≪近くて遠い秘密のお店≫VS 森のくまさん


<オープニング>


 近くて遠い秘密のお店の皆と遊びに来た筈だったのだが、うっかり迷子世界ランキング第四位(くらい)の花火は、ごくごく普通に結社の仲間達とはぐれていた。
 そんな女性の迷子という美味しい獲物の前に地縛霊が魔手を延ばす。殺気を感じ素早く身を低くした花火の頭上を何かを通り過ぎる。とっさにイグニッションする花火が横目でその突き刺さった物を確認、した。木に突き刺さっていたのは黄金の衣が美しい、人によってはソースか醤油をかけたくなる物体。
「………イカリング?」
 うっかり脱力して倒れそうになった花火をケットシーが必死に支える。無視して帰ろうかと一瞬思う花火の目の前に三体の地縛霊が現れる。
「あ、あなた達、何なのよ!」
 現れた地縛霊を見て、花火が脱力しかけたツッコミを放つ。
「がー!」
「くまくまくま!」
「……ぽー」
「だから、あなた達……熊なのね」
 溜息をつく花火を今にも襲おうとしているのは、一見熊にも……全然見えない完璧な着ぐるみ姿の地縛霊。そろいのTシャツを着てご丁寧に安全ピンで名札をつけている。
 『熊野パー』は青いTシャツ姿の下からでもわかるマッチョな肉体の持ち主。着ぐるみのサイズが合わないのか、着ぐるみがあちこち破れて中の人がチラリズム。
 緑のTシャツの『熊野ポー』は一人だけ女の子っぽいスカートを着ているが、着ぐるみの頭が後ろ前反対についている。必死に直そうとしているがしばらく直りそうもない。
 赤いTシャツの『熊野ピー』は指先でチャクラムの様に回している。他の二人より凛々しい顔の着ぐるみでカッコつけてイカリングを回している姿は凄く間抜けで見なかったことにしたくなる。
「花火さん! どこ行ったの?!」
「こっち! 助けてぇ!」
 花火の姿が無いことに気付いたのか、自分を探す仲間にいろんな意味でピンチな花火は思いっきり助けを求める。その声に反応したように獲物を逃がしたくない地縛霊が退路を塞ぐ。
 仲間がたどり着くまでにはもう少しかかりそうだ。逃げられないことを悟った花火は箒を構える。
「こんな所で倒れたくない!」
 決意を固めた花火にどこかユーモラスな動きで地縛霊は襲いかかる。

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参加者
銅玄・喜多(ゆるりと・b22278)
大宮・蝶子(無粋な泥水・b26239)
藤井・花火(迷子世界ランキング第四位・b37031)
田中・シベリア(絶対零度・b43215)
伊吹・セト(黒蜘蛛・b46389)
ミント・ハーブラ(蒼月の浮羽・b46490)
風菜・詩火(刀姫・b47442)
小鳥遊・桐音(月光の狩人・b53243)



<リプレイ>

●大きな白い貝殻とイカリングの童歌
 白い貝殻が唸りを上げて振り下ろされる。身をすくめた藤井・花火(迷子世界ランキング第四位・b37031)とパーの間にケットシーのエドワードが無理矢理割り込み盾になる。
「がんばれー、エド! 男の子!」
 パーの一撃を受けても一歩も引かないエドワードを励ましながら、猫神をぎゅっと握ると花火は後退しながら素早く魔法陣を描く。
「わきゃー!? 変なクマさんがー!?」
 大声を上げて結社のみんなに助けを求めながら花火の脳内では、パーが女の子でピンクじゃなくてぺーがいなくて良かったとか、黄色がかったぺーが違う名前じゃなくて良かったとか、ツッコミが走馬燈の様に流れている。
「色々思う事はあるけれど! 白い貝殻の小さなイヤリングだから! なんで、二つに分けちゃうかな、このクマさん達は!」

「さて、花火の迷子癖にも困ったものじゃが、そういうことを言っておる場合ではないかの」
 花火の悲鳴と銃撃音を頼りに銅玄・喜多(ゆるりと・b22278)達は迷子を捜して森を駆け回る。
「花火さーん、大丈夫ですかー!」
 花火がまさか迷子になるとは……うすうすこうなる思って気を配っていたミント・ハーブラ(蒼月の浮羽・b46490)も思いっきり見失っていた。花火の圧倒的な迷子は、称号に偽り無しの一級品だと感心しつつも、ゴーストと遭遇となると紐付けておけば良かったでしょうか、ともどかしい気持ちになる。
「イーっ!(僕を呼ぶ声が聞こえる……ネタを、ネタをするんだと囁く声が)」
「ククク、世界征服についての討論会に参加した後の我が前に現れたのを悔やむが良い!」
「……早く助けなければ」
 カボチャ戦闘員な伊吹・セト(黒蜘蛛・b46389)と首領モードの田中・シベリア(絶対零度・b43215)の後ろで風菜・詩火(刀姫・b47442)が呟く。早く団長を助け出さないと色々な意味で、大変だ。
 花火から目を離してしまった事を悔やみながら小鳥遊・桐音(月光の狩人・b53243)が展開した魔法陣を突き破る勢いで走る。戦闘音はドンドン近付いてくる。
「花火! 無事でい……て?」
 全速力で駆けて来た団員達の前に広がった光景は……二丁拳銃猫に貝殻二刀流で立ち向かう嫌なチラリズムな熊と、ようやく頭を直した着ぐるみと、得意げに新たなイカリングを取り出すUMAと、イカリングに切り裂かれうっかり残りHPが危険に突入した団長の姿。混沌とした状況は、常識離れした物に態勢のある能力者達でも思わず無かったことにしたくなる。
「……今助け………なくてもよいですかね?」
「だめーっ! 助けてー!」

