<リプレイ>
●夢の守人 走っている最中に感じる風が氷点下にも思える冬の夜。公園へと辿り着いた皆の目に飛び込んできたのは簡素なクリスマスツリー。及び、その麓で赤い箱から靄を解き放っている赤髭のサンタクロースと、それを見上げているアキラの姿。 アキラを夢へと誘う白い靄を掻き分けて、アルテア・マッコイ(商会の看板娘・b25367)がアキラの横を抜けサンタクロースの下へと辿り着く。 (「子供達の夢を叶えさせてあげる……それがサンタなんデス! だから!!」) 白い髭をつけ、血になど汚れていない紅白のサンタ服に身を包むサンタガールは、転がるように懐へ飛び込み天高くアッパーカット。 「サンタさんの偽物に、これ以上汚させないデス!」 メラメラと燃える瞳が、衝撃に多少仰け反るサンタクロースを睨みつけている。 それは、注意を惹きつけるのには十分な行動だったのだろう。サンタクロースはアキラから顔を背け、乱入者に意識を向けているようなのだから。 「行け、フランドル。あの赤いサンタ達を抑えろ」 サンタ達、と示しフランケンシュタインBのフランドルに攻撃を命じているのは神無月・真由美(月下の曼珠沙華・b03031)。 視線の先には夢を失ったかのように虚ろな瞳をしている三体の子供の地縛霊。その三体も巻き込むように告げながら、真由美はフランドルに追加の装甲を施していく。 皆がアキラとサンタクロースの間に割り込み戦うための準備を整える最中、メイベル・スミス(光と夢の使い・b44580)が幻夢の領域を展開。皆を守る盾を形成した。 そうして守ってくれる仲間たちがいる。だから、その隙にアキラを安全圏まで逃がそうか。 「鈴、頼んだよ」 コアを浮かべる司式・ゼル(知らぬが花・b42359)に命じられ、スカルロードの鈴が深い寝息を立てているアキラを抱きかかえ踵を返す。そんな鈴がアキラを抱き救出する様子は姿ゆえに死神にも見えたかもしれない。けれどもそれは、魂を狩る者ではなくて魂を運ぶ者なのだろう。 エンハウンス・ニアダーク(闇を狩りし者・b46864)たちが鈴に追随して戦場から離脱していく。それを背中に感じる裏辺・纏(小学生従属種ヴァンパイア・b41633)は、冷静に仲間の位置を確認しながら多くが爆発に巻き込まれず近接攻撃もまた可能な位置に移動。後、大鎌に黒き影を纏わせ子供を横に薙いだ。 一体の子供がよろめく様子を見せる中、サンタクロースは赤い箱を取り出している。次の刹那には紐が取り払われ、夢の世界への入り口が象られていった。
「ここまでくれば……」 エンハウンスたちが辿り着いたのは、公園から少し離れた場所。 ベンチなどは無いが、段差がアキラを寝かせるのに丁度良い場所で、エンハウンスはひとまず安堵の息を吐く。崩した表情はすぐさま引き締められ、メイベルたちにこの場を任せ戦場へと転進した。 鈴と共に残されたメイベルは、背中を見送った後手持ちのコートをアキラに被せてあげている。体が凍えてしまわないように。 アキラの安らかな寝息は、決意を更なる形に変えてくれる。けれども自分は守るしかできないから、メイベルは少しだけ目を瞑り祈りを捧げていた。
「そこの狒々爺! おとこの子に手を掛けるとは言語道断! 勿体無いとは思わんのか!」 気力で靄を撥ね退けた十三夜・ひばり(純粋培養エアライダー・b27646)。狒々爺に何だか別の意味で狙われている妄想などのどこかずれている気のする熱意を言葉に変えながら、ナイフでサンタクロースを威嚇する。 「光よ、彷徨える者を安楽なる世界へと導き給え」 穏やかな眼差しを地縛霊たちに送る西連寺・昴(銀色の夜想曲・b55062)。胸の内では子供の夢を台無しにする真似はさせません……と熱い想いを抱きながら、光の奔流で全ての敵を焼いていた。 ――もっとも、靄に抗えず眠ってしまった者もいる。 眠ってしまった者がいるならば、浄化のための風を吹かせよう。