シングルベル


<オープニング>


 銀誓館学園のクリスマスパーティー。
 毎年、様々な趣向を凝らすパーティーが開催され、学園はクリスマス一色に染まります。
 冬休みを目前としたクリスマスイヴの日は、振替休日という事もあり、本当に様々なパーティーが開かれるようです。

 クリスマスパーティーは無礼講。
 たとえ、今まで一度も口をきいた事が無い人とでも、一緒にパーティーを楽しむ事ができます。
 クリスマスパーティーは、新しい友達を作る為のイベントなのですから。

 気に入ったクリスマスパーティーがあれば、勇気を出して参加してみましょう。
 きっと、楽しい思い出が作れますよ。

 クリスマスと言えば、恋人との二人の甘く幸せでこう何か色々とイチャイチャして時間を楽しむという雰囲気が世間一般に漂っていたりする。
 だが、だが、しかし! 世の中にはそんな幸せ一杯な人間ばかりではないのだ! イチャイチャしたくてもできない人だっている。
 主な原因は相手がいないからというものなのだが、それはさておき。
 そんな人だって、クリスマスを楽しみたい。孤独はもう嫌だ。幸せを享受する権利は誰にだってすべからくあるはずだ。そうでなくてはならない。
 誰が始めたのかは分からない。だが、そんなこんなで企画は進んでいく。悲しみと悔しさと羨望、そして心の奥底に秘める嫉妬の感情を燃料に。
 そして、パーティーの企画は立ち上がる。何か決定的にどこか間違ってしまったかもしれないが、立ち上がってしまった。
 題して。
『独り身のためのクリスマスパーティー』
 独り身の人とかで集まって、お互いの失恋話などを笑って、自棄ジュースをあおったり、ケーキを自棄食いしたりして、悲しみを吹き飛ばしましょうとかいう主旨だ。そういう主旨になっている。
 それ以上は何も言うまい。否、こういう主旨をお題目として立てなければならないくらいの怨念がこもっているのかもしれない。
 これはきっと楽しいパーティーになる。なるはずだ。なるに違いない。

 なお、このパーティーへの参加資格は男女問わず自由である。
 そして何故か独り身であろうと独り身でなかろうとも。『幸せの享受は全ての人に』をモットーに動いているからなのかもしれない。
 だが、注意されたし。周囲は独り身の集まり。恋人同士での参加はすなわち惨劇の舞台を招くかもしれないということを。
 そんなこんなの酷い雰囲気でパーティーは始まる……。

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<リプレイ>

 時刻は午後三時。宴もたけなわだろうか。そんな楽しいオーラが漂う周囲とは違った趣のある一つの会場。

●始まりはどす黒い感情と共に
 カラリと音を立て、会場の扉が開く。
 ゼルはそこがどういう場所かをあまり分かっていなかった。だが、手に取っていたチラシ以上の怨念とその他諸々がそこにあることだけは入った瞬間に分かった。
「く……クリスマスなんて、大嫌ぃ……」
 和奏はすでに死んでいた。何がって、精神が。中でぶっ倒れ、こぼれる声には精彩が欠片もない。もう何か生きる希望さえ捨ててしまっちゃったような呪詛。道中のラブラブオーラに中てられ、息も絶え絶えになった末路がこれ。
「全ての存在を否定しにきました」
 鈴夏のぞっとする声。壊れたラジオのようにそれを連呼する。ぶっちゃけ、怖い。何が彼女をここまで追い立てるのか。答えは全てクリスマスの一言で片付けられちゃう辺り何か不憫だ。
 部屋の隅で体育座りしつつ滝のごとく涙を流す龍麻。学校でのイチャイチャなんて不純異性交遊だーと自己理論を展開していったが、結果として自滅。心が打ちのめされただけ。それもこれもクリスマスの以下略。
 他にも。
「お前ら! 恋人持ちが憎いかー!」
 空之介が煽る。返ってくる返事にはおぞましい気迫が漂っている。これだけでゴーストが出てくるんじゃないかってくらいに。
「クリスマス? ぼっこぼこにしてやるよ!」
 シュシュシュと腕を突き出しながら、シャドーボクシングのように構えを取るさとる。
「面白いくらいクリスマスの予定が無かった」
 そんなこともあるだろうと鏡介は呟きつつ。見た目はわりと落ち着いている様子なのだが、カタカタと震える身体を押さえきれない。それはほとばしる負の感情がそうさせているのか。
「……胸の痛みは、共感できるからな」
 恋人のいない正和は彼らの気持ちを十二分に理解できている。中には失恋で傷ついているものがいるかもしれない。そんな配慮をしつつ、楽しめればと思っていた。
「ケーキのやけ食いしにきた!」
 悲しみを昇華させようとするジャック。目はすでに用意されてあるケーキしか見ていない。否、それ以外を目に入れようとせずにいた結果がこれなのか。実に悲しい。
「フライドチキンとシャンメリーもいっぱいございマスよ!」
 初芽のようにとかく沈みがちな雰囲気を盛り上げようとしたりする者もいる。周りは見てて痛々しいほどに嘆き悲しむものばかり。趣旨は少し違っているかもしれないが、宴会を盛り上げることも役目の一つだと考えて。
「独り身でクルシミマス。マゾにはたまらん行事である」
 そして、菊一紋次朗というヘンタイが一人混じっていたり。変な仮面が周囲からも浮いている。うん、彼は独り身で当然かもしれない。周りも彼には近寄っちゃいない。
 始まったばかりのパーティー会場を、ごっちゃ混ぜになった色んなモノが支配していた。

