フリフリふわふわピンク


<オープニング>


 そこはピンク色だった。
 天井から幾重にも下がるカーテンやレースなど、全てがピンクで可愛らしく彩られている。
 そこに、ピンクと白のレースやフリルであしらわれているドレスを着ている人物がいた。
 ひらたくいうと、ロリータと呼ばれるファッションの類の服だ。
 その人物は、服はもちろん、頭にもレースとフリルをつけ、靴下は白く可愛いポンポンがぶら下がっている。
「ぎゃあぁぁぁー!!!!」
 それが、自分の姿だと知って悲鳴を上げた、筋肉自慢の自称マッチョの高校二年生の男子は、屈辱な格好のまま、がに股でわめき散らした。
 自分の姿を映す四枚の鏡が近づいてくると、より悲鳴をあげる。
「う……うわぁ! 来るな、寄るな、見せるなっ、俺はちがぁーうっ!!」
 鏡の中の自分が勝手に動いて、ウインクした。


「待ってたよー。あのね、ある高校二年生のお兄さんがうなされながら眠り続けているんだけれど、どうやら、来訪者、ナイトメアのしわざらしいんだよね。このままじゃ、お兄さんの精神がナイトメアに屈してしまうから、その前にお兄さんを悪夢から助け出してほしいんだ」
 長谷川・千春(中学生運命予報士・bn0018)は、元気よく用件を話し出すと、メモ帳をぱらりとめくった。

「悪夢に捕らわれているのは、将来ボディビルを目指しているマッチョのお兄さんで、名前はユウタロウっていうんだ。お兄さんが住んでいる家は住宅街にある一軒家だけど、夜中なら簡単に忍び込めるよ。
 このお兄さんは、部活で女の子の服を着るという冗談を真に受けて悩んでいたところ、ナイトメアに捕まったせいか、ピンクだらけの悪夢の中にいるんだ。
 天井から床まで下がる何枚もあるレースやカーテンはピンク。悪夢の中にいる人の服は、ピンクと白の可愛いドレスなんだけど……こんな感じ?」
 千春は、袋からレースやフリルがあしらわれたドレスを取り出した。気のせいか、スカートの丈が短くないだろうか。
「よくわからないけれど、ロリータ系っていわれるファッションらしいんだ。みんなも、悪夢の中に入ったら問答無用に、こんな服を着ることになるんだけれど、お兄さんは、この服を着た姿を、手足がついた四枚の鏡に囲まれて、無理矢理自分の姿を見せられるという地獄を味わっているんだ。しかも、この鏡に映った自分は、鏡の中で勝手に可愛いポーズを取るから、女装嫌いのお兄さんには、より苦痛だよね。
 だから、まずはこの鏡を壊して、お兄さんを安心させてあげてほしいんだ。
 鏡は、一メートルほどある全身を映す鏡で、手足がついているんだ。攻撃は、殴ったり蹴ったりするだけだけど、さっきも言ったように、鏡に映った自分が勝手にポーズを取るから、人によっては精神的ダメージを受けかねないから気をつけてね。
 後はお兄さんが来ているドレスを脱がせば、お兄さんは悪夢から解放されるんだけれど、人の力で脱がすことは出来ないんだ。
 ドレスは、お兄さんが作り上げた苦痛の鎖みたいなものだから、プライドをボロボロに傷つけられたお兄さんを立ち直らせてあげなくちゃいけないんだ。
 かなり精神的に追い詰められてはいるけれど、みんななら大丈夫だよ! だって、みんなも同じ格好だからね」
 千春は、そういうと、小さな袋を能力者たちに差し出した。
「これは、メガリス『ティンカーベル』から出した『夢の中に入れる不思議な砂』だよ。これを眠っているお兄さんにふりかければ、夢の中に入れる雲が現れるんだ。
 ただ、注意してほしいのが、夢の中では普通では考えられないような事が簡単に起きるってことだね。しかも、夢の中で怪我をしたり、命を落としたりすると、現実の世界でも同じように傷を負って、死んじゃうことになることを、覚えておいてね」
 千春は、メモ帳を閉じると、元気よく腕を振り上げた。

「みんな、お兄さんをお願いね!」

マスターからのコメントを見る

参加者
鈴風・セラ(蒼の歌姫・b23183)
岸木・俊紀(冬は山男・b27708)
高梨・雄祐(魔音融合・b42858)
水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)
斗宮・流生(妖刀に守護されし者・b50967)
仁尾・聡介(涵養される魂・b52340)
雅条・ミルラ(赤にして柘榴石・b54088)
神戸・久々里(小学生土蜘蛛・b55647)



