憎悪の鼓動は、足元に


<オープニング>


 鈍く重たい音が深夜の路地裏に響く。
 立ち並ぶ建物によって光も月明かりも遮られたアスファルトは、夜の冷たさだけを滑らせていた。
 押し上げられたマンホールが擦れる。その音に、けたたましく笑いあう酔っ払った若者達は気付かない。
 のそりと這い上がろうとした存在は、響く笑い声と人気を知り、動きを止める。すぐに立ち去る気配も無い地上の生者に、奈落の底から上がってきたばかりの存在は、再びマンホールでふたをする。
 地下にうごめく影を知らずに、夜が更けようとしていた。


「地下にもぐって、ゴースト退治をお願いしたいんだー」
 井伏・恭賀(高校生運命予報士・bn0110)は、集まった能力者達にそう告げた。
 危うく地上へ出てこようとしたリビングデッドがいた。
 偶然にも幾つもの人気があったことで、彼の者は一先ずねぐらへ戻ったのだろう。おかげで被害はまだ出ていない。出ていないからこそ、今のうちに取り除いておくべきだ。
 該当区域にいるゴーストは、地縛霊と妖獣がそれぞれ一体、他は大量のリビングデッドだ。
 繁華街の裏手、夜間ならば酔いの回った大人や遊んでいる若者達が時折通ることもある場所だ。能力者達は昼間に向かうため、夜間と異なり路地裏に人気も無い。
「目標は奥にいる地縛霊を倒すこと。途中には大きな妖獣もいるから、気をつけてね」
 雑魚がリビングデッドで、逃走可能な中ボスが妖獣、ラスボスが地縛霊といったところか。
 リビングデッドは猫、人型、ネズミ、スズメの三タイプ存在する。スズメは人の胸ぐらいまでの高さで飛ぶため、攻撃が届かぬこともない。
 また、小動物のリビングデッドならともかく、人型リビングデッドは移動の妨げになる可能性もあるだろう。他のリビングデッドと異なり、しがみついてくるのも厄介だ。
「下水道へ下りて暫くは一本道だよ。問題はその後で、小部屋がいくつもあるんだ〜」
 何に使うつもりだったのか解らぬ小部屋が、ずらりと五部屋ならんでいる。
 大きさはいずれも同じぐらいで、教室の半分程度と少々狭い。その部屋のどれか一つ、奥の床に小さいレバーがあるのだが。
「各部屋にも、リビングデッドが五体ずついるよ〜。通行の邪魔だよね」
 人型が三体道を塞ぎ、猫二体が待ち構えている。
 少なくとも部屋の扉を塞ぎ閉じ込めてしまえば、通路まで溢れてくることはない。逆に扉が開いている間は、部屋と通路をゴーストも自由に行き来してしまうのだ。
「そのレバー、重要なの?」
「おお、水の流れる向きが変わるからね〜」
 首を傾げた能力者へ、恭賀はレバーの話を続けた。
「部屋が並ぶ通路の脇はね、水路になってるから当然水も流れてる」
 恭賀によると、水を方向転換させることで、深さ2mほどの水路へも踏み入れることができる。そしてその水路には、更に地下へ続く階段があると言うのだ。普段から施錠されたドアがあり、蹴破るなりして開けると、階段が姿を現す。
 地下へ続いていることもあり、水が流れている間にそのドアを開くのは、いろいろと危険だ。ゆえにレバーで切り替えようと恭賀は提案した。
「レバー切り替えしなくても階段下りられるけど、下にいる間に水がどんどん……とか怖いから」
 水練忍者さんの本業能力なら大丈夫だけどね、と恭賀は肩を竦めて。

