メリィ・スタディ・クリスマス!


     



<オープニング>


 銀誓館学園のクリスマスパーティー。
 毎年、様々な趣向を凝らすパーティーが開催され、学園はクリスマス一色に染まります。
 冬休みを目前としたクリスマスイヴの日は、様々なパーティーが開かれているようです。

 クリスマスパーティーは無礼講。
 たとえ、今まで一度も口をきいた事が無い人とでも、一緒にパーティーを楽しむ事ができます。
 クリスマスパーティーは、新しい友達を作る為のイベントなのですから。

 気に入ったクリスマスパーティーがあれば、勇気を出して参加してみましょう。
 きっと、楽しい思い出が作れますよ。
 
●……作れると思いますよ。
「あなたに大切なお話があります」
 それはクリスマスを間近に控えたある日の放課後、ある教室。
 とりあえず座れと促された高槻・市松(磊落・bn0028)が気怠そうに着席する机の反対側で、妙に真剣な表情の坂上・木犀(高校生運命予報士・bn0059)が切り出したのが始まりだった。
「何だお前、去年と随分テンション違うじゃねーか」
「あれは忘れてください」
 僅かに目を逸らし、手にしていた一枚の紙を突き出す。それに顔を近付けた市松は暫く凝視し……眉間に皺を寄せた。
 それは可愛らしい字と色彩で書かれたチラシだった。この時期になると学園内で見掛ける、クリスマスパーティーの告知──なのだけれど。
「…………『勉強会』?」
 一番大きく書かれていた文字を読み上げて、市松は更に眉間の皺を深くした。チラシから視線をずらして何とも言えない顔で木犀を見ると、木犀は冷静な表情のまま一言。
「コンセプトは『勉強も、皆でやったら虚しくない』」
「……」
「高槻さん参加決定で」
「はぁ!?」
 その声は、教室中に響き渡った。

 場所は図書館、時間帯は昼間の二時間ほど。楽しいパーティーが続く一日の中に少しだけ勉強時間を挟めば、いつもよりはかどるかもしれません。
 余り得意で無い人も、見回せば教えてくれる人が現れる筈。誰かが応援してくれる筈。
 あ、過度のスパルタは駄目ですよ? 切なくなったら意味がありません。最初は唸ってしまったとしても、終わる頃には笑いましょう。
 そしてやっぱりクリスマス、何か美味しいものや好きなものが傍にあったら素敵ですね。
 
「……だそうです。要するに皆で集まって『楽しく』勉強出来たら良いですね、と。クリスマスプレゼントのひとつが『苦手教科の克服』とか『出来なかった問題の答え』とか、そういうのでもいいんじゃないですか?」
 声を上げたまま固まった市松へさくさくと説明を終え、木犀はチラシを机に置いた。
 切羽詰まるのではなく、あくまでも気楽に。傍らにお菓子やお茶、好きなものを用意して、談笑を交えながら勉強をして、少しでも前進してみようという事らしい。
「……そういうのなら、いいけどよ。……お前は」
 凝固から緩やかに復帰した市松がまだ若干渋いままの表情で問えば、木犀は朗らかに微笑んだ。
「応援してます。頑張って!」
「暇そうじゃねぇかよ教えろよ!」
「嫌です。他の人なら新鮮味もあっていいってもんですけど、そもそも──」
 チラシの誘い文句にある通り、声をかければ同志が、あるいはそれぞれの教科を得意とする仲間が来てくれるかもしれない。遊びに来る卒業生だって心強い味方になってくれる(筈だ)。
「って事で、俺に教わっている時と違った視点で物事が見られるかもしれないでしょう? 折角の機会、利用してください」
「他のヤツが言えば説得力もあるんだけどよ、お前、面倒なだけだろ」
「半分は」
 長い沈黙から、ひとつ溜息。席を立ち、誰かに誘いを掛けてくると去って行った市松の背を見送ってから木犀はその場にいた生徒を見遣る。
「……行きません?」
 そして、再びチラシを手にしてそう問うた。
 
 チラシの最後にはこう書かれている。
 ──特別な日にちいさな前進、それが素敵。

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参加者
NPC:坂上・木犀(高校生運命予報士・bn0059)




