薔薇の使徒


<オープニング>


 都市部や住宅街から少し離れた場所にある動植物園内を、暗闇に紛れて走る影が八つ。それらは全て、西洋風の正装に身を包んだ二十歳は越えていようという男女の影。……各々の得物から、従属種ヴァンパイアと思しき者たち。
「こっちでいいんだったか? セイ」
「……ええ、そうよね? リョク」
「はい。それからセキ、あんまり喋らないで下さい」
 彼らは頷きあい、地図に記された目的地……薔薇が咲き誇るドーム内へと向かっている。時折かち合いそうになる警備員の姿を見つけたら、物陰に隠れてやり過ごす。
 目的、ドーム内に咲き誇る薔薇を盗む事。故に、目撃されたのなら口封じのために殺さなければならない。そして、それは優雅ではない。
 できるだけ誰も傷つけず、盗む。彼らにとってそれは、矜持。

「今回は従属種ヴァンパイアが相手だって聞いたけど」
 メンバーが揃うのを確認した後、春宮・静音(バトルマニアガール・bn0097)が発した問い。秋月・善治(高校生運命予報士・bn0042)は肯定の意を示した後、補足する。
「全員成年であるため、見えざる狂気にも侵されているな。それを踏まえて、説明を始めるぞ」
 今善治が示した通り、今回の敵は見えざる狂気に侵された従属種ヴァンパイア。数は八名。目的は、夜中の動植物園に入り込み、咲き誇る薔薇の窃盗。
「薔薇の窃盗?」
「ああ。理由は不明だが、動植物園の薔薇を盗もうとしているな」
 ともあれ、今回の依頼はその薔薇の窃盗を阻止し、従属種ヴァンパイアを捕縛する。これが、最終的な目的になる。
「また、従属種ヴァンパイアの特徴だが……そうだな。八人で行動している点。それらが皆黒い装束に身を包んでいることに注視すれば、見間違える事はないと思う。また三名ほど、仲間に頼りにされている者がいるな」
 一人はセキ、男性。真っ赤な長髪を持ち、軽薄そうな笑みを常に浮かべているのが特徴。戦闘になれば前線に躍り出てチェーンソー剣を振るいながら、隙を見てローリングバッシュを放ってくる。
 一人の名はセイ、女性。青みがかった髪を短く纏めていて、静かな笑みを湛えているのが特徴。戦闘になれば仲間に混じり静かに敵に近づいて、ホームランバットを素早く操り敵を吹き飛ばしてくる。
 最後の一人の名はリョク、女性。緑がかった髪を肩まで伸ばし、目を前髪で隠しているのが特徴。戦闘になればクロスシザーズを構えながら後ろに控えてジャンクプレスを放ちつつ、仲間に指示を飛ばしてくる。
 その他の面々の得物は吸血グローブで、主にリョクの指示に従い行動してくる。
「以上が敵に関する情報だな。続いて、詳細の説明に入るぞ」
 従属種ヴァンパイアが行動を起こすのは夜中の零時ごろから。
 皆が動植物園に辿り着けるのは夜中の二十三時半ごろ。幸い、金網が壊れていて、尚且つ木の陰になっていて気付かれていない場所があるため、侵入するのは容易い。その後は……。
「地図にルートを示しておいた。これに従えば、警備員とかち合うことも監視カメラに映ることも無い。そして、進んでいけば従属種ヴァンパイアとの戦いに適した場所へ辿り着く。監視カメラの死角となり、二十三時半から一時半までの間に警備員の巡回は無い場所だ」
 それは、百合の花が咲き誇るドームの裏手、外と中を隔てるフェンスの傍。少し横幅が狭い場所なため、横に並んで戦えるのは三人が限度と思われる。
「ここで策を展開してくれ。そうすれば奴等を捕捉し、戦う事ができる。……以上だ。元に策を考え、事に当ってくれ」
 最後に……と、善治は説明の締めくくりに入る。
「先に行った通り、奴らの目的は分からない。だが」
「能力者の犯罪行為を見逃すことはできない、よね?」
「ああ。また、奴らは不利と思えば逃げる事に尽力するだろうから、全員を捕まえるのは難しいと思う。故に、捕まえるのは最低一人で構わない。一人居れば、目的を知ることもできるだろうからな」
 また、無力化したヴァンパイアたちは、銀誓館学園ゆかりの病院などに収容するので、後は任せて帰還して欲しいとも付け加えられた。
「これで説明は以上だ。元に策を考え事に当ってくれ。吉報を待っている」

