●『きよしこの夜〜サンタとトナカイの場合〜』
クリスマス。 それは恋人達にとっては大きなイベントだ。 だから、一は婚約者であるクリスチィーナと共に夜を過ごす。 すでに用意した料理はあらかた食べ終わり、今はいわゆる『彼女に膝枕』をしてもらっている状態だ。 ……トナカイの格好で。 (「かなり恥ずかしいんだけどなぁ」) 談笑しながらそんなことを思う。 クリスはクリスで、サンタをイメージした服を着ている。 なんと言えばいいのか。 (「喜んでもらえるのは嬉しいんだけど、慣れない」) 来年もやってと言われたら、どうしよう。 小さなクリスマスツリーの色鮮やかな飾りが、視界の端に映りこむ。 窓の外に目をやると、白いものが舞っていた。 「雪、かな?」 ぽそりと呟くと、クリスもつられて窓を見た。 「ほんとだ」 そういって、微笑む。 そんな彼女の笑顔を見ている内に、一はだんだんと意識がもうろうとしてきた。 たくさん食べて胃が膨れたせいだろうか、眠気がどうしようもなく襲ってきたのだ。 あるいは、膝枕という状況も手伝っているのかも知れないが。 (「寝るのは、もったいない」) せっかく、2人で過ごすクリスマスなのに。 けれど、眠気は意外に強く。 (「負けそう……」) ウトウトと何度かまばたきする内に、一は完全に寝入ってしまった。 クリスチィーナはそんな一を見ながらくすくすと笑っていた。 (「ふふふ〜。トナカイの格好をしてくれるなんて思わなかったけれど……ちょっとこれは癖になりそう……」) かなり楽しかったらしく、なかなかいい笑顔だ。 ただ、一には気付かれないようにと、上を向いている。 気付いたらきっと拗ねてしまうだろうから。 と、ふと下を向く。談笑していたはずの一が、やけに静かだ。 その目は、気持ちよさそうに閉じられていて。 「はわっ?!寝ちゃったの?」 軽く揺さぶってみるが、反応はない。 本当に寝入ってしまったようだ……自分の、膝の上で。 率直に言ってしまえば、恥ずかしい。 けれど。 「こんなクリスマスも、いいな」 そう言って、柔らかく微笑んだ。
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