<リプレイ>


 目を開ければ、そこはピンク色の世界だった。
 高い天井から数え切れないほど下がっているカーテンも、白いレースが貼りついている床もピンクだ。
 岸木・俊紀(冬は山男・b27708)は、思わず目をしばたたかせた。
 悪夢に捕らわれている男子高校生の悪夢に入って飛び込んできた、見慣れない色の鮮やかさは、目に堪える。
 俊紀が目頭を押さえると、水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)の黄色い声が飛んできた。
「わわ、ロリータファッションなの!」
 芽李が、後ろのリボンを見ようと体をひねり、黒い厚底の靴で一回転をすると、短いスカートがひらりと舞った。
 ロリータとは縁のなかった雅条・ミルラ(赤にして柘榴石・b54088)は、やはり芽李のような小柄な子が着ると、可愛い服だと実感してしまう。
「可愛いなー、今度のお買い物で、こういうピンクのお洋服、探してもようかな」
 可愛い物が大好きな鈴風・セラ(蒼の歌姫・b23183)も、胸元やスカートを飾るフリルを見下ろして顔をほころばせた。
 そして、片足を上げ、ニーソックスのポンポンとフリルも堪能すると、一言も会話をしない男性陣に目を向けた。
 どこか複雑そうな男性陣は、自分の格好を直視しようとせず、互いに目を合わせようとしない。
 しかも、スカートを履いていていながら、仁王立ちしているので、どんなにスタイルがよくても、衣装と格好があっていない。
「ぷ……」
 セラは、吹き出しそうな唇を強くかみしめたが、震える顔の筋肉までは抑えられなかった。
 小学生である神戸・久々里(小学生土蜘蛛・b55647)の姿を褒めて、なんとかその場を乗り切ると、ミルラが、小さな溜息をついた。
 使役ゴーストである真スカルフェンサーの服も、ピンクに変わっていたのだ。
 覚悟はしていたがと思いながら、ミルラは自分の胸元へと目を落とした。
 足元への視界を阻んでいる大きな胸に、窮屈さは感じられなかった。
「……ぴったりなんですね」
 ミルラも年頃の少女だ。興味にそそられて、あちこちと服を見渡していると、男の悲痛な叫び声が聞こえてきた。
 服に気を取られていた八人は、本来の目的を達成するために、スカートの裾をひるがえした。


 悲鳴を上げている男性高校生は、四枚の立ち鏡に取り囲まれていた。
 手足が伸びている鏡は、楽しそうに体を丸ませて、泣き叫んでいる男子高校生を追いつめている。
「悪趣味な嫌がらせは、そこまでにするんだな」
 仁尾・聡介(涵養される魂・b52340)が、武器を鏡たちに向かって言い放つと、鏡は映る鏡の面を能力者たちに向けた。
 その一瞬、投げキッスをする男子高校生の姿が見えると、斗宮・流生(妖刀に守護されし者・b50967)は意識を手放したくなった。
 あれが俺だったら、立ち直れねぇ……
 想像もしたくない自分の姿に、流生は激しく頭を左右に振る。
 鏡たちは、話し合うように身を寄せあうと、くるりと能力者たちに振り向いた。
 そして、指がさされると、武器に異変が起きた。
 色がピンクに変わったのだ。
「うわーっ、凄いですね」
「感心する所か!」
 高梨・雄祐(魔音融合・b42858)は、思わず俊紀にツッコミをいれてしまう。
 だが、武器としての機能が失われたわけではない。
「行きますか」
 俊紀は、長剣を構えた。


