【達人への道】バトルオブホリデー

<オープニング>



 というわけで、大会は好評の内に幕を閉じました。
 ふぇりんたちは活躍に次ぐ大活躍。
 前大会優勝チームを蹴散らし、余裕でメガリスをゲット!
 悪党どもを懲らしめて泣かして悔い改めさせて、世界平和のために貢献したふぇりんはノーベル銀誓賞をもらったのでした。

 という夢から覚めて。
「うな? しるきぃランドは東京ドーム二個分の広さにするのだー」
「広いけど……めちゃくちゃ広いってわけでもないね」
 氷姫はつっこみを入れるにしても半端な感じで困った。
「うー、氷姫さん。三人に分身してどうしたのだ?」
「まだ寝ぼけてるね。ほらほら、顔を洗いにいこう。頭をしゃっきりさせるんだ」
 疲労の為か。つい眠りこけてしまったふぇりんを、同性で面倒見のよい氷姫が起こしにきていた。
 小さいこの面倒を見ることは、遠い日本にいる誰かを思い出させて郷愁が湧く。
「大丈夫、起きているのだー。ところでここはどこなのだー? 見たことのない部屋なのだー」
 ふぇりんの小柄な体が六人分くらい余裕で受け止められるベッドから降ろして、どう見てもサイズの大きいだぶだぶのローブを直してやる。
 ひきずるスリッパも明らかに大きい。主催側もまさか八歳の少女が参加するとは思っていなかったに違いない。
 いや、九歳だ。同じ誕生日の侑と一緒に、先日年齢を重ねたのだ。
 いくら能力者とはいえ、九歳になったばかりの身でこの死と隣り合わせの潜入依頼は辛いだろう。
 氷姫自身も相当疲労やらストレスやらがたまってきている。
 この辺で一回息抜きをしたいと思うのはぜいたくだろうか。
 氷姫は説明するように、くっきり調子をつけて言った。
「見たことないのも当たり前だ。ここは船の中。次の大会に、向かうんだよ。ほら、わかったらご飯食べに行くよ」


「ドバイ?」
 聞き返す一葉に、サカキが頷いた。
 初戦を華々しい勝利で飾った一葉たちは、その後も順調に勝ち抜いて、主催側の覚えもめでたくアジア大会の閉幕を迎えた。
 これでようやく峠を乗り切ったと思ったのも束の間。
 勝利の余韻も消えぬ内に、サカキが告げたのは世界大会開催の知らせであった。
「ドバイ……」
 その単語を舌の上で転がしてみてもぴんとこない。元々、一葉は古き日本に来訪した土蜘蛛の一族である。
 現代の知識を習得したとはいえ、ドバイなぞというぽっと出の土地を知らないのも無理はない。
 そもドバイはもとは小さな漁業の国であったのが、二十世紀後半期から近代化の道をたどり、現在では中東における金融、流通、観光の一大拠点となった。
 超高層ビル、高級ホテル、リゾート、別荘とが立ち並び、今年の十月末には世界最大規模のショッピングモールもオープンし、名実ともにお金持ちによるお金持ちのためのお金持ちの都市となっている。
 大会中に数百億単位の金がひょいひょい動く闇の武道大会の開催地に、これほど相応しいところもあるまい。
「まぁ、いい」
 一葉は表情を変えずに言う。自分たちにどんな期待が課せられているのかは重々承知している。
 精々上手に踊ってやろう。
 でも、思い通りにはならない。待っていてくれる人のもとへ必ず帰る。
「戦えばいいんだろう? そして、勝つ」
「そうだな。俺も、ただ敵あれば斬るのみだ」
 一葉と宗吾の言葉に、サカキはにっこり笑って拍手した。


「ドバイで世界大会か」
 宵闇はつぶやいた。
 宵闇たちの待遇は勝ち進むごとに格段に向上した。
 日本から香港に移動するときとは段違いの豪華な客船には、ご大層なシャンデリラがいくつも吊るされ、成金趣味な調度品がいくつも目につき、邪魔にならないところで楽団がずっとクラシックを奏でている、広間があった。
 宵闇は軽く夜風を浴びると、広間の中に入ってきた。
 香港の夜景も、昼に立ち寄った港町の景色も、異国の夜の海も、とても美しいが宵闇の知る風景にはどこか似ていない。
 依頼の最中なのだから当然ではあるが、心休まる場所ではない。
 今、氷介の目前の卓にはなんだかよくわからないがとにかく美味いのだろうと思われるご立派な料理が並んでいる。
(「高そうだな……」)
 デザート一つとっても、アイスキャンデーとかスイカ型のアイスとかの比ではない。
 やれベルギーからとりよせたなんとかのチョコレートだの、フランスからとりよせたチーズのほにゃららだのそんなものだ。
(「みかんとか柿でいいのになー……」)
 今頃、日本は冬の始まる頃か。雪はもう降っただろうか。
 冬に食べる鍋の美味さは格別だ。特に、気の合う仲間たちで囲む鍋はなんともいえない温かさがある。
 学園に戻ったらきっと鍋をしよう。
 そんな風に故郷に思いを馳せる雪女な氷介である。
「あ、でもこのシャーベットは美味いな」
「おや、そうですか。では、僕もそれをとってきましょう」
 侑が席を立つ。
 食事はビュッフェ形式ではあるが、各コーナーごとに係の者がいて選んだ料理をテーブルまで運んでくれる。
 よくわからない形式だった。
「ぶしゃらぶしゃら、わかりました。このタイタン様の必殺サラダを食らうがいい! でございます。サンダーアンダギー!」
 嫌な予感がしたので侑はごく自然にスルーしたが、一緒に来た宵闇は目が合ってしまった。
「あ、生きてたんだ」
「ぶしゃらぶ……あ」
 二人の間に漂う、微妙な緊張感。
 再会を喜び合うほど仲が良いわけでもなく、だからといって意識しないわけでもなく。
 その空気を変えたのはオレンジ色の髪の少年だった。
「あ、あんた。一回戦前になんか言ってたモヒカンじゃん。へぇ……運がよかったね」
 タイタンは他の選手にも似たようなことしていたようである。
「ぶしゃらぶしゃら、このタイタン様を殺すことは、人の身では適わぬことよ!」
「そう。ま、せいぜいがんばりなよ。敗北者らしくさ」
 少年の物言いは、勝者は敗者を支配するのが正しいとでも言うような、おごりが感じられた。
 とはいえ宵闇はそんなことにはなんら頓着しない。
「すごい言い様だね。キミは負けたことないの?」
「ないね。他流のやつには」
 少年は無愛想に言う。
「負ける気もない。歴史は全部勝った奴のもの。弱い奴は何も残すことができなくても、文句は言えないから。だから勝ち続ける」
 それは当然、宵闇たちと戦うそのときも。
 静かな瞳に、強い意志をたたえ、宵闇を見つめている。