●独り身でも楽しめますよ?
「独り身だっていいじゃない!」
 声高らかに叫ぶ玲樹。その言葉に一体、何人が勇気付けられたことか。
「風見先輩……」
 兄のハルフェリスと参加した朱里は、意外な人物がいたことに戸惑う。なぜ、こんなところにと。ちらと兄の方を見る。達観した様子のハルフェリスは薄く微笑むだけ。
 別に急がなくても良かろう、と。弟に恋人がいないことを不思議に思いながらも、そんな彼を励ます。ハルフェリスの優しさに、朱里は無理に笑って応える。朱里だって恋人は欲しかったりするが、己の思いを秘めすぎていた。
 寒い日にはおでん。正義は持参したおでんを貪りつつそう思う。完全な自棄食いだというのは分かっているが、どうにも。別に良いのだ、おでんは主食だからとか考えつつ。それでも、やっぱり見た目は不機嫌、目つきが凶悪で。独り身の心はささくれ立って仕方がない。
 毎年、恒例のシングルベルも今年で十八回目。溜め息をついて遥はぼんやりとケーキを口に運ぶ。
「……すっぱりと諦められれば良かったんだけどな」
 ぽつりと呟く。それは懊悩となって彼を責める。が、頭を振ってそれを追い出す。折角のパーティー。ただでさえ、この中は炒り過ぎたコーヒー豆の如くブラックなのだ。これ以上どす黒くしてどうする。
 アンナは泣きそうだった。クリスマスなのに一人ぼっち。廊下にはカップル。すれ違えば自分が浮き彫りになるようで。
「貴女も独り……?」
 ずるずると這っている和奏に声を掛けた。どこかシンパシーを感じたのかもしれない。
 出会いもなく、恋愛に発展しそうな相手がいない。さめざめと語る。恋がしたいと呟く。
 和奏も気のおける友人が日本におらず散々なクリスマスだった。二人は何かに導かれるように己の胸の内を語り合いケーキへと手を伸ばす。
 どんちゃん騒ぎと自棄食い。今日ばかりは乙女の秘密とかカロリーなんて気にしていられない。
 その横ではジャックが倒れている。目じりに涙を湛えて。同じようにバタリと倒れこむ龍麻。お互いに自棄食いの結果だ。もう、食べられない。
 ジャックは己の悲しい思いを打ち明ける。必死に日本語を勉強して愛を伝えようとした相手がいて。でも、それは男で。
 ぐすぐすと涙を流すジャックの肩を龍麻は叩いて励ます。君の努力は無駄ではない。ほら、こうして出会えたんだから。……独り身が集まる会場で。
 友情が芽生えた瞬間だった。
「おーぅ、鏡介ー、さとるー。飲んでるかー!」
 オレンジジュース片手に少女が大声を上げる。持参したピザをもそもそと口に運んでいる鏡介と、遠い目をしているさとるの肩を抱く。レイはアルコールが入ったようなテンションになっているが、この中に酒はない。単純にテンションを上げないと身が持たないだけだったりするわけで。
「まぁ、ほら、ピザでも食えよ」
 レイにピザを勧めつつ。お互い、独り身だ。何か言おうとも思ったが口をつぐむ。こんな状態に追い討ちをかけても可哀想だ。
 隣のさとるが己の苦い苦い武勇伝を語る。ぶっちゃけ同性にしか告られたことしかないと。確かに見た目は男の子っぽいのだが。うん、きっと春は来るよ。今は冬だけど。
 何も恋人と過ごすだけがクリスマスではない。友人同士で馬鹿騒ぎすればきっと心も晴れる。
 景時と眞風は友人同士。カップルカップル、カップルだらけの周囲とは違うここ。ある種の安らぎを感じる。ちょっとした寂寥感と共に。
 始まりは恋人がいるかいないかというそんな会話。お互いのいないという切ない回答が出て。さらに溜め息。そして、カップルを嫉妬しつつも羨ましがって。
 最後には目の前のケーキで肉まんのおごりをかけた大食い競争が始まる。子供っぽいかもしれないが、こういうのも悪くはない。
 目の前にあったケーキをミライに取られて牡丹は彼とカードゲームに興じる。きっと、それも楽しいはずだ。
 カサンドラとカイトも友人同士での参加だ。性格は真逆だけど、気の合う仲。
 少し離れた場所でパーティーを眺めるカサンドラ。適当な料理を持ってカイトが戻ってくる。
 独り身での寂しさはよく分からない、と。カイトにふと尋ねるも少し分かりづらい回答が返ってくるだけで。
 すっと差し出されたチキンを口に運ぶ。人の幸せを見るのも楽しいから、それで充分かと納得。今回の場合は周りの不幸も見るのも楽しいが。くつくつと笑む様子はちょっと黒い。
「そう言えばお前は、慕って居る者は居らんのか」
 純粋な興味でそう問えば。軽く食べ物を吹き出しつつ、お前に決まっているじゃないかと返ってくる。お互いに他意はない。友人として。それで充分だった。
 ただ、そんな二人は周りから嫉妬の眼差しで見られていたことは確か。男女のペアだし。閑話休題。

