あの人にクマさんを


<オープニング>


 さて、ここに型紙があります。
 キーホルダーにできるくらいの大きさのクマさんの型紙です。
 これに沿って布や皮を切ってきちんと手順通りに縫えば、あら不思議、初心者でもかわいいクマさんのできあがり。
 好みでネクタイをつけてあげたり、リボンをつけてあげたり、トランクスをはかせてあげてもいいでしょう。
 キーチェーンやひもをとりつければ、キーホルダーやストラップになりますやね。
 
 という感じのことを、美凪・沙紀(高校生運命予報士・bn0023)の友人が言った。
 材料が安く手に入りそうなので、どうせならみんなで作ろうという話である。
 場所は某キャンパスの家庭科室。
 基本的な材料はあるが、ドレスを着せたいとか凝り性な君は各自それ用の布などを持ってくること。
 あと裁縫道具は必須だ。
「私も参加していいんですか?」
「なんでダメなんてことがあるけぇ。委員長も作ったらいいよ。プレゼントする相手がいなくても自分用でも良いし」
「ええ、そうですね」
 と言って誰かを見るように想いをめぐらす沙紀であった。
「ちなみにこの型紙は除霊建築士である私が緻密な計算の上で製作したもので……」
「嘘は結構です」
 
 作品ができあがったら、お菓子やお茶を持ち寄って休憩でもしよう。
 なにかアイデアがある人はそれをしても良いかも知れない。
 あ、間違って指に針を刺しちゃった人は委員長に言ってバンソウコウ貼ってもらってね。
 ま、みんなでわいわいやろうよ。

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参加者
NPC:美凪・沙紀(高校生運命予報士・bn0023)




<リプレイ>

 いつもは退屈な家庭科室も、今日という日は違って見える。
 いつもの先生はいない。成績も評価もない。
 あるのは、大切な想いと同志のみ。
 そんな感じで、クマさんの日、始まります。

「一緒に頑張ろうね!」
 八重は古武道部の仲間たちと握手をしていき、そして気づく。、
「……もしや裁縫得意なのはつーちゃんセンパイだけ?」
「ええ、実はぬいぐるみ作りは得意だったり致します。私の情熱はプリンにばかり向いていると思ったら大間違いですわ?」
 違ったのか。
 と思いつつも胸の内に留める。
 躑躅は神業的な腕前を披露する。本日は一番の味方だ。先生だ。
「……躑躅先生と呼んでも良い?」
「助けて! つーちゃんセンパイ……もとい先生っ! 分かんなくなったら教えて!」
「え、先生……ですの? そんな、恐れ多いですわ……あら? 手元が本当に危なっかしいですわね」
 躑躅先生の指導もあって、着々と作業は進んだ
(「執のベアや店売り商品のように綺麗でなくても、少しは喜んで貰えるよう……頑張ろう」)
 煌月・朔は真剣に革と針とに向き合う。
(「しかし革素材は無謀だった……かな?」)
 既に指は絆創膏で埋め尽くされていた。
 珪はくるくるとクマを回して縫い目のチェック。
「……歪んではいるが、まぁ愛嬌はあるな……おや、南條」
「……雑巾くらいは作れるのよ?」
 文乃の前には割と同情を誘う布地たち。
「まだ時間はある」
「そうですわ! がんばりましょう」
 気持ちを一つに、クマ制作を再開する。

「くまのマニア、略して『くマニア』の名に恥じない可愛いのを作るのだ!」
 玲樹の力強い宣言がなされて十数分。
 くマニアって、本当にあるのかはともかくとして、茉花は得意でない裁縫を懸命にがんばっていた。
「いつもお世話になっている人へこそ、心のこもった手作りの品をプレゼントしたいでしょ?」
「うーん、可愛く作りたいけど、うまくいかなくて可愛く出来ないなのー」
 芽李は投げ出したくなる気持ちを抑えてがんばる。
「ここを、こうして……はぅっ! 針さん駄目ですわ! それはわたくしの指ですの!」
 かずらが針で指を刺したのを見て、アキシロがすかさず絆創膏を差し出す。
「いたっ! 刺した! 誰か絆創膏貼ってー! 出来れば可愛い女の子ー!」
 ところが、はってくれたのは香夜。
「女の子じゃ、なくて……ごめん、なさい」