 四枚の鏡たちは、敵とみなした能力者たちに襲いかかってきた。
 旋剣の構えをとった俊紀が伸ばす奥義、ダークハンドの後を追うように、流生と聡介が走り出した。
 四枚の鏡たちは、短い手足とは思えない俊敏さで、流生と聡介に拳や足で殴りつけると、二人はうめき声を上げた。
 すぐに、リフレクトコアをかけたセラのヒーリングヴォイスが奏でられる。
「傷を治しちゃうよ」
 流生と聡介は、鏡から目をそらして、頭を抱えている男子高校生の元へ駆け寄った。
 聡介は、男性高校生の横に立つと、長剣を両手に収めた。
「こっから、攻撃するかな」
「じゃあ、俺は彼を遠ざけます。ユウタロウさん、しっかりして下さい!」
 流生は、聡介に背中を預けて、怯えている男子高校生の肩を激しくゆすった。
 戦闘に巻き込まれないように男子高校生を説得する流生のために、神戸・久々里(小学生土蜘蛛・b55647)は紅蓮撃で、ミルラはヒーリングヴォイスを歌いながら、使役ゴーストに命令を下して、鏡の気を引こうとする。
 芽李は、仲間の攻撃力が上がるように、ギンギンパワーZを投げ続け、魔弾の射手をかけた雄祐は、雷の魔弾を撃つ。
 だが、攻撃の手も、前衛の手も少ない能力者たちを嘲笑うように、鏡たちは真スカルフェンサーや、俊紀の使役ゴーストの真グレートモーラットを追い越して、後衛である六人に矛先を向けた。
「くそ……っ、福平衛!」
 俊紀の呼びかけに、近くにいた真グレートモーラットは、主を襲う鏡に火花を散らした。
 黒燐奏甲をかけた聡介も、鏡を挟み撃ちにするように龍顎拳を振り上げると、セラは鏡の数を減らそうと光の槍を飛ばす。
「落ちついて。決して、混乱しちゃだめよ!」
 前衛も後衛も関係なくなった戦況に、セラは声を上げる。
 入り乱れた状況では、鏡と面向かう確率が高くなる。そのため、自分は堪えないが、精神的ダメージを被るだろう男性陣に注意を促したのだ。
 現に、ミルラは、走る真スカルフェンサーが、鏡の中では、バレエを踊るように舞っている姿を見ている。
 ミルラは芽李と共に、回復に専念していると、雄祐が悲鳴をあげた。
「アカンやろー、これー!!」
 雷の魔弾を放ちながら、鏡の中でスカートの裾を軽く持ち上げながらウインクする自分の姿に、ほえる。
 流生は、状況を打開しようと、がんとして動かない男子高校生へと説得を諦め、戦いに加わった。
「……予想はしていたが、えっらい格好させられているな」
 鏡と向き合った流生は、鏡に映る、あり得ない自分の姿に頬をひきつらせながら、奥義の黒影剣を向けた。
「出来るだけ、彼と引き離して下さい!」
 流生の言葉に、仲間たちは応えた。
「後ろに逃げるわよ」
「はい、はぁーい」
 セラが走り出すと、芽李は陽気な返事をして後に続く。
 追って来ない鏡には、俊紀がダークハンドを伸ばし、聡介と流生が攻撃で奥へと押しやる。
 そして、魔弾の射手で体力を取り戻した雄祐が、雷の魔弾で気を引くと、俊紀はスカートをひるがえす自分がいる鏡に向かって、もう一度ダークハンドを伸ばした。
 鏡に映る自分が可愛いと思ってしまったが、いつまでも眺めている訳にはいかない。
「名残惜しいですが」
 鏡が一枚、割れて砕け散ると、三枚の鏡は、怒るように足を大きくばたつかせた。
 そこに、聡介が龍尾脚を、流生が黒影剣を向けると、鏡に殴られたミルラが悲鳴をあげた。
「……カタクチ」
 使役ゴーストの名を呼んで倒れると、真スカルフェンサーは、主の前に立ったまま、動こうとしなかった。
 ミルラは、もう一度、力をふりしぼって立ち上がると、仲間の攻撃に、もう一枚の鏡が砕けた。
「悪い鏡は嫌いだから、みんな、みぃーんな割れちゃえなの!」
 ミルラにギンギンパワーZを投げつけながら、芽李は、怒りを露わにした。
 セラとミルラはヒーリングヴォイスを歌い続け、封術が解けた久々里も、回復にまわる。
 俊紀、聡介、流生、そして雄祐は、ひたすら攻撃の手を伸ばした。
 また、一枚の鏡が割れると、数人が精神や肉体をボロボロにしていたが、悪夢には屈してはいなかった。
 彼らの目には、まだ戦う闘志が残っている。
 最後の一枚が割れると、ピンクのカーテンが一斉に消えた。