「その階段下りてすぐの通路に、妖獣がうろついてるよー」
 チェーンソーの刃に似た鋭利な尾と牙を持つ豹だ。
 体力が洒落にならない程あるが、その分技らしい特殊能力は少なく『雄叫び』一つのみ。後は尾や牙で噛み付くか叩くだけと――攻撃そのものは単純だ。
「がおーって絶叫されると、ビリビリと脳を揺すってマヒっちゃうんだ。気をつけてね」
 広範囲へ響くため侮れないものの、幸いこの咆哮で傷を受けることはない。
「んで、妖獣がいる通路の先には大きな空間があるんだ。すっごく戦いやすい広さだよ〜」
 大部屋に佇むのは、無数の強力な残留思念が絡み合い、集積した姿の地縛霊。部屋から出ることもなく、ただただ思念を集めているようだ。
 放っておけば、そのうち充分に力を蓄え、地上へやってきてしまうだろう。
「妖獣を倒すかどうにか抑えておけば、地縛霊戦は地縛霊一体だけになるね」
 地縛霊の使う能力は二つ。
 怨念の塊を撃ち出し直線上を叩く攻撃は、神秘に優れるうえ、身動きが取れない状態でいると、あっという間に戦闘不能に陥る付与効果を持つ。
 そして、もう一つの技は広範囲へ憎悪の塊を放る。まともに喰らうと、痛みと共に体力も奪われるため、油断は禁物だ。
「とにかく気をつけていってらっしゃい、能力者さん。頼んだよ」
 恭賀は深々と頭を下げて、能力者達を見送った。

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参加者
霧生・颯(マンドラゴラは植物です・b01352)
柾上・霧也(白虎の御使い・b02299)
千鴉羽・志音(花銘武器使い・b16143)
式守・澪音(向日葵に憧れる日蔭草・b16799)
緋野・珠代(ヘリオン・b21193)
鳳・紅介(スカーレットスキル・b21282)
楸・和人(終の楽園・b24559)
八手・鉋(華鬼・b36570)
ラル・ビスタ(南心ヲ受継ギシ者・b39349)
七枷・むつき(六花ノ符術士・b42506)



<リプレイ>

●深淵
 足元に蔓延っていた悪意は、地上を離れた能力者達にしつこく付き纏う。
 ぬめる感触を踏ん張りながら暗闇を照らすのは、懐中電灯の光だった。最後尾の緋野・珠代(ヘリオン・b21193)が、仲間達が水路へ足を踏み外さぬよう、視界の難を除いている。
 仲間達の様子を確認した珠代は、すぐそばに立つ柾上・霧也(白虎の御使い・b02299)へ振り向く。
「準備バッチリみたいね」
「では扉をお願いしますね」
 得物を構えた霧也が、開閉を行う役目を担った式守・澪音(向日葵に憧れる日蔭草・b16799)へ視線を向けた。
 うごめきの漏れてくる部屋はこれで三部屋目だ。
(「相変わらず地下に縁がありますね……」)
 微かな吐息の後、澪音が扉を勢い任せに全開する。
 鳳・紅介(スカーレットスキル・b21282)が真っ先に飛び出し、一瞬のうちに金色のエアシューズで蹴り上げる。
 ひしめくリビングデッドの群れは、暗がりの中でレバーを探す能力者達へ襲い掛かり、行く手を阻む。
「……不快なこと、この上無いですね……」
 苛立ちを含んだ楸・和人(終の楽園・b24559)が腕を広げ、氷雪の竜巻で腐りきった肉塊を払う。
 その間に、ラル・ビスタ(南心ヲ受継ギシ者・b39349)の独鈷杵が前衛へ絡み付こうとした一体を薙ぐ。振り向きシャーマンズゴースト・シャドウのバロンを見遣れば、バロンは両腕を振り回しながら敵へ突撃し、道を切り開いた。
 今までの戦いも重なる中、千鴉羽・志音(花銘武器使い・b16143)の浮かび上がらせた影が腕を模り一体を引き裂く。
 ――切り捨ててみせるさ。百や二百いようと。
 志音の意気込みが敵へ向いた刹那、勢いを殺さぬうちに一体のリビングデッドがガラスの剣に斬られた。八手・鉋(華鬼・b36570)が霧のレンズを通して放ったものだ。
「しぶといですね。これならいかがでしょう」
 言葉と共に七枷・むつき(六花ノ符術士・b42506)が竜巻を仕掛ける。凍えるような吹雪が駆け、敷物のようにリビングデッド達が床を埋め尽くしていった。
「撃ち漏らしは無い……みたいだね」
 あどけない碧の瞳をきょろきょろと動かし、霧生・颯(マンドラゴラは植物です・b01352)が室内を見回す。
「レバーってこれでしょうか」
 流れるような髪を背へ払い、むつきが珠代に懐中電灯を向けてもらいながら指差す。錆び付いた取っ手を引っ張り上げると、途端に先ほどまでいた通路が鈍い音を響かせる。
 部屋へ入らずにいた仲間達は、通路脇の水路から徐々に水が減っていくのを眺めていた。何処かで方向が変わったのだろう。姿を現した水路は、大人一人埋まってしまうほどに深い。
 戦闘後の息抜きを終え、明かりを揺らしながら覗き込むと、地下へ繋がっているらしき施錠された扉がすぐに見つかった。迷わず霧也が剣の切っ先を引っ掛け、地下へ伸びる階段を丸裸にする。
「じゃ、後の小部屋は放っといて、妖獣のトコいこっかー」
 珠代が元気よく拳を振り上げ、笑顔で告げた。
 深き闇へと、能力者達の後姿が吸い込まれていく。