「材料も絆創膏もマキ○ンも用意しました!」
「息吹、用意が良いな……」
(「けど、最初から怪我するつもりだなんて、いけない子」)
 準備は万端な息吹に、紫空が思う。
「……正直、得意なジャンルではないがこの三島月吉、やると決めたらとことんだ!」
 気合も十分に裁縫開始。
「自分で作れるなんて楽し」
 ざしゅっと息吹。
「わわ、大丈夫ですか息吹さ……っ!」
 ぐさっとスバル。
「な、何でそんなに不器用……」
「おいおーい。お前ら針刺しすぎだってー」
 ぶっしゅと月吉。
 戦慄。柾世の仲間たちが次々と針に刺されていく。
 悲鳴にハラハラ。絆創膏の消耗具合にドキドキ。消毒液をかけすぎな紫空にドギマギ。
「助けて、柾えもん!」
「柾えもんは違うけど、力を抜け、力を……こう流れるように」
 お針子柾世さんの指導と心痛の甲斐あってなんとか完成。
「ああ……クマさんに囲まれて暮らしたい」
 うっとりとみんなで作ったクマを眺める紫空。
「つーか、やっぱ皆のは可愛いな。おい」
「まだ時間も材料も有るし……他のAndante男性陣のも作ろっか♪」
「歴史に残る偉業となりましょう」
 不器用の。
(「沢山縫えば皆もきっと裁縫に慣れる……そんな気が全くしないのは何故だろう」)
 遠い目になる柾世であった。

(「……私の、クマさん……葵お兄さん、気に入って、くれる……でしょうか?」)
 晶の表情に不安の影。
「はい……これ、私、から、です。可愛がって、あげて、ください、ね?」
 真理から晶へ。
 晶はそれを胸にぎゅっと抱く。
「ぜっ、絶対、絶対に、大事に、します」
 晶から覚羅・葵へ。
「えっと、その、良かったら、可愛がって、あげて……ください」
「ありがとう晶ちゃん、大切にするな」
(「俺にちゃんと作れるか……不器用だから不恰好にならないか心配だ」)
 なんて心配をよそに時間をかけて作り上げられたクマ。
「裁縫は苦手だが、その、上手く出来たと思う。受け取ってくれ」
 葵から真理へ。
「ありがと……ござい、ますっ。今日の思い出、と、一緒、に、大事に、します、ねっ」 
 咲き誇る笑顔。
 巡り巡る三人の輪。つながり合う絆。
 とても大切な交換会の出来事。

「く、くまさん可愛いくせに強敵ね……!」
 割と手慣れた手つきをふいにとめ、ヴァージニアは奮闘する雛乃に言った。
「いい? ヒナノ。書いたメッセージは見ちゃダメよ。絶対」
 熊のキーホルダーの中に紙片入りカプセルを入れる。
 クマに託すタイムカプセル。
「こっちのも見ちゃダメだからね!」
 雛乃は笑って、
「あ、でも、ヒント! ヒント!」
「……大人になったら、ヒナノよりセクシーになりますように、みたいな?」
「なにそれー」
 最後の一針は、願いを込めて。
 ずっとこのまま仲良しでいられますように。

