●『A Heart for You』
濃紺に染まる夜空に、ちらちらと舞うのは雪だった。 静かな空間で二人きりで過ごすクリスマスは、今年で三度目を迎える。 克己の愛車であるバイクで郊外まで訪れた二人は、その場で腰を下ろし、遠くでキラキラと輝きを見せる街の明かりを眺めていた。 「…………」 体を密着させての道のりが恥ずかしかったのか、飛刀の頬がうっすら赤く染まっている。 克己にそれを知られたくないのか、彼女は言葉なくマフラーで表情を隠してしまう。 「飛刀、寒いのか?」 そんな飛刀の行動を横目で感じ取った克己は、静かにそう声をかけた。 真実を告げることが出来ずに、飛刀は内心で慌てる。それを表に出さないようにして、ふるりとゆるく横に首を振ってみたが、それが否定と相手に伝わったかは微妙なところだ。 「……寒いなら、もう少し寄れ」 そう言いながら、克己は自分の着ていた上着を飛刀の肩へと静かに移動させた。そして、彼女の肩を抱き、ゆっくりと自分のほうへと体を傾けさせる。 言葉少ななその行動には男らしさを感じさせるが、克己の表情には僅かな照れくささもにじみ出ている。 彼女をきちんとリードしようという気持ちが強いのだろうか。 飛刀はそんな克己の行動に驚きつつも、そのまま大人しく彼の肩口に自分の頭を預けた。重なった部分から、じわりと感じるのは彼の体温だ。 「……綺麗……」 遠くの街の明かりへと目を向けつつ、飛刀がそう言う。 言葉に釣られるようにして、克己も明かりへと視線を向けた。 穏やかな、気持ち。 互いにそれを感じ取りながら、ゆっくりと流れていく時間に身を任せる。 二人が同じように相手を思い、大切だと思うからこそ、この気持ちが息づく。この先もずっと、無くすことの出来ない存在であることは、確認しなくともすでに通じあえている。 「来年も……こうして時を重ねて行きたいな、一緒に」 「そうですね。ずっと、一緒に……」 視線を街の明かりへと向けたままで、克己がそう言った。 飛刀も視線をそのままに、ゆっくりと言葉を返す。 そして二人は互いに視線を相手に戻して、ふわりと微笑んだ。
音も無く静かに降り続ける雪が、二人へと舞い降りる。 彼らを包み込むかのようなそんな雪には、優しさがふくまれているようなそんな気にもさせる。 二人はその後もしばらくの間、遠くで輝き続ける終わりの無い明かりを眺めているのだった。
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