●『おいしいmerryクリスマス』
キッチンには、さまざまな物が散乱していた。 小麦粉、玉子、牛乳、砂糖。生クリームに板チョコレート、そしてイチゴ。 どれもこれもお菓子作りに必要な食材だ。 「ん〜、多分こんな感じですわ」 その食材の山の中心には、エプロン姿の歌戀とカノンノの姿があった。 二人はボウルに入った材料を、泡立て器で念入りにこねくり回している。どうやらお菓子作りの真っ最中のようだ。 「どうかしらカノンノさん? この生地、上手くできてますわよね」 「むぅ〜、多分大丈夫じゃないかな? うん」 歌戀は出来上がった生地を、ケーキの型に流し込むと、オーブンの電源を入れる。 「こんどこそ、上手く焼けるといいね」 「そうですわね。これ以上失敗したくありませんわ」 苦笑いを浮かべた歌戀の視線の先には、今まで作った二人の作品が転がっていた。前衛芸術のごとく不可思議な形の物。まるで墨汁で染め上げたかのように、真っ黒にこげた物。さらには、固まっておらず液体の物さえある。 かろうじてクッキーは完成させたものの、メインのケーキはまだまだだった。 「デコレーションだけなら自信はあるのですが……」 確かに、完成したクッキーのデコレーションは、市販品に引けをとらない程凝っている。だが、装飾の才能はあっても、肝心の土台ができあがらなければ、それを生かす場所がない。 「だけど、お菓子作りなんてすっごい久しぶり! たくさん失敗しちゃったけど、でもとっても楽しい」 「そうですわね。たまには自分で作るのも良いかもしれませんわ」 「だよねー。あ、ほっぺにクリームついてるよ?」 「そういうカノンノさんも鼻の頭に」 そういって、二人はお互いの顔に付いたクリームを指で掬い取り、ぺろっと口へと運ぶ。 「「あはははっ!」」 その様子に二人は顔を見合わせて笑った。 チーン! と、オーブンが時間の経過を二人に知らせる。歌戀が恐る恐るオーブンの扉を開けてみると、そこには綺麗に焼き色のついた生地が湯気を立てていた。形も硬さも問題なく、そして焦げてもいない、これは大成功と言えるだろう。 「うわぁ……上手」 カノンノが感嘆の声をあげる。 歌戀はそれを型から取り出すと、早速デコレーションに取り掛かった。作っておいた生クリームを塗りたくり、全体を白く染め上げると、絞り出し袋に入れたクリームで表面に装飾を施す。そして、とどめとばかりにイチゴを投下した。 「完成ですわ〜!」 「おいしそうに出来たね♪」 「ええ!」
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