(「くま大好きな僕としてはこんなイベント逃せないよね」)
 黙々と作業する都を観察しながら、伊留麻は思う。
(「ずいぶんと集中しておるなあ、本当に好きなのじゃな、クマが」)
 微妙に放置プレイは寂しいけれど、楽しんでもらえているなら自分も嬉しい。
「痛っ……やってしもうたか」
 小さな玉になる赤い血。
「んー大丈夫? まったくどじっこだなぁ」
 次の瞬間、都は伊留麻の指をちゅうちゅう。
「ん、これでよし。ちゃんと委員長に言ってばんそーこもらうんだよ?」
「う、うむ……ありがとうの」
 真っ赤な顔をした伊留麻は嬉しそうに手当てしてもらいに行くのだった。

(「……やっぱチョコ誰かにあげるのかな」)
(「……海里は好きな子いるのかな……」)
 平静を装いつつ、二人はなんだかドキドキそわそわ。
 海里は沙紀に挨拶するときも挙動不審を疑われ。
「……海里、海里」
「ん、な、なに? 明ちゃん」
「だ、大丈夫か? 指縫ってるぞ……?」
「え……痛っー!」
 手当てをしながら、
「その……チョコとか用意しなくて大丈夫? やっぱあげたい人いるよね……?」
「……そ、そういう海里はチョコ貰う相手、いるのか?」
 相手の目が見えない。
 素直になれない。
 探りあい、探り合う。
 やがて、明は覚悟を決める。

(「手作りの物を世話になってる友人に贈りてえ」)
 刃の動機はそれだが、アリスティドに頼んだものの「縫合はボクの本業ますからね、ふふ」手が震えてしまう。
「手が、手がぁ……!」
「落ちを着いて。モチロンお手伝いするますよ」
 小休止に、マカロン。温かなカフェオレ。
「バレンタインくらい甘いのもいいますね」
 結局出来上がったのは、
「顔付いた手毬みてえになっちまった……」
 自棄気味に菓子を食べ始める刃を、アリスティドが見守った。

(「カノンちゃんにプレゼントしたい。から頑張らないとねっ心を込めて!」)
 という雪祢だったが、
(「あれ、パンダって確か目の周りが黒……あ! 逆になっちゃったっ?」)
 後戻りは出来ない。心がこもってるのが大事だと雪祢はこのまま継続。
 対して、叶はインパクトを考えて。
 殺人的、に、かわいい、くま、さん。
「……そうだ。殺人鬼、的、な、くま、さん、に、しよう」
 にこにことオプションの包丁を作り始める。
「えへへ、じょうず、に、できる、と、いい、なぁ」

 クラス替え前の思い出に。
 クマの掌に物が持てるようマグネットを入れたところで、
「ラクシュさん大丈夫かなぁ〜?」
 未都は顔を上げる。
「ええ、円さん頑張ってますよ、私、頑張ってますよ!」
 視線が遠くを泳ぐいっぱいいっぱいのラクシュ。
「物作りは心の篭った気持ちが一番大事だと思うから……ね?」
「ええ、大丈夫。大丈夫ですから!」
 ともかく真心と気合。そう、気合で……!
(「せめてクマには見えますように」)

「……ちょっとココ、教えて貰ってもイイかしら?」
「ん、黒と白……? パンダでも作ってんの? 見してー?」
 手際よくサクサク作る紀里恵に、クレールがアドバイスを求める。
「クマセンパイっぽいー! やっぱしクレールセンスいいね。あ、でも。そこの始末は……」
 ぱっぱと的確なアドヴァイス。自分のを完成させて、
「ドーマっぽくできたかな?」
「私の場合はまァ洒落なのだけれど、キリエのはちゃんとドーマに見えるわね……」
 クレールは感心した。
「キリエがどれだけの情熱で彼のことを見ているのかよく分かるわ」
 微笑を浮かべて。

「わかんないところはなんでも聞いてね!」
「はいです」
 蒲公英は見られないようこっそり自分のクマを作ると、音夢を手伝う。
「はうーっ! い、痛いですー……」
「はいどうぞー!」
 すると思ったから、救急箱も迅速だ。
 途中何度も落ち込みながらも、蒲公英の手伝いもあって完成間近。
「おかげて何とかそれっぽくなってきましたー!」