 侑と宵闇はリュウトと会った。
 リュウトは、あのオレンジ髪の少年と同じチームのメンバーの一人で、魔剣士だ。
 試合中、頭上で思いっきり武器を回していたので間違いない。
「お、ライドウさん。ちわっす」
 リュウトは短期間でボサボサになった髪の毛を縦に振った。頭を下げたのだ。
 そばには、他人に毒を盛るのが趣味というロウマディーが料理と、見るからに怪しいドクロラベルの小瓶を交互に見ている。
「こんにちは。リュウトさん、ロウマディーさん」
 ロウマディーは褐色に焼けた素肌が透けて見える踊り子の衣装を着ている。
 年齢は十二歳程度で残念ながら衣装の露出度ほどに色香はない。侑に気づいて慌てて小瓶を隠したが、ばれていないつもりだろうか。
 なぜ彼らがここにいるのかというと、アジア地域は参加者が多いため世界大会に二つの出場枠が与えられているのだ。
 よってリュウトたちのチームと侑たちのチームはブロックも分かれていたために、一戦も交えることなく世界大会出場が決まった。
「ライドウは、この料理好き? 私の国とは全然味違うの。今度機会あったら食べさせてあげるよ。とっておきのスパイスあるの」
「ええ、それもいいかも知れませんね」
 テーブルに戻ると、話題はアジア大会の各試合に移っていた。

「ここが正念場、踏ん張るよ」
 対インドネシア代表戦では、氷姫は獅子奮迅の活躍を見せた。
 試合形式はバトルロイヤルで先に五人倒れた方の負け。
 空手家のスーリャの中段蹴りを膝で受け、正拳突きを完全にガードする。が、反撃する前にワンテンポ早く攻めてくるスーリャ。
 そのままラッシュ。小さい打撃に調子に乗ってフックも混ぜてくる。
「……このっ!」
 顔面をガードしながら反撃に膝蹴りを放つも、手の平で受け止められてしまう。
「バニーラエッセンスのように甘いでーす!」
 氷姫はぎりと奥歯をかみ締め、下ろす足で思い切りスーリャの足を踏みつけた。
「!」
 痛い。だが、それ以上に、逃げられない。
 氷姫のひねりを加えた拳は、スーリャのガードをこじ開けて鎖骨の辺りを痛烈に打った。衝撃が骨に響いてスーリャの意識が飛ぶ。そこを見逃す氷姫ではない。
 ななめに体勢の崩れた胴体にボディブロー。殴れるだけ殴る。スーリャは標本のように足を縫いとめられて逃げられない。その内についにスーリャは昏倒した。
「バニラエッセンス自体は、別に甘くないだろ」
 敵を倒した直後は、隙が生まれるもの。氷姫がスーリャを倒した瞬間を狙って、シャチハンターの銛が飛来する。
 たん
 と布槍が銛を打って弾いた。手首を返して、布槍は空気をはらみ、更に銛を打つ。
 打たれた銛は逆にシャチハンターの腹に突き刺さった。
 それを見ることすらせず、氷姫はシャーマン伊藤の精霊の仮面を蹴り破り、反動で背後から猛牛のように突っ込んできた祭り男デデの背中に自分の背を乗せてくるんと回転。
 続けて放った龍撃砲がシャチハンターのとどめになった。
「格上の相手なんて、幾らでもいる。でも、全てで上回られているわけじゃない」
 対応力のある氷姫の真価を発揮した試合であった。