●フォレストの中、ベアーに出会い系
「フッ……オニオンリングであれば粉砕即死だったですよ」
 大宮・蝶子(無粋な泥水・b26239)は驚愕から立ち直ると冷や汗を流しながら渋く呟いた。
「そういう問題なんでしょうか?」
 首を傾げながらミントはギンギンパワーZを花火に差し出す。
「はい、とりあえずこれを飲んでくださいね」
 甘い中にわずかに薬臭さが漂う郷愁溢れる咳止めシロップ味が体にしみる。
「……なぜイカリング?」
 花火を助けるために落ち着いて対処しようとしてたも詩火思わず反応に困るピーのイカリング攻撃。ツッコミどころに困り目をそらして、強化しようと緑風を頭上で高速回転させる。その様子を見て対抗する様に、ピーは指先に引っかけたイカリングをクールなつもりなんだろうな格好で回してくる。金色の衣が辺りにキラキラと舞い散り生っぽい烏賊の匂いが漂う。
 がっくりと肩を落とす詩火の横を擦り抜けるように、ピーはイカリングを桐音に投げつける。高速回転するイカリングがのめり込み、あまりのイカ臭さに思わずへこんだ桐音は地面にしゃがみ込む。
 得意げな顔で無駄に格好つけて次のイカリングを引っ張り出すピーの隙を喜多が見逃す筈は、無い。下がってきた花火を背に庇いながら榊を振るう。祈る様に囁かれた呪言は、ピーを突き刺しその身を縛る。
「しかし、あのような格好をしておるとは、生前に何があったのか気になるところじゃのう」
 珍妙なポーズのまま硬直したピーを無視してシベリアは呪詛呪言でポーを攻撃する。イカリングの衝撃から立ち直った花火は魔弾の射手とエドワードの魔力供給で回復しながら態勢を立て直す。
「あ、スカートが前後反対ですよ」
 蝶子の悪戯にポーが慌てて下を見ようとして、頭がずれる。
「グヒッゲヒヒヒヒヒ!!」
 上手くポーを引っかけ大爆笑しながらレイピアを振るう。炎を宿した切っ先が空間に蝶を素早く刻みこむ。炎の蝶を剣を一振りして飛ばすとポーに一直線に飛んでいく。
「魔法剣士って感じですよね? げへ?」
 嬉しそうに後ろを振り向いた蝶子は見てしまう、しゃがみ込んだ姉のへこんだ姿を。
「可愛くない、イカ臭い、熊鍋にもできない……」
「姉さん、それどころじゃねーですよー」
 どよんとした空気を漂わせながらのの字を書く桐音も、気を取り直して立ち上がる。へこんだままでもポーにトンファー型ガンナイフの弾を確実に当てていく。
 仲間を回復するためにポーが澄んだ歌声を響かせる。その歌声すらも断ち切るように、闇を纏った詩火は長い刀を自在に操る。装束の袖が風をはらみ、舞い踊る。
 下がる花火をパーが追いかけようとするが、その前に漆黒が立ち塞がる。
「イーっ!」
 一鬼夜行の回転動力炉が唸りを上げる。漆黒の突撃槍の赤い紋章からセトの妖気が吹き上がる。アンバランスなその姿からは想像できない強さに、思わずパーも足を止める。振り下ろされた白い貝殻と槍がせめぎ合い、嫌な音を立てる。
「さて、そっちの熊さんはお任せしますね」
 回復がいらないと判断したミントはポーに一気に肉薄する。
「隙だらけです!」
 リボンをたなびかせながらミントは神速のステップでポーを混乱させる。完全にミントを見失ったポーに、スカートの裾を捌きながらスラリとした足から放たれた蹴りが三日月の軌跡を描いた。

