●『ふたりのクリスマス’09』
12月の空は気紛れだ。 真冬の寒さと、春の陽気を日毎に変えるような、そんな天気が続く。 そんな、12月のある昼下がり、光希とアシュレイは鎌倉の街を歩いていた。 ぽかぽかと暖かい日差しを受けて、のんびりと歩く街は、普段よりも優しい感じがする。 待ち合わせた2人が向かう銀誓館学園では、ティータイムにあわせて、ダンスパーティが催される予定になっていた。 淹れたてのお茶や、たくさんのお菓子に囲まれて、学園では学生たちがパーティを楽しんでいる。 2人もダンスパーティで、踊ったり、食べたりと、楽しんでいたのだが。 「……光希、出ませんか?」 「……うん」 アシュレイの囁きに光希は頷き、手を繋いだ2人はそっとパーティの会場を抜け出す。 騒がしい銀誓館学園を抜け出して、再び鎌倉の街へと戻ると、夕暮れから夜へと姿を変える街が2人を迎える。 冷え込んできた空気に、寄り添いながら、2人はこれといって当ても無く街を歩いて行く。 「あれ……街灯が?」 ブラブラと、日の暮れた町を歩く2人の前に、明かりの消えた公園が現れる。 2人が目をとめたのは、その公園へ幾つものカップルが入って行くからだ。 互いに向き合い、目配せすると、2人も公園へと入って行く。 「暗い……ね。何があるんだろう?」 「さぁ、何かな?」 街灯が消され、暗い公園の中を前を歩くカップルの背中を追って、2人も奥へ進む。 急なカーブを曲がると、不意に視界が開けた。 「あっ……」 「わぁ……」 その先に広がる光景に、おもわず2人は息をのむ。 薄暗い公園で、見上げる2人の目の前にクリスマスツリーが浮かび上がる。 無数の電飾のイルミネーションが、明滅して賑やかに輝く。 言葉を失い、ただツリーを見上げる光希の手をアッシュが強く握り締める。 暖かい手を握り返した光希は、アッシュを見上げて微笑む。 「来年も、こんなクリスマスが過ごせたらいいね」 「はい、絶対に……」 寄り添い、ツリーを見上げる2人は来年のクリスマスのデートを約束する。 2人の微笑を、きらめくイルミネーションが静かに照らしていた。
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