「なー、お前、家庭科の成績いいか?」
「えっと……2です」
「って! さり気に俺より成績悪いじゃん!」
「家庭科は技術より愛情なんですよ!」
 視線は動かさず。
「えーっと、これが腕だから……ミミはこれ?」
「そいや、そのクマ誰にやるの? 自分用?」
「誰に上げようかな……あ、綿が出てきた!」
「ぶ……。おま、超不器用……」
「何笑ってるんですかっ! 鬼ですかっ?」
「手ぇ針で突かないように気をつけろよー?」
「痛っ!」
 眞風に言われた直後。泣きそうになる景時だった。

「可愛いクマさんを作るクマー!」
 気合の入ったプリケンはキーホルダーはやめて、本格的なぬいぐるみ作りに挑戦。
 型紙を拡大コピーして、どでんと制作。
「プリケンちゃん、モップ作るの手伝って〜」
 ユートのお願いも聞きながら、
「……モップ?」
「わーん、委員長ー、絆創膏……!」
 やがて完成。本格派。
「あ、ゼイム先輩、クレール先輩。これ見てー」
 一仕事終えて、ほっと一息つくプリケンであった。

「針を指に刺さないように、気をつけて。痛いからね」
「はーい」
 イングリートに見守られながら、華千代はクマ作り。
(「細かいことはあんまり得意じゃないけど、がんばるんだよ」)
 出来上がったらイングリートにプレゼントするために。
 大好きの気持ちをいっぱい込めて。
(「可愛らしいクマさん、誰かへの贈り物なのかな」)
 そんなことは露知らず、イングリートの頭にはたくさんの褒め言葉が浮かんできていた。

「今年は梢と一緒にクマ作り! ほら、お揃いのクマとかいいじゃないか!」
「えー。でも……何か子供っぽい……」
 そういう梢だったが、いざ作り始めるとスイッチが入ったように張り切り始め、尊は邪魔しないよう他の人に手伝ってもらうことにする。
(「……梢、思ったより上手いなぁ。ちょっと悔しいかも」)
「じゃーん! 尊そっくりのクマ、名付けてみこクマ! ほらほら見てみて尊! 我ながらいい出来と思わない、ねぇ?」
 弾けたような笑顔。
 尊もつられて笑った。

「上手にできないにゃ……教えてくださいにゃ」
「ん? どこかな……?」
 沙羅と莉那は仲良くクマ作り。
(「可愛くなぁれ可愛くなぁれ」)
 心の中で呟きながら縫う莉那。
 気持ちは手先に伝わるものだから。
(「莉那ちゃんへの愛情たっぷりに作ったこの子はきっと優しい顔をしているね」)
(「えへ、沙羅お姉ちゃんと一緒でとっても幸せな気持ちにゃからこのベアさんも幸せたっぷりにゃ」)
 完成したら交換。
(「たっぷり可愛がってもらうのだ」)
(「どうか幸せをいっぱい届けてくださいにゃね」)

「クマぐるみ、クマぐるみ……可愛いモノって、良いよね……」
 針をさしたりしないよう、気をつけて。
(「響はどういうのを、作ってるのだろう?」)
 紀亜が慎重に作る間に、響は早々に完成していて。
 つい目のあってしまう二人だった。

 俺のクマは間違いなく不細工になる!
 でもその代り、愛をぎゅうぎゅうに詰めたクマ。
 君の隣で君の為に生まれ、君を想う健気なクマ。
 きっと不細工なお顔もお揃い、愛がいっぱい詰まったおなかもお揃い。
 赤いフェルトをハート型に切り抜く君に目を輝かせて。
 素敵、クマさんの心臓ね?
 それを鋏で半分にわかつ。
 君と私は同じ心臓で動いているんじゃないかって。
 そうだよ、半分ずつ同じもので出来てる。だから片方だけじゃ動かない欠陥品。
 同じ想いを抱いて、同じ色の涙を流して、同じ温もりを持つ腕で抱きしめあう。
 君がいなくちゃ血が通わない。
 君がいなければ動けない。
 ずっと一緒にいて。どちらかの心臓が止まるまで。
 片割れの心臓を、君へ。