 対ロシア代表戦。
 バルトの三連星、天然うかつなリガ、世話焼きのビリニュス、優等生のタリンを危なげなく打ち破った宗吾たちは、次にソビエトの忘れ形見元軍人の格闘家ゴルビーを敵に迎えていた。
 ゴルビーはずんぐりむっくりした体型で、童話の世界のドワーフかはたまた映画に出てくるバイキングが厚い毛皮のコートとロシア帽子をかぶったような外見をしている。
「隙ありなのだー!」
 ふぇりんが袈裟懸けに斬り伏せた。
 かと思えたが、ゴルビーは輪郭に沿ってもさりと生えた髭を余裕でなでつけている。ふぇりんが弱いわけではない。こいつがタフすぎるのだ。
 その太い指でふぇりんの手首をがしりとつかむと、小柄な体が軽々と宙に浮いた。
 豪快に笑う。
 危うし、ふぇりん。
 と思う時間もあらばこそ、一葉が蒼焔をでっぷりとした腹部に叩き込んでいた。
「僕の相手もしてくれないか?」
 ゴルビーはそれでも倒れない。いかつい大きな手を今度は一葉に向けて伸ばすと一葉もそれに応えて四つ組みの状態になる。
「小僧。力比べでわっしに敵うと思うたか!」
「負けないかも知れないだろう?」
 だが、誰がどう見てもゴルビーに分があった。厚い脂肪に包まれたゴルビーの鍛えられた筋肉が、凍れる大地に生きる力強さを発揮して一葉を追い詰める。
 一葉の靴の裏が土をがざりと鳴らした。徐々に一葉の足が地面に近づき、覆いかぶされるように背中が水平になっていく。
「ほれ、どうじゃぁ! もう後がないぞ!」
 一葉はしかし、ふ、とかすかな笑みを浮かべた、気がした。ゴルビーには。
 ゴルビーがそれを確かめる前に、握り合っていたゴルビーの両手が潰され、骨を、間接を折られた。
「ぐわほぁらああ! なんじゃとおおお!」
 あらぬ方向に向いた指は、まるで幼児の作った粘土細工のよう。
 一葉の握りつぶした痕がはっきりと残っている。
「蒼焔の爪先に灯る炎で焼くのも一興だろう?」
 一葉はゴルビーの横を通りすたすたと次の相手に向かっていく。
 すれ違いざまに、その巨大さに似合わぬ俊敏さで縦横無尽にゴルビーの体を駆け抜けた赤手は灼熱の業火を置き土産にする。
 一葉の背後で、炎に包まれた巨体が倒れた。

「あたしの辞書に敗北の字はないのだーっ!」
 ベトナム代表二輪のグエンは、原動機付自転車を豪快に振り回してふぇりんを攻める。
 圧倒的な質量は、小手先の技術を吹き飛ばす。実際、車やら自転車やらが飛び出してきたら抵抗しようというより逃げたり避けたりするのが常識的な判断というものだ。
 しかし、ふぇりんは真っ向から立ち向かった。
 突いたり弾いたりしようとしても効果が薄いことは、既に承知。ふぇりんはさっと地面に突き立てた長剣を蹴って跳び上がり、大上段から刃を振り下ろした。
 グエンは安全メットに強烈な衝撃を食らいよろける。
 ふぇりんはその隙を逃さず間合いを詰めて剣を横に一閃。ぎりぎりでグエンが引き寄せた原動機付自転車を勢いに任せて押し勝つと、がら空きの顔面に拳を叩き込んだ。
 剣技を誇りにする騎士はこのような戦い方はしないと言われる。
 これはむしろ傭兵の戦い方だと。
 だが、そんな杓子定規では能力者ふぇりんは測れない。
 ふぇりんは集中する。己の体を律し、隅々まで神経を活性化させる。
 隙のない戦闘態勢。湧き上がるオーラは形を成して、仔犬どころか神々さえ食い殺しそうな凶暴性と同時に凛とした美しさを兼ね備えた魔狼が具現化する。
「これで終わりなのだぁ!」
「ひいいいい! くるなぁ!」
 接近するふぇりんに対して、最後の悪あがき。
 グエンはサル科の動物の名前のついた原動機付き自転車を向かってくる小さくも気高い狼に投げつける。
 すっとふぇりんの姿が消える。
 低くかがんだふぇりんは、真下からアッパーをかまして原動機付き自転車を吹っ飛ばすと、グエンに斬りかかった。
 ベン
 と頭頂を剣の平で叩く。
「安心しろ。あたしは鬼ではないのだー!」
 カニの様にあぶくを吹いて気絶したグエンにふぇりんは言った。
「呼んだか?」
 ビンディン武道の継承者を叩きのめし、ボビナム使いのツァイと相対するのは剣鬼宗吾だ。
 ツァイはアクロバティックな動きを中心とした派手なアクションを得意とする。味方の太腿を蹴って跳び上がるとスピーディに足の裏を相手に叩き込む。もしくは、相手の首をまたに挟んで引きずり倒す。
 なんらかの能力によって一層俊敏さを増したツァイの動きに宗吾さえ翻弄される。
 かと思ったが、二度目には見切られ、宗吾は何事でもないかのように地面に叩き落した。
「これでは、サーカスだな」

