椎紫・羽音 & 佐倉・空

●『君との口付けは永遠を寄せて』

 十二月の月末。冷たさが、道行く人々の間を飛び交う。
 クリスマスの夜。人ごみの中を羽音は歩いていた。
「ふう……にしても、めっちゃ人が多いねえ。しかも寒い!」
「うはー♪ どこもかしこもクリスマスだー♪」
 だが、隣の彼女を……空を見ていると、寒さを忘れてしまう。
「……空、手出してー」
「うよ? 手ー? はい?」
 空の手を、羽音は手袋を外した左手で……ぎゅっと握った。にこっと、微笑む事も忘れない。
「……は、はぐれないように! はぐれないためだからな!」
「わっは♪ はおちゃあったかーい♪」
 空もまた、嬉しそうに微笑み返した。

 店に並ぶ、色々な商品。多くの人々が、それらに見入っていた。
「うーむ、ま、迷う……!」
 羽音もまた、商品に見入る一人。動物のストラップが、先刻から彼の目を引いていた。
 空はどれを選ぶかな。いっそ、空が選んだのをお揃いで買っちゃうか。
「なー、空。このストラップ、犬と猫、どっちが良い?」
「んー。空はねー、猫さんっ! にゅは♪ おそろにするぅー♪」
 数分後。
 二人の携帯電話には、おそろいの猫ストラップが下がっていた。
「にゅははっ♪ ほら、おそろだよーっ♪」
「ああ。ほら、空と一緒!」
「うん♪ はおちゃといっしょ♪」
 ……不思議だなと、羽音は思った。
 ストラップをおそろいにしただけで、どうしてこんなに、幸せな気分になれるのかな。

 商店街の中央広場。イルミネーションの光が、聖夜を彩る。
「はわー♪ いるみねーしょんっ! こんなに綺麗なんだね♪」
 そして、羽音とともに見ている空もまた、その光に喜んでいた。
「……ああ。すっごく綺麗だ」
 隣の女の子。その笑顔の輝きは、イルミネーションよりも綺麗で、かわいく、愛しい。
「空、空、……キスしていい?」
 羽音は、そんな言葉を口にした自分に気づいた。そして、にっと微笑む。
「……にゃっ……!? き、きすっ?」
 羽音の言葉を受け止め、空は一瞬きょとんとし……頬を染めた。
「……ん、んっと……」
 真っ赤になりつつ、空はじーっと羽音を見つめ、そして……。
 こくん。
 小さく、しかしはっきりと、うなずいた。
「……と、とびっきりのキスぢゃないと……ゆ……許さないからねっ!!」
(「とびっきりのキス……? どんなんだろう……?」)
 羽音は一瞬だけ考え……そのまま、空の肩を抱き寄せ、唇へとくちづけた。
 甘く柔らかい、空の唇の感触。それが羽音へ、優しく、ゆっくりと伝わってくる。
 やがて二人は、唇を離し、互いを見つめた。
「……はおちゃ」
 先に言葉を発したのは、空。
「……大好きを、通り越しちゃうくらい……大好きだよーっ♪」
 にゅへへっと笑顔になりつつ、彼女は羽音の胸に飛び込んだ。
「空……」
 胸がいっぱいで、言葉が出ない。
 けど、確かな思いは一つ。
「……可愛いなあもうっ。大好き!」
 羽音の想いを祝福するかのように、イルミネーションは輝き続けていた。



イラストレーター名:つづる