春宮・静音(バトルマニアガール・bn0097)がもたらす力は眠ったままの三人中八月朔日・灯夜(見習いサンタクロース・b06994)のみを目覚めさせ、再び地縛霊と対峙するための力を与えている。 最中、エンハウンスが帰還した。それは、アキラの完全離脱もまた示している。 起床しいち早く状況を判断した灯夜は子供達に視線を向ける。その視線をサンタクロースへとずらしたなら、蒼を紅に染め上げた剣を叩きつけた。 「この偽サンタが! サンタの格好で子供を殺すんじゃねぇ! 燃え尽きろ!」 紅蓮の一撃はサンタクロースのみに届き、貴き炎を巻き上がらせる。それは、灯夜が纏うサンタ服と同様に、赤々と燃え盛っていた。
●赤を白へと塗り替えて アキラが健やかな寝息を立ていてる。メイベルにとって、これほど安心させてくれることは無い。 彼女自身は戦いには参加できないけれど、しなければならない事は沢山ある。アキラが目を覚まさないように悪夢爆弾の用意をしたり、主が心配なのかそわそわしている鈴を宥めたり。 だから、戦いは仲間たちに任せよう。一人半の戦力が抜けている事は少し不安かもしれないけれど……きっと、大丈夫だから。
空は曇り、月も星も見えない夜。電灯とクリスマスツリーの電飾が頼りとなる公園で、激しい電撃が巻き起こる。 電撃は、真由美がフランドルに命じたもの。地縛霊全員を焼いたところに、指輪から放たれた衝撃波がサンタクロースを撃った。 「おとこの子を鎖で繋いでハーレムとは羨ま……もとい! 許し難し! 貴様の相手などトナカイで十分だ!」 一方、何だかやはりずれている気がするひばりは妄想を具現化した原稿用紙をばら撒いている。内容は押して計るべし。ああ、ここにアキラがいなくて本当に良かった。 ともあれ、原稿用紙の鋭き一撃は地縛霊を切り裂き、子供の地縛霊を全て消滅させる。後は、赤髭のサンタクロースを倒すのみとなった。 「絶対にぶっ潰す! うらぁ!」 意気込み、灯夜は影を差し向けた。 熱き想いを載せた影に追随するように、纏が冷たき影の軌跡を描き出す。 熱と冷の二つの影はサンタクロースに十字を刻み込み、若干仰け反らせることに成功していた。 けれども倒したわけではない。サンタクロースが赤い箱を取り出して、白き靄を発生させてくる。 靄は深い眠りをもたらすもの。治療役を担っていた静音もまた、運悪く夢の世界へと誘われてしまっていた。 深い眠りであるが故、自然回復にはやや時間がかかる可能性が高い。故に、今は動けるもので攻撃することを考えよう。 「私達からは貴様に終わりをプレゼントしてやろう」 フランドルの拳がサンタクロースの胴を強く打ち据えて、深い窪みを作っている。窪みの中心へと吸い込まれるように、追随した真由美の弾丸が毒の力を送り込んだ。 そんな彼女の言葉に心からの同意を。そして、早々にご退場願いたいと、エンハウンスが炎を作り出す。銀の銃に示され放たれたなら、サンタクロースを蓄えられた髭のように赤々と燃える炎で包み込んだ。 ……起床した時、確認したのはサンタクロースのそんな姿。 同情も容赦もしないと、ゼルが光を生み出し放つ。 対するサンタクロースは光を胴に受けながらも緑色の箱を取り出していた。 「赤に、緑の箱ですか……こんなプレゼントはご遠慮願いたいですね」 昴は言葉と共に光を放ち、サンタクロースの肩へと届けている。けれども止める事はできず、静音を中心に緑色の箱が投擲された。 地に落ち、爆裂する箱。大きな傷は負ったものの、おかげで起床する事ができた。 故に静音は風を巻き起こす。細かな傷を浚い、呪縛から解き放つ可能性を与える風を。 呪縛から解き放たれたアルテアはすぐさま状況を把握し、虚空にサンタクロースの姿を描き出す。 モチーフはサンタクロースを翻弄し、高いダメージを与えて消えた。 その翻弄された隙を見逃さず、懐へ入り込んだひばりは緋薔璃十三號を突き立てる。 膝をつくサンタクロース。畳み掛けんと、灯夜が再び影を差し向けた。 続いたのは再び纏。影が正面を裂いている隙に、首を狩るように大鎌を振るう。 サンタクロースは前後から感じた衝撃に耐え切れずに倒れてしまい、そのまま立ち上がる事は無い。苦悶の声を上げる事もせず、寒空の下静かに消滅していった。
