●『新婚のクリスマス……?』
「おぉおおっ♪」 優は恋人である馨が持って来たクリスマスケーキや料理の数々を前に歓声を上げる。 料理上手な彼氏のお手製は、クリスマスのパーティを何より盛り上げるスパイスだ。 少女は目を輝かせながら、馨が並べるはしから料理に飛びついていく。 「どうかな?」 「おいしい! 最高! うーん、幸せ!」 一息で返事を言い切り、いそいそと食事に戻る優の様子を、馨は目を細めて見つめる。 自分が作った料理を夢中になって、本当においしそうに食べてくれる。 作り手に対してこれ以上の賛辞は無いだろう。 嬉しそうに食べる優の姿を見ているだけでその可愛らしさに胸が一杯になりそうになる。 (「そ、そうだ、今日ぐらいは、もしかして――」) 馨は少し緊張しつつ、だがいそいそとケーキを一すくいして恋人の口元へと持っていく。 「はい、あ、あーん」 「あーんっ♪」 (「お、おおっ!」) すかさず大きく口をあけてぱくりとひと呑み。 いつもは照れてしまった優に頑なに拒否されるのだが、今回はちゃんと食べてくれた。 それも、凄く嬉しそうに。 満面の笑顔で食べ続ける少女を眺めながら、馨は今日という日――クリスマスに感謝する。 (「本当、どうして優はこんなに可愛いのかな」) あまりの幸せに、ただただ優の姿を眺め続けてしまう。 ――もちろん、幸せなのは馨だけではない。否、この場で最も幸せなのは優の方だろう。 『馨ちゃん』と『ご飯』を同じくらい大好きな優は、『馨ちゃんの作ったご飯』で幸せ二倍。 さらには。 (「馨ちゃんに食べさせてもらうと、そーじょーこーかってやつでなお美味しく感じるよ!」) もう、幸せのあまり天にまで昇りそうなくらいであった。 ……のだが。 (「あれ、馨ちゃん、全然食べてないなぁ。……よ、よーし」) 「?」 突然動きが止まった優の顔へと視線を向けた馨は、当の彼女が自分を見ていることに気付く。 馨が疑問を感じた、その瞬間。 「チェストォ!」 優が気合の入った掛け声と共に、料理を馨の口へと突っ込んでくる。 (「『あーん』でも良かったけど、なんか自分で言うのは思ったより恥ずかしそうだし」) 「ぶふっ!!」 そんな優の乙女ゴコロをよそに、いきりなりスプーンごと突き入れられた馨は思い切りむせてしまう。 「うわ! 馨ちゃん大丈夫!?」 驚き、勢いよく馨へとびつく優。 クリスマスらしい色気のかけらも無い慌しさだ。 (「――でも」) こんな騒々しくも楽しい日々が、いつまでも続いて欲しいと願う二人なのだった。
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