貴方に一輪の花を


<オープニング>


 その二人は近所ではおしどり夫婦と呼ばれる位仲睦まじく暮らしていた。
 華道の先生をしている夫とその助手をしている妻。
 苦しい時も嬉しい時も、常によりそって乗り越えてきた。
 それなのに……
「早苗……気分はどうだ?」
 床にふせっている妻に夫は気遣わしげな声で問いかける。
 何時からか妻は床にふせるようになった。
 柔らかな微笑みは悲しげな微笑に変わり、明るい笑い声はその唇からこぼれる事は無くなった。
 おしどり夫婦と近所でも評判だった二人の姿は、もう見る事はない。
 医者に見せようにも妻がそれを拒み、夫はなすすべなくただ傍によりそうだけ……
 気遣わしげな夫の問いに妻は答えるでも無く、ただ寂しそうな顔で首を横にふる。
 夫はそんな妻に「無理するなよ」と告げ、最後まで妻の体調を気遣って部屋を出て行った。
 部屋から消え行く夫の背中を見つめ、妻は切なげに着物に隠れた自分の腕を握り締める。
 そしてそっと瞳を伏せた。
 夫を見るたびに沸いてくる飢えを押し殺すように……

「皆さん、寒い中わざわざ集まっていただきありがとうございます」
 扉を開けたその向こうで藤崎・志穂(高校生運命予報士)が切なげに微笑んだ。
「今回皆さんに退治して貰いたいのはリビングデッドと化した華道家の奥さんです」
 どこかやるせない感じで志穂は切り出した。
 不幸な事故だった。
 仲睦まじく華道教室を営んでいた夫婦の元に空き巣が入ったのだ。
 しかも運の悪い事にその日は生徒の作品の採点をしてい妻が遅くまで起きていた。
 そして空き巣と遭遇してしまったのだ。
 動揺した空き巣は落ちていた花ばさみで抵抗する妻を刺したのだ。
 丁度その時夫は近所の家に行っていたのでこの事件は知らない。
 空き巣が去った後、冷たくなったはずの妻がリビングデッドとして蘇ったのだ。
「リビングデッドとして蘇った奥さんの早苗さんは、自分が死んだ事に気づいてません。
 空き巣に刺された事も、運良く大事に至らなかったと思っているみたいです」
 説明する志穂の口調が暗くなる。
「今はまだ大事にはなっていませんが、このままでは早苗さんは夫の透さんを襲ってしまうかもしれません。
 どうかそうなる前に早苗さんを止めてあげてください」
 ぎゅっと手を握り締め、祈るように志穂はそこで口をつぐんだ。 
「皆さんが行かれる日は丁度華道の一日体験の日ですので、夫の透さんが早苗さんから離れているはずです。参加者を装えば早苗さんに近づけると思います。
 ですが一日体験は長くて三時間ほど……時間以内に早苗さんを退治出来なければ透さんが戻ってきてしまうでしょう。
 そうなれば、透さんに追い出されるのは確実です。
 早苗さんは離れに居ますので戦闘中は多少無茶をしても大丈夫だと思います。
 普段は鍵をかけてますが、透さんに何かあったと言えば開けてくれるはずです。
 早苗さんの攻撃は花ばさみによる突きと切り付き、そして花を投げつけての目くらましです。
 あとは早苗さんが殺した大型犬二匹が早苗さんを守るように動くはずです。
 早苗さんの攻撃自体単調なものですので、油断しなければ大丈夫だと思います」
 少々手こずるかもしれませんが、頑張って下さい。と志穂は最後に添えた。
「近所でも評判のおしどり夫婦を引き裂くのはかわいそうな気もしますけど……
 愛する人を自分の手で殺すよりはましだと思います。
 愛する人を殺すのも、愛される人に殺されるのもあってはいけない事です。
 どうか皆さん、そうなる前に早苗さんを安らかに眠らせてあげてください」
 お願いします!! っと志穂は深く頭を下げた。

