炎石の騎士、星の向こうに想いを馳せて


<オープニング>


 星々が瞬く冬の夜、さざなみが心地よく響く海岸でのこと。長期配送の途中、眠気覚ましにと訪れた男は、海の向こうを眺め佇む者を発見する。
「……」
 佇む者は頭部を銀の兜で覆い隠し、体を銀の甲冑と真紅の装飾で包み込んでいる。更にランスを携える姿は西洋の騎士を思わせた。
 日本の海岸には相応しくない姿。だからだろう、眠気覚ましに訪れた男は、一目散に踵を返す。
 ――故に、命を失わずに済んだ。
 もし近づいていたのなら、騎士の邪魔をしていたのなら……ランスに突かれてしまっただろうから。

「今回の敵はまともな奴なんでしょうね?」
 警戒しているのか、目を細め腕を組みながら春宮・静音(バトルマニアガール・bn0097)は問いかけている。
 返す秋月・善治(高校生運命予報士・bn0042)は溜息を吐いた後、話を聞いて決めてくれと前置きしてから皆に向き直った。
「それでは早速説明を始めるぞ」
 事件が起きているのはとある海岸。現れたのは地縛霊。
 今までに被害者は四名。放っておけばこれからも増え続けるだろう。
「そうなる前に退治しなければならない、ね?」
「ああ、そうなるな」
 善治は静音の問いに答えた後、現地までの地図を渡しながら説明を続けていく。
 出現場所は、海岸線を歩いていけばいずれ辿り着く。
 出現条件は、夜零時から日が昇るまでの間に、多数でもいいので件の場所へ辿り着くこと。
 件の場所は砂浜。障害物などは特に無く視界も開けているため、戦いに支障は無いだろう。ただし、灯りはないので用意する必要がある
「それじゃ、次は……」
「……ああ。お待ちかねの地縛霊に関する情報だ」
 姿は西洋風の鎧甲冑を着込み、片手用のランスを携えた騎士風の地縛霊。力量は高く、重厚な鎧とは裏腹に素早くランスを操ることに長ける。が、神秘的な力は不得手らしい。
 ランスで体の中心を突く事により強き衝撃を与え、もし特別な加護を得ていた場合強固に石化させる技。真紅の装飾から炎のオーラを噴出させ戦場全体に放ち、低くは無いダメージと魔なる炎を残す技。片手に盾を生み出す事により、体力を回復しながら守りを強固にする技を持つ。
「また、他に地縛霊が四体……恐らく被害者だな……が、騎士の背後に控えるように出現する」
 力は弱い。が、攻撃が遠距離まで届く上に、仲間の悪しき力を祓う為に祈りをささげる事がある。
「以上が敵に関する情報だ。元に策を考え、事に当ってくれ」
 説明を終えた善治は一度深呼吸。後、満面の笑みを浮かべている静音を見つけて溜息を吐いた後、そういえばと顔を上げた。
「お前たちが向かう海岸なんだがな、昔はよく難破船が流れ着いていた場所らしい」
「難破船?」
 問い返してきた静音に、善治はと真剣な面持ちで頷いている。
「もしかしたら、難破船の中に西洋人のものが混じっていたのかもしれん。もっとも、今となっては突き止める術は無いのだが」
 ともあれと、善治は話題を切り替える。そして。皆の意識が今に戻ったのを確認した後、締めくくりの言葉を告げた。
「先に述べたように、放っておけば被害者は増え続ける。故に油断せず確実に倒してくれ。吉報を待っている」

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参加者
クリス・ファーレン(たけのね・b04365)
榊・悠(アウター・b05605)
中山・まこと(ヘルハウンド・b05921)
白銀・永琳(中学生月のエアライダー・b26513)
真下・隆也(イレブンスピリッツ・b30036)
椎名・クロード(火煉に舞う狂気・b39516)
早坂・淳(泰然自若・b41430)
池田・勇人(デッドマン・b44604)
スノウリン・レゾナチップ(クレアートデッラルテ・b45922)

NPC:春宮・静音(バトルマニアガール・bn0097)




