●『聖夜の結婚式』
神々しい、ステンドグラス。その向こうに、ちらちらと白い影が踊る。雪が降っているのだ。 イサラはそれを見上げて、高鳴る胸にそっと手を当て、呼吸を鎮める。 今宵は聖夜。学園でも、朝から様々な催し物が開かれていた。 けれど、そのにぎやかさとは離れた場所で、イサラは殊更、特別な聖夜を迎える。 白のタキシード。普段では絶対に着ないその色に、この夜の大切さをひしひしと感じた。 静けさがイサラの周りを包む。 今宵は、ふたりだけの、結婚式。 考えるだけで、あまりの嬉しさに頬が緩んで、涙まで滲みそうになる。こんな幸せが、あっていいのだろうか。 「……イサラ……」 きぃ、と開かれる扉の音と同時に、いつもの様子からは想像も付かないような、か細い声がした。 振り返ったイサラの視線の先で、おずおずと彼女──涼が扉から顔を出し、そして真っ白なドレスを引きずらないよう頼りない手つきで持ち上げながら、ゆっくりと祭壇に向けて歩いて来る。 明るいオレンジ色の髪は薄いベールに覆われ、胸にはイサラと同じ、白い薔薇。 「……」 イサラは言葉もなくして、涼の姿に見入る──見惚れる。 祭壇に上り、イサラの前に立った涼は、やっぱり涙で潤んだ青い目で、困ったように微笑んだ。 「変、かな?」 「っ、」 そんなことのあるわけがない。咄嗟のことに声が出なくて、イサラは大きく左右に首を振った。すると涼は少しだけいつもの調子を取り戻して、に、と笑ってみせた。 「ボクのイサラも、格好いいよ」 「ッ!」 予想もしていなかった切り返しに、イサラは再び言葉を失う。そんなイサラに、涼は目許を赤らめ、ただただ幸せそうな笑みを向ける。 司祭も牧師もいない、ふたりだけの結婚式。 イサラがそっと手を差し伸べると、涼は少しだけ頬の赤みを強くしつつも、左手を差し出す。その手を取って、イサラはふたりで選んだ大切な指輪を、彼女の細い薬指に通す。 指輪よりもきらきらした目でそれを見つめる涼が愛しくて、イサラは彼女の耳に唇を寄せ、さっき言えなかった言葉を告げた。 「とても、綺麗ですよ……涼さん」 「いっ!」 ぼん、と音がしたのではないかと思うくらい、涼の顔が一気に真っ赤になる。そんなところも、可愛い。そしてそんな彼女の伴侶となれることを、心から嬉しく、誇らしく思う。 「う〜」と呻きながら、赤い顔を押さえる涼の手に、イサラは手を重ねる。 「愛しています、涼さん……」 「っ、ボクもだよ、イサラ……」 静かに、厳かに、口付けを交わす。
今宵は聖夜。だけど、サンタクロースも、プレゼントも、要らない。 今宵は、愛しいひとが傍にいる、ただそれだけで。
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