●『イブの刻 晶の章 風雲歳末編〜鬼と修羅〜』
街にはクリスマスの飾りが溢れ、きらめくイルミネーションや、絶え間なく流れるクリスマスソングが気分を盛り上げる。 恋人と、家族と、また友人と過ごす彼らは皆、今日という日を楽しんでいた。 そして、鎌倉市郊外の巨大なパーティ会場でも、盛大なクリスマスパーティが催されていた。 会場の周囲は日本ではめずらしく、広々とした草原で周囲に気兼ねなく騒ぐことが出来る。 そのことが人気で、ここ数年はクリスマスパーティの定番会場となっていた。 クリスマスを彩るように、粉雪が空から降りてくる。 草茂る草原は、今夜は一面真っ白な雪原へと姿を変えていた。 その雪原を一騎の鬼が疾駆する。 心中を表すかのような真紅の衣を身にまとい、肩に担うのは『凶器』をそのまま形にしたかのような、無数の釘が打ち込まれた木製バット。 力強く雪原を蹴るのは巨大な角を生やしたトナカイだ。 赤いサンタ風ワンピースの裾を翻し、火輪が駆ける。 雪原からパーティ会場へと続く橋を目の前にして、トナカイに跨る火輪の目が一段と燃え上がる。 一気に駆け抜けようと、火輪がより一層トナカイを急かす。 ぱふっ! 「なにっ……?」 橋へたどり着く直前、火輪とトナカイの顔に雪の塊が投げつけられた。 突然に視界を奪われて、トナカイ急ブレーキをかける。 「ここからは行かせないよ」 足を止めた火輪の前に、晶が立ちふさがる。 コート姿の晶は、橋を背にして、トナカイの行く先を阻むように両手を広げた。 「てめぇも独り身だろうに、オレを止めるのか」 「楽しんでいる人たちの所へ向かう鬼を、許してはおけないじゃん?」 真っ向からぶつかってくる晶の視線に向けて、火輪がバットを突きつける。 「オレが鬼なら……てめぇは……修羅だ」 釘が刺さったバットを向けられても、晶はひるまない。 「にいっ……」 逆に、不敵に笑いながら火輪を見上げる。 人気の無い雪原で、鬼と修羅の戦いが今、始まる。 長いクリスマス夜の戦い、決着の行方はトナカイだけが知っていた
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