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参加者
石丸・服部(笑・b00115)
葉月・透子(高校生フリッカースペード・b02421)
真神・九郎(中学生魔弾術士・b02643)
来生・氷雨(闇を振り払う旋律・b03044)
鳳凰堂・虎鉄(風天・b07291)
西垣・直貴(罪を喰う獣・b07386)
阿弥陀・弁天(血濡れの椿・b07844)
シルヴァーナ・シンフォニア(白銀の卵・b14067)



<リプレイ>

●生込み
 空はどんよりと重たく鉛色の様に薄暗い色をしていた。
 今にも雨が降り出しそうなその天気の中、ぽつりぽつりと一軒の屋敷に人が集まっていく。
 時には笑顔で隣の人と話しながら、時には気難しい顔で入って行く人達に柔らかい笑みを浮かべて出迎える教師。
 それを遠くから眺め浮かない顔をした人達が居た。
 今日の空模様もまるで彼等の心を代弁するかのように暗く……そして重い。
 それを吹っ切るようにそれぞれ顔を見合わせると頷き、各々自分のなすべき事をする為その場から離れた。

「フフフ、今日のために拙者、色々花言葉を調べてきたでゴザルよ!」
 ぐっと拳を握り締め石丸・服部(笑・b00115)は意気込んだ。
 それに前を歩いていた透は「良い心構えです」と柔らかく微笑む。
 そんな二人のやり取りを横目に、鳳凰堂・虎鉄(風天・b07291)は注意深く家の構図を頭に叩き込んだ。
 程なくすると目的の部屋につき、参加者達は各々畳の上で正座する。
 そして透の挨拶が始まり、道具の説明、今回使う花の説明と続く。
 説明している透は本当に楽しそうで、いかに華道を愛してるかが分かる。
 自分達に配られた道具に花ばさみを見つけ、やるせない気持ちになった。
 透は初対面の人から見ても、とても優しい人だと分かる。
 そんな人が大切にし……そして心の底から愛している妻はもう……
 自分達が今日なす事を思うとやるせなくなる。
 それでも愛している人に殺される透など見たくないのだ。
 道具の使い方について丁寧に教えている透を眺めながら、二人は一瞬視線を交差させた。
 ここからが二人の勝負の時なのだ。

「……電波が悪いな」
 携帯を見つめ西垣・直貴(罪を喰う獣・b07386)が呟いた。
 ゴーストが居る場所では電波障害が激しい。
 リビングデッドが居るこの屋敷の近くも例外では無いだろう。
 それでも何とか服部にメールを送った直貴はため息をついた。
「上手く行くと良いですね」
 今にも降り出しそうな空を仰ぎ、葉月・透子(高校生フリッカースペード・b02421)は呟いた。
 それに近くに居た来生・氷雨(闇を振り払う旋律・b03044)が小さく頷く。
 上手く行って欲しい……否、絶対上手く行かせる。
 それがこの場に居る者達全員の思いだった。
 やりきれない気持ちを振り払うかのように阿弥陀・弁天(血濡れの椿・b07844)は屋敷を見上げた。
 鉛色の空は重くまるで屋敷全体を包んでいるかのような印象を受ける。
 その不吉な光景を見ながら強く拳を握り締めた。