 英二は和沙のクマをのぞき見て、
「……あら、私のカラーなのね。耳だけ赤いのが可愛いわね」
「うん! そこがポイントなんだよ!」
 和沙は英二のクマを見て、
「わわ、桜の耳飾かわいい〜! これボク?」
「うーん」
「って難しい顔してどうしたの?」
「あと一点足りないのよね」
 クマさんに角飾りを付けようか付けまいか。真剣に悩み睨めっこ。
「あははっ! たしかに! 角つけたら妖獣っぽくなってそれはそれで魔よけっぽくなるかも!」
 そんな感じで和気藹々。

 こういうのは焦っちゃダメ。
 花火は自分に言い聞かせる。
 あわせず騒がず、落ち着いて、心を込めて……。
「あれっ? 耳が三つある! 新種発見っ?」
「どうしました?」
 クマに万歳させながら、亜璃鎖。
「いや、これなんだけど」
 くるくる回してみる。
 あ、どこから見ても正面っぽいかも?
 どこから見てもクマの顔に見えるからこれでいいのかも?
「阿修羅ですか?」
 斬新だ。亜璃鎖は思った。

「そういえば、自分、技術家庭十六点だった……」
「え、なに? もう一回」
 大好きなリオンのため可愛いクマを作るつもりが、肝心の自分の技量に気づいてシラノはつぶやいていた。
(「真剣な表情……どうしたんだろう」)
 リオンはじっと見つめている自分に気づいて。
「えと、もし怪我しちゃったら、言ってね。ボク、可愛い絆創膏持ってる、から!」
 彼女の笑顔に、シラノは考え直す。
 一緒に作れるからいっか。
「楽しいね? リオン」
「うん、しーちゃん」
 二人で過ごす、一つの時間。

 宵凪・朔と朝日は一緒にクマに挑戦。
「お互いに作った物交換とかどうかな?」
「互いに似せたクマさんを作るのか……楽しそうじゃ♪」
 相手の分身だと思って、一針一針、優しく丁寧に。
 下手になってしまっても、気持ちだけは沢山詰め込んで。
「痛っ」
「いたた」
 同時に指を刺して、照れ笑い。お互いに絆創膏の貼りっこ。
 完成までは、相手のクマを見ない。
「せーの!」が笑顔の合言葉。

「つづちゃんは、どんなクマさんを作るんです、か……?」
「えーと……内緒なのです。うんとかわいいのを作るので楽しみにしててください〜」
 答えつつ、雨兎の視線から手元を隠すつづき。
「はわ……それじゃあ、後のお楽しみです、ね」
(「私も、精一杯気持ちを込めて作ります、よ」)
 心の中でぐっと意気込む。
「あ、お茶請け用に、クッキーを焼いて来たんです、よ……宜しければ、一緒に食べません、か……?」
「わわ、クッキー……! もちろんいただいちゃうのです!」
 楽しい時間の後に楽しい時間。
 二人なら、ずっと。

「さぁ紀乃ちゃん、今世紀最高の傑作を作っちゃいましょ!」
「ええ! 先輩のために一生懸命作っちゃいますよ! ほらっ、見てください」
 と紀乃が示すは裁縫道具に大量の生地、材料。
「こんなにいっぱい! ありがと紀乃ちゃん! ところでこの変なボンボンは何に使うのっ?」
「……痛っ!」
「大丈夫っ? ちゃんと消毒しなきゃダメだかんね!」
 と言いつつ躊躇わずに傷口を吸うハルミ。
「あ、ありが……とう……センパイ」
 そんなこんなでクマ完成。
「紀乃ちゃんの白くま、ついラクガキしたくなるくらい超キュートね♪」
「先輩のクマさんも先輩らしくてその…かっこいいです! あ、でもでも、落書きなんかしたらかわいそうですよ!」
 一息ついて紅茶タイム。
 先輩後輩かしましく。