●憎悪の鼓動
 幾度とない金属音が戦を奏で、静寂と妖獣の唸り声に支配されていた通路は、もはや戦場と化していた。
 和人の手にある白燐蟲が周囲の明度を高め、暗闇という不便さを退けてくれている。だが、頭上に落ちてくるかのような狭い地下通路は、能力者達を精神的にも圧迫した。
 脳を揺さぶる雄叫びが木霊し、能力者達は肌の下を走る痺れに顔をしかめる。
 仕返しとばかりに和人が妖獣へ結晶輪を放った。銀の残光を落とし、結晶輪は豹の姿をした妖獣へ傷を与える。
 ラルは、黒燐蟲を宿した独鈷杵を握り直す。ふと痺れた主を癒そうと視線を向けるバロンに気付き、咄嗟に口を開いた。
「バロン! 今は祈らないで大丈夫だ!」
 主の叫びに、バロンは手を重ねることをやめ妖獣へ火を噴く。
 薄暗い世界と匂いが五感にこびりついて離れない。ラルはそれをも麻痺と共に振り払い、渾身の力で独鈷杵で妖獣を叩いた。
「皆さん、あと少し、もう少しです……!」
 絶えず飛ぶ呪符はむつきのものだ。攻撃に専念できるよう、威力こそ控えめだが数は揃えた回復の手が連なる。
「後衛への道は塞いだままで。絶対に通してはいけませんよっ」
 全体の作戦と流れを明確に認識している霧也もまた、休むことなく声を張り上げていた。己の指先は光を紡ぎつつ、方針に従うとした仲間達を促すその声は、力強く響く。
 彼の射出した光が妖獣を貫くと同時に、珠代が安らぎの歌をその唇で紡ぎ始めた。
「臭いけど我慢。サクッと倒しちゃおー」
 痛みを拭う歌声が、明るく弾んで戦場を包み込む。
 刹那、妖獣の鋭い牙が紅介の肩口へ喰らいつく。骨の軋む音が零れ、ぎりと歯を噛み締めた紅介が押し返せば、力強さで圧倒された傷口から激痛が浸透していった。無意識に眉根を寄せる。
「ここで倒しておかないといけないものね」
 余裕を失ってはならないと自らへ言い聞かせ、澪音は敵を睨みつけた。地を蹴り跳ねた身体が、眼前の妖獣へ凶刃を沈める。長剣を振りぬき見下す少女の眼差しには、慈悲という文字もなく。
「……貴様は崩れる運命にある。諦めたらどうだ」
 澪音の低い声音が落ちた。
 直後、痛みを堪えた傍らの紅介が妖獣の許へと飛び込んだ。
「確実に仕留めておこう! くらえ!」
 走る痛みを堪え描いたのは、三日月の軌跡。鋭く抉る一撃に、呻くような妖獣の悲鳴が聞こえた。
 そこへ透き通った刃が飛び込む。すぐ近くに振るった当人はおらず、妖獣はただただ突然沸いたガラスの一太刀にもがいた。
「それにしても、地下にはごーすとがまだこんなにいるのでござるね〜」
 隊列の後方に佇む鉋が、暢気な音を言葉に含む。しかし、霧越しに与えた敵を見据える瞳は赤く滾り、容赦の欠片も映さない。
「貴殿も飽きる頃合でござろう?」
 鉋の問いに、妖獣は唸るばかりだ。
「クリスマス前の大仕事です〜」
 ふわりと微笑む颯は、痺れと痛みに苦しむ仲間達へ向け風を生む。戦場を抜ける清らかな風は、仲間達に絡みつく悪意を吹き飛ばしていった。
 不意に、妖獣がチェーンソーの刃に似た尾をかざす。ばちんと重たい衝撃をとどろかせて、その尾が最前衛を叩いた。
 グルルと鈍く喉を鳴らす妖獣へ、志音の放った闇の手が襲い掛かる。
「俺は俺の役割を全うするだけだ……っ!」
 不敵さ面構えは敵から逸らされず、秘める意地の熱さを言葉に変えた。
 志音が呼吸を整える間に、紅介が風を切った蹴りを入れる。しかし叩き込もうとした足は豹の尾が滑らせ直撃を外されて。
「無理はしないで下さい……まだ先は長いですから」
 すかさず背へ近寄った和人の白燐蟲が、紅介の得物へ撫で付けられる。
 珠代の撃ち出した光が槍を模り妖獣を貫いた刹那、颯の呼び起こした風が痛みを和らげ、鉋の瞬断撃が霧の向こうから敵を斬る。
「雄叫びが来るぞ!」
 動作に注視していた志音の訴えが仲間達の耳を打つ。
 直後、咆哮は床も壁も震わせて全てを麻痺で侵した。注意を払っていた何人かは運良く免れ、霧也もまた咆哮に打ち克ち腕を振り上げる。結い上げた光の槍が豹を射抜いた。
 すると、それまで威勢良く立ちはだかっていた豹の妖獣が、力なく崩れる。
 そのまま対峙した能力者達に看取られ、妖獣は闇へと消え去った。

