●『真っ赤なお花の─』
雪のちらちらと舞う夜、柊と加奈は、手を繋いで歩いていた。 女の子同士だけど、固い絆で結ばれたふたりにとって、これはいわゆるデートというもの。 加奈はトナカイをイメージした茶色いコクーンコート姿で、それは女の子にしては少し地味かもしれない格好だったけれど、ボーイッシュな装いで彼女にはむしろよく似合っていた。 その隣には対照的に派手なイメージの、赤い生地に白いファーのついたサンタクロース風のドレスに身を包む柊が並んでいた。まさにクリスマスの装いである。 夜道を歩く、サンタとトナカイ。今日は特別なクリスマスの日。 (「プレゼント、今年は何にしようかな……」) まだクリスマスプレゼントを贈っていない加奈は、隣を歩く柊に贈るプレゼントの内容について考えながら、少し浮ついた足取りで歩いていた。 寒いけれど、こうしてふたりでくっついているだけでとっても暖かくなるから。 (「あたしにとってのプレゼントは……こうして一緒にいられる事だけで十分なんだけどね」) 暖かい彼女の手を握り、とてもほっこりとした気持ちになる。 こんな暗い夜道でも、加奈が隣に付いていてくれることでとても安心出来ると、柊は彼女にそっと寄り添って歩いていた。 (「そうです、プレゼントを差し上げないと」) ふと思い立ったように柊が立ち止まる。 「ちょっとじっとしててくださいね?」 加奈を立たせて、柊は背後にまわる。 ちょん、と加奈の頭の上に何かが乗った。 「ん?」 加奈がそっとそれに触れると、布製の小物らしきことは分かった。 「真っ赤なお花のトナカイさん、なのですよ」 柊がニコッと笑って手鏡を見せると、加奈はうれしそうに鏡を覗き込んだ。 可愛らしい赤い花飾りが、加奈の髪に咲いているのが見えた。 「……有り難う、あたしまだ何あげるか決めてないのに」 「いえいえ」 それからまた手を繋いで、他愛のない会話をしながら夜道を進み……名残惜しいけど、そろそろお別れの時間。 柊サンタはもう一度、加奈を立ち止まらせて。 「もういっこ、プレゼントがあるのを忘れてました」 ちゅっ。 可愛いサンタさんの、ささやかで大胆なプレゼント。 加奈は照れくさそうに微笑んで、ありがたく受け取った。
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