●『たまには恋仲らしく Vol.02 〜ケーキ味の…〜』
街はイルミネーションに包まれ、クリスマスソングが響き渡っていた。 そんな外の喧騒とはうらはらに、カイルは自分の部屋で荒十朗と二人きり静かな夜を迎えている。 ソファーに並んで座り、カイルはショートケーキを少し気まずそうに黙々と食べていた。 雪のように真っ白で赤いいちごが可愛らしく乗ったケーキは、幸せの象徴なのに。 荒十朗が手作りしたクリスマスケーキなのだが、結社用と自分たち用の二つのケーキを作るはずが、分量を間違えて巨大な結社用ケーキと小さな小さなケーキが出来上がってしまったのである。 一人分しかないのでカイルだけが食べることになったのだが、何となく寂しいものを感じていて──さらに見られているのがちょっと落ち着かなかった。 先程から荒十朗は膝の上に自分の肘を置き、頬杖をついて満足そうな顔でカイルの横顔をじっと見つめていた。 人に見られながら食べるのすら緊張するというのに、相手は大好きな荒十朗だ。カイルはその視線にどきどきしてしょうがない。 カイルは、照れを隠すかのように急いでケーキにフォークを立てる。 「……一口食べるか?」 小さく切り分けたケーキをフォークに刺し、荒十朗の目の前に差出す。 荒十朗はケーキを前に少しだけ考えると、何かを思いついたように嬉しそうに微笑んだ。 「こっちがいい」 素早く手を回し、カイルの頭を引き寄せる。 カイルの唇に、優しく自分の唇を重ねた。 予期せぬ行動にカイルは反応できずに、目を見開くだけ。 数秒後、荒十朗が顔を離して元の位置に座り直り満足そうに呟く。 「程よい甘さで、我ながら良い出来だ」 突然の出来事に真っ白に硬直していたカイルが、はっと我に返って今さら顔を真っ赤にした。 「……な、何を……あ……ああ……」 まとまらない頭ではその後の言葉は続かず、無言で荒十朗の胸をぽこぽこと叩くのがカイルには精一杯だった。
そしてケーキのように、優しく甘いクリスマスナイトがふけていく──。
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