 葵は一心不乱にクマ作り。妹が声をかけても無反応。
「姉上ー……姉上ー? だめだ熱中しすぎて返事がない……」
 しょうがない。
 海は自分で作ることにする。
 休憩用に青汁も用意して。
「あ、飲みます?」
 ぴきーん。
「また人に青汁薦めたりして本当に懲りない子なんだから」
「……やめて姉上おしおきやめてー」
 愛の制裁受けつつも。
「あ、先生……」
「いえ、違います」
「もとい、委員長。学園祭ではお世話になりました。これお礼の青……やめて姉上ぐりぐりやめてー」
 鉄板ネタらしい。

「針穴糸通しの冬馬と呼ばれたこの腕、魅せてあげるわ!」
「な、何故だ? なぜこんな粗くなる……?」
「くっ……! マテ、早まるな、私の腕! まだネタにするほど酷くは……!」
 と、途中で諦めて、出来上がったのがこれだよ!
 冬馬、渾身の番長クマ誕生エピソードを披露する横で、セトが毬藻の集合体を見て首を傾げている。
「んー、何だろう、これは?」
 法眼は思いの外細部まで凝った作りになってきて、大熊猫を作り続けている。
「……もう着ん黒の上着持ってきたさかい、これで服作ろか」
 戒璃は正直時間も材料も持て余している。
「自分の名前を付けて相手にプレゼントすると両想いになれるそうですね」
 龍麻は自分のキーホルダーを見つめて思いを馳せる。
「ふぇ……委員長様ぁ……」
「あ、大丈夫ですか。泣かないでください。今、絆創膏しますからね」
 涙をぽろぽろこぼすエルレイをよしよしとあやす沙紀。
「沙紀先輩は、誰かいい人がおるのかぇ?」
「え、私ですか? いい人なんて。いませんよ」
「じゃ、そのクマ、誰にあげるんですカ?」
「これは……尊敬する先輩に」
 沙紀のクマは真っ赤な服装。
 たとえ戦場でも行くかのような、丈夫なクマ。
(「……ああ」)
 なんだか思い当たる人もいる。
(「イベントだからって誰かの為に作るほど、僕は優しくないんだけど」)
「……あーくそ。特別だからな、特別」
 糸はぶつぶつ言いながら、職人芸。
 服飾専門行っているだけあって、キリヱのクマも傑作で。
 その完成度の高さに沙紀は驚く。
「そうだ、委員長名前付けてよ、名前。ダンディそうな感じなら何でもいい」
「いいんですか? ダンディというと……」
 秀樹。
 ちらと浮かんだ名前と同じで、キリヱは笑った。
「委員長!」
 呼び声に振り返ると、空之介。
「どうしたんですか? 顔色悪いですよ」
「気にしないで。それより、これどうぞッス」
 作ったばかりのクマを渡し、感謝しつつも戸惑う沙紀をじーっと見つめる。
「……チョコ」
「え?」
「お返しはチョコがいー! ない? ないって?」
「今日は前日ですし……」
「なんでーなんでー! こうなったら、知り合いの所で、委員長からの本命チョコを自分で作ってやるー」
「そ、それはむしろ自分が悲しくなりませんかっ?」 
「意外と悪くない出来だね。うんうん! ……喜んで貰えるかなぁ」
 功太朗は、上出来のクマの鼻先をつついている。
 柚奈はみんなの喜び作る様を見つめていて、気づく。
 自分がクマを贈りたいと思った人のこと。
 みんなはきっと大好きな人に。では自分は?
(「もしかして私はあの方を、その、好き、なのでしょうか」)
「どう想いますか? ねぇ、クマさん?」
 返事のないクマに問いかけ。
「みんなクマを作ったけど……こういうのもOK?」
 ユノの手元にあるのは猫さん。
 モーラットにしようか、わんこにしようか悩んだけれど。
 いをりはチアベアなるものが巷ではやっていると聞き、作ってみたのだが。
 今なぜか手元にあるクマは愛らしいとはかけ離れた雄々しきマッスル。
「……やはり熊には鮭が似合うんです」 
 自分に言い聞かせるようにつぶやく。 
 久遠は思う。
(「しかし、土蜘蛛たる妾がこんな裁縫事をする日が来るとは思わなんだな」)
(「助けてくれたお兄さんがこの学園にいると知って来たものの、ここがこんなに広かったなんて……!」)
 古杜が恩人のお兄さんに出会えるのはいつの日か。
 とりあえず、今はクマさんにまつわるおまじないを信じて時を待つ。
 朔羅もささやかな願いを縫いこんで。
「……正直身に着けてもらえる気は全くしないのですけど、どこかに置いておいてもらえるだけでも……」
 リボンの裏に「あなたにいつでも幸運がありますように」と書き加えて。
「楯兄さまも、こんな気持ちだったのでしょうか……プレゼントする時のことを考えると、ワクワクいたしますわ」
 リヴィアは「良い夢が見れますように」とポプリを詰める。
(「ちょっぴり形がいびつですけど、クマさんに見えなくはないですし、首元をリボンで飾ればほら! 十分可愛いです!」)
 伊織の表情が輝く。
「わたくしにしては上出来です……喜んで貰えると良いなぁ」
 隣のアノマーシュの水晶が輝くクマは見ない振り。
 競い合うものじゃない。
 キリヱやアノマーシュの教えを請うて、哉蛇も理想のクマを作り上げた。
「やっぱくまって可愛いよなァ……うっとりするぜ」
 十八歳の男がクマ好きでもいいじゃない。
 アンナは最終チェック。
 エアシューズを履いたクマがちゃんとすべれるかどうか。
 なにその高クオリティ。
 エルはキュートなクマを完成させて、想い人のことを考えて喜色満面。
「んふふ、完璧なのですよ〜♪ 喜んで貰えるといいなぁ!」

