巫女巫女リリス


<オープニング>


 メイド喫茶がメジャーなものになって早数年。
 今やメイド服では飽き足らず、コスチュームにも色々ある。
 某電気街のとある雑居ビルにある、とある喫茶店は、ウェイトレスさん全員が巫女さんのコスチュームに身を包む、和風喫茶だった。
 さて、通りに面した窓際の席で、1人の青年がお茶を飲んでいる。
「いいな〜巫女さん……」
 店内を見回し、彼は吐息した。その頬は紅潮している。彼は巫女さん萌えであった。
「あの……お客様」
 青年のテーブルに、1人の巫女さんが近付いてきた。白い着物に映える長い黒髪、赤い袴。着物の上からも豊かなのがわかる胸に「ミコ」と書かれた名札。ウェイトレスさんたちの中でも一際可愛らしい彼女が、少し俯いて、頬を染めている。
 そして、そっと小さな紙切れをテーブルの上に置いて去って行った。
 伝票の追加だろうか? そんなことを思いながら紙切れを裏返した青年は、目を見開く。手紙だった。
『実は、お客様に一目惚れしてしまいました。本当はいけないんですけど、後でこっそり、2人きりでお話したいです。あと10分くらいで休憩時間なので、このビルの屋上にいらしてもらえませんか。待ってます。ミコ』 
 可愛らしい文字で綴られた内容を信じた青年は、嬉々として屋上に赴いた。
 そして、彼女の正体を知らぬまま、連絡先を教え、デートの約束をして――青年は、次の週末、路地裏で2人きりになった瞬間に殺害された。
 リリスの本性を現した、彼女の手によって。

「揃ったようだな」
 王子・団十郎(高校生運命予報士)は、教室に集まった能力者たちを見回した。
「リリスの活動が確認された。既に犠牲者も出ている」
 新たな犠牲を出す前に、倒してくれ。そう言って、団十郎はまずそのリリスについての情報を能力者たちに伝え始めた。
「リリスの名前は、ミコ。職業は巫女さん喫茶のウェイトレス。……巫女さん喫茶というのは、メイド喫茶の和風版のような雰囲気らしい」
 萌えというものをちょっぴり理解しがたく思っているらしい団十郎は、ばりばりと頭を掻いた。
「その店でも一番の美少女で、勤務態度は真面目。他の巫女さんや客たちからの評判は上々のようだ。……まあ、ミコが熱心に勤務する目的は、もちろん獲物を探すためだがな」
 既に、客として訪れた男性が数人犠牲になっているという。これ以上の被害者を出さないために、このリリス、ミコを倒さねばならない。
「まず、リリスを相手にする時の一般的な注意はわかっているな? 接触するまではできるだけ固まって行動することだ」
 リリスは離れたところにいる能力者の方向を感知することができる。バラバラに近づけば、多数の能力者の存在が知覚され警戒されてしまうだろう。
 しかし、リリスは方向しか知ることができないので、固まって行動していればそれが1人なのか複数なのかを知る事は出来ない。確実に倒すためには、それを利用して近付く必要がある。
「次に、囮になるのは必ず1人だけだ」
 リリスは目視する事で、それが能力者の素質のある者であるかどうかを知る事ができる。複数の能力者がリリスに目撃されれば、警戒されてしまうので、最初にリリスの視界に入る能力者、つまり囮は1人である必要がある。
 その1人が充分にリリスに近付けば、リリスは能力者の方向を知ることができなくなり、気付かれないよう包囲することも可能となる。
「そしてこのリリス、ミコは店の客の中に能力者の素質のある者を見付けると『後で2人きりで会いたい』という手紙を渡してくる」
 呼び出すのは店の入っているビルの屋上だ。
 能力者の素質がある者に出会える機会は貴重だから、基本的にリリスは獲物のえり好みをしない。囮が男子であれば「一目惚れした」、女子や小学生の子供であった場合は、魅了の力を駆使して誘い出し、次に2人きりで会う約束を取り付ける。
「屋上には人気がないが、リリスはそこでは獲物を食わない。あまり時間を取ってしまうと、勤務に支障が出て、同僚に何をしていたのかと訊ねられたりする可能性があるからだろう」
 この行動パターンから、ミコがなかなか慎重な性格であることが想像される。
 囮は、巫女さん喫茶に1人で来ていても不自然ではないように見たほうが良いだろう。
 見た目に年齢15歳以上の男子なら、客として普通に来店すれば小細工せずともスムーズにことが運ぶ。
 女子や子供が囮を務める場合、バイトしたくて下見に来たとか、間違えて入ったとか、道に迷って疲れたのでどこでも良いから座りたかったとか、少々の演技をすれば怪しまれずに済むだろう。
「誘い出されたら、タイミングをはかって全員で屋上に集まり、そこで待っているリリスを討つと良いだろう」
 屋上へ出る扉の鍵はリリスが事前に壊してある。
「逃げられないと悟ると、リリスは本性を現して戦うだろう。今回の敵はリリス1体のみ。主な攻撃は、身に纏った蛇によるものだ」
 締め付け、噛み付きの他、こちらの脚に絡みつかせて動きの邪魔をしてくることもある。
「リリスの戦闘能力はあまり高くはない。普通に戦えば勝てる相手だ。しかし、隙を見せれば逃走してしまうぞ」
 おまけに、と団十郎は頭の痛そうな表情をした。
「命乞いや色仕掛けで危機から逃れようとすることもある」
 それもリリス戦での注意事項の一つだ。
「あとは……リリスが本性を現す時、巫女さんの衣装は破り捨ててしまうから、過度に巫女さんが好きな者などは……ショックを受けないように気をつけてくれ」
 そう締めくくり、団十郎は能力者たちを送り出した。