 あと、ノブユキは対朝鮮半島代表戦においてミニスカートと黒のニーソックスを装着した姿で登場して会場を震撼させた。見せてもよいパンツをしっかり履いていたのがなんかイラっとしたし、決してじいさんがタイプというわけでもないのに、ひらひらして動いているせいかついつい目をやってしまうのが腹立たしい。
「セクシー拳嫌過ぎる……なぁソウゴ……って麻雀してるー!」
 今頃気づいた氷姫。
 豪華な広間の片隅には、場違いな麻雀卓を囲む宗吾がいた。
 面子は他に双子の姉妹と覆面戦士。
「む、なんだ? 今、テンパイなんだが」
「……ソウゴの番」
「すまない。タマオさん。では、これで」
 大会の期間中、宗吾は麻雀を通じて他の参加者と交流を深めていた。
 双子の姉、陽気で美人で健康的な大人の色香のあるのがタマミ。
 双子の妹、物静かで儚げで陰のある美人がタマオ。
 覆面戦士は屋内でも白い布をミイラのように顔にまきつけて素顔を見せないが、どうやら女性であるらしい。名はロシといった。
「あー負けた負けた! おけらだよチクショー! これじゃあファイトマネーもらっても赤字じゃね?」
「……タマミ姉さん、一体どれだけ負けてるのさ」
 オレンジ髪の少年がタマミに飲み物を渡しながら言う。
 少年は、双子の姉妹の実弟である。姉弟三人で大会に参加している武術姉弟なのだ。
 少年はナナシノゴンベーと名乗った。偽名である。人を食ったやつだと一葉は思い、でもずばずば言い放つところは宵闇の方が優れているとも思った。宵闇は気づいていないようだが。
「ワタシに麻雀で勝つノは四千年早いね。しかし、ソウゴはバカ勝ちもしないが負けもしない。すごいね」
「呼吸の外し方しか能は無いがね」
「へーんだ。どうせあたしはボロ負けですよーだ。ほーれ、ギンおいでー」
 タマミの露な脚線にすりよるのは銀色の毛並みの狼であった。
 特に双子姉妹に可愛がられ、人の言葉がわかるかのように利口である。
「船の中にまで入ってきちゃった……? 黒服の誰かのペットなのかな……」
 タマオが首をかしげる。
「あーん、ダメよ。こんなところで。くすぐったいじゃん。ほら、そんななめないでー」
「あ、タマミ、次私にも抱っこさせて」
「もふもふじゃん」
 大人気だ。
「……そういえば、彼の姿が見えませんねー」
 ビクッ!
 侑の何気ない言葉に狼があからさまに動揺する。
「ほら、銀髪の。そう、まるでその狼みたいな」
 ぴゅーぴゅー、と口笛でもふくかのように狼。宗吾はふっと息を吐いた。
「あたしも変身できるのだー。やるのだ?」
「今はやめとくんだな」
 一葉がとめた。
「ああ、ティル? あいつたまにいなくなるんだよねー。どこでなにをしてるやら」
 そこであなたのふくらはぎなめてますが。
 という言葉を飲み込む。
 野性味に溢れた銀髪の戦士は、骨格が太く、少々上半身に傾いているが理想的と言えなくもない筋肉のつきかたをしている、ドイツ人の男だ。
「俺の名前はティルだ。ティルお兄様と呼びやがれ」
 おそらくは人狼。性格はあっけらかんとして人懐っこく、嗜好は年上ヘテロセクシャル。
 年上好きというところで少しだけ誰かの顔が思い浮かんだような気がするが、気のせいだろう。
「うらやましいのぅ」
「え、なにか言った? 色ボケじじい」
「お前さん、わしんこと嫌いか?」
 宵闇の言葉にノブユキハートブレイク。
「じゃあ、なんなの? うらやましいとか。ボケたの?」
「いや、だってあの狼、バナナもらっとる」
「自分でとってこい」
 そんなこんなで、大変賑やかな夕食が船旅の思い出を彩った。
 彼らとは、このまま勝ち残ればいつか戦うこともあるだろうが、お互い勝ち残ってきた実力を認め合う関係である。
 船はやがてドバイに到着した。
 

 選手の宿泊のために用意された高級ホテルの片隅で、
「ぶしゃらぶしゃら。では、このタイタン様の言葉を神の啓示であるかのごとく聞くのだ!」
「さっさとしゃべってよ」
 宵闇、氷姫、宗吾、ふぇりんはタイタンから情報を得ていた。
 あの不思議な武器が消失し、敗北と判定された後、寸前で目を覚ましたタイタンは必死の命乞いをしてどうにか助かった。
 意外と器用な手先を披露して主に選手側の料理関係で働いている近況は聞き流し、敗北時のことを聞く。
 なんでも、各コロシアムには敗北者が運ばれる部屋があり、一旦入ったが最後そこから黒服以外の者が出てくることはないらしい。
 あくまで噂、とタイタンは言う。
 世界大会の会場にもそれに該当する部屋はあるらしい。
 危険な気配が濃厚だが、この情報を利用するべきかどうか。
 タイタンにもう少し動いてもらうこともできそうな気もするが、自分たちで動いた方が確実な気がする。タイタンだし。
 このことは考えに入れておこう。


