●『交わす言葉に、感謝を込めて』
クリスマスの夜。二人は、光煌く街頭を歩いていた。そして、街の広場で足を止める。そこには、大きなクリスマスツリーが立っていた。
(「……さて、と。ここで渡すか……」) ツムギは、用意していたプレゼントを出そうと思ったのだが……さすがに、贈る相手が見ている前で鞄の中から引っ張り出すっていうのはみっともない気がする。特に、相手は女の子。いくら仲の良い友人だといっても、こういうことには気をつかわないといけないような気が……。 「あのさ。少し、後ろを向いていてくれないか?」 「ん……こう、だな」 瑞羽は、手に持っていた紙袋を気にしていたようだったが、素直に後ろを向いた。その紙袋には、ツムギへのプレゼントが入っているのだ。瑞羽も、プレゼントを渡すタイミングに悩んでいたのだった。
(「……プレゼントを出したはいいが……どうするか」) プレゼントを鞄から引っ張り出したものの、いったいどう声をかければいいのやら。ツムギは声をかけるタイミングも、何て言えばいいのかもわからずに、戸惑っていた。 一方、それは瑞羽の方も同じで、紙袋から出したプレゼントを手に戸惑っている。 (「……これから、いったいどうすればいいのだろうか……」) 自分から声をかけるのも、何か違うような気がする。かといって、この状況はなんとなく居心地が悪い……。 そうしてしばらくの間、二人は背中合わせの状態のままで、互いに何も言えなくなってしまっていた。
「あの」 二人の声が重なる。その状況が妙に気恥ずかしくて、その後は沈黙が続く。しかし、ずっとこのままでいるわけにもいかない。振り返らないことには、プレゼントも渡せないし、動けないのだから。 「このままじゃ、キリ無いよな。じゃ、合図で一緒に振り返ろうぜ」 「そうだな。そうしよう」 ツムギの提案に、瑞羽は頷く。そして、数拍置いて、 「せーの!」 合図で振り返る。二人の手には、相手へのプレゼント。それを相手に差し出しながら、また言葉は重なる。 「メリークリスマス!」 そうして重なる言葉が、少し恥ずかしくて、少し嬉しい。互いのプレゼントを受け取りながら、二人は笑いあった。
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