<リプレイ>

●夜空に煌く星を眺めて
 夜闇に煌く貝殻が、波に引かれて消えていく。さざなみのささやかな潮騒が、静寂に満ちる夜を彩っていた。
 時は零時を過ぎた頃、能力者たちは浜辺に足跡を残し進んでいく。さなか、白銀・永琳(中学生月のエアライダー・b26513)は何気ない様子で視線を空に移していた。
(「……星の向こう、か」)
 灯り少なき場所が故、微かな星の瞬きも感じ取れる場所。
 未だ見えぬ今宵の騎士風ゴーストも、同じ空を眺めていると聞く。同時に、この浜辺には難破船がよく流れ着いた場所とも聞く。……二つを合わせて考えれば、異国の地で倒れた無念がゴーストを残してしまったのかもしれないとも思えてくる。だから……と永琳は、眠らせてあげなければと胸の内で誓っていた。
 中山・まこと(ヘルハウンド・b05921)も、彼と同様の事を考えていたらしい。
「故郷を偲び思いを馳せる……見た目の割にけっこう繊細なんですかね?」
 もっとも、声音は軽く気負いも無い。それは同時に地縛霊は騎士としての戦いを願い求めているのかもしれないと考えたからだろう。……しばしの後、まことは不敵な笑みと共に結論を下した。楽しませてもらえるのなら、どっちでもいい、と……。
 ……電灯に照らされて輝く砂に刻まれるのは足跡と、あまりやる気の感じられない様子で榊・悠(アウター・b05605)が引き摺る鬼棍棒の軌跡。
 星々が見守る空の下、やがてクリス・ファーレン(たけのね・b04365)が皆に告げる。
「見えました……あいつです」
 気付かれないよう電灯では照らさずに、指で海の近くをクリスは指し示す。示されるままに視線を移せば、空を眺め佇む銀の鎧甲冑を着込みランスを携えた騎士の地縛霊と、控えるように座り込んでいる被害者であろう四体の地縛霊。
 騎士の行動を邪魔しなければ戦いは始まらない。故に彼らは無言のまま陣を整えて、策を始めるために動き出す。後、スノウリン・レゾナチップ(クレアートデッラルテ・b45922)の提案により策の最終確認を行い、齟齬を埋めた。
 ――時は満ちた。
「俺の名は真下隆也! 悪を断つ剣なり」
 騎士がゴーストである以上、人に害を成す存在である以上、事情も何もかも関係ない。ただ倒すのみと、真下・隆也(イレブンスピリッツ・b30036)は騎士を押さえるために駆けて行く。
 ときの声を上げる隆也に引かれるように、残る皆も自らの位置を取るため浜辺を駆けた。
 ここに来て地縛霊たちはやっと気付いたようで、各々戦う構えをとっている。
 四体の地縛霊の瞳は悲しそうに伏せられて、気力の欠片も伺えない。対し、騎士は顔が兜の奥に秘められて、表情すらもうかがえない。
 銀色の向こう、騎士はどんな顔をしているのだろう?

