●『言葉にならない 思いを 伝える 衝動』
黒銀丸とミチルはクリスマスパーティーの買出しに来ていた。 息は白く、刺すような空気が痛い。外はかなり肌寒く、嫌でも冬を実感させる。 必要な買い物も終わり、公園で休憩を取ることになった。 公園のなかに入ると街のイルミネーションが見渡せ、まるで光に包まれているようで、とても幻想的な気持ちにさせる。 二人は両手いっぱいのプレゼントの箱や買い物袋をベンチに置き、ミチルは荷物の横に座り一息つく。 黒銀丸はミチルの前に立ち何かに気が付いたように、向こう側を指差した。 マフラーに顔を埋めるようにしながら、ミチルは指し示された方向を見る。 きらきらと光り輝く巨大なツリーに目を奪われ、思わず小さな歓声を上げた。 「ミチル」 ふいに名前を呼ばれ、ミチルは黒銀丸へと視線を移す。 それは流れるような自然な動き。 ミチルの顎に手を伸ばし、すっと顔を上げさせると黒銀丸はキスをした。 すばやい動き。 ミチルは驚きで目を丸くする。 ──短いキス。 わずかな沈黙の後、黒銀丸はくるりと背を向けた。 「俺の傍にいてくれ」 消え入るような小さな声。しかしその声には、しっかりとした意思を感じさせた。 ただただ驚いて動けずにいたミチルは目を閉じるとにっこりと微笑み、答える。 「私でよければ、いつまでも」 ミチルはまっすぐで、明るくて、感性で動く。 だが、破天荒という訳ではなく自分のルールを持っている。 黒銀丸は数少ない住人とおんぼろ長屋で生活し、闇の世界にその身を躍らせていた。 最初はただ、調子が狂う相手。 ミチルに対して、黒銀丸はそういう認識だった。 けれど、その言葉が行動が、黒銀丸の気持ちを明るいものに変えていった。 そしていつの間にかミチルは黒銀丸にとって、かけがえのない存在になっていたのだ。
黒銀丸は、ありがとうという返事の代わりに再びミチルに唇を寄せる。 空から二人を祝福するかのように、ちらちらと雪が降って来た。
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