●『星謡い』
クリスマスの夜。綾乃の生家である神社の拝殿の一角で、二人で月を見上げていた。 神社である以上、表立ってクリスマスを祝う事は出来ない場所だから、キラキラの派手な電飾なんかは見受けられないのだけれど。 ただその代わり、そこは住宅街から少し離れた鎮守の杜に囲まれており、辺りに光るもののない静かな場所だった。お陰で月がとても明るく見え、庭はこうこうと照らされている。 しかも快晴に晴れた夜空の星は、街のイルミネーションなんかに負けないくらいキラキラと美しく輝いていた。 庭を一望出来る神社の拝殿の一角で、ふたりっきり。 ちょうど伊知郎の足の間に綾乃が座るように、庭側に足を投げ出して綾乃は伊知郎の胸に背中を預けている。 伊知郎は綾乃が寒くないよう、そっと優しく抱きしめて、けれど逃がさないとばかりに彼女の膝の上で自分の両手を組んで。 「今日は一段と空が澄んでて星が綺麗ね」 綾乃は美しい星空を見てぽつりと呟く。 「明日は寒くなるってことかな?」 「……特別な日で俺と見ているから、と言う発想は無いのか?」 伊知郎は少しすねたように腕の力を込めて言う。 「あは、その発想は無かったかなー?」 肩越しに振り返り、わざと意地悪そうな口調で、楽しげに笑う綾乃。 そんな彼女の様子に伊知郎は溜息をひとつ。だがすぐにその表情は穏やかな微笑みへと変わる。 ……腕の中の、綾乃の存在がとても愛おしくて。 「他に人も居ないのだから、甘えてくれてもいいと思うのだがな」 「大丈夫、甘えてるわよ?」 「それを行動や言葉で表してはくれないのか?」 綾乃は少し考えるように黙ってから、にこっと微笑んで。 「……大好き、伊知郎」 その笑顔がやっぱりとても素敵で、思わず見惚れてしまう。だが伊知郎は先程の仕返しとばかりに意地悪そうに笑い、 「76点、だな」 「何その微妙な点数!?」 むっとした表情を見せた綾乃の顎をすっと持ち上げて、伊知郎は。 「これくらいしても罰は当たらんだろう」 そっと近づくふたりの唇。 その続きを見ていたのは、お月様だけ。
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