●『夢の中の王子様とお姫様』
「今日は楽しかったですね」 クリスマス。千歳と蒼は、思い切り二人の時間を楽しんで、休むんでいた。蒼にもたれかかっている千歳から、返事は無い。一日中動き回って疲れが出たのもあるのだろう。代わりに穏やかな寝息が聞こえる。 二人で寄り添ってると暖かいし落着くし幸せはココにある。仕方ないが、これはこれでいいものだ。 「あ、僕も眠くなってきた……」 もう夜も遅い。蒼もまた、睡魔に勝てず眠ってしまう。
期せずして、二人は同じような夢を見る。単なる偶然だろうが、神様というのはなかなか粋な計らいをしてくれるらしい。 夢の中身は、王道ファンタジー。お姫様となった千歳は魔王に捕らえられ、囚われの身。 「ああ、魔王に捕らえられてこんな所に閉じ込めらちゃうなんて……誰か助けにきてくれないかな……」 ……にゅ、いつもだったらぶちのめしてるのに? と少し思ったが、これは夢の中。細かい事を気にするのは野暮と言うものである。 「ま、いいか」 そう、この一言で済ませてしまって良い事だ。 彼女を助けるべく颯爽と駆けつけるのは王子様となった蒼。 「姫、ご無事でなによりですもう少々お待ち下さい。魔王めをチョチョイと倒しますので」 白銀に輝く剣を抜き、敢然と魔王に立ち向かう蒼。ここでの蒼は獅子奮迅の大奮闘。 「はぁっ!」 一閃。ついに魔王を倒した蒼は千歳を助け出し、お姫様抱っこ。 「さあ姫、参りましょう。皆が姫のお帰りをお待ちです」 「ありがとう。これは感謝の気持ちです」 赤面し、照れたように勝者へのキスをする千歳。それに今度は蒼が素に戻って赤面する。 「……えーと、光栄です」 夢の中だけに感情がダイレクトにでて照れが隠せない蒼。これ以上無いハッピーエンドで、夢は終わりを告げて千歳が一足先に目を覚ます。
「にゅ、何だ夢か……あー言うシチュって良いよね〜」 未だ穏やかに眠っている蒼の寝顔を眺める千歳。 「あたしを助けに颯爽と現れて……うにゃ、現実はなんか逆になりそーな気がしてならない……」 一緒にいるのは幸せだけれど、残念ながら現実の蒼は夢と比べれば頼りない。 「ま、いっか」 そう。さっきのは幸せな夢。現実にそれを期待する必要は無い。それに、いつか蒼が夢みたいに颯爽と助けに来てくれる日が来るかもしれない。とりあえず今はそれでいい。 そう結論を出すと、千歳はもたれかかったまま蒼の寝顔を眺めつつ、暖かな時間を過ごすのだった――。
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