●地縛霊
 整えた呼吸は、息を呑む緊張へと変貌していく。
 通路を抜けた先、彼らを待ち構えていた景色が開けた。壁のところどころに穴が開き、不気味な風音が呻いている。残留思念が集うのに違和感もない淀んだ空気。
 そこに浮かぶ影は、残留思念が集積した地縛霊だ。無数の思念が絡み合った姿は醜く、光溢れる地上の幸福全てを羨み妬むかのようにうごめいている。
 彼の者へ狙いを定めた能力者達の猛攻は、既に始まっていた。
 憎悪の塊が広範囲へ散らばる。怨念の篭もった唸りが身を掠り、或いは身を叩き忌々しくも体力を奪っていく。
 辛うじて休憩を挟めたとはいえ、相手は強敵――戦いはそう長引いていないとはいえ、疲労感が拭えない。
「っ、汚いものは、嫌いです」
 地縛霊の許へ駆け寄った和人が、凍えるような吐息を吹きかける。冷たさに宛てられ、地縛霊を魔氷の呪縛が付き纏った。
 矢継ぎ早にラルが独鈷杵で叩く。彼に続いて地縛霊へ突撃したのはバロンだ。
 ふと、紅介は遥か地上で日常を味わう人々を想った。そんな世界の足元で、ゴーストが生きている。思わず身震いを覚えて。
「人々の生活空間のすぐ近くにゴーストが……怖いね」
 零れた声を捨て、紅介の蹴りが歪んだ地縛霊の身体を強打する。
「直線に並ばないよう、忘れないでくださいっ」
 輝くコアに守られた霧也が、念を押して注意を呼びかけつつ、癒しの力を秘めた呪符を放った。敵の懐へ飛び込む仲間は特に、彼の訴えに立ち位置を確認し始める。
 直後、高らかに駆動音を響かせる澪音の剣が、紅蓮を伴い地縛霊を斬る。だが、刀身は硬化した思念に阻まれた。殺がれた威力に、剣を振りぬきながら澪音が僅かに眉根を寄せる。
 ――強い。
 胸に浮かんだ一言が、彼女の感触を現していた。
「絶やさずいく。任せろ!」
 接近する仲間が多い中、志音が後方から悪意を切り裂く影を生んだ。腕を模し地縛霊を襲撃した影が消える頃、空気を震わす地縛霊の呻きが溢れる。
 その声を認識した瞬間、能力者達は直線を疾駆する怨念の塊を見た。神秘の力に満ちた塊は、今し方刃を向けた志音へと喰いかかり、彼の膝を折らせる。
 消耗が激しいのは皆同じだった。
 颯の近くに立っていたむつきは、仲間達の消耗具合を見た目でのみ視認し、唇をきゅっと結ぶ。
「……絶対、絶対に、地上へ出させてなんてあげませんから」
 腕を動かしているという感覚を忘失ほどに、むつきは治癒符を投げ続けた。
「ターゲット確認っ、いっくよ〜!」
 空の見えない天を閃光が走り、珠代の手を離れた光が地縛霊を貫通する。
 うろたえる地縛霊の隙を逃さず、颯が大量に積んできた風を巻き起こした。全てを浄化する風が、仲間達の背を後押しする。
 緩く漆黒の髪をなびかせて、鉋がぐっと引いたガラスの剣を霧のレンズ目掛けて突き刺す。霧が縮める距離の向こう、一瞬の内に地縛霊へと切り傷がもたらされた。
「被害もまだ出てない故、確りと殲滅していかねばならぬでござるな」
 切れ長の瞳を眇め鉋のかけた声に、仲間達が頷く。