●現で見る夢の世界へ 静寂を取り戻し、煌くクリスマスツリーが微かな温もりを与えてくれる公園に、メイベルは眠り続けるアキラを連れて皆と合流。武装解除などを行なった後、彼を揺り起こす。 起こされ寝ぼけ眼なアキラに、静音が事情を誤魔化して簡単に説明。目線を合わせるなど優しく丁寧な物言いだったためか受け入れてもらう事ができた。……サンタクロースに少し恐怖を抱いているのか、灯夜とアルテアからは少し距離を取ってしまっていたけれど。 静音の説明が終わる頃、本題に入ろうかとまずは纏が口を開く。 「一人歩きは危ないです。もうこんな時刻ですし、早く帰った方が良いでしょう」 時は十一時十分を過ぎた頃。普通の子供ならもう眠っているし、そうでなくても眠る用意を始める時間。何より、危険な目に会ったばかりなのだから……けど、アキラは首を振る。 「……大丈夫だよ。いつも、このくらいの時間はまだ外に居るし」 「だが、親御さんも心配しているかも知れんぞ」 「……してないよ。僕の事なんて」 エンハウンスの言葉も、今のアキラには届かない。 だからメイベルは、別の方向で切り出してみることにした。 「……メールとか……来てない……?」 「来てるよ」 知っている事に疑問を感じる様子は無い。ただ、問いには表情を険しくしながら答えている。だからもっと言葉を引き出すために、ゼルが先を促した。 「それは、両親からのものでは?」 「……そうだよ。でも……」 アキラは言う。いつもの意味のない励ましだろうと。塾の前に、無意味に送ってくる事があるのだと。 「でも、そのメールはご両親がお仕事で忙しい時間帯のものなのではないデスか?」 「……え?」 「塾の後に、メールを受け取ったのデスよね?」 言葉を受けたアキラは慌ててメールを確認している。後。跳ねるように顔を上げて問いかけてきた。何故知ってるの? と。 アルテアはサンタクロースの企業秘密デス、と白髭を揺らしながら悪戯っぽく笑っていたけれど。 「ご両親がいない夕食の寂しさは判ります、でも……今日は家に帰れば家族が待っています。家族揃っての暖かい夕食も良いものですよ」 優しく諭すような昴の言葉に、アキラは下を向きうつむいてしまう。けど、うつむく刹那に見せた表情に暗さはない。 「サンタからのプレゼントだ」 灯夜は不敵に笑い、力強く肩を叩く。 アキラは顔を上げて、皆に笑顔を見せてくれた。目の端を輝かせながらの、子供らしい朗らかな笑顔を。……もうそこに、サンタに対する恐怖など微塵もなく、拗ねた様子もまた消えていた。
「メリークリスマス……あら、雪?」 ちらほらと雪が降り始めていた。 始めに気付いたのはアキラの背中に言葉を投げかけていた真由美。その言葉は仲間たちへと伝播していく。 雪はホワイトクリスマスの訪れを示すもの。ひばりの祈りが届いたかのように、楽しいクリスマスの形を静かに積み上げてくれるもの。 今宵綴られたのは、悪いサンタクロースをやっつけるサンタクロースたちの物語。それはとても御伽噺じみているけれど、だからこそ暖かい物語になるのだろう。 少年の笑顔で幕を閉じたなら、今度は我等の物語を紡ぎだそう。クリスマスが彩る一夜の夢へと旅立とう。 各々の心の中にある大切なカタチ。それが、心に残る形で彩られる事を祈りながら……。 大丈夫。空が、世界が祝福してくれるから。
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参加者:9人
作成日:2008/12/29
得票数:カッコいい2
ハートフル10
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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