 エレベーター前にゆったりと設けられた空間から、なにやら言い争う声が聞こえてきた。
「香港じゃ全然遊べなかったんだからそれくらい、別にいいじゃんじゃん!」
「うーん、そう言われましても」
 困り顔のサカキに、アラビアン娘が詰め寄っている。ロウマディーだ。
「どうしました?」
 侑が尋ねると、ロウマディーは外出許可が下りないのだと言った。
 実は日程調整の関係で、世界大会が開催されるまでにまだ日がある。
 降って湧いた休日なのであった。
 そしてここは名高いドバイ。
 せっかくなのだから外に出たいのが人情というものだが、サカキは無用な混乱を避けるためと首を縦に振らない。
「しかしですねぇ。これはみなさんの安全を守るためでもあるんですよ。私、みなさんにものすごく期待しているんです。わかってください」
「ほらみて。ずっとこの調子なのよ」
 ぷんぷんと頬を膨らませて怒るロウマディー。頬は膨らむが、胸はぺったんこ。
「サカキさん、外に出たいのだー!」
「少しくらい、いいんじゃないか」
「いいでしょう」
「えええええぇえっ!」
 ふぇりんと一葉のお願いにあっさりと落ちるサカキ。
「ひ、ひいきなのよー!」
「しかし、監視はつけさせてもらいますよ。ボディガードも兼ねて。みなさんの体はもう既に、そう、財産なのです」
「しかも、さらっと無視されたのよー!」
 ショックでめそめそするロウマディーをなぐさめるムエタイ戦士。気にせず喜ぶ青年リュウトは今日も禍々しい剣を杖代わりにしている。
 あれはもしやそういうデザインの杖かなにかなのか。
「じゃ、俺たちも外出してもいいよな」
「お願いなのだ」
「いいだろう?」
「仕方ありませんね」
 サカキ、どんだけ。
 ともかくも外出許可は下りた。
 監視役は財布も兼ねる。欲しい物があれば、ファイトマネーから天引きで買うことができる。
 ムエタイ戦士とロウマディー、リュウトの三人組はホテルに行ったり、海に行ったりするらしい。
「ヨーロッパ大会の連中は他のホテルだそうなのよー。毒を盛りに行ってやるのよー」
「ロウマディー、毒、よくない」
「あはは。ムエタイ。ジョークなのよー」
「まぁ、楽しければいいじゃない。俺、実はもうドバイの観光パンフレット用意してんだ。あ、蒼蜘蛛さん、ふぇりんさんらも来る?」
 一葉たちを誘うリュウト。ロウマディーは侑を見ている。
「じゃー、私らも行こっかー。買い物、買い物ー!」
「タマミ姉さん、またなんか買うの。金ないのに」
「あんたが出しなさいよ」
「……。なんか甘いもんくれるならいいよ」
「いいのかよ」
 タマオはちらりと宗吾を見て、
「……ソウゴ、来る?」
「美しいあなたも、ぜひどうぞ。美しい道連れは、いくらでも嬉しいからね」
 ナナシ少年の言葉である。普段の態度は冷たいくせに唐突に真顔できざなことを言うことがわかってきた。
「ほんじゃ、俺もタマミさんたちと一緒……なんだ、ロシ」
「握ってるだけね」
「いや、だからなんで俺のベルトを……」
「つかみやすいからね」
「いや、その」
「ティルは、おっぱいばーん好きね?」
「いや、俺は年上なら誰でも好きだぞ。年上は尊い! 尊い!」
「じゃ、ワタシノ観光つきあうね」
「え、いや、話がつながら……あれーっ? ロシさーん?」
 ロシとティルたちも観光するようだ。
 ロシは二人っきりの状況は望んでいない。
 まぁ、監視もいるから厳密には二人きりとはならないが、ティルもちらちら宵闇たちに助けを求める視線を送ってきているし、ついていってもいいだろう。
「わしらはどこへいく?」
「……え」
 氷介が視線を向けると、ノブユキは仲間になりたそうにこちらを見ている。
「あ、そういえば、サカキさん。前回の大会の優勝チームってどこだか知ってる?」
 宵闇の質問に、サカキはにこにこ笑って答えた。
「イタリアのチームですよ。素晴らしいチームでした」
 間もなく監視兼財布兼通訳の執事っぽい黒服がやってきて慇懃に礼をした。
 

 とある高層ホテルの一室で、窓ガラスから遥か眼下を望む少女がいた。
 衣服は中世風のごてごてとしたドレス。
 はしばみ色の瞳を彩るまつげは豊かで、月光を編んだような髪は胸の辺りで、前髪はちょうど眉を隠す位置で切り揃えられている。
 華奢な体格に、良家の令嬢のような気品をまとわせた少女だ。年齢は、そばかすが気になるお年頃。
「小猿ちゃんたちが到着したようね。さて、どの程度の実力なのかしら。うふふふ」
 左手にもったワイングラスには赤紫色の液体がなみなみとある。空いている方の指をパチンと鳴らすと、いつの間にか、彼女のそばに執事らしき青年が立っている。
 蜂蜜色の髪、少し鼻は低いがまあまあの容姿である。難を言えば少し眼鏡が野暮ったい。彼は叫んだ。
「セバスチャンです!」
「名前はいいわ、セバスチャン……それよりも、準備はできていて?」
「はい、お嬢様。既に仕掛けは整っております。アジア代表とやらの実力を測るにはちょうど良いかと」
「うふふ、上出来よ。素晴らしいわ」
「セバスチャンです!」
「名前はいいわ」
 少女はワイングラスに咲きかけの薔薇のような頬を寄せ、ついと整った鼻梁で芳しき爽快な香りをかぐ。
「殺したらダメよ。ルール違反だから。淑女はルールを守るもの」
「御意」
「ふふふ。私を失望させないでね、小猿ちゃんたち。まぁ、いずれ参加者は全員この私、イライザの足元にひれ伏すことになるのだけれど」
 小ぶりな胸を大きくそらして笑う少女。
 零れる飲み物。
「ああっ! お嬢様。だから立って笑いながら炭酸グレープを飲むのはやめて下さいと申し上げたではありませんか!」
「ええい、この私に意見する気!」
「セバスチャンです!」
「だから、名前は……」
 ドバイの空に、見えざる嵐の気配。