 重なるのは意志だ。繋がる心は、生者が持つ力でもある。
「攻撃、来るよ!」
 奇妙な動きを察し、警戒していた紅介が叫んだ。
 直後に射出された塊は、そんな彼らを打ち破る闇の色に染まっていた。
 地縛霊へ接近して攻撃を仕掛けていた者はもちろん、後方にまで届く直線上の一撃は、能力者達をふらつかせる。耐え切れずに膝を折ったのは、紅介と和人だった。
 渇く喉を潤すことも忘れ、むつきが呪符で粘り続ける仲間達を支える。見目では体力の減り具合が定められず、攻撃に専念する仲間を優先して。
「回復は、任せてください……っ」
「そうそう、もう一押しよ。わたし達に任せてー」
 むつきの宣言に続いたのは珠代だ。彼女が紡ぐ歌は優しさを乗せ、少しずつ皆に植えられた痛みを除去していく。
 回復手の連携が重なり、颯もまた同じタイミングで清らかな風を呼んだ。
「そうですね。ここで一気に片をつけてしまいましょう」
 ふ、と笑みを唇へ刷いた霧也が、槍を模った光を撃ち出す。
「さぁ、俺たちの力を見せるぞ、バロン」
 ラルの掛け声を合図に、バロンも地を蹴った。独鈷杵が敵を裂くのに重なって、バロンが突進する。
 そんな彼らを妬んでか、地縛霊の放った憎悪がラルを直撃する。仰臥する主を支えようとバロンが駆け寄る最中、鉋が握る剣の切っ先は、霧の向こうに佇む地縛霊を真っ二つに裂いていて。
「決めるでござるよ」
 鉋の眼差しと言葉を受け継いだ澪音が、長剣をかざす。猛々しい赤き炎を連れた刃が唸り、振り下ろされた。
 鳴り続けていた憎悪の鼓動が途絶える。
「……終わっ……た?」
 張っていた緊張が解かれ、珠代がへなへなと座り込んだ。
 静寂の返った地下にはもう、先ほどまで漂っていた強い念や悪意も無い。この区域を支配していた地縛霊が消滅したことで、空気が良くなったわけではないのに、清々しさを覚える。
 そんな能力者達が手を差し出しあい、肩を貸して立ち上がった。
「……ところで、余力のほどはいかがですか?」
 霧也の問いかけに、まだ武器を振るう力を残す仲間達が目配せする。
 深手を負った仲間達を回復手に委ね、各自で技の残数を数え直した。
「せっかく訪れたゆえ、きちんと締めて終わりたいでござるな」
 不敵な笑みを浮かべ、鉋が答える。
「僕もまだ後ろから援護できるから、大丈夫だよ〜」
 颯も続けて頷き、帰路の途中に過ぎる小部屋へ想いを馳せて。

 彼らが完全な勝利を噛み締めるまでに、そう時間はかからなかった。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2008/12/17
得票数:カッコいい18  怖すぎ3  知的1 
冒険結果:成功!
重傷者:千鴉羽・志音(花銘武器使い・b16143)  鳳・紅介(スカーレットスキル・b21282)  楸・和人(終の楽園・b24559)  ラル・ビスタ(南心ヲ受継ギシ者・b39349) 
死亡者:なし
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