寺尾・晶 & 天知・惣七

●『イブの刻 晶の章 風雲歳末編〜天知惣七−雪の如く〜』

 時はクリスマスイブ。意中の人に先輩、私と付き合ってください! と勝負を挑み、甘い死闘を繰り広げる幸せな夜に、恋人関係でもなく、そうなりたいとも思っていない惣七と晶は、文字通りの激しい死闘を繰り広げていた。
 どうしてこんな試合をする事になったのかはまったく思い出せない。だけど、決着をつけるまで、私は全力で戦い続けるぜ! と、制服姿の晶は念じ、拳を強く握る。サンタクロースのコスプレをした惣七は、容赦の無い晶の攻撃を最小限の動作で受け流しながら反撃する。
「やるじゃん! でも……これで決めるぜ!」
 晶は惣七の攻撃の隙をつき、強烈なパンチを惣七の顔面にヒットさせる。惣七はバックステップして逃げようとするが、晶はすばやくパンチを連打して、惣七の全身を殴り続ける。耐え切れなくなった惣七は、意識を失い仰向けに倒れてしまう。
「……」
 惣七は倒れたままピクリとも動かず、どこからともなくカンカンカンカン……という鐘の音と、わきあがる歓声が聞こえた。晶はそれに答えて投げキッスをしてみせるが、それが終わるとすぐさま惣七に近寄り、お姫様抱っこするようにかかえあげる。
「そうしち……」
 晶が声をかけると、惣七はゆっくりと目を開け、意識を取り戻す。
「……あ、きらさん……。……かり……さ……を、よろ……く……お願い……しま……」
 ところどころ聞こえなくなるようなか細い声で、惣七は晶に自分の意思を伝える。それを理解して晶が強くうなづくと、惣七は再び意識を失い、体中の力が抜けて手が地面につきそうになる。いつの間にか2人の頭上にスポットライトが当たり、もの悲しげな音楽が流れる。ほどなく空から雪が舞い始め、惣七の顔の上に滑り降りてきて、消える。
「軽いなぁ惣七……おまえ、こんなに軽かったのか……」
 惣七を見下ろす晶の表情は、暗く、とても悲しいものだった。2人を照らしていたスポットライトがゆっくりと消えていき、晶は惣七を抱えたまま歩き出す。そして、2人は暗闇の世界へと消えていった……。



イラストレーター名:濃茶