●忌み花
「……っ」
 皆で花を活ける前に透がお茶を配る。
 それを各々口につけ、生け花に関する質問を透にしていた。
 そんな時だった。
 服部が突然苦しそうに蹲ったのだ。
 その服部の隣に居た虎鉄が背中をさする。
「どうかしましたか?」
 服部の様子に気づいた透が二人に近づいた。
「すみません。彼、最近風邪気味でこの寒さで体調崩したみたいです」
 その虎鉄の言葉に透は「この寒さでは仕方ありませんよ。隣室が空いてますので休んでいてください」と微笑んだ。
 それに服部は「かたじけないでゴザル……」と返し、そのまま透に連れられ隣室へと歩みを向ける。
 二人の様子を見ていた虎鉄は透が戻ってくると「心配ですので……」と服部に付き添いたいと言った。
 透はにこにこと「友達思いなのですね。構いませんよ」と微笑んだ。
 優しい透を騙す事は思った以上に心苦しい……
 一言お礼を言うと虎鉄は隣室に歩みを向け襖を閉める。
 そしてそのまま反対側の襖に向かう。
 途中服部と目が合うとお互い強く頷き、虎鉄は闇纏いをし足早に裏口へと向かう。
「……これは助かりましたね」
 裏口へと向かった虎鉄は掛かっていた鍵をみて思わず呟いた。
 自分に鍵が開けられないのなら最悪壊そうと思っていたのだが、その心配は無かった。
 鍵は簡単に開けられるタイプのものでさほど苦労しないだろう。
 辺りを見回し、誰も居ないのを確認すると虎鉄は鍵を開ける。
「お疲れ様」
「お疲れ様だよ」
 虎鉄に手引きされ外で待っていた、真神・九郎(中学生魔弾術士・b02643)とシルヴァーナ・シンフォニア(白銀の卵・b14067)が労わりの言葉をかける。
 待ってましたとばかりに外に待機してたメンバーが裏口から中に入って来た。
 そこに隣室で様子を伺っていた服部が合流し、一同は離れへと足を向ける。

 どうして……それが最近の口癖になっていた。
「透さん……」
 その名を口に乗せれば愛しさが溢れる。
 なのに愛しさと共に溢れるもう一つの飢餓にも似たこの気持ちは何なのだろう?
 愛しい人の姿を目に……視界に入れる度、喰らいつきたくなるこの衝動は?
 どうして……と、彼女−−早苗はぎゅっと着物の袖に隠れた腕を掴んだ。
 自分の気持ちの変化と共に体にも変化があった。
 恐ろしい……消えてしまいたい……そんな気持ちと同時に、愛しい人の傍を離れたくないという気持ちもある。
 どうして……三度目の呟きは小さなドアを叩く音と被さった。
「どなたですか?」
 自分が今居る離れに来るのは夫である透以外居ない。
 だが、ドアの叩きからしてそれは透ではないと早苗は確信した。
「あの……今日一日華道体験教室に来た者なのですが、先生が……」
 ドア一枚隔てた向こうで男の声がした。
 それを怪訝に思いながらも、男の言葉が耳につく。
 先生が……それはつまり透の事……
 自分の愛する人に何かあったのか……居ても立ってもいられず早苗はドアに駆け寄ると鍵を外した。
 瞬間、凄い力でドアが開けられ早苗は数歩後ろに下がる。
 何事かと見やればそれぞれ武器を持った八人の学生が居た。
「あっ……貴方達は……」
 震える声で早苗は問う。
「ほんとは心苦しいけど、大切な人まで巻き込みたくないでしょ?」
 早苗の問いに返すでもなく、シルヴァーナが言った。
 その言葉に早苗はああ……っと思った。
 彼等が自分を消す者達なのだろうと……
 それは直感みたいなもので……だけど認められなかった。
「何の事でしょうか……私には何の事だか存じ上げられませんが……」
 震える口元を必死に繕いやっと声を出す。
 その早苗の言葉に彼等は悲しげな瞳を向ける。
 言葉で言っても無駄だと悟った。

