●『微妙な距離』
華やかな町並み。幸せそうなカップル達。 クリスマスの町というものは、どうしてこうもカップル達で賑わうのだろうか。 結社のクリスマス会で使う雑貨の買い出しに出かけた円と寅靖は、そんなカップル達とすれ違うたびにお互いを意識してしまい、微妙な距離を保って歩いていた。 元々は信頼出来る戦友同士であったふたりが、妙に男女を意識し始めてしまった事の発端は、銀誓館で行われたイベントでの出来事だった。 日頃の感謝を告げるつもりで『傍に居ると居心地が良い』だなんて、ちょっと意味ありげな言葉を伝えてしまったものだから、そして『肝心な事は口に出せない』だなんて返してしまったから、それ以来、なんだかこそばゆくて。 奥手で、しかも鈍感なふたり。ぎこちない動きと、ほんのり開いた、でも開き過ぎない距離。 (「……これってなんか変だよな?」) たまに視界に入る寅靖の姿を見るたび身体がこわばって、円はそのイベントの時のことを思い出す。 (「私は、寅靖を友人以上に信頼して甘えているかもしれない」) そしてやっぱり何より彼の言うところの『肝心な事』が気になってしまい、気付かれないように時折彼の顔を覗き見る。 同じようにちらちらと円の様子を伺いながら、寅靖も矢張りそのイベントの時のことを思い浮かべていた。 (「友情の先に踏み込むべきでなかったか……」) 目を合わせることは出来ないけれど……距離が離れ過ぎないよう、歩幅を合わせて歩きながら。 彼女は傍に居ると安心するとか、居心地が良いだとか、とてもあたたかい、ただ素直な言葉をくれたのに。自分はなんだかさらに意味深な言葉を返してしまって。そのせいでお互いの間に緊張が走っているこの状況がとても情けなかった。 己の不器用さにため息をつき、ふと円の横顔が視界に入る。 なんだか彼女の頬が、少し赤い、気がした。 寅靖は少しだけ悩んで、少しだけ距離を詰めてから、問う。 「……寒いか?」 円は突然声をかけられ慌てて寅靖の方へ振り向くと、ぶんぶんと首を横に振った。 「へ、平気!」 半ば叫ぶように言ったあと、またふいと前を向いてすたすたと歩き出す。 (「どうかこの早い鼓動に気づかれませんように!」) 寅靖も慌てて後を追う。 手を伸ばせば、すぐに届くのに。 なかなか踏み切れないふたりだった。
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