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参加者
アリス・ルビーティア(ヴァンパイアローズ・b03664)
飛影・龍馬(青嵐・b04124)
淵守・照(響曲爪・b22831)
アルテア・マッコイ(商会の看板娘・b25367)
一純・小鳥(青空の雫・b27870)
今更・春彦(右手に歌を左手には斧を持って・b36606)
光・歌穂(燃えるボーカルはじけるギター・b46005)
東郷・氷雨(レインさんと僕・b53673)
西連寺・昴(銀色の夜想曲・b55062)

NPC:春宮・静音(バトルマニアガール・bn0097)




<リプレイ>

●百合の花が見守る場所で
 冷たい風が吹く二月の夜。そろそろ日をまたごうかという頃合に、彼らは動植物園へと侵入した。
 微かな電灯に照らされる中を、彼らは地図を頼りに静かに進み行く。昼間ならばうさぎが遊んでいると思われる広場、明るいうちならば華やかな彩りを見せるだろう花の日時計の横を抜けたならやがて、百合の花が咲き誇るドームの裏手へと辿り着いていた。
「夜の動植物園って、ちょっとどきどき……」
 幼い一純・小鳥(青空の雫・b27870)にとって、夜に沈む場所をこそこそ進むのは心躍る冒険にも等しい事なのだろう。最初の一仕事を終えた事に嬉しさを感じたのか、彼女は明るく微笑みながらほっと白い息を吐いていた。後、その高鳴る鼓動を抑えながら、従属種ヴァンパイアたちが来るまで隠れる場所を探そうと、真ケットシー・ガンナーの八雲くんと共に周囲をきょろきょろ見回し始めている。
 近くには、同じく隠れる場所を探している飛影・龍馬(青嵐・b04124)。
「百合の似合う主の方が好みやけどな。薔薇を捧げる主は、その後が心配なエレインがらみなんやろかっ?」
 口をついて出るのは今宵の敵、薔薇を盗もうとしている従属種ヴァンパイアたちの事。
「……窃盗までして手に入れるべき物なのでしょうか?」
 話題を拾い、西連寺・昴(銀色の夜想曲・b55062)が呟いたのは答えの出ない問い。
 同時に様々な情報が集えば解き明かされるはずの疑問だとも分かっていたから、静寂という反応の下皆の心に溜まっていったのだろう。
「とにかく、窃盗は誰であろうが犯罪だ。捕縛して止めさせないと……」
 話を戻した東郷・氷雨(レインさんと僕・b53673)が、皆に緊張感を持つよう伝えている。気がつけば、すでに零時を回っていたから……。
 ……その輪から少しだけ離れた場所で、アルテア・マッコイ(商会の看板娘・b25367)がぼうっとドームの中を眺めていた。
 ドームの中と外であるが故に香りは届かないけど、未だに華々しい姿を見せている百合の園。花が閉じている今でさえ美しく映るのだから、もし咲き誇っていたならば、光輝いていたのならどんな姿を見せるのだろう? それがちょっと惜しいと、静かに心の内に留めていた。仕事が終わってからでは静かに眺めていられるかは分からなかったから、今の内に……と。
 そして、他の者が配置についたころ、春宮・静音(バトルマニアガール・bn0097)に肩を叩かれる。アルテアはそれに応え、予め見つけていた柱の裏に隠れていった。

 百合の咲き誇る場所を足元に捉え待機している黒猫は、アリス・ルビーティア(ヴァンパイアローズ・b03664)が姿を変えたもの。彼女は暗がりを眺める中少しだけ目線を落とし、百合を眺めながら思考する。
 それは従属種ヴァンパイアたちが盗もうとしている、真夜中に薔薇が咲き誇る光景。香りに溢れる赤や紫の花園は、とても心奪われる場所なのだと。
 ……故にだろう。アリス自身薔薇を愛しているけれど、盗む事はよくないと思ったのは……。
 時間にしたら数秒。アリスは仲間たちが隠れているのとは反対側の入り口に目線を向けなおす。同時に聴覚にも意識を切り分けたなら、遠くから雑多な足音が近づいてきた。それは段々近づいて、やがて入り口へと辿り着く。
 故にアリスは鳴いた。予め伝えていた通り、三度。
 その後、アリスが仲間たちの下へ舞い戻り元の姿へと戻った時、溢れんばかりの光に照らされて八つの影が浮かび上がる。