●愛はとてつもなく重い
 ポーを集中攻撃で倒すとマヒし続けているピーを無視し、パーを襲う。矢面に立ったセトと詩火が攻撃を引き受け、喜多とミントの回復アビリティが二人を支える。時間はかかったが危なげなくパーを能力者達は撃破する。ちなみにピーは喜多とシベリアの呪詛呪言の威力から逃れられず、復活する度に麻痺させられていた。残りはそのピー一人きり。
「ゆけいっ! 我が愛しのセトよ!」
「イーッ!」
 愛する首領に命じられ喜々として戦闘員は突撃槍を腰だめに構え暴風を纏う。相変わらず悪役ボイスの首領は笑うと懐から寄生木を抜き出し特大のハートマークを描く。
 愛の祝福を受けセトは、黒い疾風の様に槍を付きだしピーに迫る
 ひょい。
 サラッと普通に回避される。そして強力なアビリティを使った代償がセトに襲いかかった。カボチャの口元から血のようなものを流しながら、そのまま何かをやり遂げ満足したような漢の雰囲気でぱたりとセトは倒れる。ミントのギンギンパワーZと喜多の祖霊降臨がセトを癒すが、麻痺から回復したピーの攻撃がセトを襲う。倒れた態勢からとっさに一鬼夜行を突き上げる。衣をはたき落とすが本体のイカがセトをえぐる、生臭い。
「おぬしの好きな様にはさせぬ、この一撃で沈めえぇ!」
 セトを助けようと怒りにまかせてシベリアが力を解き放つ。爆発するように広がった茨は地縛霊を巻き込み……ついでにシベリアとセトも巻き込んだ。何とかよけた地縛霊の隣で、茨に締め上げられ宙づりになったとどめの一撃を喰らったセトが儚く燃え尽きる。
「イ……イーっ……」
 我が人生に悔い無しとカボチャ頭の笑顔が、確かに語っていた。
「そんなっ! セトさんが!」
「地縛霊、なんて言うことを」
「私、セトさんのこと一生忘れません」
「セトさんの仇撃ち、果たさせて貰います」
 ミントと詩火の怒りを込めた目線がピーに突き刺さる。殺してないから思いっきりぴくぴく動いてるから! というか止めはボクじゃない言いたそうに、目を潤ませてふるふる首を振るピーに、近くて遠い秘密のお店の怒濤の攻撃が叩き込まれる。
「雷よ!敵を貫け!」
 マジカルロッドの鈴が凛と鳴く。エドワードの力を借りていつもよりまばゆい輝きを宿した銃弾が地縛霊を撃つ。
「……にしてもシベちゃんとセトさんはいい連携をするです。姉さん、こっちも負けてらんねーのです! なんかやるですよ」
「ええ……消し炭になれ!」
 冥福を祈りつつ蝶子のBlack Iceと桐音の壱式・神薙改の切っ先が揃えられ、それぞれに火炎と雷が宿る。幻惑するように振るわれたマントが二人を覆い隠す。マントが払われた瞬間、大きく振るった剣先が魔弾を地縛霊に叩き付ける。炎の魔弾を地縛霊は受け流そうとするが、絶妙な時間差で放たれた雷の魔弾がそれを許さず地縛霊は二弾の直撃を受ける。ちょっぴりほろ苦い同時攻撃に撃たれ苦悶する地縛霊に体当たりするように密着しながら詩火が緑風を振るう。
「これで、終わりです」
 後ろになびいた髪がふわりと元に戻る。刀を鞘に収め、消えゆく地縛霊に詩火は背を向けた。

●VS 森の迷子
「無事でよかったですね、花火さん」
 これで少しは懲りて迷子にならなくなるはず。ミントの淡い期待はあっさりと砕かれる。
「ふぅー。みんな、お疲れ様。特殊空間は怖いよね〜」
 迷子になった覚えはない花火が明るく言う。きっと閉じ込められたんだね、と言う花火に団員達の『迷子になった事に気がついて無かったのか』という驚愕や呆れが混じった生暖かい視線が刺さりまくる。
「さぁ!結社に帰るよー!」
 その様子を気にせず当然のように真っ先に花火は歩き出す。
「迷子を出したら大変だもんね〜♪」
 この時、団員達の心はきっと一つだっただろう。団長を野放しにしては、いけない。
「花火さん、待ってください」
 詩火が花火の進行方向に立ち塞がる。横の、『この先樹海。注意』の看板が花火の方向音痴の危険度を物語っていた。変な敵も倒したし、これ以上の危険は遠慮したい。私達には近くて遠い秘密のお店が、帰る場所があるのだ。
「森林浴というのもたまには良いかと思うのじゃが、これ以上の消耗は避けたいのじゃ」
 喜多がそれでも樹海に向かう花火を羽交い締めにし。
「もうはぐれちゃだめよ? それと、匂いは消えたけどお風呂入りたくない?」
 桐音が左手をがっちりとホールドし。
「米俵とお姫様とリトルグレイどれがいいです?」
 蝶子が右手をぎゅっと握りながら花火の耳元で囁いた。
 ちなみに『米俵』は肩に担ぐ。パンチラというよりもパンモロ決定済み。『お姫様』はお姫様抱っこ。これも花火のスカート丈からするとパンチラの危険性が高い。『グレイ』は両側から手を握られて宙ぶらりん宇宙人状態。露出度は一番低いが何処かの基地に連れて行かれそうで怖い。おまけに腕が凄く痛い。
 突きつけられたある意味究極の選択。地縛霊より脅威な物が、そこにはあった。
「普通に歩いて帰っちゃ駄目?」
「駄目!」


マスター:秋山霧夏 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/02/25
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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