「私から透さんを奪わないでっ!!」
 早苗が叫ぶと同時に能力者達が入って来たドアから二匹の大型犬がゆっくりと入ってくる。
「私から透さんを奪う人は……皆……消えてしまえば良いのよ……」
 何処か壊れたような笑みを浮かべ、早苗は何処から持ってきたのかその手に花ばさみを持っていた。
 「響け、葬送の旋律……っ」
 恨んでくれてもかまいません……そう小さく呟くと、透子はその唇に旋律を乗せる。
 旋律は激しい音となり、透子が敵と見なした者を襲う。
 それと同時に皆の武器に淡い光がともる。
 シルヴァーナの白燐奏甲だ。
 透子のブラストヴォイスを合図に皆それぞれ自分の獲物へと刃を向けた。
「お前達の相手はこっちだ」
 直貴達に向かって跳躍しようとする二匹の大型犬に九郎の炎の魔弾が飛ぶ。
 それに意識を直貴達から九郎達へと切り替えた大型犬が咆哮を上げて地を蹴った。
 一匹の大型犬が九朗に向かうのと同時に、もう一匹は氷雨に向かって跳躍する。
 それをギリギリの所で交わし、その無防備になった腹に龍顎拳を叩き込む。
 腹に龍顎拳を受け体勢を崩すものの地に足をつけ瞬時に体勢を立て直そうとするが、先程透子の放ったブラストヴォイスの効果でそれもままならない。
 立ち上がろうともがく大型犬に迷わず氷雨は龍撃砲を打ち込んだ。
 衝撃波が横を通り過ぎる感覚を感じながら九郎は大型犬と退治する。
 にらみ合いをする二人の緊迫を破ったのは、大型犬に取り付いた白燐蟲だった。
 体のいたる所に這い回る白燐蟲を何とか取ろうと大型犬が隙を見せたその一瞬。
 九郎は一気に間合いをつけ、そのスピードのまま大型犬の胴に箒で一撃を与える。
「安らかに……」
 胴に加えられた一撃に宙をまうその体に、九郎は近距離から炎の魔弾を打ち込んだ。
 背後に赤い光を感じながら弁天はクラシックギターを握り直した。
 なるべくアビリティを使わないで戦うのは中々難しい。
 一つ苦笑いすると弁天は早苗へと意識を集中させる。
「どうして……どうして私から透さんを奪おうとするのっ!!」
 血を吐くような叫び、まさにそう呼ぶに相応しいほどの叫びだった。
「今の貴女は物取りの鋏に生を断たれ、未練の剣山に活けられただけの徒花でゴザル」
「うるさいっ!!」
 服部の言葉に早苗は花ばさみを構え大きく振りかぶった。
 早苗が花ばさみを振り下ろすと同時に直貴が斧で受け止めて弾く。
 旋剣の構えで自身を強化した直貴に早苗が競合いで勝てるはずもない。
「私は……ただ透さんと一緒に居たいだけなのに……」
 直貴の斧に弾かれた早苗は体勢を崩し、そのまま畳に崩れ落ちる。
「……あんたを、その苦しみから解放しにきたんや……。
 辛かったやろ……?今、楽にしたるからな……」
 早苗の言葉に弁天が優しく声を掛ける。
 辛かった……そう確かに辛かった……
 自嘲の笑みが自然と早苗の口元に浮かんだ。
 その早苗の目に透が自分が早く元気になるようにと活けてくれた花がうつった。
 それに一瞬目を見張ると早苗は俯く、そして……
「そう……確かに辛かった……でもあの人の傍に入れるのなら……
 こんな辛さ、なんて事ないわっ!!」
 傍に来ていた弁天に目にうつった生け花を投げつけた。
 目の前で散る花に気を取られた一瞬の隙をつかれ、弁天は早苗に右手を掴まれ物凄い力で引き寄せられる。
 花が重力に負けて落ちるその先に、花ばさみを持って微笑む早苗が居た。
 倒れこむ弁天の視界に無数の白い光がうつった。