<リプレイ>

●レッツスタディ!
 クリスマスに勉強会、パーティーだと言い張られたそれは少しだけ複雑な響き。
 この日の為に確保された図書館へ、それを知らずに日課としてやって来た隆之は人の多さに思わず瞬いた。事情を聞いて思い出したのは去年のこの日。隆之は懐かしそうに頷いて、空いてる席へと歩み出す。
「さて諸君、勉強は好きか? 私は嫌いじゃない。何故なら──」
 ドライツェーンの口上をBGMに始まった勉強会は和やかな空気に包まれている。隅の席を選び、罰ゲームが怖いからと苦手分野に重点を置く遙と同じく、弱点克服を目指す者が多いようだった。
「まずは、教科書の内容が理解できるようにならないとな……」
 こればかりは中学一年生の妹に頼れる訳も無く。ひたすら教科書と向き合い時間を過ごした黒夜の戦果は、数学の公式を覚えた事。
 普段は塾に通っているけれど、勉強を通じた交流も素敵かもしれない。そんな事を思いながら未都はペンとノートを手に取った。周囲の勉強方法を興味深そうに伺って、目が合った人に差し入れを。英語が苦手と言う未都の救世主はチーズケーキを受け取った夜半だった。
「英語なら、ちょっとは教えられるのですっ」
 正確に発音が出来たらアラザンを散らしたクッキーが待っています、と付け足して。
 逆に日本語慣れがイマイチな偉龍は周囲との「会話」を望む。勉強を教え合いながら、定番のお菓子を摘みながら──そうする事で「ちいさな前進」を得られるだろうから。という訳で声を掛けられた真は、文系のアドバイスを交えて長所拡張を図りながら苦手とする理系克服に挑む。小さなボストンバックを開けると、問題集や辞書に混じってお菓子が見えた。
 ヘッドホンから聞こえるリスニング練習用の洋楽をお供にセンター試験の勉強に励んだものの、やがて化学に詰まって黙り込んだ兵庫へ助け船を出したのは卒業生の龍麻だ。余程難しい問題で無ければ大丈夫という言葉と笑顔は心強く、問題が解けた後に差し出してくれたケーキは疲れた頭に良く効いた。
 落ち着く場所を求め図書館へやって来た逸は英語を読み直してみようかと思い立つ。本棚を巡りながらそこで過ごす皆を見て、
「ま、いつもより少し賑やかな図書館も楽しいってね?」
 そんな風に口の端を上げ、笑った。

