●『【新たな絆】』
閑静な住宅街。一組の男女が歩いている。青麗と舞矢だ。 どこからの帰りだろうか。ダンス用の服で着飾っている。青麗の方は楽しそうに話しかけているのに対して、舞矢の方はうつむきどこかそわそわしながら応じている。 「あの……」 と、舞矢は消え入りそうな声で何度も話題を切り替えようと試みるのだが、声が小さすぎて青麗は気づかない。そして何事もなかったかのように会話が続いていく。 そんなやりとりを何回繰り返しただろうか。気づくと前方が騒がしい。 白い建物、恐らく教会だろう。結婚式をやっているようだ。礼服に身を包んだ人達が、門の近くに集まっている。 二人は自然と立ち止まってしまった。 門を開き、新郎新婦が現われる。その手に握られているのは真っ赤な薔薇のブーケ。 美しい、と舞矢は思った。とても幸せそうで、いつか自分もそうなれるのだろうか。 ブーケが投げられる。弧を描いて飛んでいくブーケ。だが、手元が狂ったのか、風の悪戯か、参列客の頭上を通り過ぎて、道路へと飛び出してしまった。 ストンと、目の前に落ちてくるブーケ。思わずそれをつかみ取ってしまう。 『花嫁が投げたブーケを受け取った女性は次に結婚できる』、そのジンクスがつっかえていた思いを後押ししてくれた。 「……青麗君、結婚して」 言えた。ずっと言いたかった、ずっと言えなかった思い。きっと青麗君は気づいてなかっただろう。 「に? にぅ? ににににぃぃぃぃぃぃーーーーーーー!?!?」 目を白黒させる青麗。 それに構わず、舞矢は言葉を続ける。 「私の中で青麗君は一番だから。青麗君じゃなきゃこんな事言ったりしない。初めて貴方と舞った日から、ずっと貴方が好きでした」 うっすらと涙が滲む。恥ずかしさか、嬉しさか、自分自身にも分からない。 青麗は突然のことに戸惑いながら、少しずつ思いを言葉にする。 「舞矢ねぇさま、好き」 舞矢の目を見つめて、いったん区切る。その反応を伺うように、不安げに。 「だけど……舞矢ねぇさま、言ってる『好き』と僕の『好き』……まだ……違う、思う」 途切れ途切れの言葉。だけど、その内容は明確に舞矢に伝わった。 「わかっていた」 微笑んで頷く。 そう分かっていたのだ。『違う』ことは。 青麗に背を向け、歩き出す。 「じゃあね、青麗君」 泣き顔は見られたくないから。勇気をくれたブーケの感触が今は心許ない。 離れていく青麗の気配と、冷めていく熱が壊れていく関係を自覚させる。 怖い。失ってしまったという事実が。 「待って、舞矢」 腕を掴まれて、引き止められる。涙でぐしゃぐしゃの顔が見られてしまった。 でも、不快には思わなかった。青麗君の目にも私と同じ『恐怖』が浮かんでいたから。 「ん、僕の『好き』が舞矢の『好き』、同じなるまで……んと……同じ『好き』……なるまで……なるように。これから……一緒、居よ。舞矢」 白くて細い指が舞矢の涙を拭った。
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