マスターからのコメントを見る

参加者
紅蓮峠・氷姫(大神に捧ぐ紅蓮の華・b08557)
灼夜・ふぇりん(灼狼・b16562)
玖田・宗吾(厳雷・b25426)
明夜・宵闇(ディッソナンツァ・b30422)
真乃宮・一葉(瑠璃の白花・b33973)
禮堂・侑(疾翔・b36859)
外狩・氷介(裂空零度・b48061)




<リプレイ>


 サカキは逡巡したようだったが、いざ口を開けば言葉は湯水のように湧いて出た。
 アジア大会などの比較的小規模な大会は何度も開かれてきたが、世界規模の大会は今回で二度目である。
 今大会にはイタリアチームは参加しておらず、一部は身辺警護の役などについている。
 イタリアチームの選手の戦い方は、少なくとも禮堂・侑(疾翔・b36859)の知っている能力者には似ていないようだった。
「……でね。そのアメリゴっていうのが、チーズを諦めるかその腹の肉を諦めるかって」
「あ。もう、こんな時間ですね。待ち合わせをしているのでした。楽しい話をありがとうございました」
 話し足りないのかしょんぼりするサカキには悪い気もするが、これ以上イタリアメンバーの私生活まで聞いても仕方ない。サカキは詳しすぎて、おしゃべりすぎる。
 侑はサカキの手前急いだ様子でホテルを出る。得た情報を整理しながら。
(「おぼろげながら見えてきた……と言ったところでしょうか」)
 八百長かどうかはわからない。むしろ八百長であった方が喜ばしいかも知れない。それは弱者の手段だ。つけいる隙もある。
(「……希望的観測でしょうか」)


「今頃、他のみんなは観光しているんだろうなぁ」
「ぶしゃらぶしゃら」
「……タイタン、静かに。ここで待ってて」
 白と青のコートを着込み、帽子をまぶかにかぶった少年がモヒカン頭の大男を引き連れて曲がり角の先をのぞいている。
 彼、明夜・宵闇(ディッソナンツァ・b30422)は会場に潜入中だ。表向きは高層のビジネスビル。
 だが、内部にはトルコのエフェソスやらギリシャのアクロポリスやらからそっくり持ってきたような神殿の装飾がされ、世界各地の神話をモチーフにしたレリーフやら裸像がいたるところに配置されている。
 地下には吹き抜けの空間に古代のコロセウムがあって、職人によって古めかしさが加えられている。
「敗者の人々はあの部屋に入れられてどうなるかわからない。その人たちを助ける為なんだ」
 宵闇は真摯に向き合い、かつ、おだてすかしてタイタンに協力を仰いだ。主にアリバイ工作だ。
 既に問題の部屋は調査を終えている。あそこは下水道につながっていて、瀕死の敗者はそこに流される。
 用心深い主催側としては雑な処理であるが、大抵の選手はそこで命を落とすし、下水管が未整備であるため主催が依頼した業者が死体も処理するのだろう。
 マンホールの出口は二つしかない上関係者には公表されているので、なんとか這い出たとしても、その敗者によって著しく不利益をこうむった人間によって待ち伏せされることもあるという。
「とはいえ地上に出るにはエレベーターを使わないといけないか……」
 幸い、闇纏いを認識できる相手との遭遇はない。下水部屋のデジタルロック開錠のコマンドはタイタンが調べてきたが、ボスのいるエリアに行くには位の高い者が知るコマンドかカードキーが必要だ。
 メガリス強奪後の脱出はおそらくボスの部屋から始まる。経路は知っておきたいが、確実に警戒度も危険度も跳ね上がる。
「闇纏いがどれだけ通用するかわかんないのがなぁ」
 帰り際、通りかかる組織の人間。
「む、お前は転属してきたタイタンじゃないか。どうしたんだ。非番だろ」
「ぶしゃらぶしゃら。こいつをこのタイタン様の弟と知ってのことかぁ!」
「はいはい。新入りかい? 案内はいいが、その扉の奥のエリアに行こうなんて考えるな。サカキさんに知られたら、これもんだぜ?」
 首切りのポーズ。
(「改めて思うね。ここ、とんでもないとこだって」)