「皆、クマは可愛く出来たかしら?」
 茉花がギター演奏を開始する。
 前にはチョコレートケーキ、クマさん型のココアクッキーなどなどのお菓子。
 こんなときでもさりげなく立ち回るアキシロ。
「「出来ましたのぉ! わたくし頑張りましたわぁ♪」
「新種発見ー! そんな感じのクマさんなの」
「まぁ、私なりにできたでしょうか」
「喜んで、くれる……か、な?」
 喜んでくれると良いな。
 そんな想いが満ちる優しい家庭科室の出来事は、柔らかな喧騒に包まれて過ぎていくのだった。

 珠樹の不器用はレジェンド級と聞いていたので。
 浩司はなにが起こってもいいよう準備していたのだが、事態は予想を超えていた。
 始まらないのだ。
「浩司さん、向こうを向いていてくださいませ。見られていると緊張しますの」
 ハサミを持ってぷるぷる震える珠樹。
「あ、でも、見ていて頂かないと不安ですの。やっぱり、こっちを向いていてくださいませ。でもでも、やっぱり、向こうを、こっち、ああ、どうすれば」
「焦らずに珠樹のペースでやってみるといい」
 他の人はもう、とっくに次の段階だけど。
「頑張ります、頑張りますわ、わたくし!」
「日付が変わる前に帰ろうな」
 妙に爽やかな笑顔を浮かべる浩司であった。


マスター:池田コント 紹介ページ
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参加者:90人
作成日:2009/02/13
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