●散る花の名は
 数分前までの暗さが嘘のような光に満ちている百合のドームの裏手。姿を現したヴァンパイアたちは慌てた様子でたたらを踏んでいた。
「おい! こりゃどういうことだ!? ここには……」
「セキ、落ち着いて! あなたが……」
「……」
 否。唯一、瞳を緑髪の影に隠した女性……リョクのみ、落ち着いた様子を見せている。それがとても不気味に思えたけど……好機を逃す理由にはならない。
 ――動植物園の夜、様々な生き物が眠る場所。正直活力が失われたかのような不気味さがあって怖いけど、それは一時胸の奥に仕舞いこむ。
(「咲いているお花が綺麗だからといって、盗んじゃ駄目よね」)
 その代わり、ヴァンパイアたちを止める想いを乗せ、淵守・照(響曲爪・b22831)がエネルギーの弦をかき鳴らした。
「お前達に手折られるのは、花も嫌がっているみたいだぞ」
 続いたのは氷雨の、示した場所に現れる魔法の茨。
 二重の拘束は、混乱していたからかあるいは元々そちらには優れないのか四人の動きを封じ込め、内一人の命を徐々に削るいましめとなる。もっとも、セキ、セイ、リョクといった、主力三人を捕らえる事はできなかったが。
「大人しくお縄につかんか!」
 スカルフェンサーの祖父を傍らに置きながら、今更・春彦(右手に歌を左手には斧を持って・b36606)が赤髪のセキに対して炎を放つ。ここに至ってやっと状況が飲み込めたのか、セキは手にしたチェーンソー剣で炎の軌道をずらし受け流した。
「皆様、交戦です。セキは先導を、他は補助を」
「っ! ……了解!」
 鶴の一声、という表現が適切だろう。リョクの指示に呼応したヴァンパイアたちは前を塞ぐように動き出す。
 動けたのはセキとセイ、そして名を知らぬヴァンパイア。故に光・歌穂(燃えるボーカルはじけるギター・b46005)は、その中から始めに落とす予定のセキを選び出して挑発的に呼びかける。
「そこの赤いの! 強そうだね。勝負だよっ!」
 ――薔薇泥棒なんてわけが分からないけど、泥棒がダメな事は分かるから。だから、そのために力強さに優れる自分がセキを抑えようと。それが、ヴァンパイアたちを捕らえる道への最短距離だと信じて……!
「……へっ、いいぜ! 相手になってやるよ」
「セキ!」
「構いません。茶髪の少女に、攻撃を集中させてください」
 呼応するセキ、嗜めるように叫ぶセイ。それを抑え、冷静に指示を出すリョク。
 作戦に乗ってくれた様子のヴァンパイアたちに、彼らは心の中で安堵の息。
 奇襲という邂逅で開かれた戦い。それは、歌穂とセキの攻防を中心として広がっていく。

 石ころに鋭い刃が発生し、歌穂めがけて集い行く。何とかそれを避けたとしても、今度は赤が砲弾のようなスピードでよろめく彼女に襲いかかってくる。
 そんな、歌穂が一身に抑える形になっている敵の攻撃。幸いなのは、近接するヴァンパイアとリョクの攻撃以外の威力は低い事と、セイは何故か後方からは攻撃行動を取らない事。……もっとも、歌穂自身が攻撃に回れるほどヴァンパイアたちの総合火力が低いわけでも無いのだが。
 故に、アルテアは歌穂の後頭部めがけてドリンク剤を投げつける。浴びれば身を癒せるからと、明るく呼びかけながら。
 その他静音の浄化の風などもあわせ、何とか前線は保たれている。もっとも、何らかの形で天秤が傾けば崩れてしまいかねないほどの脆さを内包した前線だが。
 だから崩される前に崩す、崩していくと、照が最後の音色を奏でだす。衝撃的な音色は更に二人の動きを止めさせて、計四人の動きを縛り付けていた。
 同様に全体に向けて、けれどもこちらは細かく削っていくのだと、小鳥の小さな体から放たれるのは氷の渦。凍てつく暴風はヴァンパイアたちのうちリョク以外を包み込み、セキの体を凍らせた。
 続いたのは八雲くん。二丁の拳銃から連射された銃弾が、セキの脚を捉えていく。
「ぐ……」
(「もう少しで突破できる……ほな……!」)
 呻き声を上げた、即ち好機を逃す理由は無いと、龍馬は今までセイにも割いていた意識をセキのみに集中させていく。
「薔薇やないけど、貰ってくれや!」
 彼は不自然な姿勢ながらも足を振るい、龍が尾を振るうが如き蹴撃を叩きつけた。
「ぐわ!? ……あ……」
「薔薇は愛でるものであって、盗むものではありませんよ!」
 姿勢を保っていられなくなったのか足をもつれさせたセキの隙を突き、アリスは火花散らせて雷を放つ。雷は吸い込まれるように直撃し、セキを徹底的に打ちのめした。
 セキは一旦ぐらりと傾くと、肉体を魂の力で叱咤したのか踏みとどまる様子を見せる。しかし、今は安全と見た氷雨の振るった裁くための鞭に叩かれて、再び地へと沈んでいった。
 セキの戦闘不能を確認した昴は、次なる目標を確認し……断念。リョクは前衛からでなければ遠距離攻撃ですら届かない位置まで離れてしまっていたから……。……だから、予定の変更を皆に伝えるために光の槍を作り出す。
「光り輝く聖なる槍よ、彼の者を貫け!」
 目標はセイ、ホームランバットを素早く操る青髪の女性。
 セイは槍をバットで弾き、次なる目標が自分である事に溜息を吐いているよう。
 対するリョクは、何かを考えているように首を傾げている。表情は相変わらず読めないけれど……。

