ミンク・ステイル & 火神・紅葉

●『-Merry Christmas!- 〜ふたりの出会いに祝福を〜』

 慌てるほどにままならない指先にミンクはいっそう慌ててしまう。
 プレゼントされたワンピースのボタンは多くないし、ボタンも普通の服よりずっと大きいのに指先は彼女の思い通りに動いてはくれない。
 実際にはそれほど時間が経ってはいなくても、彼女にとってはとても長い時間、外で紅葉を待たせてしまったような気分になる。
 ブーツの紐を締め、最後にサンタ帽子の位置を合わせるとミンクは鏡の前でくるりと回って自分の姿を確認する。
 真っ赤なサンタのワンピースは彼女のサイズにぴったりで、青いバラの飾りが1輪だけ帽子のそばに咲いていた。
 着替え終わったミンクは部屋を出て外で待っている紅葉の所へと走り出す。
 ドアを開けて外に出ると、街灯の光りを受けてキラキラと雪が舞っていた。
「わわ、もう雪が降っているのですね……綺麗〜……きゃあぁ!」
 レンガの上に薄く積もった雪にミンクのブーツがつるりと滑る。
 視界がぐるりと回り、夜空が見えたと思った時には尻餅をついていた。
「大丈夫か?」
 派手に転んだミンクに外で待っていた紅葉が走り寄ると、ミンクに向かってそっと手を伸ばす。
「あぁ……すみません! 私なら大丈夫……っ……いったた!」
 紅葉の手を借りて立ち上がろうとするミンクだったが足に力を込めた途端、激しい痛みが足首の辺りから走る。
 足を押さえて再び座り込んでしまった彼女のそばに紅葉もしゃがむ。
 そっと両手を彼女の膝と背中に回すとひょいと紅葉はミンクの体を持ち上げた。
「これなら痛くねぇよな、姫」
 『お姫様抱っこ』と呼ばれる形で彼女を抱き上げ、紅葉はミンクに笑いかける。
「!!! お、重くはありませんか? 大丈夫ですか……?」
 すぐ側に迫った紅葉の顔に驚き、そして自分の姿に驚いたミンクは真っ赤な顔で紅葉に訊ねる。
「全然、軽いぜ」
 紅葉は笑いながら答えるとそのまま歩き出す。
 赤くなって彼の横顔見上げていたミンクが、胸の前で組まれていた手をためらいがちに紅葉の首に向かって伸ばす。ゆっくりと伸ばされた手は彼の頭を抱くようにして結ばれた。
 より近くなったお互いの顔を見ながら2人は微笑み合う。
「あ、私。言い忘れていた事があるのですが」
「ん?」
 ミンクは今日いちばんの笑顔で紅葉に顔を寄せる。
「メリークリスマスです」
「ああ、メリークリスマス。ミンク」
 今日だけはミンクを紅葉が抱いて街を歩いていても許される。
 だって、今日は年に1度のクリスマスなのだから。
 静かに降る雪がイルミネーションに七色に輝く、そんな幻想的な光りの中、微笑む2人はどこまでも歩いて行くのだった。



イラストレーター名:つづる