源氏・光 & 花生・拾

●『背伸びをした君の・ふわり漂う石鹸の香り』

 クリスマスの街はどこも賑やかで、ビルにも、街路樹にもきらびやかなイルミネーションが施されている。
 どこかから流れてくるクリスマスソングが、輪唱のように夜の空気を振るわせ、道行く人のざわめきの中へと溶け込んで行く。
 そのなかでも一際目立つカップルが(……目立っているのは男のほうだけだが)いた。
「やーコレってば初デートだよな!」
 浮かれる光は白いハチマキに白いダウンジャケット、白いボトム。
 しかもダウンの下は素肌だ。
 その横を歩いている拾が静かで大人しくとも、彼一人が非常に目立っていた。
 風に揺れる薔薇色のマフラーも、彼女の服装から見れば、かなり派手な色なのだが、隣を歩く白い半裸の光のインパクトを前にしては地味に見えてしまう。
「拾ちゃん、拾ちゃん。イルミネーションマジスゲェー!」
「……そうね」
 光の裸が気になって、なかなか彼の方を見ることのできない拾は素っ気無く答える。
 そんな彼女の様子に気付く様子もなく、光はハイテンションで会話を続ける。
「うはー寒ぃー!!」
「……うん」
 両手で自分の体を抱いて、激しいリアクションの光。
 光とは対照的に緊張しているのか、拾はちらちらと彼の方をうかがう。
 その仕草にようやく光が首を傾げた。
「何で目逸らすのさ? あーもしかして拾ちゃんってば照れてんだ!?」
 拾の顔を覗き込む光のマフラーが風に揺れる。
「寒そうで見ていられませんよ」
 風に遊ばれて、ほどけそうになった光のマフラーを拾が指差す。
「あ、直して直してー」
 自分から屈んで拾の前に首を突き出す光。
 目の前で揺れるマフラーと、光の顔との間で視線を行き来させ拾はマフラーを掴む。
 ぐいっと自分の方に引き寄せて、拾はそっと背伸びする。
 マフラーを直す短い間に、光の頬にやわらかい感触が通り過ぎた。
「ぇ? あれ? 今……」
 予期せぬ感触に、光は思わず頬を押さえて拾の姿を捜す。
 すたすたと1人先を歩く拾、後ろから慌てて追いかけてくる光の足音を聞きながら、その頬は赤く染まっていた。



イラストレーター名:モモヒキ