 最初に真乃宮・一葉(瑠璃の白花・b33973)、灼夜・ふぇりん(灼狼・b16562)たちがやってきたのは、ドバイオールドスーク。ドバイ最古の市場だ。
 木造のアーケードには等間隔に照明が並んで小さな店を照らす。
 平日の昼なので空いているが、休日の夕刻などは恐ろしく混雑するとパンフにはある。
(「観光……している場合ではない気もするが、たまにはいいかも知れんな。違うものが見えてくるかも知れないしな?」)
 パシュミナのストールは肌触りが繊細で柔らかい。落ち着いた色合いはバリエーションが豊富で、一葉は選ぶのに迷ってしまう。
「あ、このラバーダッキーガラ悪っ! お土産に買っていこ」
「本当だ! なにこの不良アヒル」
 ふぇりんが持っているのは風呂に浮かべるようなアヒルの玩具。なぜかサングラス着用。
「やっばいなー。俺もこのアヒル買おうかなー」
「リュウト! 蒼蜘蛛! これ着てみてー」
 ロウマディーが持つはカンドゥーラという男性用の真っ白な民族衣装。
 グトラというヘッドスカーフもかぶれば、気分はいわゆるアラブの金持ち。
「……これ、ずっと着ていないとだめなのか?」
「だーめー」
 ふぇりんたちは女性用の民族衣装アバヤ。観光客向けに金色の刺繍が入ったものでシェイラというスカーフをかぶれば、肌の露出は顔くらい。
「どう? 可愛い?」
「似合ってるッスよ。ふぇりんさん。よーし、これ俺がプレゼントしますわ」
 合流した侑を、民族衣装を持って歓迎した。
 マイペースな侑だが、場の空気に合わせられないわけでもない。
「肌を露出しないのは紫外線避けでしょうか。似合いますか?」
「風格があるな。次の試合その格好で出たらどうだ」
「蒼蜘蛛さんこそ、いかがですか?」
「遠慮しておこう」
 一通り土産物屋をめぐると一葉は声を潜めてリュウトに、
「監視がいると落ち着かなくはないか? 僕たちならば撒くのも簡単な気がするが、どうする?」
「別に? 帰りにタクシーで帰れないのも面倒だし。それより次はなんとかホテル行きましょうや」
 移動中こっそり質問したが、有益な返答は返ってこなかった。
「蒼蜘蛛さんたちと一緒にアジア大会抜けてきたのに、そんなの知るわけねーっスよ。それより昼飯どこで食います?」
 古代ローマの浴場をイメージしたハマムプールのあるリゾートで、青い海と白砂のコントラストに目を奪われている少女に侑は、
「オレンジでよかったですか?」
「なー! ライドウさんは気が利くし、紳士的で素敵なのー」
 ロウマディーは「やっぱりやめとくの」とつぶやく。
「なにか?」
「なんでもないのー」
 彼女がぽいと放り捨てた飴玉はたまたまムエタイの口に入り、ごくん。
 ムエタイはトイレに駆け込んだ。


 外狩・氷介(裂空零度・b48061)たちがやってきたのは、バスタキヤ地区。美しい平面の印象が目立つアラブの歴史建築物を巡り、店に立ち寄り、
「なんだ。お前、腕輪欲しいの? 武器代わり?」
「違う。いらない」
「なんなら俺が買ってやるよ。いつもの礼な」
 氷介は大変苦労していた。
(「なんだろう、この微妙な緊張感」)
 ロシは氷介には親切だが、ティルにはつっけんどん。
「……ティルは、やっぱりタマミたちと一緒が良かったダロ」
 覆面で隠れたロシの言葉はどこか力ない。
 雲行きが怪しくなってきたので、氷介が話題を変える。
「そういえば、知っていますか? この大会の敗者は全員行方不明になってるという話」
「へ。そーなん?」
「知っているよ。こんな大会だ。そんなこともあるだろう」
「まじで! すっげーやべーじゃん。やっべー。俺怖くなってきた」
「怖いって……人狼ですよね?」
 ぎくり
「な、なんだ、お前知ってんの? 俺たちのこと」
「え、ええ、まぁ……」
 気安く回してくる腕には、微妙に力がこもっている。
「俺たちが動物好きだってことも」
 狼変身のことを、ロシに悟られぬよう口止めをしてきた。
 その後は、ティルの過去についてでも……と思ったその時、ゲルマン系の男が四人、周囲を囲んだ。
「俺は女性とのひと時を邪魔するやつには容赦しねぇぜ?」
 ティルは銀のネックレスに触れながら言った。


 先月オープンしたばかりの世界最大級のショッピングモール、ドバイモール。
「ソウゴは料理できるんだー?」
 玖田・宗吾(厳雷・b25426)、紅蓮峠・氷姫(大神に捧ぐ紅蓮の華・b08557)たちはスークで食品系の買い物を終えた後にこちらにやってきた。
「……これ、正直ないだろ」
 ナナシの持つ荷物は天井高くまで積み上がり、ゆらゆらと奇跡的なバランスで揺れている。
「なに言ってんの。まだまだ買うわよ。ほらー、イッコウちゃんも女の子なんだから、こんなのどー? かわいーじゃん?」
「いや、ほら、あたしは」
「……おい、こら、聞けよ」
 タマミは振り返ると冷たい視線になって。
「これくらいなんでもないでしょ。後継者様?」
「……ふざけんなよ」
 時折、すごく冷たい視線を送ってくる。ぞくり、と背筋が震えるような。
 見た目は大きく見積もっても中学一年生くらいのくせに、生意気だ。
 ギャラリーを併設したカフェに落ち着いて、氷姫の質問から武者修行と賞金を目的に大会に参加したことが知れた。
 技は秘し、姉弟仲のことに触れると、ナナシはしきりに否定した。
「そうかい? あたしにはすごく仲がよさそうに見えるけどね」
 すると、ナナシはぷいと横を向いて「そんなことないね」と言って黙り込む。
 年齢はもう少し、下かも知れない。
「セクシー拳の極意は、理想の女性像を動きに投影することにあり……想像であるからこその美が……」
 空気を読まないノブユキの語りにげんなりしたが、割かし監視役は食いついている。
 宗吾はその隙に、タマミらに質問。
 カフェを出る。
「……気づいておられますか?」
「ふむ、おぬしは穴を見て、それを意識することができるようじゃの」
 最後尾の宗吾たちは急に横に曲がる。
 襲撃者たちは、慌てて追いかけ後姿を確認した瞬間鉄球を投擲。二人の頭蓋を棘つきの鉄球が粉砕した。
 そう襲撃者は思った。
 しかし、それは目の錯覚。
「いないっ?」
「ここだよ」
 襲撃者の目には、宗吾がビルの壁に垂直に立っているように見えた。
 次の瞬間、襲撃者は叩き伏せられて地面とキスをしていた。
「くぅ! こいつらやるぞ! 油断するな!」
「へっへっへ。余裕ですよ。せいぜい可愛がって……ひえええだめだあああつよすぎるううううう」
「たぁーすけてえぁー」
 タマミは備える時間すら与えない高速の連続攻撃、タマオは常にゆらゆらと動いて気づけば敵の喉元を喰らう拳で敵を倒す。
 狙い目だと思ったか三人がナナシに殺到。
「シャオフー!」
「悪いけど……今、気が立っているんだよね」
 ナナシは俊敏な動きで敵からの攻撃を受け流した。
 がに股の様な姿勢から左足一本で立つ構えに移りながら、左手と右足で敵の攻撃をはじくと、持ち上げていた右足を地面に降ろし、そのまま、小さな気合と共に踏み締めた。
「はっ!」
 衝撃、だった。
 その瞬間、ナナシに肉薄していた男たちに衝撃が襲い掛かり、勢いよく吹っ飛ぶと、壁に、地面に叩きつけられる。
(「な、なにが起きたんだ」)
 目の前で起きた光景に、氷姫は目を瞬かせた。
 ただの技ならここまで驚かなかった。
 これまでの試合相手も、一癖も二癖もある連中だった。
 だが、今ナナシが吹き飛ばしたのは仮にも従属種で、吹っ飛び方も半端じゃなかった。
 間違いない、能力者だと本能が告げた。
 ナナシがしたのは、足で地面を踏みしめる。ただそれだけの動作。
 しかし、次の刹那、踏みしめた地面から大気を震わす衝撃波が生まれ、三人を触れることすらせず一蹴した。
「……ふむ」
 街の障害物を上手く利用して敵を倒しながら、宗吾。
 氷姫は一人の背を跳び箱代わりに使って開脚蹴りで男二人を蹴り飛ばし、跳び箱男の足を払って胸板を踏みつけると、
「まぁ、ちょっと目立ちすぎかな。行こう」
 ナナシたちの手を引いて逃げるようにその場を後にした。