●地上で燃える炎を囲み
 淡い電灯に照らされて、銀の鎧を煌かせながらランスを構える騎士。その姿に、クリスは少しだけ目を伏せる。
 騎士がこうなるまでに何があったのか。気にはなるけど、知る事はできない。また、今できることも少ない。だからせめて、静かで穏やかな眠りを与えたい……!
「皆、頼んだよ!」
 だからクリスはランスの構えをよく見ながら、翻弄すべく走り回る。今は直撃を受けずに押さえ込むのが優先だと、青藤色の花を揺らしながら三日月の軌跡を叩き込んだ。
 仲間たちが四体の地縛霊を倒すまでの間、被害を減らすために騎士を押さえ込む。それがクリスの担った役割なのだから。
 ギリギリの位置からスノウリンが放った竜巻は、騎士も被害者も冷気の暴風で包み込む。二体ほど凍りつく様子を見せる中、早坂・淳(泰然自若・b41430)は戦場に毒沼の陣を張っていた。
「そら、仕えるべき主は汚されたぞ。祈りを捧げなよ」
 淳が挑発気味に呼びかければ、元々そういう性質なのか手を組み祈る様子を見せる地縛霊たち。対象は具足を泥濁に侵された騎士と凍りつく同族だろう。
 祈りの加護を受けた騎士の具足から泥濁は消え、再び銀が煌きだす。しかし、すぐさまそれは、真紅の装飾から発生した炎のオーラの赤へと染まっていた。
 オーラは戦場にいる彼ら全てをなぎ払い、受け切れなかった者には炎をもたらす。
「……」
 だから、春宮・静音(バトルマニアガール・bn0097)は静かに風をそよがせる。オーラによって傷付いた体を完全に癒せるわけでは無いけれど、魔なる炎を浄化するくらいの力はあるから。
 風の力により炎を打ち消した池田・勇人(デッドマン・b44604)。彼は騎士により熱せられた空気を冷ますかのように吹雪を巻き起こす。吹雪は先ほどスノウリンがもたらしたのと同様に、二体の地縛霊の身を凍らせた。
 氷を砕くように、まことが弧を描く蹴撃を叩きつける。地縛霊が見せた隙に突き刺さった一撃は纏う暴風も導いて、その存在をかき消した。
 この調子なら、次は対象を集中させる必要も無いだろう。仲間の範囲攻撃と合わせれば、少ない手で滅ぼせる可能性が高いのだから。
 ……程なくして被害者と思しき地縛霊は殲滅される。能力者たちの被害はまだ軽微であり、今は気にするほどでは無い。
「どんだけ強いか、見せてみろよ!」
 被害者が倒れ、仲間たちが騎士へ集中できる今ならば本気を出して戦う事ができる。悠は心底楽しそうに笑いながら、持ち主の敵に破壊をもたらす鬼棍棒を紅蓮に染め上げ叩きつけた。
「っ!」
 重々しい音を立て、騎士の体が若干沈み込む。しかし、間に挟まれたランスが勢いを吸収してしまったようだ。
 それすらも楽しいことだと、悠は更なる歓喜に打ち震え、鬼棍棒を引き戻す。
 対する騎士はランスを地面に突き立てて、再び炎のオーラを解き放った。

 炎のオーラを受け流した後、一瞬だけ被害者の地縛霊が消えた場所へ視線を移した椎名・クロード(火煉に舞う狂気・b39516)。彼女は一瞬だけ、悼むように目を瞑った。
「……っ!」
 刹那の後に見開かれた瞳には、強い光が宿っている。その光は、未だ銀の輝きを残している騎士へと向けられた。
「ちーっとおいたが過ぎたみてえだな? 同じ西洋人としては見過ごせねぇんだ、悪く思うんじゃねぇぜ?」
 ランスを下げた隙に軽量化されたガトリングガンを構え炎の砲弾を撃ち出したなら、着弾と同時に燃え盛る。
「帰りましょう、貴方のお家へ」
 熱したところを冷ますかのように、スノウリンが放つ最後の吹雪が騎士の体を翻弄した。
 対する騎士は白く輝く盾を生み出し身を癒す。そして、追撃は盾が全て封殺した。
「その強化の力、利用させて貰うよ」
 ならば盾に呪いを注ぎ込む……と、永琳は日没を表す紋章が刻まれたナイフに退魔の力を込めて突き立てる。
 しかし、それは騎士が得意とするのと同質の力。ランスで力点をそらされ、そのまま受け流されてしまった。
 そして、再び巻き起こる炎のオーラの奔流が戦場にいる彼らを包み込む。静音の風が再びそよぐも、猛る勢いは収まらずじりじりと削られている状況だ。
「肉を切らせて……骨を絶つ!!」
 けれども怯まず、隆也は更なる真紅へと染め上げた赤手を振るい、再び炎を猛らせる。
 熱に冷気に、戦いにより生じた鎧の亀裂に入り込ませるかのように、淳は呪詛の力を編み始める。
(「……あなたは何を思い、ここにいる?」)
 星の向こうに、望郷の念を抱いているとも思える騎士。ならば、彼を縛る鎖を砕き解放してあげれば思うところへ帰れるのでは無いだろうか? そんな思いも込めて、淳は言葉を紡いでいく。
「搦め手ばかりですまないが、真っ向から張り合うほど自信家ではないんだ」
 決して真正面からの攻めではない。だから卑怯でも、卑怯なりに全力で戦うのが礼儀だろう。
 騎士は言葉に込められた呪縛により動きを止める。輝く盾を介して流れ込んだ強き力であるが故に、常時よりは長く続いていくのだろう。騎士を倒す礎として。

