●『聖なる夜、雪の中、ふたり』
「ん〜、すっごく綺麗だね♪」 いつもの年と同じく、銀誓館のクリスマスパーティに参加した帰り道。 街を彩るイルミネーションに囲まれた力は、ご機嫌な様子ではしゃいでいる。 頭の上のネコミミも気分よくぴこぴこ動いている。 (「うー、でもやっぱり少し寒いかな」) ミニスカートのサンタクロースの衣装は、外で着けるには少々露出が多かったようだ。 隙間から入り込んでくる冷たい風に撫でられて、思わず体を震わせてしまう。 「まったく。ほら、こっち来いよ」 「どしたの?」 寒そうで見てられないと、手招きに寄ってきた力に連は、自分のコートを羽織らせる。 「あ、ありがと――っ!?」 力が嬉しそうにお礼の言葉をのべようとした瞬間、連が手を引いて抱き寄せる。 驚いた力が反応するよりも早く、もう一方の手を少女の背中に回し、強引に口づける。 「んっ、ぅん……」 二つの影はしばらくのあいだ重なり、やがてまた二つに分かれる。 解放された力の頬は真っ赤に茹で上がり、胸の鼓動は外にまで聞こえてしまうのではないかというくらいに速くなっている。 いつものことなのだが、連のこの『不意打ち』には、まったく慣れる気配が無い。 「さ、帰るぞ」 そんな力の様子に構うこと無く、連は背を向けて一言。 そのまま先に歩き出す。 「もう! いつも不意打ちとか無理矢理ばっかり!」 「アホか、いちいち毎回正面からしてたらそれこそ恥ずかしいわッ!!」 追いかけた力が腕を振り上げ抗議するが、隣に並んだ時に、連の頬も少し朱が差しているのに気付く。 悟られたのを理解したのか、連は照れ隠しに顔を背けながら早口にまくし立てる。 「んっ、ふふー」 「な、なんだ、おい」 「いいから♪」 いつも自分を『いぢめて』くる連の行動も、実は半分恥ずかしさを誤魔化すための行動だったことに気を良くし、力は連の腕にしがみつく。 「まったく、しょうがねぇな……」 突然の行動に驚く連だったが、やがて諦めて受け入れる。 腕を組んで歩く二人の寄り添い合う影は、力のウキウキとした鼻歌を連れながら聖夜の街へと消えていくのだった。
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