●闇へと消える色
 電灯に照らされ明るく輝く戦場は、一つの色が動くことを止めていた。ヴァンパイアたちは、戦うには邪魔だからとそれを後ろへ送り、能力者たちと対峙している。
 戦っているさなかに捕らえるのは困難だから、能力者たちはセキが後ろへ送られていくのを黙って見守るしかない。その事に一抹の不安は感じるけれど……やる事は変わらない!
「見過ごすことは、できません……!」
 効果が薄い事は分かっているけれど、今は自分がセイを抑えなければいけないから……そう強く意識して、照は掌を素早く突き出す。構えられたバットに防がれた掌からは水の力が爆発し、少しの衝撃を与えていた。
 そんな力を行使する照の体も傷付いていたから、静音は風を巻き起こす。
「薔薇が舞散る原稿、思い知れデス!」
 火力の減った今、癒しはそれだけで十分だと思えたから、アルテアは薔薇の舞散る妄想を刃に変えてばら撒いた。
「行って……なの」
 原稿に混じり送り出された結晶輪は小鳥のもの。八雲くんの弾丸と共に結晶はセイの下へと辿り着いた。
「甘い……わ!」
 セイはバットをくるりと回す事でそれらを弾き、勢いを保ったまま照へと振るう。
 照は小ぶりのナイフを軸に受け流し、衝撃を殺していた。
 ……余裕はある。セキを上回るダメージを受けてなお凌駕する気配すら見せないセイに疑問はあるものの、負けないであろうという安心が上回る。
 故に春彦は、一瞬だけ視線をリョクへと移し問いかけた。
「さてはて、何に使うやら……のう? 菊人形ならぬ薔薇人形ですかの?」
「……さあ?」
 けんもほろろにかわされてしまうが、元より期待はしていない。春彦はすぐさまセイへ意識を切り替えて、炎の砲弾を解き放った。
 続いたのは昴の光。
 炎を避けたところに辿りついた光は、セイの肩を深々と突き刺さる。
 その痛みからか、今宵初めてよろめく様子を見せたセイ。好機だとアリスの放った雷が急所を捉えたのか、その動きを止めさせた。
 止めとして龍馬が振るった影を纏いし二本の剣が、セイの体に十字の傷を刻み込む。
 ……その衝撃に、一瞬気を失いかけたのだろう。セイは倒れる様子を見せた後、ゆっくりと姿勢を正した。
「……皆様、撤退です」
「……了解」
 それが最終判断となったのか、リョクが撤退を命じている。了解したヴァンパイアたちは少しずつ、けれども確実に下がっていく。……逃げる際邪魔になるだろうセキを置いたまま。
「倒れた仲間は置いていく……か」
 ならば追う必要は無いとひとりごち、こちらも撤退する準備を始めようと伝えながら、氷雨は逃げるヴァンパイアたちの背中を見つめていた。
 ……またどこかでやりそうだと、そんな想いを抱きながら。


マスター:飛翔優 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2009/02/19
得票数:カッコいい15  知的1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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