●語り合いは呪詛へ
 まぁ、だけど、楽しい雰囲気だけではすまないわけで。当然、会話が進むと次第に黒いオーラが混ざってくる。むしろ、ほとばしる。
「全ての存在を否定しにきました」
 瞳とか毛皮とか角とか何か異様にリアルなトナカイの着ぐるみを着た夜の横で鈴夏はしつこく呪詛を呟く。
 クリスマスがカップルの聖典とか言い出したのはどいつだと。これではあの人も浮かばれないと。訳の分からない情報に操られて悲しい。えぐえぐと泣いている。多分、嘘泣きだが。
「商業主義にやられてカップル祭りになってるんだったら許せないよねー」
 トナカイが答える。このトナカイ、もうちょっとデフォルメしても良いのではなかろうか。そんなことを言ってはいけない。きっとカップルにプレッシャーを与えるためだ。
「そう、カップルに神はいないッ!」
 ドーンという効果音と共に鈴夏は叫ぶ。カップルは何とかさんの誕生日をないがしろにしている。それはすなわち、カップルは天の意思から外れた存在!
 そう熱く語り、そして、グッと固くトナカイと手を握る。お互いに何か通じ合うものがあった。かもしれない。
 うがー! 絶叫する光紀。何というか鬱憤が爆発した。結社でできた新たな二組のカップル。初めてのクリスマスと浮かれるソレを思い浮かべるだけで、あれ目から汗が。きっと涙ぢゃない。涙って言ったら負けな気がする。
「企業に踊らされてはいけないんだッ!」
 ズズイッとトナカイに近づいて、ガッと固く手を握る。ここに謎の同盟が爆誕した。そんな気がする。彼らは慎ましやかに食事を始める。誰かの誕生日を祝って。おそらく。
 あぁ、憎い、妬ましい! 本格的な呪詛を吐くのはヒンメル。彼のどす黒さは並でない。
「気になる子は大体彼氏もちだったりするんだよね、無理無理」
 どれだけ、胸に嫉妬を秘めているのか。計り知れない。
 町を歩けばアベック。右を見ても左を見てもアベック。敵、敵、敵、敵。敵だらけ。
 皆に平等な甘いものでさえも敵に回った。ケーキ屋に行けば、独り身でケーキを買おうとする様子への憐れみの眼差し。もう、たくさんだ。
「良いんだ良いんだ、どうせ結構な割合でイベントが終わったら自然消滅していくんだ……!」
 彼の心にすでに他人を思いやる余裕はない。自分の境遇が苦しすぎる。
 本当に、どうしようもない。そんな空間と化していた。
 ちょうどその時、会場の扉が開き、また一人が入ってきた。これでもかというほどに仲間は増えるのか。
「あれ、何のパーティーです?」
 新たに入ってきた少年、葬はそう言うと周囲の声に耳を傾ける。
「あぁ。恋愛談義で盛り上がろうとかそんな感じですか? じゃあ……」
 空気が、凍った。五度くらい周囲の温度が下がった気がする。
 ギギギという音を立てて一斉に皆が振り返った。
「恋愛って言うのはちょっとした出会いから始まるものですよね」
 誰もそんなこと聞いていないのに語り始める。
 自分の恋人との出会い。そして、進んでいく仲。甘く淡く綺麗な思い出。紡がれるのは相反する純真な話。眩しい、眩しすぎた。そして。
「……で、思いきって運動会の時に告白して。受け入れて貰って……正式におつきあいを初めたんですよね」
 火に。油が。注がれた。