 ちなみに。
「──という訳で、賢い私はもっと恰好い……何故みな一様に目を逸らす。何故溜息をつく」
 ドライツェーンの口上は、まだ続いていたようだ。

「く、くりすますまでこんな……輝空さんの鬼ー!!」
 確かにテストは真っ赤だけれど、この間など偽身符に負けたけれど。ぼそぼそと落ち込む碧に天虹は腕を組み笑う。
「碧の為を思ってだ。チャント出来たら、なンかオゴってやるカラ」
「え、ケーキワンホール? ほんと? 二言ないね?」
「ケーキワンホール!?」
 途端に目を光らせた碧。驚愕してから暫く唸った天虹は、俺にも少し分けろよとその頭に手を置いた。
 いつも勉強で迷惑をかけている気がする。それが申し訳なくて、嵐は自作のクッキーを──出来が少し心配なそれを米蔵に差し出した。迷惑など思っていないと返しつつも、微笑ましげにクッキーを見た米蔵はひとつ摘んで口へと放る。
「……うん、美味いわ、ほんま」
「美味い? 本当にっ? よかった……」
 安堵の息を吐き出しながら嵐は思う。多分頬が真っ赤になっている事、気付かれなければ良いのだけれど。
「ダメだ。ワカンネ」
 即答に近い早さで目を細め筆記具を投げた忍に、よさみは思わず目元を覆った。
「……つまりはこういう事や。わかる? ……そうそう。忍ちゃんもやれば出来るんやから」
 それでもめげずに──ツッコミは厳しく、けれど褒める事は忘れずに指導を続ければ少しずつ忍の表情も真面目になってゆく。この後にデートが待っているから、こんな機会は少ないから、そして互いが少しでも一緒に居たいから。
 瑞鳳が作った猫耳付きジンジャーマンクッキーに兇はつい口元を緩める。少し歪な形はむしろ愛嬌に溢れていて、紅茶を共に並べれば勉強にも気合いが入るような気がした。
「姐さんは文系なのな。じゃあ理数系は──」
 言いかけた兇は口を噤む。幾ら得意とは言え高校三年生の問題は少し難しい。今は何も返せないけれど、判らない部分を教えてくれる瑞鳳が楽しそうだから、それでもいいかと考えた。
 勉強会という事を伏せてここねを誘う事に成功した白颯は、自分に頼ろうとせず問題集へ唸るここねに溜息をひとつ、それから彼女の手を取った。
「ええい、気が散……な、何を」
 その手に嵌められたのは可愛らしいチャームが揺れるブレスレット。
「……手伝いますから一緒に頑張りましょう?」
 二人で過ごす時間を減らさない為に。告げて微笑めばここねは頬を赤らめて、今日は特別なのじゃぞ、と呟いた。
 一緒にいたい、勉強頑張る。その二つを両立させるに図書館デートはうってつけ。けれど解けない問題を前にシルフィアは結局目を伏せた。
「……豹衛さーん、頭撫でてくださいー。大丈夫だって言って……」
 そして豹衛に凭れれば、髪を優しく撫でる手が返る。
「落ち着いたかね?」
 安心出来るなら幾らでも。
 安堵の息をひとつ、それから時折不安定になる心をいつも励ましてくれる優しい手を取って、シルフィアはそこに小さな口付けを落とす。
 弓場白の隣に座るか正面に座るか、数学と対峙する前の難問にルルティアはぐるぐると頭を悩ませた。結局向き合って教え合おうとしてみたものの、今度は弓場白の一挙一動が気になって。
「……で、ココは……って、顔赤いみたいだけどどうしたの?」
 直後ルルティアの額を包んだのは弓場白の痩せた掌。そのまま顔を覗き込むと、まるで風邪をひいたように赤くなったルルティアと目が合った。
 熱い紅茶が湯気を立てている。それを携え本に視線を落とす騰蛇の隣ではさなえが英語と向き合っていた。やがてどうしても分からない問題に当たったさなえが問いかけてきたので、騰蛇は本を置いてさなえに顔を近付ける。顔を上げたさなえが触れ合う程の近さに赤面し俯いた事には気付いたけれど、それが可愛らしかったからそのまま平静を装った。
 積み上がった参考書に一度は青ざめた吠示も、瀬良の丁寧な教え方にやがて感嘆する。ペンを止め、そんな吠示を一瞥した瀬良が思い出すのは背中を押してくれている人達の事。
「吠示……同じ大学に行くって決めてくれて、ありがとう」
 嬉しかった、と最後まで告げた瀬良の手を吠示が握る。
「俺こそ、ありがと」
 そして瀬良の目を見つめ笑ったならば、笑顔を浮かべた瀬良の手が吠示の手に重なった。