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参加者
七鞘・銀司(銀髪紫瞳の稲荷神・b11334)
葛葉・明(高校生魔剣士・b45169)
文月・風華(暁天の巫女・b50869)
鷹・真道(ゴーストヴァニッシャー・b51023)
神楽・真冬(舞い散る粉雪・b51839)
月詠・朔夜(忘却博覧会の招待人・b51937)
漣・恋歌(中学生符術士・b52510)
赤緒・紫(小学生従属種ヴァンパイア・b56603)
上条・楓(ガリ勉どら娘・b56813)
敷島九十九式・秀都(エクストラエンフォースメント・b57363)



<リプレイ>

●作戦決行
 ある晴れた午後、黒髪をツンツン尖らせた少年が巫女さん喫茶に入店した。
 少年は飲み物を頼むと、巫女さんでいっぱいの店内を見回し、それはそれは嬉しそうに「ニャハハ」と笑ったのだった――。

 月詠・朔夜(忘却博覧会の招待人・b51937)が囮としてリリスに接触する間、他のメンバーたちはビルの影の路地裏で固まって待機していた。彼らは雑談などしながら囮からの連絡を待っている。
「そろそろリリスからの接触があってもおかしくないよな。朔夜のやつ、大丈夫かなぁー」
 敷島九十九式・秀都(エクストラエンフォースメント・b57363)はバッチリ番号を交換してある携帯にチラリと目をやった。
 一方その隣には、大変にイイ笑顔の七鞘・銀司(銀髪紫瞳の稲荷神・b11334)と、葛葉・明(高校生魔剣士・b45169)。
 ――くぅ、我も巫女喫茶に行きたかったのに!!
 ――囮は俺じゃないのかー! そんな、俺の夢が、計画が……。
 出発前、上記のようなことを言って嘆き悲しんでいた彼らは、女子たちが気を利かせて(?)くれたために、今はもうホクホクだった。
「……まぁ、こっちにも巫女さんはいるから良いか」
「ここにも巫女さんいたー♪」
 皆を見回して、気分転換をする銀司と、目を輝かせている明。
「……折角なのでって……着てみましたけど……巫女とは関係のない……紫が……着てきても……よかったんでしょうか……?」
 赤緒・紫(小学生従属種ヴァンパイア・b56603)が、恥ずかしそうに身じろぎした。
 イイよ!と銀司と明が親指を立てる。
 そう、今回女性陣は全員巫女服を着用しているのだった。
「……巫女カフェね。何が楽しいのかしら」
 本物の巫女である上条・楓(ガリ勉どら娘・b56813)が、少々呆れ気味の表情で呟いた。
「……どういったところなのでしょうね」
 楓と同じく本物の巫女、文月・風華(暁天の巫女・b50869)が小首を傾げる。一部男子があまりにも楽しそうなので、巫女喫茶にちょっぴり興味が出てきたようだ。
「良く解りませんが男性の方はこう言う衣装に思い入れがあるのかしら?」
 神楽・真冬(舞い散る粉雪・b51839)が、巫女服の袖を広げてくるっと回った。白い着物の上、さらりと銀の髪が揺れる。
「おおっ、神楽さん似合う! これぞ運命の再会!」
 明は大喜びだ。
「巫女萌え……という個人の趣味もありますから」
 様子を眺めていた漣・恋歌(中学生符術士・b52510)が、困ったような表情で微笑んだ。彼女もまた、神社の家系に生まれた本物の巫女さんである。
「俺にはその趣味はないが、確かに……悪くないもんだな」
 鷹・真道(ゴーストヴァニッシャー・b51023)が、恋歌の言葉に深く頷く。教室で話を聞いた時点では「巫女さんって言われても……なあ」だったが、女性陣の清楚な姿を見てなんとなく、萌えを理解したらしい。……鼻の下が伸びている。
「んゆ、でもみんなノーマルな巫女さんなのですよ。どうせならもっと萌えを追求して狐耳巫女さんに!!」
 銀司がどこからか狐耳と狐尻尾を取り出だし、女性陣がつきあってあげたり丁重にお断りしたりしていた、その時。
 皆の携帯が鳴った。メール着信だ。
「あ、朔夜から連絡きたぜ?」
 秀都がメールを開き、ぶっ、と吹いた。
『ゴメン、運命の巫女さんに出会い、今から恋という神託を受け取りに行ってくるよ』
 もちろん、リリスに見られても怪しまれないように考慮した文章なのだが、なかなかクるものがある。
 皆も次々とその文面を目にし、吹いたり固まったり首を傾げたり羨ましがったり……。
「ど、どうなさったの?」
 携帯を持っていない真冬が、何か不測の事態が起こったのかと緊張する。
「い、いえ。大丈夫。順調よ」
 楓が頭を振り、携帯を閉じた。
「と、とにかく、無事にリリスから手紙を受け取れたようですね」
「こっからは速度とタイミングが命だなっ」
 恋歌に、秀都が頷く。
 予定通りなら、しばらくしたら朔夜は携帯を皆と通話状態にして、リリスの待つ屋上へと向かうだろう。