「なんだ、俺ら、すっげー息ぴったりじゃん?」
 ティルは氷介とロシを無理やり抱き寄せる。氷介の頬にティルの銀の首飾りが触れて冷たい。
 学園でも人狼や建築士と合わせたことはなかったが、上手くいった。
 そう、ロシは除霊建築士。
 二つの定規を金具でつないだ武器を取り出したとき、まさかと思ったが。
 敵は敵わないと見るや早々に退散した。
「勝手にひっつくナ」
 ロシはティルをすげなく振り払い、叱られた犬みたいにしゅんとするティルを無視して、氷介に帰ろうと言う。
 氷介は振り返って手を差し出した。
「さ、ティルさん。帰りましょう」


 合流するために駆けつけた宵闇を出迎えたのは、ラクダに乗ったりしてドバイを満喫している宗吾たち。
(「なんで一葉さんたちあんな格好を……」)
 広大な砂漠の真ん中に作られたステージ。
 澄み切った星空の下、砂丘を背景に色とりどりの光線が飛び、花火が咲き誇る。
 異国の地のアラビアンナイトは、死闘の日々を一時忘れさせた。


 ふぇりんはスタイリッシュでモダンな最高級ホテルのスイートルームで、イライザたちと対峙していた。
「大人しく言わないと、あられもない姿に縛り上げて夜のドバイに放置プレイするのだぞ?」
 単独で乗り込んできたのだ。
「あんた大会関係者の人?」
「違うとでも思った?」
「大会敗者のその後は?」
「負け犬のことなんて知らないわ」
「優勝チームってどんなところ?」
「どんなところってどういう意味よ」
「おねーさんスリーサイズいくつ?」
 ごにょごにょごにょ。
「……大したことないのだ」
「むっきー!」
 結局、イライザはヨーロッパ代表チームのリーダー格で、貴種ヴァンパイアだということだった。
「セバスチャンです!」
「名前はいいわ……ええっ! この子が人狼ですって! まあ、汚らわしい!」
「お風呂は毎日入ってるよ?」
「人狼にスリーサイズを知られるなんて、これ以上の屈辱はないわ!」
「それは幸せな人生なのだ」
「ただで帰れると思ってないわよね!」
 ふぇりんはにやりと笑って構える。監視役の制止なんて聞こえない。


「……部屋に行ってもいいかな」
 タマオがささやきかけてきたのは、ロビーでの別れ際。
「……そういったことは、あまり歓迎できませんが」
「あ、違うの……そうじゃなくて」
 タマオは珍しく慌てて否定した。耳たぶが少し赤い。
「他のみんなも一緒に」
「わかりました。面子に希望はありますか」
「ソウゴ。麻雀じゃなくて」
 微笑がすっとしまる。
 宗吾は真摯な瞳でそれを迎えた。
「お願いがあるの。詳しくは後で話すけれど」
 口にする言葉は傲慢ともとれたが、
「私たち、白虎は天下無双。勝ち続けすぎた。だから、教えて欲しいの。完全なる敗北を」
 ひどく儚く、悲鳴のように揺らいだ。

 ふぇりんの報が届いたのはその直後であった。


マスター:池田コント 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2008/12/25
得票数:楽しい13  笑える11  カッコいい78  怖すぎ1  知的13  ハートフル1 
冒険結果:成功!
重傷者:灼夜・ふぇりん(灼狼・b16562) 
死亡者:なし
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