 互いの存在が、互いを支えてくれるから。
 だから踏み出し進む事も怖くない。

●すぐ届く場所に
 見渡せばそこにあるのは、それぞれらしさ溢れる勉強風景。
 結社【Andante】の勉強会は、紫空が怯える程に熱い柾世の決意表明から始まった。
「行くぜ……英語!」
「一緒に頑張りましょうです! 打倒英語さん!」
 同じく英語を苦手とする露も同調。皆の頑張っている姿を見ると、自分も──やっぱり英語を見るとぐるぐるしてしまうけれど──頑張ろうと思えてくる。一方で眉間に皺を寄せて数学と睨めっこをしていたスバルが突っ伏すと、そこへ柾世が声を掛けた。
「一問につき一飴で手を打つよ……」
「……後払いでも良いでしょうか」
「Give and takeが世の常だ……ああ無情」
 そんなやり取りを横目に、時折声に出しながら外国小説の読み解きをしていた陸は早速うつらとしている紫空に気付く。もう一息ですよと膝掛けを渡された紫空はどうにか睡魔から復帰して、息吹の教科書を覗き込んだ。
「日本史……?」
「年号、どうやって覚えればいいですか?」
 問われ、紫空は語呂合わせを皆で作る事を提案する。可愛い後輩や友人達の為、応援要因として待機していた月吉が暫く考え──
「黒船岩子さん(1853年)とペリー来航、ってのはどうだ」
「ペリーさん、18日は53(ごみ)の日です、とか」
 月吉に続いて息吹が呟けば、聞いていた陸がほろりとする程に家庭的なペリーさんが誕生した。(岩子さんが誰なのかは歴史の闇に葬られる事となる)
 勉強も皆で、息抜きも皆で。息吹の用意した紅茶の供には飴やキャラメル、チョコなどの甘いものを。染み入る温かさと甘さがまるでご褒美のようで、新たなやる気が沸き起こる。図書館が持つ静かだけれど孤独では無い空気の中に、仲間との思い出が出来てゆく。
 結社【のっぺら】から来た遥には、教師を目指す朗からの英語や国語の教授が、勢からの……全力の応援が付いている。合間に勢からミントガムを一粒貰って有り難く頂けば、
「……って辛っ! 何これ!」
「あ、マジで辛!」
 混ざっていたハイパーミントで涙目になった遥の横、勢もまた自爆していた。朗は華麗に回避して──やっぱり、と脳裏で呟きながら──涼しい顔でお茶を飲んでいる。
 仕返しとして凄く難しい化学の問題について質問されて、長く唸った勢はやがて大きく手を打った。
「三人寄ればモンジュの知恵ってな!」
 要するに、皆で考えようと。それはひとりで勉強するよりもずっと心強いから。苦手な問題だって怖くは無いし、向き合う時間も楽しく思う。
「……天先輩、食うよか手ぇ動かさんと〜」
 悟の目の前では天がお菓子を頬張っていた。ツッコミを入れてみたら見せられたのは使い込まれた教科書とノート、それを覗き込んだ悟は古典の難しさに冷や汗を浮かべる。
「木犀先輩たーすーけーてー! ベクトルってなんや?」
「ベクトル!? 相澤先輩、それは古典違う!」
 見掛けた姿に思わず助けを求めた悟へ、天が素早く裏手ツッコミを入れたのだけれど。
「動径とか方向量とかです!」
「木犀先輩、それは和訳!」
 図書館の片隅で、二度目の裏手ツッコミが冴えた。
 あれ? と声を漏らす木犀へ榮がそろそろと声を掛ける。ある古典、原文の訳について教示を求めれば快諾が返った。
「今生の別れは……とても切ない事ですわね……」
 不意に漏れた言葉はその中にあった一首を見て。そこへ目を落とした木犀は暫く何やらを考え込み、
「俺はまだ、縁を捨てたくないですね」
 そんな風に笑った。
 司書を目指す臨は夢が叶ったら「絶版になっちゃったけどいい本」を本棚に並べたいのだと語る。
「だから古本屋さんの力を貸してね♪」
 差し入れの和菓子と桜茶を差し出しながら古本屋を目指す友人へ告げると、返ってきたのは喜んでという言葉。
「受験生かー……」
 来年は我が身、灯はまだ漠然としている先の事を考えながら手にしたチョコを口に放る。お裾分けを貰った受験生が顔を綻ばせた事や見回した周囲の事、感じるのは去年の図書館とは趣が違うけれど、皆がやっぱり楽しそうだという事。
 咲夜が言葉を選びながらお勧めの本を尋ねると、木犀は途端に目を輝かせた。意気揚々と本棚の方を向いて背表紙に指を滑らせて、
「口には出さずに、でも分かってくれているんじゃ……って」
「え?」
「これが面白いですよ」
 一冊の小説を抜き取ると、目を瞬かせる咲夜の手に置いた。
「坂上、その……勉強、お、教えろ……」
 口籠もりながら告げた直人の手には中学三年生の教科書がある。赤面顔を必死で隠す直人が聞いたのは「いいですよ」という言葉。
「認めて決意出来る事は、とても恰好良い事だと思います。それに──」
 同じような人、ずっと見てましたから。そんな風に笑った木犀は、ある一点を指差した。

