した疲労を少し癒した。
 斬り割かれた影が闇に溶け込むと、炎がじりっと爆ぜた。そして再び、ふたつの影が現れる。寸分違わぬその姿、手に持った刀を振り上げ斬りかかる。
 やや動揺しつつ、刃を零夜が受け止めた。
「くっ……まだ居るのか」
「もしかして、倒しても倒してもキリが無いとか?」
 少し呆れたような声で、星司が言った。
 前は友亮と要に任せるしかなく、星司は後ろでフォローするしかなく。星司の使う力は、安定した火力は得られない。前を友亮や要に任さねばならない分、それが少し気になっていた。
 一つ消えてはまた現れ、いつまで続くのだろう?

 左右に一度って居た二体が消え、再び現れた影。
 左側の友亮達の側に居る影はまず真っ直ぐに刀を突き、友亮の懐に飛び込んだ。強力な一撃は、友亮の右脇腹を抉って貫通し、地面に血だまりを作る。
 よろりと姿勢を崩した友亮の代わりに要が立つが、その要とて無尽の体力がある訳ではなく、度重なる攻撃を受けて相当消耗していた。
 ……ほんと、みんな無茶ばっかりして。
 不安そうに、後ろで篠森・臨(精神鍛錬部部長・b02387)がそれを見まもる。
 さらさらと流れる髪が風になびくたび、臨の眼光から禍々しい力が放出されてゴーストを襲った。まるで、リセットボタンを押されたような気分である。
 仲間がせっかく倒したのに、再び傷一つないゴーストが二体現れたのである。
「案ずるな、零夜達を見ろ」
 香澄・綾女(山間を渡る颯・b29624)の声に、臨が右手を見やる。
 そちらに居たゴーストは零夜と澪の連撃に押されぎみで、力を使って自分の傷を治癒し続けていた。要の言ったように、治癒を行うゴーストが居たのだ。
 細い腕がすうっと上がり、奥を指す。
 ゴーストの腕の先には、刀を持った影があった。ゴーストの体から細い光が放たれたと思うと、それはふわりともう一体のゴーストを包み込んだ。
 直後、零夜の刃がその体を分断する。
 ゴーストは消えど、その力は既にもう一体へと宿っていた。
「何をした?」
「……気を付けて!」
 零夜が問うと、臨は叫んだ。
 ようやく削った、と思った星司の十字架に照らされたゴーストに、要も友亮も少し安堵していたかもしれない。だが力を取り戻したゴーストは、凄まじい勢いで刀を突いてきた。
 右翼の位置も、また一体現れる。
 ぎゅっと拳を握りしめ、臨は仲間を見つめた。
 長い時間が経過した気がする。幾度も繰り返される死と再生の螺旋は、心を締め付けた。
「あと……あと何回倒せば終わるの?」
「しっかりしろ」
 綾女の声に、視線を巡らせた。
 優しく笑む綾女は、少し疲れたような表情であった。殆どの仲間は自分で治癒を行えたが、回復は綾女に一任していると言っていい。
 だが前衛が次々削られ、後ろで舞い手が脇差しを放って来る。一度に二人も三人も傷を看てやれる訳ではないから、綾女の治癒だけでは手が足りていなかった。
 前衛を支えるだけで、綾女は手一杯である。
 それでも心配するように笑った綾女に、臨も少し表情を和らげた。
「カッコイイ所みせてくれるんじゃないの?」
 それは臨から友亮に言った言葉だったが、澪や星司達からくすりと笑みが洩れた。
 自分の傷を顧みて、星司が振り返る。
「それじゃあ、格好良くいこうか」
「カッコイイのは今からだ!」
 友亮が叫び返した。
 友亮に続いて要が、そして澪と零夜が息を合わせてゴーストに突撃する。その後ろに立つ星司は次々と槍を作り出して放ち、ゴーストを串刺しにしていった。
 畳みかけるような総攻撃を支えているのは、綾女の治癒と……そして、アドルフィーネの支え。星司に栄養剤を放ると、空中でキャッチした星司に笑いかけた。

 ゆらりと炎が燃える。
 焼失したはずの舞台の上では、少女が一人踊り続けていた。
 一人、また一人と影が消え去り残ったのは彼女一人となっていた。最後のゴーストを倒し終えた時、前に立っていた四人は殆ど力を使い尽くしていた。
 最後の炎で纏めてなぎ倒した零夜は、その凄まじい放出ゆえにまだ力が戻っておらず、臨も邪眼の力を使い尽くしている。
 残された力は、僅かであった。
 舞台の下から見つめる星司の瞳に、その姿が映る。
 ここに居るのは、どんな人の残像なのだろうか。どのような思いを持った人の残した思念であろうか。熱心に舞う姿に、星司はふとそんな事を考えて居た。
 燃えてしまった社への思い?
 ここが永遠に神への『道』である事を願う思い?
「祈る、思い、願いっていうのは生きてる人の特権だよ!」
 臨の声に、星司はびくりと肩を振るわせた。
 力強い臨の言葉が、少女の動きを止める。言葉が通じた……などという事はないはずだが、その力強い声音に少女は意識を動かされたのかもしれない。
「迷わず進み、よりよく生きていくための導きを得るためにあるんだよ」
 死した者の残像が生きている者を縛り付ける為のものでは、決して無いのだと。
 臨のその言葉で、星司はそうかと頷いた。生きている時の思い、それを永遠に生死の螺旋に閉じ込めてしまった。
 彼女は、抜けられぬ階段で永遠に神への思いを描き続けるのだ。
 星司の頭上に光り輝く槍が出現すると、零夜と要が舞台に駆け上がっていった。交差する刃が少女を貫き、振り下ろされた槍が舞台に釘付けにする。
 びくりと身を震わせながらも最後の力で刃を放つが、既にひと一人を道連れにする程の力は持っていなかった。

 ふう、と消えた炎の後に残されたのは、暗闇だけであった。
 空から振る青白い光だけが、八名から影を作り出している。ぼんやりとした光の中、ほうっとアドルフィーネが息を吐いた。
「……終わったね」
 ぽつぽつと歩き出し、ちょこんと立つ。
 アドルフィーネが立ったのは、ちょうど巫者が舞っていた舞台があった所だった。くるりと振り返り、寒そうにコートを合わせる。
「たき火でもして暖まろうか?」
「いいね♪ みんなでやろうよ」
 臨とそんな話をしているアドルフィーネ。誰ともなしに枯れ木を集め、近くの川から水を組んでたき火の準備をする。
 空高く上る煙と燃える炎は、火の神に仕えた彼らの為に。
 そらを見上げ、臨が口を開いた。
「もっともっと、空高く飛んで……送ってあげてね」
 臨に続いて空を見上げたアドルフィーネに、そっと綾女が近づく。
 彼女の視線の先に何があるのか、何を見ていたのか? それを聞こうとして、綾女は飲み込んだ。これはハレとケの境目。
 あるいは隙間。
 この世とあの世の、ほんの少しの隙間だ。
 アドルフィーネ……そしてここに居る仲間達の心が、そのようなものに捕らわれなければ良いが。心配そうな綾女の表情をかき消すように、アドルフィーネが振り返って微笑んだ。


マスター:立川司郎 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/01/22
得票数:カッコいい18  ロマンティック3 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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