●立華
「どうして……」
 呆然と呟いた氷雨に早苗は顔を向けた。
 早苗の体はもう動けないだろう、弁天が倒れるその前に氷雨の龍撃砲とシルヴァーナの白燐拡散弾を受けたのだ。
「何故……」
 早苗の言葉をついでシルヴァーナが訊ねた。
 二人がアビリティを放った瞬間、早苗は抵抗するでも無く無防備にその身に全てを受け止めた。
 弁天を盾にするなり、その場から離れるなり出来ただろうにそれをする事は無かった。
 だから出た疑問……
 あんなに透さんから離れたくないと言っていた彼女が何故?と……
「しおどき……だったのかも……しれないわね……」
 氷雨とシルヴァーナ、二人の問いに早苗は静かに呟いた。
「あの人を……本当に愛していたの……何があっても……傍に居たいって……
 でも……駄目ねぇ……私が……あの人の傍に居ると……あの人が……危険なのでしょう?」
 そう穏やかな目で問われる。
 しかしその問いに答えを返すものは居なかった。
 リビングデッドである彼女が愛する者の傍に居ればどうなるか……
 それは考えるまでも無い、だがそれを伝える事はどうしてもためらわれたのだ。
「ふふふ……別に……良いのよ……薄々は……気づいてた……」
 ごほっと咳き込むと鮮血が早苗の襟元を朱に染め上げる。
「ねぇ……最後まで……してくれるのでしょう?」
 柔らかく目を細めて早苗は能力者達を見た。
「私がやりましょう……」
 早苗の問いに虎鉄が一歩前に進み出る。
「もう眠りなさい――貴女の愛を嘘にしないためにも」
 愛刀鳳刀【紅遠】を構え「すみません」と小さく謝罪すると、勢い良くその刀身を早苗の体に突き刺した。
 それを抵抗するでも無く早苗は受け止める。
「貴方……愛して……ました……誰よりも……貴方を……
 最後に貴方を……一目この瞳に……うつし……たかったけど……
 こんな醜い私を……貴方には……見せられ……ませんね……
 どうか……多くの幸い……と……幸福を……あなた……透さん……」
 それが早苗の最後の言葉だった。
 ゆっくりとまぶたが閉じられる瞬間、一筋の光が頬を通る。
 その死に顔はどこまでも安らかで……血にまみれていたが美しい微笑だった。
 すっと虎鉄は愛刀を早苗の体から引き抜く。
 奇しくも虎鉄が刺した場所は、強盗が早苗を刺したのと同じ場所だった。
「ごめんなさい」
 静寂に包まれた室内に直貴の言葉が響いた。
「おやすみなさい……もう誰もじゃまはしないから……静かに眠って……ね」
 早苗の遺体に近づくと氷雨は事前に買っていた花をそっと添えた。
 氷雨に習うように弁天が早苗の遺体に近づくとそっと額に手をあてる。
 優しい夢を、みられますように……と……願いをこめて……
「ごめんなさい、来世で幸せになってね…」
 そう呟いたシルヴァーナの瞳に涙が滲んでいる。
 それを拭うと一歩前に進み出た。
 これからが彼等の仕事である。
 早苗の死を空き巣による仕業だと見せかけるために細工をしなければならない。
 早苗の死体があるこの部屋でそれをやる事は、とても心苦しくやるせない。
 しかしやらなければならないのだ。
 残される透の為にも……
 細工をする仲間と離れ弁天は一人離れの裏に居た。
 その弁天の足元には二匹の大型犬の死体がある。
「お前らも……ごめんな……」
 そっと二匹の頭を撫でると、その身を埋めるために穴を掘り始めた。

「今日はありがとうございましたぁ〜……それと、すいませんでした」
 一足先に教室に戻った服部と虎鉄は透に挨拶する。
 二人が抜け出た事を幸い気づかれる事は無かった。
 二人が戻ってきた時、丁度教室も終わりに近づいていたので時間にしてはギリギリだ。
「はい、これは二人の分です」
 透は虎鉄の言葉に少し不思議そうにしたが、笑顔で二人に包みを渡す。
 見ればそれは今日活けるはずだった花で作られた小さな花束だ。
「今日は残念でしたが、また来て下さいね」
 そう言って微笑んだ透の顔をまともに見る事が出来ない。
 これから彼に起こる事を知っている身では彼の優しさが辛かった。
 透に見送られ二人は外に出た。
 途中、細工し終えた仲間と合流したが誰も喋らない。
「あっ……雨……」
 鼻先に落ちてきた冷たい雫に誰とも無く呟く。
 空はその重さに耐え切れず泣き出した。
 音を立てて降ってくる雫はまるで早苗の死を悼んでいるようで……
 そっと空を仰いだ。
 どこまでも暗く、重く……そして涙の様に雨を降らせる空。
 それを振り払う様に歩き出した彼等の背に、愛する者の名を叫ぶ声が響いた。
 何時までも……何時までも……
 まるで振り続ける雨のように途絶える事は……無かった…… 


マスター:桜花 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/01/11
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