●どこまでも遠くと繋がる空
 発生した盾を介して施される呪詛は強い。けれど、その盾による守りは固い。
 一つのチャンスに誰かが有効打を与えても、それが続く事は中々ない。やがて騎士は再び動き出し、ランスを大きく振るっていく。
 元より回復をほぼ捨てての戦い。呪縛による休息期間はあったものの、静音の風だけでは癒しきるには足りない。双方の被害から戦いも終盤と思しき頃、中ほどまでダメージが蓄積していたところにランスの直撃を受けた悠と隆也が意識を失い倒れてしまっていた。
 幸いなのは回復を、補助をほぼ捨てていたが故に石化してしまっている者はいない点だろう。
 夜の浜辺に響き渡る硬質な音色を、更に響かせ彼らは挑む。騎士を眠らせてあげるために。
「あと少しだ! 圧して参る!」
 騎士は甲冑にランス、けれども彼が相手にするのはほぼ別の格好。それを襲うのは、騎士道からは外れた行いだろう。
 そう、心の中で糾弾していた勇人は、疲労の色を見せ始める仲間を労い導くために先駆けの言葉を投げかけながら、凍てつく吐息を吹きかける。
「Rest in peace……異国の地だ、無念なのは痛い程分かるぜ? ……ま、成仏しなよ?」
 続いたクロードは凍りついたところに弾丸を浴びせかけ、騎士の鎧を軋ませた。
 対する騎士はランスを引き、素早くクリスめがけて突き出してきた。
「直撃だけは……!」
 クリスは蟲笛を軸にランスを受け流し……なお伝わる衝撃にたまらず退き、倒れるよりはマシだと白燐蟲を纏っていく。
「ここは抜けさせない。……硬いけど、通す!」
 抜けたクリスの穴を埋めるように移動した永琳は、痛む体を引き摺りながら騎士の周囲を走り回る。翻弄する影に騎士がよろめく様子を見せた時、大上段から鋭き蹴りを振り下ろした。
 蹴りは深い所に入り込み、鎧に致命的なまでの亀裂が発生する。即ちそれ勝機だと感じた静音が、荒れ狂う暴風を導く一撃を騎士の懐に叩き込んだ。
 人に喩えるなら満身創痍。亀裂が、欠片が痛々しい姿を晒す鎧騎士に、スノウリンは優しく語りかけた。
「御疲れ様、もうお休みください」
 言葉を紡ぐ場所からは、やがて鎮魂歌が流れ出す。歌声で戦場を静寂に満たしていく中、スノウリンは掌から結晶輪を送り出し騎士の下へと向かわせた。
 結晶輪は吸い込まれるように騎士の体へと辿り着き、その鎧を凍らせる。以後、騎士が動く事は無い。
 ……しばし後、波間から運ばれた風が騎士の体を包み込む。風にさらわれるように騎士の体は崩れ去り、冷気と共にその存在を無くしていった。

「Rest in peace……」
 安らかに眠るがいい。そんな単語を、勇人が騎士が消え去った場所に投げかけた時、浜辺は静寂から解き放たれる。急いで倒れた二人を抱き起こせば、命に別状は無い様子。数日すれば元の体調にも戻るだろう。
 懸念もなくなり、安堵の息が漏れる海岸。さなかも浜風は吹き、戦いにより熱された体を程よく冷やしてくれている。
 一番最初に行動を始めたのは淳。彼は除霊建築士なりに、今宵戦った彼らが迷う事なく戻るべき場所へ戻れるように……と、祓う準備を始めていた。
 その一助として、クロードは立金花を供えている。
「必ず来る幸福。来世のアンタにも来る事、祈ってるぜ?」
 祈りを込めた弔いの言葉は、夜の海岸線に響き渡る。お祓いが進められる中、備えられた立金花が波に運ばれた時、まことはそっと空を見上げた。
 夜空に輝く星々は、都会では見えない煌きを放っている。それがとても綺麗だから、まことは悪くないなと微かに微笑んだ。
 彼女が見上げる星々は、昔から変わる事無くこの浜辺を見守っている。そして、空を通じて世界中をも見守ってきたのだろう。
 ……見守る者の想いを、静かに受け止めながら。


マスター:飛翔優 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2009/02/02
得票数:笑える1  泣ける1  カッコいい12  知的2 
冒険結果:成功!
重傷者:榊・悠(アウター・b05605)  真下・隆也(イレブンスピリッツ・b30036) 
死亡者:なし
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