●『Christmas Toys』
真冬だというのに、室内はじっとりと汗ばむほどに暑い。まるで暖炉の前に座っているようだ。 フローリングの部屋を暖めている主な熱源は、もちろん暖炉などではない。あちこちで駆け回っている子供達から発散される熱気だ。 「よっと……とりゃ……そりゃ」 部屋の下で、惺は器用にハサミを操って紙製の星を作り上げていく。ここは児童館の遊戯室。 惺と壱珂は、児童館で行われるクリスマスパーティーの手伝いをしにきたのだ。 子供達は惺が手渡した星を持って駆け回る。夜空の流れ星にでもなったつもりなのだろうか。 「完成したらご馳走が待っているから」 壱珂が、手伝いに飽きてきたらしい子供達に声を掛ける。現金なもので、子供達は歓声を上げて自分たちの手の中の星を壁に貼り付けていく。 「壱珂は子供好きなの?」 惺の言葉に、壱珂は器用にハサミを操りながらうなずく。 「うん、子供は風の子って言うし、元気でいいよね」 壱珂の手の中で、魔法のようにクリスマスの飾り付けが生まれていく。 賑やかな環境に慣れていない惺は、無意味にハサミを動かしてみる。 「……かに」
少しずつではあるが、次第にクリスマスの飾り付けは完成に近づいていく。 大きなツリーには、惺の持ち込んだリボンや壱珂の小さな鳥のオーナメントなども飾り付けられている。 「あ、天辺のお星様は、私がつけたい……って、あれ?」 いつになく楽しげな惺が、隣に座る壱珂を振り向くとそこに彼の姿はない。惺の視界の下端に宵空色の髪がひょこひょこと揺れている。 「なぁに? もうすぐ飾り付けも終わりなのに」 惺もその場にしゃがみ込んで壱珂の手許をのぞき込む。 その場に座り込んだ壱珂が眺めているのは、少し古ぼけた一冊の絵本だった。 「とても好きだった本を見つけたんだ」 壱珂は絵本のページを繰る。児童館に遊びに来るたくさんの子供達が何度も読んだのだろう。ページは細かく毛羽立ってさえいる。 「小さい頃になくしてしまったけど、またここで出会えるなんて嬉しいな」 「ああ、私も幼い頃、この絵本が好きだったよ」 惺も作業の手を休めて壱珂の横に腰掛ける。 「惺も?」 絵本から視線をあげた壱珂と、惺の視線が交わる。二人とも、自分でも気がつかないうちに笑みが浮かんでくる。 同じ絵本を読んだことがある。たったそれだけのことが、こんなにもうれしいだなんて。 いつの日か、今日のことを二人で語り合うことがあるのだろうか。 二人は身を寄せ合うようにして、懐かしい絵本に見入っていた。
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