●突入!
 9人分の足音が、屋上へと続く暗い階段を駆け上がる。
 その間、通話状態になりっぱなしの携帯からは、朔夜による歯の浮くような台詞の数々。
「君みたいな美人な巫女さんに会えるなんて神様に感謝しないとね」
「あら」
「その綺麗な長い髪、清楚なたたずまいすべて私の理想だ」
「じゃあ、今度の日曜日、2人っきりでデートして……?」
 リリスはまだ正体を現していないのだろう。うふふ、と秘めやかに笑う少女の声も漏れ聞こえてくる。
「おっと、デートの相手を間違えていねぇか? 俺たちとも仲良くしてくれよってな」
 バン!と秀都が扉を蹴り開けた時、朔夜は冬空の屋上で、片膝をつき両手を広げ、愛を囁いている最中だった。
 彼の目の前に立つ、巫女姿の少女――リリス・ミコに向かって。
「え?」
 突然現れた集団を振り向き、ミコは瞠目した。朔夜が充分に接近していたため、能力者の気配に気がつかなかったのだ。
 すぐにその表情は一変した。
「偶然、……のわけがないわね」
 ち、と舌打ちし、ミコは唾棄するように呟く。 
 通常、まれにしか発見できない獲物が、今日に限って集団で現れた――しかも能力者たちはイグニッションを済ませ、手に手に武器を構えている。それが意味するところを、ミコは一瞬で理解したようだ。
「そう。あなた、囮だったの。……デートはなしね。残念だわ」
「私も、君と戦うなんて残念だ」
 ミコが燃えるような視線を向けた時、朔夜は既に後方へと飛びずさり、イグニッションしていた。