●生贄は嫉妬の炎で燃え盛り
「こっ……これで勝ったと思うななんだよー!」
 和奏が耐え切れず教室の外へ飛び出した。見事なまでの捨て台詞。可哀想に。
 まだ、状況の飲み込めていない葬の両肩ががしりと掴まれる。
「恋人持ち? まさかこの会場にそんな奴はおらんよな。なあ?」
「クリスマスに血の聖戦を……!」
 鏡介の笑っていない笑顔に、空之介の血も凍るような冷えた声。
「わー、カップルさんなんだねー。凄いねー」
 迫るリアルトナカイ。そのプレッシャーは身も凍る。
 他にも爛々と光る目。
 ジッと見つめる龍麻の瞳。それはまるで飢えた獣のよう。
「あなたの存在を否定しに来ました」
 鈴夏の文言はもはや限定されていた。
「恋人もちは急用が入って彼女を待たせた揚句後で問い詰められれば良いんだ!」
 逃がす気はないのか、ヒンメルが逃げ道を塞ぐように立つ。何も関係ないのにここぞとばかりに便乗した凍矢までもが立ち塞がる。
 トドメに。怖気の走る一言が。
「カップル? 俺が今そんなのを見かけたら、ためらいなく男の方に変な属性くっつけてやんよ」
 仮面が熱い視線をお尻に向ける。色んな意味で危険だ、危険すぎる。終いには服を脱ぎだそうとする始末。さすがに途中で誰かのボディーブローにより沈んだ。
「ハッピーホリデー! 幸せなカップルさんに素敵な一日を」
 鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気だが、邪悪な笑みが浮かんでいる。玲樹の手元にあるのは美味しい美味しいお菓子。と、称したからし入りのシュークリーム。空之介が込めた嫉妬の黄色い嵐が中には秘められている。
 ここに来て葬は己の身の危険を感じた。全力で逃げようとするが、肩を押さえ込まれて動くこともままならない。迫るシュークリーム。
 悲鳴が響き渡った―――。

●炎が鎮まって
 晴れやかなとまではいかないが、それでも心に溜まった鬱憤を少しは晴らせたのか皆の表情はややほころんでいた。さすがに、これで完全に消し去れるほどの怨念ではないのだが。生贄となった彼には黙祷。
 少しずつ暗黒も晴れていっている、多分。
「サァ、皆さん、楽しみマショウ」
 生贄の介抱が終わった初芽が再び場を盛り上げる。服をイルミネーションで飾って、明かりを灯せば暗い気持ちも吹き飛ぶだろう。楽しく宴会を盛り上げるのが彼女の役目。次第に活気付いて。
 シャイなせいで遅れてやってきた旅が、少なくなってきたケーキやクッキーの追加を大量に持ってくる。色恋沙汰に疎い彼女は周りの体験談を聞く。あまり、当てになるとは思えないのだが、それでも彼女にとっては新鮮で。
 男女が仲睦まじいのは素晴らしいこと、だから妬むよりは祝福すべきだと。菊一紋次朗は頷きつつ、脇で豆腐を砕く。人肌でぬくもったそれを、パーティーが終わったらカップルに配りに行くらしい。どう考えても嫌がらせでしかない。周囲もさすがに引いている。彼はどこまでも混沌だった。だが、それもまた一興。
 よさみと若菜、花子、ハンナの四人は声を揃えて歌う。さすがに、バンドの準備はできなかったが、歌でも充分に人の心は安らぐ。食べて、飲んで、元気に歌って、騒げば。それを吹き飛ばして盛り上げるために彼女たちは歌う。
 朱里が皆にクラッカーを配る。一斉にそれを引けば、音と共に色とりどりの模様が空中に描かれて。レイも弾けるようにはしゃぎながら参加者に絡む。
 独り身でもたくさん集まれば、それは楽しくて。わずかばかりではあるが、独り身の空しさも忘れられる。パーティーは賑やかに続く。
 きっと来年は皆の隣に素敵な人がいると思う。
 そう信じて。メリー、クリスマス!


マスター:屍衰 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:36人
作成日:2008/12/24
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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