「……章」
 クッキーとモカを悠々と味わう章(卒業生)へ、アリアと市松(受験生)が険しい視線を向けている。けれど懐かしい思い出を愛おしそうに語る章に、二人はやがて表情を緩めた。
「簡単じゃなかったよな、必死でここまで進んできた」
 例えばその、数学の問題集のように。そっと肩を叩かれたアリアは、同じ優しさで市松の肩を叩く。
「──この公式を見る度に思い出すよ」
「……いい話なのか、コレ」
「「勿論」」
 空欄だらけの問題集二人分を指差した市松の呟きに対し、章とアリアの声が重なった。
「松様、出来ない問題は?」
 市松の隣に座っていたエルレイが顔を覗き込んで問う。けれど十歳のエルレイに手伝って貰う事は流石に躊躇ったようで、くしゃりと前髪を撫でられた後にエルレイが持参したチョコがひとつ、さらわれた。
 やがて(結局)突っ伏した市松を見て晶が笑う。
「市松くん、ほら、起きて」
 ほっぺたモーラットみたいにしちゃうよ? 赤ペンをくるくると回しながら小声で告げると、そのクラスメイトはがばりと跳ね起きたけれど。
 様子を見に来た桔梗は唸る市松の口元へと金平糖を一粒差し出す。
「そんな風に唸ってたら、どう頑張ったって楽しくありませんわよ」
 こういう時は休憩を挟んでリラックスをする事が、大事。市松は(口は開けなかったけれど)礼と共に金平糖を受け取った。
 同じく様子を見に来た清己は、いつもより和やかな雰囲気を持つ図書館に目を細めて笑う。けれどその姿を見付けた相手が割り込むように助けを求めてきた。
「清己、お前文系得意だったよな! あとそこにいる雛!」
「はいっ!」
 姿が見える所でこっそりと勉強に励んでいた雛が、不意打ちに声を上げる。席を移動し、差し入れのミルクキャンディーを渡しながら一緒に卒業しましょうねと告げると、だから文系を教えてくれと懇願された。