●対決!
「巫女さーん♪」
 すわ、戦闘開始!という緊張感を遮る呑気な歓声が上がった。明だ。旋剣の構えを取りながら、ミコへと一直線。
「なっ!?」
 意表を突かれたらしいミコは、巫女さんにあるまじき邪悪な表情で舌打ちし、あっさりと明をかわした。
 勢いを殺せず、派手に転んだ明に、心配そうに飛び寄るのは彼の使役であるモーラットのポン太のみなのは自業自得か。
「全く、この服の何がそんなにいいんだか理解不能だわ。おかげで、ここで獲物を漁るのってチョロくてよかったんだけど」
「人の恋心を弄ぶなんてナンパの風上にもおけねぇヤツだな」
 秀都の非難を無視して、ミコは周囲に視線をさまよわせた。1人で相手をするのは分が悪いと見て、逃げる隙を探しているのだ。
「何処に行くのかしら? あなたはここで滅びるのよ!」
 扉を背に立ち、恋歌が符を構える。
「いい子だから手間かけさせないでね」
 恋歌の手から放たれたのは導眠符。
「く……! 仕方ないわね!」
 符をかわし、ミコは巫女装束を破り捨てる。
「巫女服は破るものじゃない!! 破られるものだろう!? 魔女っこが自ら触手を使うようなもんだぞ!! リリスならもっと萌えとかエロスを理解しろ、やり直しを要求する!!」
 銀司の悲鳴虚しく、白と赤は無残に引き裂かれた。清らかさの象徴のような衣装の下から、リリスの本性が現れる。
「いいわ。狩りに来たつもりなんでしょうけど、逆に私が食べてあげる」
 蛇を纏った裸身に近い姿で、果実のように実った豊かな胸を反らし、ミコは能力者たちを見回した。
「あなたたち、みぃんな、とっても美味しそうだもの」
 血に濡れたように赤く艶めく唇を、桃色の舌が舐める。巫女装束に身を包んでいた時の清楚さなど、かけらもなくなってしまった。
「ふ……ん。いかにもなリリスだな」
 長剣を頭上に構え、真道が逃走経路を塞ぐように前に出る。
「…………行きます……覚悟……してください……!」
 紫も真道と共に動いた。吸血グローブの甲にはめられた青い宝石と赤い宝石が、紫の頭上で冬の陽光を弾く。そこに、黒い光が加わった。
「頑張ってくださいね♪」
 風華の黒燐奏甲だ。こくりと頷き、紫が駆ける。
 囲まれ、攻撃を受けながら、リリスが吠えた。
「大人しく、私に食べられなさいよ!」
「寝言は寝て言いなさい!」
 楓が後方から撃った破魔矢を脚に受け、ミコは顔を歪めた。
「くらいなっ!」
 真道が黒影剣を放ち、ミコの肩口を切り裂く。お返しとばかりにけしかけられた蛇が、真道の腕に食いついた。
「回復しますわ!」
 真冬が間髪入れず治癒符を投げた。真道が短く礼を言う。幸いにも毒は食らっていなかったようだ。
 体勢を立て直したリリスは、真道を追撃するかと思いきやその横をすり抜けて入り口の扉へと駆けた。どうやら最初から、正面から戦うと見せかけて逃走の隙を狙っていたようだ。
 しかし、能力者たちも心得ていた。逃さないよう、扉の周囲には特に重点的に配置している。
「死にたくなかったら退きなさい!」
 吠えるリリスの前に立ちはだかるのは、風華。後方からの支援に徹していたいかにも大人しやかなこの少女なら容易く突破できるとミコはタカをくくっていたのであろうが。
「接近戦の方が得意なのですよ」
 笑顔の直後、紅袴が鮮やかに翻る。
 風華の龍尾脚を叩き込まれて後退したミコの前には、真冬がいた。
「舞い散れ雪花……吹雪け……粉雪!」
 真冬の唇から、氷の吐息が花開く。
 舌打ちし、冷気から両腕で顔を庇いながら、ミコは必死の形相で視線をめぐらせた。
「扉ばかりが、逃げ道じゃないわよ!」
 手薄になっている方向へ猛然と駆ける。その先は転落防止用のフェンス。乗り越えて飛び降りるつもりだ。
「しまった!?」
 真道がが声を上げ、駆け寄ろうとしたが遅い。そちらには誰もいない――逃がしてしまう!
 しかし、ミコの足はギクリと止まった。見えない迷宮に遮られ、それ以上進むことができないのだ。
「完全に除霊するまでは、絶対に逃げさせないわ」
 八卦迷宮陣を作り上げた楓の視線が、リリスの背を射抜く。殺意にきらめく目で楓を振り向いたミコの前に、朔夜が軽いフットワークで飛び込んだ。
「というわけで、逃げ道はないよ」
 三日月の軌跡を描いた蹴りが、リリスの喉元を捉える。
 仰け反り咳き込んだミコは、顔を上げた時、再び包囲の中に取り込まれていることに気付いて唇を噛んだ。
「く……!」
「……逃げられません……よ……」
 紫のローリングバッシュが炸裂した。それを皮切りに、全員でたたみかける。
「フッ、フフフッ……巫女萌えだかなんだか知らないけど、本物の巫女の恐ろしさ見せてあげる!」
「ええ、偽巫女にはご退場願います!」
 恋歌が続けざまに呪殺符を投げ、風華が龍撃砲を撃ち出した。
「も一つジェットウインド!」
「ごめんねリリスちゃん!」
 銀司が風を吹き上がらせ、明の黒影剣が唸る。 
「俺の正義が真っ白に吼える! お前の性根を叩きなおせと無意味に叫ぶっ! くらえ、必殺! 呼び出すなら伝説の木の下にしやがれーーっ!」
 最後に秀都の叫びが響き渡った。荒れ狂う風を纏った秀都の体当たりが、ミコを直撃する。
「あぁ……」
 コンクリートの上に倒れ、ミコは肩で荒く息をしていた。負傷した肩から吹き出る血で、押さえた手が濡れている。
「もう駄目……降参するわ」
 乱れた長い髪の下から、潤んだ瞳が能力者たちを見上げた。
「ねえ……もう、獲物を漁るのはやめにするから……どんなに美味しそうでも、我慢するから……見逃して……」
 弱々しく、しかし媚びる艶を含んだ、聞く者によっては魅力的に聞こえるであろう声だった。
 だがリリスの性質については皆良く知っている。そんな命乞いに乗る者など――、
「リリスちゃんの全てを吸わせてくれるなら赦してあげちゃう♪」
 いない筈――?
 リリスに歩み寄りながら、明がわきわきといやらしく手を動かしている。
「ありがとう……嬉しい」
 ミコは頬を染めて微笑んだ。美しいが、どこか作り物じみたその笑顔は、次の瞬間、黒く伸びた影に引き裂かれる。
「……いけません……」
 後方からダークハンドを放ったのは紫だった。紫はゆっくりと頭を振る。
「……あなたが……殺してきた人達だって……皆……生きていたいって……そう……思っていたはずですよね……? だから……その……あきらめてください……」
 ごめんなさい……、と詫びる紫の目に、揺るぎはない。
 許す気はないのだと。許されはしないのだと。能力者たちが自分に注ぐ視線にそれを悟り、ミコは表情を歪めた。べっとりと血を含んだ髪を顔の上から払い、喉を反らし、唇を開く。ほとばしったのは、笑い声。
「ああ、あんたたちやっぱり美味しそうよ! 我慢なんて、できるわけないじゃない! ああ、こんなご馳走に殺されるなんて! とっても、とっても、残念だわ!」
 もう立つこともできないようだ。僅かに残った力でミコにできるのは、最早こうして毒のように呪詛を吐くことくらいなのだろう。
 狂った音楽のような笑い声を響かせながら、リリスのミコは消えていった。 
 