 見晴らしの良い空間で、男子高校生は、肩を震わせながら丸くなっていた。
 鍛え上げられた筋肉を包む服のせいもあるだろうが、ピンクの石に見える格好は、一つの笑いが取れる。だが、決して笑ってはいけない。
 俊紀が軽く咳払いをすると、芽李は男子高校生の横に座り込んだ。
「ユウタロウさん、もう大丈夫だよ。あの変なポーズを取る鏡は、芽李ちゃんたちがやっつけたから、二度と出てこないのよ」
「来るな、来るなぁー!」
 男子高校生は、乱暴に太い腕を振り回して、芽李を払い飛ばした。
「おいおい、こんな小さい子を殴り飛ばすことはないだろう」
 聡介が芽李を抱き起こすと、男子高校生は声を荒げた。
「うるさい! お前らは、俺を笑いに来たんだろう。女にもこんな姿を見られて……もう誰も来るな。誰も見るんじゃねぇ……」
 男性高校生がより丸くなると、辺りに花が咲き出した。
 悪夢が、男子高校生にさらなる苦痛を味合わせようとしているのだろう。
 流生は、握り拳を作って力説しだした。
「女装が嫌だっていうユウタロウさんの気持ちは、ものすごくわかりますよ! 男だったら、誰だって、ふわふわふりふりのかーいらしい服なんぞ、着たくないし、着せられたくもない! 強制的に着せられる苦痛は、わかりますよ!」
「嘘だ!」
「嘘じゃないっすよ。ほら、俺もふわふわピンクの服ですよ。レースとリボンと……なんだ、これ。紐か?」
 流生が服の詳細を語り出すと、男子高校生はおそるおそる顔を上げた。
 そして、流生の姿を見るなり、固まった。
「いや……そんな顔をされると……」
 流生が額に手を当てると、聡介が、男子高校生の前にひざをついた。
「見ろ、俺も同じ格好だ。でも、俺はこんな服を着ていても、気にしていない。しょせん、服装なんて、うわっつらのお飾りさ。あんたの本質は何も変わっていない。だから、何も気にする必要はないんだ」
 聡介は内心、かなりどころか、凄く今の格好を気にしており、あれこれ考えているが、考えていることと話すことは別物だ。聡介は、年の近い先輩を笑顔で励ます。
 男子高校生は、そんな聡介にすがりつくように腕をつかんだ。
「人前に出てもか?」
「笑い話」
「からかわれてもか?」
「本気じゃないし」
「……軽べつされてもか?」
 真剣な面持ちの男子高校生に聡介が答えようとすると、代わりにセラがあっさりと答えた。
「お兄さん見る限り、好きで着ているように思えないから、誰も軽べつなんかしないと思うのよねぇ。むしろ、何かのパフォーマンスに近い感じ? だから、あまり深刻に考える必要はないと思うんだけれども」
 髪に結っているリボンをいじりながら、セラは首を傾げた。
「お前は……俺を見て、笑おうとしないのか?」
「思いませんよ」
 今度は、ミルラが声をかけた。
「キミのたくましい筋肉の方が先に目がいって、ほれぼれとしてしまいます。そんなひらひらなコスチュームを着ていても、立派な肉体はごまかせられません」
「そうそう、ユウタロウさんには、かっこいい鍛えられたボディがあるの。だから、本当の自分を自分が信じてあげなきゃ。もっと、しっかり自分に自信を持つんだよ。芽李ちゃんは応援しているなのよ」
 女性たちに励まされた男子高校生は、立ち上がって、自分の姿を見下ろした。
 だが、まだ決心がぐらついているのか、目を背けてしまう。
 俊紀は、後押しするように男子高校生に語りかけた。
「将来、ボディビルで日本を背負って立とうとする人が、ふりふりの服ごときに負けてどうするんですか。ボディビルの世界で勝負するものは何ですか」
「それは、肉体!」
 男子高校生が、力こぶを浮き上がらせると、服が破れて、隆々とした筋肉が現れた。
 ミルラの拍手に、雄祐も久々里も手を叩く。
 清々しい顔をした男子高校生は、ピンクの服を着ている能力者たちに向かって微笑んだ。
「ありがとう」
 男性高校生の姿が消えると、悪夢が揺らいだ。
 自分たちも、現実の世界へ戻るのだ。
 能力者たちは、それぞれが思うことを胸に抱き、目を閉じた。


マスター:あやる 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2009/01/15
得票数:楽しい14  笑える3  泣ける1  知的2  ハートフル5 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。