(「去年の事を思い出しますね……」)
 見掛けた友人達の変わらぬ様子が嬉しくて目を細めてから、優雨は理数系の参考書に目を落とす。彼女の今日の講師は幼なじみの糺、顔を近付けた糺が少し緊張している事は知らぬまま時が過ぎてゆく。
「優雨の志望校は?」
 同じ大学なら嬉しいという気持ちを隠して糺から問うた返答は、内緒の二文字だった。糺と同じ大学がいいけれど、他の大学を薦められてしまったら頑張れなくなるかも知れないから。
「……あら。そこ、間違っていてよ?」
 問題集を覗きこんだアルステーデの目ざとい指摘に、アストラムは言葉に詰まる。
「わ、わかってんだよ。テメエが気付くかどうか試してやっただけだ!」
「構って欲しいならそんな回りくどい事をしないで、素直に言えば良いじゃない」
 その声色はからかうようで、アストラムの顔がみるみる朱に染まった。我慢を忘れ大声で悪態を吐いてみても、ライバルは涼しく微笑んでいるばかり。
「杏ちゃんの勉強は僕が見てあげるよ」
 手作りのクッキーを並べて紅茶を淹れてから、玲樹と杏奈はそれぞれが用意した問題集に向き合った。勉強後テストで勝負を付け……もとい出来具合を確認する予定だったのだけれど。
(「小学生、意外に難しい……」)
「負けた方が罰ゲームということで……わたくし、本気で行きますわよ」
 杏奈の問題集を見て黙り込む玲樹と、気合いを入れ拳を握る杏奈の姿があったとか。
「飛行機が飛んだ距離……やっぱ『遠く』とかじゃダメなんだろうな」
「『あれはジョンですか?』『いいえリンゴです』とかおかしいって絶対……!」
 壱球と弥琴は物理と英語の問題にそれぞれ視線を落とし唸っている。考えている間は大変だけれど互いや周囲と助け合って、ぽんと手を打った瞬間は雨空が晴れたように気持ちが良くて。頑張ったご褒美のキャラメルは、同じくご褒美のバジルティーに良く合った。
「……にいさま?」
 棘の隣ではジングルが硬直していた。見つめているのは棘が問うた英語の問題、文字が滲んで見えるのは涙目になってしまったから。
「……そうだ! 息抜きにこの天体図鑑を見てみましょう」
「えっと……はい!」
 イチオシの天体写真を眺めながらの息抜きで、棘にリラックスして欲しいから。肩を並べ穏やかに過ごす二人はまるで本当の兄弟のよう。同じ事を考えた二人は、顔を見合わせくすぐったそうに笑い合った。
 たまには先輩らしく。そう思ったウィルはテルに得意科目を聞いてみる。
「勉強は好きだもん、体育だけは!」
「……体育か、そーか」
 それでも小学生の問題集を眺めてみると、なかなか難しいもので。つい感心するウィルの前で、テルはそんな場合じゃないと嘆いている。
 休憩には甘いミルクティーとクッキーを。暖かさにうとうとし始めた先輩へ、テルは受験生じゃなかったの? と首を傾げて問いかけた。
 アリーセへ何かを教えたいとヴァージニアが用意したのは手芸の本、BGMに英語のリスニング。
「慣れない手芸と同時となると……っ」
 初めは狼狽えていたアリーセも、義姉と久々に過ごす時を楽しんでいる。けれど、時折彼女が見せる表情に手を止めた。
「ねぇ、アリーセ。来年も……」
「大丈夫ですよ、何時までもずっと一緒ですから」
 口籠もる義姉へ笑顔で断言したそれは、誰でもない自身の為。そして大切な人の為。
「おーぼーだっ! り、理科なんて無くても世界は回るんだよ!」
「世界の回し方を知りたければ必須だからね」
 熾輝をここまで引き摺ってやって来た寅彦は、熾輝の主張に普段の仕返しが成功したとばかりに黒目を細め笑ってみせた。丁寧な……時々弄りの混じる説明の合間で熾輝は真面目に頑張りつつも隙を窺う。寅彦が頬を載せている掌が退いた瞬間に、身を乗り出してキスを落とせば反撃は成功するだろうか? それはまだ、分からない。
「ところでひろみー、好きな人とかできた?」
「え!?」
 何故かいつも点数の低い英語とひとしきり向き合って、息抜き休憩の真っ最中。ダンテから笑顔で問われたひろみは声を上げてむせかえる。ひろみが用意した星形のクッキーを摘みながら、ダンテは楽しそうにそれを眺めていた。
「ま、まだできてないですよー」
 もう、と息を吐いてからお茶を一口。のんびりとした雑談は、疲れを優しく癒してくれる。
「……光」
「何?」
 十六夜の何か言いたげな呼びかけに振り向いた光は黒縁伊達眼鏡を装着していた。何事もまずは形から、それに何となく頭が良くなったような気も。
 一緒に来た仲間は皆年上だから困る事は無さそうだと笑う光へ突っ込む事を止めた十六夜は、教科書に三学期分のフリガナをせっせと書き込んでいるラッセルを見る。すると不意に手を止め眉根を寄せたラッセルが顔を上げ、助けを求めた。
「イザヤ、これ何て読むの……」
 ラッセル曰く持参した辞書は形、聞けば答えてくれる辞書代わりが二人いるなんてスバラシイ、との事だった。
 そこへおさんどん兼第二の指導係の悠仁がお茶とお菓子を置いてくれる。ラッセルと十六夜の持参したクッキーとワッフルにカテキンを合わせれば効率が上がる……かもしれない。それに自分の淹れたお茶でリラックスして貰えれば何よりだ。
 楽しい雰囲気は壊さずに、けれどきっちり丁寧に。周囲とも協力しながらの穏やかな勉強会は続く。
 初めは場違いかもしれないと思っていたけれど、今は楽しい。ほっと胸を撫で下ろした和奏は、漫画で書かれた歴史本を勧めてくれる泰智へと手を伸ばした。
「今日は誘ってくれてありがとだよ♪」
 楽しいと思えたのは、多分君のお陰だから。ぐりぐりと頭を撫でられた泰智は冷静を装いながらも緩んでゆく口元を隠しきれずにいる。
(「むしろ僕が思い出に残るクリスマスを過ごせているなぁ……」)
 心の中の呟きは、そこに温かなものを落として明るく灯ったような気がした。

 やがて終わりの時間が近付いて、ペンを置き書を閉じた皆はそれぞれ息を吐く。満足感や達成感、共に過ごした存在への感謝の気持ち、普段一人で勉強している時とは違うものを得たような感覚。
 少しでも前進する事は出来ただろうか。
 皆の様子を見る事で、楽しい気持ちになっただろうか。
 この図書館で得た小さなプレゼントは、知識と成果と、皆で作った大きな思い出でありますように。

 そして、頑張ったあなたにもうひとつ。
 メリークリスマス、まだまだ続く特別な一日を。


マスター:笠原獏 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:79人
作成日:2008/12/24
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