●冬空の下で
「よっし、取り敢えずはこれでOKだな」
 真道は武装を解いて伸びをした。その前に、軽く首を回しながらさりげなく死人嗅ぎを使い、周囲に他のゴーストの気配がないことを確かめている。
「できるならこの場を除霊建築学で浄化したかったけど……祭壇に見立てられそうなものはないわね。ミコの犠牲になった人達の冥福を祈るわ」
 以前にここを訪れたであろう犠牲者達を思い、楓は静かに黙祷している。
「無事に調伏完了ですね」
 恋歌がにっこりと微笑んだ。
「ようよう、巫女さんに口説かれた気分はどーだった?」
 秀都が朔夜に耳打する。
「そりゃもう最高だった……。クスン、せっかく理想の巫女さんに会えたと思ったのに……」
 朔夜は本気で涙ぐんでいるが、誰にも慰めてもらえない。 
「あら、こちらの巫女さん5人よりあの蛇女の方がお好みでしたか? ……明さんも」
「え? いや、あれはリリスを完全に油断させるための作戦で」
 真冬に有無を言わさぬ笑顔を向けられて、明はしどろもどろになった。最後のアレは、油断させて近付き、とどめの一撃を入れるつもりだったのだが、信用してもらえるだろうか……?
「一応、お店の方にミコのことを伝えたほうが、混乱がなくて良いでしょうね。『家庭の事情で急遽やめることになった』とか」
 イグニッションを解いた風華の頭上には、銀司につけられた狐耳がつきっぱなし。
「ふうっ、ノーマルな巫女さんでよかった。狐耳巫女さんだったら裏切ってたかもしれないや」
 風華を横目に、銀司は危ないことを呟いている。
「ついでに食事でもどうですか?」
「そうだな、行こうか」
 風華の誘いに、真道が乗った。巫女さん喫茶がどういう雰囲気か、興味深々になっていたようだ。
 他の皆にも否やはなかった。
「この格好でお店に入ったら、皆さん可愛いから人気者になりそうですね♪」
 巫女姿の女性陣を見回し、真冬が微笑む。
 この後、女性陣は巫女喫茶でバイトしないかと店長から熱烈ラブコールを受けることになるのだが、それは今回のゴースト討伐とは関係のない話だった。


マスター:階アトリ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2009/01/25
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